試乗記

レクサス「LM」の6人乗り仕様「version L」試乗 パーソナルユース向けの究極的ミニバンだった!

レクサスのラグジュアリーとおもてなしが満載の「LM 500h version L」を試乗した

 アルファード/ヴェルファイアの余韻もさめやらぬ中に、さらなる“上”が現れた。主に中国やアジア地域でのショーファードリブンMPV需要に応えるべく、2020年に発売された初代LMの情報は日本でもたびたび報じられて、導入の動向が注目されていた。それが次世代でついに現実となり、国内向けのラインアップに4座仕様の“EXECUTIVE”に次いで、6座仕様の“version L”が追加設定された。

 資料を引用すると、安らぎと創造性を提供する「ラグジュアリームーバー」として、『素に戻れる移動空間』をコンセプトに開発されており、開放感と見晴らしに配慮しながら、多人数乗車でのパーソナル感を追求したという。「多人数乗車でのパーソナル感」とはいかに? と思っていたところ、実車に触れると、たしかに装備と走りの両面から、それらしきものを感じ取れた。

レクサス「LM 500h version L」。ボディサイズは5125×1890×1955mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm、最小回転半径は5.9m、車両重量は2440kg
撮影車両のボディカラーはソニックアゲート。ボディ全体でダイナミックな抑揚を表現しつつ、ルーフ、ガラスエリア、ロッカーまわりは安定感のある水平基調とし、ショルダー部のシャープなエッジと大胆な造形による陰影のコントラストで、サイドビューに豊かな表情を付与している

 アルファード/ヴェルファイアもなかなかのものだが、LMの風貌はさらなるプレステージ性を感じさせる。凝ったデザインのフロントグリルも目を引く。見る角度で色の深みが変わる高貴な「ソニックアゲート」のボディカラーがよく似合っている。

 インテリアもこんなに真っ白なコーディネートが選べるのはLMならでは。斜めに木目を配した「矢羽根」パネルによる独特の雰囲気や、カッパー色のアクセントも効いている。後席スライドドアトリムに配された、グラデーションを駆使した新感覚の質感を見せるコントロールパーフォレーションを施した表皮も見応えがある。

ホイールは17インチもあるが、試乗車はスパッタリング塗装の19インチ仕様。鍛造ホイールを採用することで、17インチと同等の質量(タイヤとホイールの合計)を実現したという。装着タイヤはミシュランの「プライマシー SUV+」で、サイズは225/55R19
押し出しの強いスピンドル形状を用いたフロントグリルは、3層と複雑な構造になっているほか、サテンメッキを繊細にあしらった作り込みで、モダンでゆるぎない強さを表現している
リアピラーからリアコンビネーションランプへの流れるようなモーションや、前方へ傾斜したリアウィンドウで伸びやかなシルエットを強調。次世代レクサスのアイコンである「Lシェイプ一文字シグネチャー」を採用したほか、上部に車両の水平軸とワイド感を強調する一文字ランプを配している

 4座仕様より500万円も安い1500万円という価格は、それでもただでさえ高くなった印象のアルファード/ヴェルファイアのざっくり倍となるが、こうしたパーソナルユースに対応する究極的なミニバンを待ち望んでいた人も少なくないことだろう。ご参考までに、500万円という価格差の主な理由は、4座仕様にあった1列目と2列目の仕切る圧巻の48インチディスプレイがないことらしい。

搭載する直列4気筒 2.4リッターターボ「T24A-FTS」エンジンは、最高出力202kW(275PS)/6000rpm、最大トルク460Nm/2000-3000rpmを発生。フロントとリアにモーターを搭載し、フロントモーターは最高出力64kW(87PS)、最大トルク292Nmを、リアモーターは最高出力76kW(103PS)、最大トルク169Nmを発生。ハイブリッドシステム最高出力は273kW(371PS)を発生する。トランスミッションはDirect Shift-6AT(電子制御6速オートマチック)で、駆動方式はトヨタのDIRECT4(4WD)を採用。WLTCモード燃費は13.8km/L

3列目も広くて快適

 車内は頭上にいかにもお金のかかっていそうな大きなコンソールがあり、4座仕様のような巨大画面のディスプレイはないが、常識的な14インチのディスプレイが6座仕様には標準装備される。

 2列目の乗り心地はすばらしいのひとことだ。これには徹底した車体剛性の強化や電子制御ダンパーが効いているに違いない。静粛性もかなりのものだ。

 これだけ大柄で重量のある車体を、いろいろなシチュエーションに対応して満足に走らせるためには、ある程度は足まわりを固めないと難しいはずで、アルファード/ヴェルファイアの場合、高速巡行時にはあまり気にならないが、市街地+αではハーシュネスによる突き上げで微妙な硬さを感じることがある。

 しかしLMではそれはしっかりと払拭されていて、縦揺れも横揺れもごく小さく、しなやかでフラット感がある走りを実現している。後席の乗り心地に特化した「リアコンフォートモード」を選択すると、より路面への当たりがマイルドになる。

