試乗記

新登場のメルセデス・ベンツ「CLEクーペ」、EクラスとCクラスを統合した2ドアクーペのフィーリングは?

メルセデスの最新クーペ「CLEクーペ」に試乗

クーペとしての特別感を演出

 もともとスポーツカーも大得意なブランドであるメルセデスは、過去に何台もの印象的なクーペを輩出してきた。最近までSクラス、Eクラス、Cクラスのそれぞれにクーペとカブリオレをラインアップしていたほどだが、このほど登場したのはEクラスとCクラスを統合し、「CLE」という新しい名称を与えた2ドアクーペだ。やわらかな曲面で包まれたクーペならではの美しく伸びやかなスタイリングは、誰の目にもスタイリッシュに映るに違いない。

 内外装にはAMGラインが標準で装備される。寸法的には従来のEクラスクーペに近く、デザインでも特徴的なベルトライン下あたりのつまんだような鋭いキャラクターラインなど、新型Eクラスとの共通点が見受けられるが、ドアノブが格納式でなく、テールランプはスリーポインテッドスターをあしらった特徴的なデザインとされていない。

今回試乗したのは3月に発売となった2ドアクーペモデル「CLEクーペ」。「CLE 200 クーペ スポーツ」の1グレード展開で、価格は850万円。メルセデス・ベンツの2ドアクーペ伝統のロングホイールベース、ショートオーバーハング、ロングボンネットを採用したプロポーションを備え、ボディサイズは4850×1860×1420mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm
フロントは立体的なスターパターンを採用したワイドなAシェイプのフロントグリル、わずかに逆スラントとしたシャークノーズ、スリムなフルLEDヘッドライト(デジタルライト)、空力性能に優れた力強いフロントバンパーによって力強さと美しさを表現。リアも力強く張り出したフェンダーと先進的なデザインのリアバンパー、左右をダークレッドのトリムでシームレスにつないだ2ピースデザインのスリムなリアコンビネーションランプによって上質で存在感のあるリアエンドを形成したという
力強く張り出した前後ホイールアーチに収まるアルミホイールは標準で19インチ、オプションで20インチを設定。撮影車は20インチのAMGアルミホイール(パッケージオプション)にグッドイヤー「イーグルF1」をセット

 車内もクーペとしての特別感を演出すべく専用デザインのスポーツシートが標準装備される。セダンやワゴンにはない縦のラインを配した新感覚のインパネは、眼前にコクピットディスプレイ、中央にメディアディスプレイが配されているが、セダンやワゴンにある全面をディスプレイとした「デジタルインテリアパッケージ」の設定はない。

 2ドアクーペとしてのエレガントなルックスを損なうことなく、車内は後席も含め十分な居住性が確保されている。レザーエクスクルーシブパッケージ(90万円)を装着した試乗車の雰囲気は上質そのものだ。

 件の新設計のスポーツシートにはリラクゼーション機能が備わる。座ると最初にシートベルトフィーダーが自動的にせり出してくるのはクーペならでは。一方、事情によりサイドウィンドウを下ろしてもBピラーが残るようになったようだ。

 イージーエントリー機能により、後席にアクセスする際には新たに採用されたナッパレザーのストラップを引くと自動的に前席がスライドしてくれる。後席にも2人掛けのフルサイズのシートが備わり、ホイールベースが2825mmもあるおかげで、乗り込んでしまえば成人男性でもそれほど苦にならない。ヘッドレストも大ぶりなものが付いている。

 420Lの容量を持つトランクは奥行きがかなり長く、タイヤハウス後方の横幅も広く確保されていて、2つのゴルフバッグが余裕をもって積める。フロア下にも深いスペースがあり、分割可倒式のリアシートを倒せば長尺物も積める。

インテリアでは専用開発のスポーティなデザインのフロントシートを採用するとともに、後席は40:20:40の分割可倒式で多彩なシートアレンジを可能にした。ラゲッジスペース容量は420Lを確保する。コクピットは人間工学に基づいて配置した12.3インチと11.9インチの2つの高解像度ディスプレイを搭載。また、日々の乗車中に行なう操作の流れを「ルーティン」として組み立て、一定の条件を満たした場合に各種機能を作動させることで、ドライバーの車内での操作負担を軽減する「ルーティン機能」を搭載しているのも新しい

