試乗記

BMW「120」のもっともベーシックなモデルに隠された「駆けぬける歓び」とは?

BMW「120」のガソリンエンジン

 BMWでもっともベーシックなモデル「120」に試乗して、つくづく素晴らしいクルマだと思った。

 カテゴリー的には、いまや日本では絶滅危惧種ともいえるCセグメントのコンパクトハッチ。日本でもそのお株は同じプラットフォームを使うコンパクトSUV「X1」に奪われているし(というより日本で1番売れているBMWだ)、BMWらしいスタイリッシュさが欲しいなら、2シリーズ「グランクーペ」の方が、断然華がある。

 でも、いやだからこそ、筆者は1シリーズに魅力を感じる。

試乗車のボディカラーはケープ・ヨーク・グリーン。車速やステアリング・アングルに応じて照射範囲を調整するアダプティブLEDヘッドライトを標準装備
ボディサイズは4370×1800×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm、車両重量は1460kg、最小回転半径は5.5m

 ちなみに最新世代でBMWはガソリンモデルの名前からインジェクションを意味する「i」を取り去ったが、どうやらそれはバッテリEVモデルである「iシリーズ」との混同を避けるためのようだ。だから直列4気筒ディーゼルターボを搭載するモデルは「120d」のままである。

最新のデザイン言語を採用したキドニー・グリルは、縦と斜めのバーで構成されたインパクトのあるグラフィックを採用している
試乗車の装着タイヤは、グッドイヤーの「イーグルF1」でサイズは225/45R18。(標準装備は205/55R17)。ホイールはオプションのアロイ・ホイール Yスポーク・スタイリング974バイカラー
シルバーのウインドフレームを採用し、1シリーズを表す「1」の数字があしらわれている

 エンジンが直列3気筒1.5リッターというのも、120をさらに地味に見せる要因のひとつにはなっているだろう。しかしながらこのBMWの直列3気筒ツインパワーターボは、すこぶる優秀なエンジンである。数値的にはエンジン単体でリッター100馬力を超えの156PS、最大トルクで240Nmを発揮。

 さらに7速DCTとエンジンの間に最高出力20PS/最大トルク55Nmのモーターを配置して、実に170PS/280Nmのシステム出力を得ている。BMWびいきな言い方をすれば、それは名前通り2.0リッター級のポテンシャルを持ったパワーユニットだといえるだろう。

 実際に走らせても、このパワーユニットは実にいい。

 わずか1500回転で最大トルクを発揮するエンジンとモーターの組み合わせは、出足のよさを際立たせており、ショートステップな湿式デュアルクラッチの変速が、その初速をスムーズかつ、滑かにつないでいく。エンジンを回さないで街中を走れるから、車内はかなり静かだ。

整然とレイアウトされた操作系統とミニマルなデザインを採用したコックピットには、10.25インチのマルチ・ディスプレイ・メーター・パネルと10.7インチワイド・コントロール・ディスプレイを合わせた「BMWカーブド・ディスプレイ」を装備
試乗車はオプションの「ハイライン・パッケージ」を装着することで、シート・マテリアルカラーは「エコニア バイカラー(ブルー)」、スポーツ・シート(フロント)、サンプロテクション・ガラス、ハーマン・カードンのHiFiスピーカー・システムを装備
BMWカーブド・ディスプレイは高解像度なのでエンターテインメントを楽しむのにも最適
物理ボタン類はステアリングとシフトスイッチまわりに集約されている
ラゲージルームの容量は300L。後席を折りたたむと1135Lまで拡張できる

 そしてアクセルを踏み込めば、きっちりとエンジンを高回転まで回しきり、BMWらしさをアピールしてくれる。決してスポーツ用エンジンではないけれど、実用エンジンに留まらないその回転上昇感に、BMWのプライドを感じる。

 3気筒ターボのサウンドは、高回転になるほど野太く野性的。もちろん絶対的な排気量は少ないから、直列6気筒3.0リッターターボのようなプレミアムさやパワー感は求められないけれど、「3気筒だから」と頭ごなしに見下すのは、まったくもって間違いだ。むしろ筆者はこの小さなエンジンが滑らかに、そして思った以上にパンチを効かせて回ることに感心させられる。

試乗車はオプションのパノラマ・ガラス・サンルーフ(チルト&スライド、ブラインド付き)を装備していた

 エンジンを高回転まで回すような時代がほぼ終わったいま、人気があるのは国産車ならストロングハイブリッドで、欧州車ならディーゼルターボだ。そんな時代に直列3気筒のガソリンターボはやや見劣りするかもしれないけれど、本当にこれはいいエンジンであり、マイルドハイブリッドを得たことで、いいパワーユニットになったと思う。

 こうしたエンジン特性に対して、恐ろしくボディがしっかりしているのもBMWらしくていい。

後席は身長171cmの筆者が乗ってもヘッドクリアランスもニークリアランスもしっかり確保している

 ドアを閉めれば“バスッ!”と締まり、車内が“しん”と静まりかえるほど遮音性は高い。そんなどっしりとしたボディを支える足まわりはしなやかで、ストロークフル。試乗車はオプションの18インチタイヤを装着していたけれど、路面からの入力は見事にバネ下で収まりきっていた。

 対して操舵レスポンスは、やや緩慢だ。だからBMWのイメージを持って臨むと、ちょっと物足りなく感じるドライバーもいるかもしれない。

マイルドハイブリッドになったことで本当にいいパワーユニットになっている

 とはいえ俯瞰すればそのまとまり具合は抜群で、ブレーキングでは荷重をじわりと受け止め、操舵すれば自然なロールで車体の向きを変えていく。フロントのストラットは相変わらずのできのよさであり、リアのマルチリンクは実にどっしりとしている。その走りはCセグハッチバックのベンチマークである、フォルクスワーゲンのゴルフを超えている。

 1シリーズは先代モデルでFWD化し、その反動からか、かなり後輪駆動を意識した旋回性の高いハンドリングをそこに与えていた。しかし現行モデルは、いい意味でコンサバになったと思う。長らくMINIを作り続けているノウハウも、そこに大きく役立っているのだろう。そのまったりと上質な、そして駆動方式を意識させない操舵追従性は、見事のひとことだ。

走りはCセグハッチバックのベンチマークであるフォルクスワーゲン「ゴルフ」を超えているといっても過言ではない

 だから筆者の推しは「120」の標準グレード。できればタイヤも、よりエアボリュームのある標準装備の205/55R17サイズをお勧めしたい。そのお買い得さから日本のユーザーは、18インチタイヤとスポーツサス、そしてMエアロダイナミクス・パッケージの付いた「M Sport」仕様を好む傾向にある。

 おそらく下取りもその方がよいのだけれど、そもそもこの時代に120を選ぶ時点でかなりアナタの目は肥えているはずだから、ここは“贅沢に”ベースモデルを選んで欲しい。なんならサンルーフ(オプション)も付けないで、重心高を抑えて欲しい。「駆けぬける歓び」とは、ただ猛スピードでコーナーを走ることではないのである。

今回試乗した「120」の標準グレードは筆者も推しの1台だ
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学