試乗記

ヒョンデの「アイオニック5」で岡山→東京ロングドライブ 航続距離700km超えのバッテリEVの実力とは?

ヒョンデの「アイオニック5」で岡山→東京のロングドライブを試してみた。後ろに見えるのはエメラルドグリーンに輝く瀬戸内海の雄大な景色

 一充電あたりの走行距離700kmという大台をクリアした新型BEV(バッテリ電気自動車)が続々と登場するなか、現実的な価格帯のBEVで、そこに一番乗りを果たしていたのはヒョンデの「IONIQ5(アイオニック5)」だ。今回試乗したRWDモデルの「ラウンジ」は、航続距離が703km(社内測定値)である。

 そんなアイオニック5の目玉となるのは、今後のグローバルスタンダードと目される800V級システムの標準搭載だ。それはポルシェでいえば「タイカン」や「マカン」、アウディだと同じBEVモデル「e-tron」でも、Q4やQ8の上級モデルとなる「e-tron GTシリーズ」に肩を並べるアーキテクチャであり、同価格帯のライバルは400V級システムが標準だ。

アイオニック5には「Voyage(ボヤージュ)」と上位グレードとなる「Lounge(ラウンジ)」の2種類があり、いずれにもRWDと4WDが用意されている。マイチェンでバッテリ容量が72.6kWh→84kWhとなり航続距離を伸長した
ボディサイズは4655×1890×1645mm、ホイールベースは3000mm、車両重量は2060kg、最低地上高は160mm、最小回転半径は5.9m

 ちなみに急速充電で受け入れられる最大電力は約230kWと、タイカンやマカン(共に最大270kW)といった高級BEVよりも低いが、そのバランスは実は絶妙。なぜなら日本ではようやく150kWの急速充電インフラが増え始めたばかりであり、タイカンでもアイオニック5でも、この充電器から受け取れる最大電力は150kWで同じだから。つまり充電時間に差はあまり生じない訳だ。

 であれば800V級システムのメリットは何かというと、それは充電時の発熱量を削減できることだ。

 これによって150kW急速充電器のパワーを使い切ることができ、まず充電効率が上がる。そしてバッテリへの負担が少なくなる。そして今後のインフラ拡張に対しても、230kWまでのキャパシティがある。つまり現状で選ぶBEVとしてアイオニック5は、スペック的にだが、かなりバランスがいいのだ。

外観は「パラメトリックピクセル」というデザイン言語により、ピクセルを使った独創的なビジュアルを採用
試乗車の装着タイヤはミシュランの「プライマシー4」で、サイズは前後とも235/55R19

 そんなアイオニック5は、実用面でもバランスがいい。

 先進性としては12.3インチのセンターディスプレイに表示されるナビ画面に、カメラから映し出した映像とアニメーションを重ねるAR機能を実用化していて、これがかなり分かりやすい。夜間でもカメラ映像は鮮明で、方向指示だけでなく目的地までの距離数が出たりする。また上級仕様の「ラウンジ」であれば、ヘッドアップディスプレイにもそれが連動する。

水平基調のコクピットなので視界は良好
本革巻ステアリングホイールはヒーター機能、ハプティクス機能、ハンズオンディテクト機能付き
コクピットには昼夜を問わずに見やすい大型液晶式の12.3インチクラスターを完備
センターコンソールにはドリンクホルダーと置き充電も完備
USB Type-Cポートは充電だけでなく車両とも接続できる
センターディスプレイも12.3インチ。上位グレードの「ラウンジ」にはARナビゲーションシステムも完備する
電力消費量や電費の履歴も見やすく表示できる
ドライブモードは3種類あるほか、ステアリングの操作感はスポーティにもできる

 乗り心地は、スッキリとしていてやや硬め。その理由は、2060kgの車重を安全に支えるためだろう。それでもコンフォート性には多少なりとも気を遣っており、タイヤには55扁平となる19インチのミシュラン製プライマシー4が奢られていた。後輪駆動だけにリアサスまわりの剛性感は高く、後ろに座るとやや突き上げを感じるものの、代わりにフロントサスをしなやかにして、路面からの入力を上手に吸収している。

