試乗記

BYDのバッテリEVセダン「シール」試乗 低重心が生み出す身のこなしはミッドシップスポーツカー並み!?

BYDのバッテリEVスポーツセダン「シール」に試乗する機会を得た

 日本では“オワコン”とすら言われなくなったセダンも、自動車がフォーマルの象徴であり、乗り心地を重要視する中国では、いまだにその需要が高いという。ということで日本にも当たり前のラインアップとして上陸してきたBYDのシールだが、一周まわってなかなかに魅力的なセダンだった。

 シールを魅力的だと思わせる最も大きな要因は、コストパフォーマンスだ。それはBYDのモデルすべてに当てはまることではあるのだが、たとえば今回試乗したシール(RWD)が495万円という価格でこのパフォーマンスを提供していることを考えると、「もう一度セダンに乗ってみようか」と考えるユーザーは、一定数いるだろうと素直に思える。

試乗車はRWD(後輪駆動)モデル。ボディカラーはアトランティスグレー
ボディサイズは4800×1875×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2920mm、車重は2100kg、最小回転半径は5.7m

 その土台となるのは、バッテリEV専用の「e-Platform 3.0」に自社製の「ブレードバッテリ(82.56kWh)」を敷き詰めた基本構造だ。

 1995年にバッテリメーカーとして操業したBYDは、現在すべてのモデルにリン酸鉄(LFP)を正極に使ったリチウムイオンバッテリを使用している。LFPはレアメタルに比べて入手しやすいため、三元系リチウムイオンバッテリに対してコストを抑えられ、製造時の環境負荷も少ない。また熱暴走しにくく、充放電サイクルが従来バッテリの1.5~2倍にもなるという。

刀のように見える「ブレードバッテリ」
バッテリEV専用の「e-Platform 3.0」に、自社製「ブレードバッテリ」を敷き詰めている

 ちなみに今回試乗したシール(RWD)の最高出力は230kW(312PS)、最大トルクは360Nmで、一充電あたりの航続距離は640km(WLTC値)と、どちらもなかなかの数値だ。残念ながら試乗はショートドライブだったけれど、同じDセグメントの兄弟車「シーライオン7」の航続距離は540kmで、過去に長距離ドライブした経験からすると、より軽く前面投影面積が小さなシールは、空力性能がよくて低電費で実際の使い勝手もさらによくなることだろう。

 相対評価としては、たとえばテスラ「モデル3」がロングレンジモデル(RWD)で766km(国土交通省審査値)へと航続距離を伸ばしたけれど、スタンダードモデル(RWD)は594km(国土交通省審査値)となっている。価格はモデル3が540万円~でシールが495万円だから、ここでもシールのコストパフォーマンスが魅力的に映る。

 さらにシールは、走りがいい。そしてこの走りを支えるファクターこそが、BEVベースの“セダン”ボディだ。

試乗日は寒い時期だったため、オプションの10本スポークアルミホイール(1本4万8400円)に横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード7(iG70)を装着。サイズは235/45R19
フロントには50Lの収納スペースを完備
リアのトランク容量は400Lを確保
充電ポートは右後方に配置。普通充電と急速充電(CHAdeMO)を備える

 ご存じの通りBEVはフロアにバッテリを敷き詰める構造上、ボディ剛性がとても高い。対して一番の重量物であるバッテリとドライバーの距離が遠くなればなるほど、突き上げやロール・ピッチで乗員の頭が振られる。

 しかしシールは着座位置が低めなセダンボディだから、その影響がSUVボディと比べて少ない。さらにルーフも低いおかげで、足まわりを固めずともロールが抑えられるから乗り心地もいい。そして低重心で4輪の接地荷重が均等になることで、ガソリンエンジンのセダンよりも高いコーナリングパフォーマンスが得られる。ちょっと大げさにいえばその身のこなしは、ミッドシップスポーツカー並みである。

中央にある15.6インチの電動回転式タッチスクリーンは縦横の方向をボタン1つで変えられる。ドライバー正面に10.25インチディスプレイをレイアウト
シートは本革(ナッパレザー)を採用しているほか、運転席は8Wayパワーシート、4Wayランバーサポート、シートヒーター、シートベンチレーション、メモリー機能付きパワーシートを完備。助手席は6Wayパワーシート、シートヒーター、シートベンチレーションを備える

 そんなシールがフロントエンドのグリップ感をさほど高めていないのは、プレミアムセダンとしてのキャラクターを重視しているからだろう。シャシー全体で曲げて行く走りはシーライオン7よりもはるかにまとまっていて、かつ大人びている。

 動力性能は、必要にして十分、もしくはちょっとだけパワフル。2100kgにもなる車重に対して312PSの最高出力は圧倒的ではないけれど、360Nmの最大トルクを瞬間的に立ち上げるBEVならではの特性から、加速に物足りなさは感じない。また、その際のトルクの出方が穏やかだ。だから後輪駆動でも、特別意識を尖らせる必要はない。回生ブレーキの効きは「スタンダード」と「強」を選択できるが、スタンダードは思ったほど強くないのも、走安性を考えてのことだろう。

回生ブレーキの効きは「スタンダード」と「強」を選択できる

 個人的には、ちょっと個性的だけれどシンプルなエクステリアのデザインに対して、インテリアの造形がごてごてとアンバランスに感じてしまうのがとても惜しい。大きいのはいいことだとばかりに、15.6インチのタッチスクリーンを回転させて縦配置する強引さも、欧州勢と比べてスタイリッシュだとはいいがたい。

乗り味はガソリンエンジンのセダンよりも高いコーナリングパフォーマンスが得られる

 とはいえ、これこそが大陸的な大らかさだともいえるのかもしれないし、そんな目で見ると「シール=あざらし」と名付けられたボディが余計に可愛らしく思えてきたりもする。デザインチーフにはアルファ ロメオやアウディで腕を振るったウォルフガング・エッガー氏が指揮を執っているのは有名だが、ここに師匠であるワルター・デ・シルヴァ氏のようなキレのある洗練が加わったら、ちょっと面白いことになりそうだ。

ロールが抑えられるから乗り心地もいいし、その身のこなしはミッドシップスポーツカー並み

 SUVやミニバンが台頭したおかげで、セダンといえども実はルーフまわりのヘッドクリアランスも、意外に広く確保されているシール。だからイメージにとらわれず、興味があるなら一度そのシートに座ってみるとよいと思う。そしてついでに試乗してみれば、たとえ街中でもその運転しやすさが実感できるはず。

 もう一度セダンに乗ってみたいと考えたとき、BEVで仕切り直すというのはアリだろう。

ぜひ1度試乗してみて、セダンのよさを再確認していただきたい
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学