試乗記

スズキ「ソリオ バンディット」に試乗 長距離ドライブで乗り倒した印象は?

ソリオ バンディット

軽自動車で培った使い勝手のよさを小型車にも展開

 スズキ小型車の中で手堅い人気なのは箱型ワゴンの「ソリオ」で標準モデルとスポーティな外観を持つ「バンディット」がある。

 今回はバンディットのマイルドハイブリッドモデル、HYBRID MVになる。このほかにストロングハイブリッドとしてスズキ独自の駆動用モーターとオートギヤシフト(AGS)を組み合わせモーター走行も可能なHYBRID SVグレードも用意される。

 ソリオに搭載されるマイルドハイブリッドはスズキが幅広く展開しているスターター機能付発電機(ISG)と回生エネルギーを3Ahの小型リチウムイオンバッテリにためる機能で成り立ち、トランスミッションはCVT。軽自動車にもあったシステムだ。

 ボディサイズは全長4mを切る3790mm、全幅1645mmと軽自動車よりひとまわり大きいぐらい。コンパクトカーよりもさらに小さい。全高は1745mmあるので大きく見えるが取りまわしのよいサイズで、さすがに軽自動車のスズキらしく空間利用が巧みだ。ワゴンの使い勝手のよさを存分に楽しめる。

 試乗は3名乗車で、ルートは東京からソリオの生まれ故郷、浜松までの往復のドライブだ。

試乗したソリオ バンディット HYBRID MV(2WD/212万5200円)のボディサイズは3790×1645×1745mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2480mm。車両重量は1000kg。最小回転半径は4.8m
エクステリアデザインは、フード先端を上げて厚みを増した存在感のあるフロントマスクを採用するとともに、車体サイズを活かしたダイナミックで伸びやかなフォルムを表現
ブラックメタリックの15インチアルミホイールを標準装備。タイヤは165/65R15サイズのダンロップ「エナセーブ EC300+」を装着
ステレオデュアルカメラを採用し、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱抑制機能、アダプティブクルーズコントロールなどの予防安全技術や運転支援技術を備える「スズキ セーフティ サポート」を搭載

 まずドライビングポジションはシートのハイト調整幅が広く、身長差に応じてちょうどいいポジションが取れる。ハイトワゴンで得たノウハウが活かされ前方視界も死角が少なく突起物がなく良好だ。これも軽自動車で培ったノウハウが活かされている。

 ドラポジを取るとセンターメーターに目が行く。情報はここに集約されており表示内容の判別は容易だが、さらに速度など必要な情報は標準のヘッドアップディスプレイに表示され視線移動は少ない。

 センターメーターの下にはオプションの9インチディスプレイが装着されこちらも見やすかった。

 さて居住空間。170cmのドライバーがポジションを合わせても後席の足下はかなり広い。後席の座面は少し短いが165mmスライド可能なので荷物のスペースも乗員との兼ね合いで自在に作り出せる。どのシートもシートクッションストロークは必要十分でゆったり座れ、後席の着座ポイントも高いので視界は開けており、ブラインド付きなのも便利だ。

 ドライバーズシートからの見切りのよさと小回り性のよさ(最小回転半径4.8m)で狭い道でも使いやすくまさに本領発揮だ。

 荷物の積載性は高い全高とアンダートランクを活かせばベビーカーなどの背の高いものも積める。さらに助手席のシートの座面を前倒させシートバックを折りたためば長尺ものも搭載できる。こんなシーンはあまりないかもしれないが、できると分かっていれば何かと心強い。さらに軽のノウハウは至る所に活かされ、フックやポケット、小物入れなど探すだけでも楽しい。さらに助手席座面を跳ね上げるとバケツ式アンダーボックスがあり、使い方はオーナーのアイデア次第だ。