 出力は168kW(229PS)/350Nmと、数字的に見ればかなり控えめ。しかしBEVならではのレスポンスがあるから車間調整や、車線変更もスマートにこなせて、街中でストレスを感じることはなかった。

快適な居住空間「Living Space」をテーマにしたというインテリア
運転席も助手席もオットマンを完備
後席も十分な広さを確保している

 ワインディングでもアクセルをそれなりに開けてやれば、十分力強く坂道を登ってくれる。スポーツモードに転じれば、さらにアクセルの応答性がシャープになる。

 そのハンドリングは、機敏過ぎず穏やか系。走りにアジリティを求めるならAWDモデルを選ぶべきだが、ほどよいまったり感はわるくないと思う。

乗り心地は、スッキリとしていてやや硬めに感じた

 感心したのはアップダウンの激しいワインディングをしっかり走らせても、バッテリ残量がかなり残っていたこと。具体的には街中からワインディングへと赴き合計44.8km走らせて、91%も残っていた。もしかしたら回生ブレーキによるエネルギーの回収にも、ロスが少なくなる800Vシステムの効果が現れているのかもしれない。

ワインディングを走っても思ったよりもバッテリが減らなかったのは感心

 高速巡航時の直進性はRWDでも良好で、アクセルを踏み込んでもモーターやインバーターの音が上手に抑え込まれている。車線変更時メーター内に側方の映像が映るデジタルサイドミラーは、視線移動が少なく安全確認できて、とても便利だ。

 回生ブレーキは基本レベル0のコースト状態で走らせて、前後の車間調整用にパドルを引いてブレーキを掛けるといった具合。それに飽きたらパドルを引いてオートモードにすることもできるし、ACCに入れてしまえばさらにリラックスモードだ。

岡山県倉敷市大畠にある「さぬきや」では、「ざるうどん」と一緒に魚のすり身にイカなどを混ぜ込んで揚げた「いり天」で小腹を満たした

 移動だけでなく、停まっているときもアイオニック5「ラウンジ」は魅力的だ。

 可動範囲の広いリラクゼーション・シートとオットマンを使えば、長距離移動での疲れが癒やせる。筆者はそのモードに気付かなかったけれど、ボタンを押すだけで「ゼログラビティ・ポスチャー(無重力姿勢)」を作り出すことも可能だという。

 また、車内の電源を使えばラップトップやタブレットが使えるし、景色のよい場所でコーヒーを飲みながら仕事をしたり、映画を見ながら充電時間を過ごすのもいい。せかせかとした時間の使い方しかできない自分にとって、それを妄想するだけでも、アイオニック5に乗れば豊かな時間が作れそうな気がした。

スポーツモードにするとアクセルの応答性がシャープになり、スポーティな走りも楽しめる

 旅の終盤で充電状況が半分以下になっていたので、サービスエリアで充電することにした。

 正確な電池残量は43%で、急速充電器につなぐと充電時間は80%まで28分、満充電までは1時間と表示された。これは84Kwhのバッテリを30分弱で37%回復させるのは、模範解答だといえるだろう。とはいえ800Vシステムの恩恵が感じにくかったのは事実で、その理由は単純にパーキングエリアの充電器が90kW対応だったからだ。これが150KWなら、20分足らずで80%に到達していたと思う。

急速充電のインフラがより高出力になれば、BEV生活がもっと便利になるはず

 現状から分かるとおり、BEVをもっとポピュラーにするのであればインフラの発達は急務で、同時にあまり高額なBEVを手に入れても、その性能を使い切れないうちにクルマが古くなりそうな予感もある。

 何度もいうがそんななかで、このラウンジRWDでも574万2000円という価格を実現したアイオニック5はバリューが光る。この先インフラが整うほど充電時間では有利になり、バッテリも長持ちさせられる。あとはディーラー展開しない分、どれだけその拠点に「e-pit(イー・ピット:充電施設)」を増やせるかだ。

 個人的にはトヨタが800Vシステムの新型BEVを沢山出すような時期になれば、インフラも整う気がする(笑)。そのときアイオニック5は、さらにそのパフォーマンスを高めることだろう。

アイオニック5のラウンジ(RWD仕様)はなかなかお買い得な1台といえる
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:安田 剛