試乗レポート
ポルシェ「718 ケイマン GT4 RS」、GT4のエボリューションモデルの出来やいかに?
2023年2月28日 11:30
自然吸気の水平対向6気筒4.0リッターは500PS/450Nmを発生
GT4はレース参加を前提としたモデル。世界のレースではGT3車両がポピュラーで強豪チームは各メーカーからデリバリーされるGT3で激しい戦いを繰り広げている。しかしバトルが激しくなると規定内とはいえコストが上がる。そこでプライベートチームのGT3の受け皿となったのは性能調整が厳しくコストが抑えられるGT4車両。ポルシェも911にGT3を用意し、ケイマンにはGT4車両を開発し、レースの名門らしく間口を広げている。今回試乗した「718 ケイマン GT4 RS」はGT4のエボリューションで、生産台数が限定された貴重な1台だ。
ポルシェがレース向けに開発しただけあってハードウェアの耐久性は保証済み。軽いドアを開けてレカロのカーボンシートに腰を落とすとぴったり身体がホールドされ、同時にちょうど良いドライビングポジションになる。ハンドルが遠い、ペダルが合わないとならないのはさすがに市販レーシングカーを作り慣れているメーカーである。
足下はミシュラン「パイロットスポーツカップ2」で引き締める。フロントは245/35ZR20、リアは295/30ZR20というサイズである。鍛造ホイールとタイヤのバランスはデザイン面でも一体感があり、RS(レン・シュポルト)の名に恥じない。
エンジンは911 GT3 RSから移植した自然吸気の水平対向6気筒4.0リッターをミッドシップマウントし、出力はケイマン GT4の420PS/430NmからGT4 RSではさらに高回転まで回すことで一気に500PS/450Nmにアップされた。まさに911 GT3と同等のパフォーマンスを得ることになった。
サスペンションは4輪ストラットとケイマンのスタンダードを継承するが、可変ダンパーのPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)で減衰力を選べる。減衰幅は広く、市街地からサーキットまで場面によって変えることが可能だ。もともとバネレートも高くて路面の凹凸はよく拾うが、減衰力を弱めると断然街中では乗りやすくなる。もっとも「SPORT+」モードを選んでレーシングカー気分を味わうのもわるくないのだが……。
ただ流しているだけでも心踊る
ポルシェのボディ剛性の高さは定評があり、ドライバーのアクションに対して正確に反応する。ケイマン GT4 RSではさらにクロスバーが入り、ねじれ剛性はアップしているようだ。改めて正確な動きにケイマン GT4 RSの素性の良さを感じる。
コクピットはシンプルでバックスキンのハンドルにスイッチ類はない。微妙なクルマの動きも感じ取る配慮だと思うとワクワクする。正確な操舵フィールといい、懐かしい仲間に会ったようだ。
7速PDKはシフトの度に耳元でボッという排気音が響き、心を沸き立たせる。客観的にみるとメカニカルノイズやロードノイズなどいろいろな音が入ってくるのだが、このノイズもレーシーな音に感じてくるからスポーツカーはおもしろい。
エンジン特性は高回転型とは言え低回転でも粘り強く走れ、市街地でも走りにくさは全く感じない。逆に500PSのパフォーマンスを解放するのは公道では難しい。アクセルを少し開けたところでパワーを解放するのは諦め、サーキットこそケイマン GT4 RSの舞台だと改めて感じた。ギヤレシオもクロスして、高回転をキープしラップタイムを削るのに最適だ。頻繁にシフトするPDKの音を聞いていると、ただ流しているだけでも心踊ってくる。雀百までとはよく言ったものだ。
GT4 RSのハンドリングはその片鱗しか分からなかったが、クイックで正確な操舵フィールは極めて上質だ。911 GT3のようなスパッと姿勢を変えるのとは違うが、ポルシェのレン・シュポルト一族であることはすぐに伝わってきた。
ポルシェの美点の1つにブレーキがある。リア荷重が大きいポルシェならではの制動時の姿勢安定性と、4輪での制動力はブレーキ容量が大きいだけでは得られない心地よさ。腰を落として踏ん張るような制動感にポルシェの伝統を感じることができた。
かつてケイマンでサーキットを走った時は、その爽快さにピットに入るのが残念でしかたがなかったのを思い出す。まるでボディ四隅が自分の身体の一部であるかのような一体感は素晴らしかった。最新のロードゴーイングレーサーであるGT4 RSはあの時の高揚感をもたらしてくれるのだろうか。
現実に引き戻すようだが、718 ケイマン GT4 RSは素の状態で1878万円からスタートする。名門ポルシェのレーシングカー、GT4としては安価だと思うのだが……。