ネイビーをアクセントカラーに取り入れたソリオ バンディットのインパネ
ステアリング
シフトまわり
ソリオ バンディットはセンターメーターを採用。マルチインフォメーションディスプレイはエネルギーフローほか、瞬間燃費、航続可能距離、外気温、タコメーターなどを表示可能
走行中のメーターをリアシートから撮影。マルチインフォメーションディスプレイのエネルギーフローは、バッテリから電力を供給してモーターアシストをしているアニメーションも表示される
カラー表示のヘッドアップディスプレイは標準装備
シートはリビングにあるシックなソファをイメージ
運転席と助手席の背面には後席の人が使えるパーソナルテーブルを採用。くつろぎの時間を過ごせる
分割可倒式のリアシートはそれぞれ165mmスライド可能。荷物の量や乗員人数によって使い分けできる
2WDモデルはラゲッジボードの下にサブトランクを備える

 スズキのマイルドハイブリッドは3Ahのリチウムイオン電池と2.3kW/50Nmのモーターで構成され、スタート直後はスタータージェネレーターの補助でエンジンの負荷を減らし、減速時に回生したエネルギーを電池にためて再び駆動力として使う。これによる燃費はWLTC方式で19.6km/Lと謳っている。

最高出力67kW(91PS)/6000rpm、最大トルク118Nm(12.0kgfm)/4400rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.2リッター「K12C」エンジンを搭載。フロントに最高出力2.3kW(3.1PS)/1000rpm、最大トルク50Nm(5.1kgfm)/100rpmを発生する「WA05A」モーターを搭載する。トランスミッションはCVTを採用
マイルドハイブリッドシステムなので、リチウムイオンバッテリの容量は3Ahと控えめ。助手席シートの下に搭載される

扱いやすいパワートレーンに、安心の運転支援機能もバッチリ搭載

 スタート直後は1.2リッター4気筒の67kW/118Nmのエンジンをサポートして、無駄のない静かで力強い加速をする。スズキのボディは軽く作られており、試乗車でちょうど1t。スタータージェネレーターがけっこう働いている感触だ。そのサポートもありCVTもラバーバンドフィールを感じることなく走る。エンジン本体も4気筒ならではの振動と音で軽やかだ。このパワートレーンは市街地で使いやすい。

 ついでに言えばハンドルの操舵力も軽く、切り始めに少し段付き感があるものの街中ではこの素っ気なさが使いやすい。

 そして乗り心地。市街地での低中速走行で荒れた路面した通過した際もショックをよく吸収し、どの席も突き上げ感が少なくまさにファミリーで使うには適している。

 一方、高速道路のクルージングではエンジン回転があがってそれなりに車内騒音は大きくなるが、それでも空力的に不利なボクシーなボディからの風切り音は想像していたより小さく前後席の会話にそれほど不自由はなかった。

 ただし100km/hを超える巡航では乗り心地が市街ほど快適ではない。リアサスペンションが段差やウネリなどのショックを吸収できずに後席では突き上げが大きくなる。上下収束も遅れがちだ。新東名でも名古屋に近づくと路面の悪いところが出てくるのです。

 もう1つ気になるのはステアリングフィールのスワリが悪いこと。市街地では使いやすかったが、例えば緩いレーンチェンジでステアリングを微妙に抑えていないとドッシリと走ってくれない。ステアリングを握って楽しさを感じる感応評価はあまり重視していないようだ。

 アップダウンのあるワインディングロードでは前後のロールバランスもソツなく、コーナリング姿勢は悪くないがもう少しタイヤにキャパシティを持たせたいところだ。

 さてこのドライブフィールがソリオ バンディットの性格を表しており、移動空間を家族、友人と楽しく過ごすにはよくできていると思う。

 ついでながらADAS系もACCは全車速追従機能付き、レーンキープ性はちょっと甘いが使い方を知っていると高速道路では重宝する。小さな排気量だがISGのサポートもあり中間加速も大きな不満はない。また衝突被害軽減ブレーキや誤発信防止器の等安全面での取り組みも手を抜いていない。

 ソリオ バンディットは使い方次第で家族のいい仲間になれる。そんな道具に撤したワゴンの1台だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