人とクルマがしっかりと意思疎通できることを目指したレクサスのコクピット設計の考え方「Tazuna Concept」を継承。ヘッドアップディスプレイからメーターに向かう前後方向につながる情報系部品配置と、メーターからタッチディスプレイへつながる部品構成にすることでスムーズな視線移動を実現。さらにステアリング周辺に走行系を配置してスムーズな操作を可能にしている
後席の乗り心地に特化した「リアコンフォートモード」を搭載した
4層の立体印刷技術「Viscotecs」により、日本古来より縁起のいい文様とされる“矢羽根”をモダン柄にアレンジし、インパネフロントコンソールとリアオーバーヘッドコンソールへ採用している

 シート自体のマテリアルもすばらしく上質で、快適性や利便性を高めるための機能がこれでもかというほど満載されている。アームレストには天板がマグネシウム製の格納式テーブルのほか、スマホ状の脱着可能なマルチオペレーションパネルがあり、左右席どちらからでも各種機能を操作できる。

 また、アルファード/ヴェルファイアもおおむねそうだったと記憶しているが、リクライニングしたままでも操作しやすいよう工夫されていたり、小物が下に落ちないように隙間を埋めるものが貼られていたり、パワーウィンドウやサンシェードの開閉時の所作が上品だったりと、スペックに表れてこない細やかな心配りも随所に見られることもお伝えしておこう。

6人乗り仕様の1列目シート。試乗車のインテリアカラーはソリスホワイト、内装加飾はサテンカッパー。インパネからドア、スライドドアへとまっすぐなラインでつながっている
助手席のヘッドレストは前方へ倒せるようになっている
シートバックには2列目の乗降性を配慮した大型バックボードクリップが配されている

 6座仕様ということで、どうなのかが気になる3列目は、シートのサイズは十分な広さで、成人男性が座るには欲をいうとヒール段差がもう少しあるとなおよい印象だが、前後スライドを後端にすれば膝まわりには余裕があり、頭上はどーんと広い。

 貧乏性の筆者にとっては、7座のように3人がけできないのがもったいなく感じられるほど3列目も余裕があり、ドリンクホルダーやUSB端子はもちろん、アルファード/ヴェルファイアにも初めて設定された電動で開閉できるサンシェードもある。

2列目シート
3列目シート
3列目シート使用時はシート下の収容スペースを活用できる
3列目シートは跳ね上げ式。ボディが長いので収容量は十分確保されている

 シート自体にも厚みがあり、乗り心地も位置的にはタイヤの上に座るわりには衝撃が緩和されてそれほど伝わってこない。微振動もかなり抑えられていて気にならない。これなら長い時間乗るのも苦にならなさそうだ。2列目がいいことはある程度は予想できていたが、3列目もこれほど快適とは予想を超えていた。これがまさしく「多人数乗車でのパーソナル感」なのだろう。

2列目シートは高級車さながらの乗り心地を実現していた
3列目シートも予想を超える乗り心地のよさだった
シートには室内環境を自動で調整する「レクサスクライメイトコンシェルジュ」を設定。気分に合わせたモードが用意されていて、選択すれば車室内の温度からシートの角度など自動的に設定してくれる
後席用モニターは14インチを用意
2列目用エアコン吹き出し口や、アクセサリーコンセント(AC100V)、HDMI端子、ユーティリティボックスを完備
2列目の格納式テーブルは、折り畳み式からつなぎ目のない1枚ものへと変更されている

ドライバーにとっても、楽しいクルマだった

レクサスの目指す“意のままの走り”を見事に実現している

 てっきり後席ファーストのクルマかと思いきや、それだけでなかった。LMはドライバーにとっても、運転して楽しいミニバンだったのだ。高出力モーターが効いて加速には瞬発力があり、ターボパワーで力強く吹け上がり、ステアリングを切る側も戻す側も微舵から操作したとおり正確に応答して、こういうクルマなりの“意のまま”の走りまでも実現しているとは思いもよらなかった。

ステアリングの応答性もいい

 そのあたりもアルファード/ヴェルファイアもけっこうよくできていて感心していたところだが、LMはその点でもさらに上まわっている。乗り心地だけでなくドライビングダイナミクスもまたすばらしい仕上がりだ。

 そういえば、アルファード/ヴェルファイアの新型車発表会でシャシーの開発担当者が、「よくできたと自負しているものの、もう少しやろうと思えばできたことはある」という旨を話していたが、おそらく操縦性や乗り心地のことを指していて、それをLMでは実現できたということだろう。

 2.4リッターターボエンジンとハイブリッドの組み合わせも、ヴェルファイアで乗ったときは、速さとともにちょっとワイルドさを感じたのに対し(それはそれで悪くなかったが……)、LMはパワフルかつ極めてなめらかで静かで、また新しい境地を見せてもらえたように思う。

 価格はそれなりに高いが、手を尽くせばミニバンもここまでできることがよく分かった。いろいろと感心させられっぱなしの、まさしく究極のミニバンであった。

レクサスLMは、まさしく究極のミニバンといっても過言ではないだろう
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