 メルセデスの最新モデルらしく、学習能力をさらに高めた第3世代のMBUXや、あらかじめ設定しておくと一定の条件で自動的に指示をこなすルーティン機能、設定を予測提案してくれる機能、より簡単に音声対話できるジャストトーク機能などにより、ドライバーや乗員の操作負担を軽減してくれる。

なめらかで力強いモーターアシスト

パワートレーンは最高出力150kW(204PS)/5800rpm、最大トルク320Nm/1600-4000rpmを発生する直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「M254」型エンジンと、トランスミッションの間に配置されている第2世代のISG(Integrated Starter Generator:マイルドハイブリッドシステム)が組み合わされ、短時間となるものの最大で出力は17kW(23PS)、トルクは205Nmの電動ブーストが可能。WLTCモード燃費は14.5km/L

 最高出力150kW(204PS)、最大トルク320Nmの2.0リッター直4ガソリン直噴ターボエンジン+マイルドハイブリッドの走りは、従来のBSGに替えて搭載された第2世代のISGも効いて発進加速は軽やかだ。アイドリングストップ後の再始動での不快な振動もよく抑えられていて、短時間ながら最大で17kW(23PS)、205Nmの電動ブーストによりパワー&トルクが上乗せされる感覚があり、なめらかで力強いモーターのアシストが得られる。

 スペックとしてはセダンやワゴンと同じながら心なしかよりスポーティに感じられたのは気のせいだろうか。1.8t級の車体を軽々と加速させてくれる。車外ではいささかにぎやかに感じる音や振動も、乗り込んでしまえば少しゴロゴロ感があるぐらいでほとんど気にならなくなるあたりは、いろいろ手当てされているからに違いない。

 とはいえクーペとなればなおのこと、エンジンの選択肢が4気筒のみというのが少々悩ましい。このクラスのプレミアムクーペを求めるユーザーにとってどう映るかが気になるところではある。

乗り心地がよく意のままに操れる

 フロント4リンク、リアマルチリンク式の足まわりはスポーツサスペンションが標準となり、試乗車に装着されていたオプションの「ドライバーズパッケージ」の連続可変ダンピングシステムやリアアクスルステアリングも効いて、走りの仕上がりは上々だった。

 走り出してまず驚いたのが乗り心地のよさだ。低扁平な20インチタイヤを履くとは思えないほど路面にしなやかに追従してバタツキも少ない。これほど快適に乗れるとは予想を大きく超えていた。

 動きが極めて素直で、シチュエーションを問わず意のままに操れることにも感心した。セダンやワゴンに乗ったときにも感じたとおり、完成度の高い後輪操舵というのは本当によいものだ。ドライバーズパッケージによりクイックなギアレシオとされたダイレクトステアリングは、操舵に対する応答遅れもなく、ヨーの立ち上がりや収束にもカドがなく、挙動を乱すことなくイメージしたラインを正確にトレースしていける。快適で乗りやすく、俊敏でありながら落ち着いた走りを実現している。最初回転半径が後輪操舵によりノーマル比で20cm小さい5.0mとなっているので、非常に小回りが利くのもあらためてインパクトがある。

 交通量の多い都市高速と市街地でドライブした今回は、日常使いでいかに快適で気持ちよく乗れるかがよく分かった。休日に遠出したりワインディングを走ろうというときには、ダイナミックセレクトを適宜選択すると、よりスポーティでダイナミックなドライビングを楽しませてくれるに違いない。

 このところ2ドアクーペがめっきり少なくなってきた中で、日本のクーペ好きにもささるであろうスタイリッシュなルックスはじめ、スポーティで快適な走りとプレミアムクーペにふさわしい装備の数々など、すべてを身につけた魅力的なニューモデルの登場を歓迎したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学