試乗レポート

BMWの新型7シリーズ「740i」、31インチのシアタースクリーンとともに圧巻の走り

2022年7月にデビューした第7世代の新型「7シリーズ」に試乗

ロールス・ロイスかと見まごうばかりの存在感

 BMWのフラグシップモデルである7シリーズ。ガソリンとディーゼル、それにBEV(バッテリ電気自動車)の3機種があるが、ここではガソリン仕様を紹介する。伝統のFRレイアウトだ。

 一見してそのサイズに圧倒されると同時に、BMWグループのロールス・ロイスかと見まごうばかりの存在感だ。最近のキドニーグリルは垂直に立ち上がっているので、真ん中にスプリット・オブ・エクスタシーがあるのではないかと錯覚する。塗色の厚みもロールス・ロイスを連想する。

 ボディサイズは5390×1950×1545mm(全長×全幅×全高)と圧巻。ホイールべース3215mmもLクラスミニバン以上で、その長さは後席のために割かれている。超ロングホイールベースだが最近のLLクラスのトレンドで後輪操舵も備え、低速では逆相に切り最小回転半径は予想より小さい6.1mと市街地での取りまわしも意外と良い。

新型7シリーズではクリーンディーゼルエンジン搭載の「740d」、ガソリンエンジン搭載の「740i」、BEV(バッテリ電気自動車)の「i7」をラインアップし、全てのモデルがロングホイールベース仕様となる。今回試乗したのは「740i M Sport」(1490万円)で、ボディサイズは5390×1950×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3215mm。車両総重量は2395kg
ボディカラーのフローズン・ディープ・グレーはオプション設定。足下はピレリ「P ZERO」(フロント255/45R20、リア285/45R20)でランフラットタイヤとなる

リムジンとはいえ運転を楽しむことができる

740iが搭載する直列6気筒DOHC 3.0リッター ツインパワーターボエンジンは最高出力280kW(381PS)/5500rpm、最大トルク520Nm(53.0kgfm)/1850-5000rpmを発生。これに48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせ、システムトータルの最高出力は280kW(381PS)、最大トルクは540Nm。0-100km/h加速(ヨーロッパ仕様車値)は5.4秒、WLTCモード燃費は12.8km/Lとアナウンスされている

 車両重量2120kg(車両総重量は2395kg)のボディを引っ張るのは直列6気筒3.0リッター ツインパワーターボエンジン。出力は280kW/520Nmと、リムジンらしく低中速トルクを重視したエンジンを搭載する。これには48Vマイルドハイブリットも組み合わされ、発進時には粛々とした上質な加速でリムジンらしい力強さと穏やかさを併せ持つ。BEV版の「i7」ほど無音ではないが、静粛性で見劣りすることはない。違いは滑らかにまわる直列6気筒の鼓動を感じることだが、内燃機好きにはホッとする瞬間だろう。

 パフォーマンスは十分。アクセル操作に対して穏やかに反応させているので後席に座るVIPは安心して座っていられる。さらに強めにアクセルを踏むと力強く速度が伸び、追い越し加速も申し分ない。そして車両姿勢はロングホイールベースの恩恵もあり穏やかだ。

 やはりリムジンとはいえBMWだなと感じたのは、ドライバーが運転を楽しむことができることだ。走り出せばドライバーの操作に対して素直に反応し、その動きは期待を裏切らない。M Sportから連想するスポーツカーのような俊敏さではないが、操作に対して正確に反応するところがBMWらしい。

 高速直進時のハンドルフィールもドライバーに大きな安心感を与え、この上なくリラックスできると同時に乗り心地も路面からの凹凸を包み込むような優しさがある。さすがBMW、運転席も後席のVIPと同じような心地よさだ。

 それでもハイライトはやはり後席。レッグルームをタップリと取った上に、コンソール上のスイッチ1つで助手席がグンと前に出て、さらにシートバックも前倒しするので目の前は広々とする。広さだけならLクラスミニバンでも十分だが、7シリーズが目指すのは正統派のリムジン。贅を尽くした空間には唸らされる。

 またオプションのリア・シート・エンターテイメントシステムが用意され、Amazon FireTVを搭載した31インチのシアタースクリーンは圧巻。自動で後席いっぱいに広がるスクリーンにウィンドウシェードで限られた空間となりBowers&Wilkinsの緻密に配置された40個にも及ぶツイーター、ミッドレンジスピーカー、サブウーファーで素晴らしい空間が広がる。分厚くゆったりとしたクッションストロークを持つシートにはマッサージ機能も装備され、そこに腰を落としただけで別世界が広がっていく。

新型7シリーズでは、究極のラグジュアリーセダンとしてAmazon FireTVを搭載した世界初の31インチ8Kパノラマ仕様の「BMWシアター・スクリーン」をはじめ、すべてのドアを自動で開閉することが可能な機能、ハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能、安全機能・運転支援システム「ドライビング・アシスト・プロフェッショナル」、完全自動駐車が可能となる「パーキング・サポート・プロフェショナル」などを標準装備
シアター体験を車内で実現する世界初の「BMWシアター・スクリーン」を搭載
ドアに液晶モニターが備わり、シート調整やライトのON/OFF、「BMWシアター・スクリーン」の調整などが行なえる
撮影車はオプションの「エグゼクティブ・ラウンジ・シート」を装備。下肢部クッションが座面と一体となったリラックス・シートを装備し、リアシートのリクライニング角度は42°を実現。加えて「リヤ・コンフォート・パッケージ」も備わり、これによってマッサージ機能を使うこともできる

 乗り心地は言うまでもなくソフトだ。装着タイヤはピレリ「P ZERO」でフロント255/45R20、リア285/45R20のランフラットタイヤを履く、低速ではランフラット特有の硬さは感じるが、磨き抜かれたエアサスペンションはそれ以上に凹凸での柔らかいアタリを実現しており心地よく、路面のアンジュレーションでもフラットな姿勢を保っている。

 風切り音やロードノイズもよくカットされており、キャビンはどこまでも静粛。自動車の基本をきちんと抑えた上で駆け抜けるだけでない新しい喜びに挑戦する姿が新しい7シリーズには見えてくる。そしてBMWは常にチャレンジャーであったことを改めて思い出す。クルマがどう変わっていこうともBMWはBMWなのだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