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レクサス「LM」に追加された6人乗り仕様“version L”について、開発の落畑学氏に狙いを聞く

2024年5月9日 発売

1500万円

レクサス「LM500h“version L”」開発の落畑学氏

 次世代レクサスの新たなフラグシップモデル「LM」は、“すべての乗員が自然体でくつろげる乗り味と居住空間”の実現を目指して2023年10月にフルモデルチェンジ。先に導入されていた4人乗り仕様の「EXECUTIVE」と同様に、今回新たに追加された6人乗り仕様「version L」も、“素に戻れる移動空間”が開発コンセプト。

 クルマとしての素性を徹底的に鍛え上げることで「対話のできる走り」を追求したほか、運転する楽しさと乗り心地や静粛性を両立したというが、開発を担当したレクサス 製品企画 主幹の落畑学氏に、その詳細やこだわりを聞いた。

レクサス「LM500h“version L”」

──今回6人乗りが追加されましたが、4人乗りと同じタイミングではなかったのはなぜでしょうか?

落畑氏:4人乗りは日本で初めてだったので、まずは4人乗りを出して反応を見たいっていう気持ちは実際にはありましたね。なので、4人乗りを出した後にやっぱりこの価格帯(2000万円)ですから、そのニーズと合致してるかとか、新たなニーズがないかっていう話も出て、6人乗りを出すタイミングは具体的には決まっていなかったのですが、タイミングを見計らって開発はしていました。やっぱり多人数乗車できるものが欲しいというお声もたくさんあったんですよね。

──乗り心地のポイントはどのあたりでしょうか?

落畑氏:クルマとして実現したいというか、お客さまに味わっていただきたい、逆にお客さまにどういうニーズで買われるかっていうのは、4人乗りと6人乗りはもう本当に使い方だけの違いであって、僕らコンセプト「素に戻れる移動空間」といっていますが、やっぱり楽に移動していただきたい。そこの思いはもう4人乗りも6人乗りも一緒ですね。どのレクサスも同じですが、この6人乗りも静粛性と乗り心地にこだわっています。

 乗り心地に関しては、僕たちがやりたかったのは4人乗りも同じですが、頭の揺れを少なくして、目から入ってくる情報をなるべく取り込めるようにする。スライドドアの窓の下側が真っ直ぐで、そのままフロントドアやインパネ上端までグルっと見渡せる形にしてあるので、クルマの姿勢が分かりやすくなっています。そうすることで体で感じるクルマの動きと、目から入ってくるクルマの動きがちゃんと頭の中で処理されて、気持ちわるくなりにくい。快適っていうのはやっぱりそういうところからなんだと思っています。

インパネからドア、スライドドアへと真っ直ぐなラインでつながっている

──3列シートになるとアルファードやヴェルファイアとの違いが気になるところですが……。

落畑氏:料理に例えると同じ素材から作ったとしても同じ料理はできない。ましてや素材が違うと全然違う料理というように、僕らが実現したいその性能だとか味っていうのは、それぞれ全て違うところにありますから、それに見合った調理方法でクルマを作っています。具体的にいうと愛知県の田原工場で作っているのですが、実はボディの板金のシェルは専用の少量ラインで作っています。その理由は、やっぱりボディ剛性とかボディ減衰に凄くこだわりたくて、そのために新設でラインを構えました。

 実際のところ剛性の数値化はできていないのですが、スポット溶接の点数も実は全然違います。開口部が大きいですから従来のスポット溶接は短ピッチでかなり詰めているのと、あとコーナー部にはスポット溶接に代わる溶接技術として開発をしたレーザースクリューウェルディングで剛性を上げてます。

 レーシングカーも最初は素のボディにして、溶接のポイントを増やしてボディ剛性を上げていますが、基本的にはそれと考え方は同じで、手間暇(工程数)かけて剛性を上げています。

 それと床の接着剤。基本は高剛性接着剤をベースで施工するのですが、普通の乗用車よりも使用量も多いですし、あとガーンと衝撃が入るとその力は波になりますが、その波がすぐに収まりやすい「高減衰接着剤」も使っています。高剛性接着剤よりは少し剛性は落ちますが、適材適所でそれを塗り分けています。人の足に近いところは高減衰接着剤を使うことが多いですね。使い分ける場所に関しては、実はデジタルなどを駆使して予測できるものではないので、実車で何度も試して最適な場所を見つけています。

──特に大変だった部分は?

落畑氏:実は開発がだいぶ進んでいる中でも、例えば「後ろまわりのブレースをやっぱり追加したい」とか、いろんな新しい知見や意見がどんどん出てきます。で、実際に取り入れてみて、みんなで味見をして、これやっぱり美味しいねと、やっぱりこれやりたいねってディスカッションしながら決めています。このクラスになると、やはり精一杯やらないとお客さまの期待値に本当に添えられるかどうか、僕たちも心配ですから、少しでもよくなると分かっているなら、それはもうやらない手はないんです。

 実は乗り心地を仕上げる際に、4人乗りと6人乗りでは着座位置の違いと、4人乗りは運転席と後席の真ん中にパーテーションがあって、そこに左右のピラーどうしをつなぐすごい骨格があるため、ボディの減衰特性や剛性も違いますから同じ味を出そうとしても、同じことをやっても出ないっていうそういう難しさがありましたね。

 さっきお話した後ろまわりにブレースを足そうかっていうのも、実は苦労してたときに、そういう話がレクサス内であって、まさにこのクルマにうってつけじゃないのかってなり、実際に足したら後ろまわりの質感は上がりました。

──造形でお気に入りの部分はありますか?

落畑氏:フロントのレクサスのアイデンティティである「スピンドルボディ」ですが、さらに進化させました。押し出しの強いスピンドル形状のグリルに外板色を採用することで、ボディと一体でシームレスに仕上げました。実は分かりにくいですが、スピンドルボディは3層構造になっていて、かなり複雑な作りになっています。開発中のクレイモデル(粘土)だとなかなか質感まで再現できないのですが、実車はクレイモデルよりも質感がすごくいいんですよ。実車が仕上がったのを見てすごく嬉しくなりましたね。

スピンドルボディは3層構造という

──走りの面でも4人乗りと6人乗りは違うのでしょうか?

 パワートレーンも大きな特徴ですね。レクサスの「DIRECT4(ダイレクトフォー)」、2.4リッターターボハイブリッドユニットと、後ろに大きなリアモーターも付いていますが、それで駆動力を使いながら姿勢を制御する。ワインディングを気持ちよく走れる性能ももちろんありますが、やっぱりこのクルマに見合った制御内容で、加速時減速時なるべく姿勢を保てるような制御を入れてあります。

 4人乗りはほとんどがショーファーユースだと思いますが、やっぱりこの3列シート6人乗りは、ショーファーでも使われるでしょうし、一方でファミリーでも使われることもあるでしょうし、送迎もある。でも、どちらかというと家庭のお父さんをイメージしたので、やっぱり4人乗り仕様よりは、フラットで気持ちよく乗れる、走ってちょっと楽しい方向性に仕上げてありますよ。