試乗記
BYDの最新バッテリEV「シーライオン7」で富山までロングラン
2025年4月29日 09:00
販売を開始したばかりのシーライオン7
4月15日に販売を開始したばかりのBYD「シーライオン7」で、富山県を目指した。
ロングドライブの目的地は、飛騨山脈の最高峰である立山。ここで運行する立山トンネル電気バスにはBYD製の「K8 2.0」が採用されており、その一般運行開始に合わせて今回のテストドライブが開催されたのであった。ちなみにEVバス「K8 2.0」についても追ってレポートするつもりだ。
さてCar Watchではすでにシーライオン7の初試乗を日下部保雄さんがレポートしているわけだが、改めてその概要をおさらいすれば、それはBYDのSUV型EVということになる。BYDは2023年に「ATTO3」を先行投入しているが、シーライオン7はこれに比べてひとまわり大きなDセグメントとなる。セダンタイプの「シール」は兄弟車だ。
かつシーライオン7はATTO3とはデザインコンセプトが異なる。BYDは「王朝シリーズ」と「海洋シリーズ」という2つのコンセプトを同時展開しており、「あしか」の名を持つシーライオン7は海洋シリーズだ。ちなみにコンパクトカーはドルフィン(いるか)で、セダンはシール(あざらし)というわけである。
またシーライオンの「7」という数字はサイズを表していて、本国には「5」「6」といった、ひとまわり小さなプラグインハイブリッドが存在する(日本導入未定)。そして日本市場には4830mmの全長と2930mのホイールベースを持つピュアEVの「7」が投入された。その全幅は1925mm、全高は1620mmと、中間モデルながらもたっぷりとしたサイズ感だ。
すっきり爽やかな乗り味が印象的
ロングドライブの往路ではAWDモデルを走らせた。
BYDのアイデンティティである「ブレードバッテリ」、その容量はRWD/AWDともに82.56kWhで同等だ。しかしその航続距離は、ハイパワーなAWDモデルが540kmであるのに対して、ベーシックなRWDモデルはこれより50km長い590kmとなる。
AWDモデルはフロントに160kW(217PS)/310Nmの出力を発揮する「かご形三相誘導モーター」、リアには最高で2万3000回転を許容する230kW(312PS)/380Nmの永久磁石同期モーターを搭載。対してRWDモデルは、永久磁石同期モーターのみをリアアクスルに搭載して、後輪を駆動する。
横浜市みなとみらいにあるBYDジャパン本社を出て、首都高速道路へ。バッテリが満充電の状態で示した航続距離はノーマルモードで540kmと、カタログ値と同数値を示していたのが実に心地よかった。この分なら途中1回の充電を挟めば、撮影しながらでも初日の目的地である富山駅周辺の宿にはたどりつけそうだと、スタートから期待が膨らんだ。
一般道を走らせたシーライオン7は、すっきり爽やかな乗り味が印象的だ。ハイパワー4WDのトルク対策として、その足下には20インチのミシュラン パイロットスポーツEVが履かせてある。よって荒れた路面や段差では、タイヤからの入力が割とダイレクトに入ってくるのだが、サスペンションがその衝撃やバネ下重量をしなやかに受け止めて、全体の印象を実にうまくバランスさせている。
しかし曲がりくねった首都高速道路を走ると、このしなやかな足まわりに対してタイヤがややオーバースペックだと感じた。端的に言えば大径タイヤの剛性に対してダンパーの減衰力がわずかに足りず、初期操舵でわずかに応答が遅れる。ロールが終わりタイヤに荷重がかかればきれいにラインをトレースするのだが若干ラグがある。
ならばとコーナーアプローチで早めにハンドルを切り始めようとしたが、電動パワステのアシストが強めで、ゆっくりとステアしにくい。またブレーキも踏み込めばダイレクトだが初期タッチが曖昧で、サスペンションにプリロードがかけにくかった。
要するに乗り心地を気にしてダンパーの初期減衰力を緩めにしたことで、クルマが反応しないのだ。ある程度スポーティに走らせればサスペンションの遊びを一気に縮められるけれど、同乗者のことを考えるとそれもなかなかに難しい。
残念なのは、こんなときスポーツモードに転じても、その操作性があまり変化しないことだ。シーライオン7には可変ダンパーが与えられているのだから、こうした領域ではもう少しだけ減衰力を高めてタイヤに荷重をかけさせてほしい。せっかくフロントにダブルウィッシュボーンを奢っているのだから、そのよさをもっと引き出してもよいと思う。
また電動パワステを少し重たくするだけで、その印象もだいぶ変わるはずだ。スタンダード/ハイで2段階に切り替え可能な回生ブレーキもそうだが、BYDはモード変更であまり変化を付けない傾向がある。
最大のライバルであろうテスラ「モデルY」がやや硬めな乗り味を示すのは、同じくハイパワーなモーターやEVの車重に対して、シャシーを安定させるべきだと自覚しているからだろう。BYDが乗り心地でテスラをはじめとしたライバルに差を付けたいなら、なおさら可変モードの性能は最大限に活用すべきだ。できればオートモードを新設して、通常モードでも速度やGにダンピングやパワステを対応させてほしい。
アップデートに対するスピーディさに注目
東名高速道路から御殿場を通り過ぎ、中央高速道路へアクセス。直線が多くカーブの緩やかなステージでは、乗り心地も含めて快適なグランドツーリングが楽しめた。電費が気になりアクセル開度は控えめに走行したが、0-100km/h加速4.5秒のパフォーマンスは気持ちよく、追い越し加速も申し分ない。
ただACCの制御には詰めの甘さを感じた。もっとも気になったのは操舵支援の制御だ。車線中央維持制御が弱めなのは、ドライバーのハンドル保持を促す点ではありかもしれない。だが車線を逸脱方向に進んだときには、もう少し早めに補正した方がよいと思う。かなりギリギリまで行っても制御が働かず、最終的には自分で修正したケースもあった。また一般道でドライブアシスト機能を有効化していると、何かに反応しているのか突然操舵してくることがあった。
運転席側のAピラーにはドライバーモニタリングシステムがあり、よそ見にはかなり素早く注意を促してくる(システムでON/OFFが可能)。また、あくびをすると間髪入れずにコーヒーマークで休憩を促してくるのだが、根本的な制御のアップデートが必要だと感じた。
1回目の充電は諏訪湖SA(サービスエリア)で行なった。走行距離は241kmで、SOC(電池残量)は35%。累積AEC(平均電費)は20.8kWh/100km(約4.8km/kWh)だったから本音を言えばもう少し電費を稼いでほしかったが、大人3人と2泊分の荷物を満載して高速道路を主体に走ったと考えればまずまずか。そしてこれを30分間急速充電して、まず72%まで回復。さらに少しだけお代わりをして、82%になったところで出発した。
松本IC(インターチェンジ)を降りて一般道へ。上高地方面を目指し中部縦貫道の平湯料金所に差しかかると、日本アルプスの山々はまだ雪景色だった。峠道を抜け、街中へ出て約180kmのロングラン。宿を目前に明日以降の移動を考えて再び充電したときのSOCは50%と、約32%の電力を使ってここまで来たことになる。
単純計算だが、それはトータル370kmの道のりをギリギリ無充電で走り切ったことになる。WLTC値の航続距離540kmに対しては、その約69%という結果になった。そして翌日の移動を考え、急速充電でSOCを77%まで回復させておいた。都合2回の急速充電に対しては90kW/50kWともにほぼ同数値で充電を受け入れていた。気温が10℃を軽く下まわる状況でもストレスがなかった。
なお、悪天候によりRWDモデルの試乗は今回はかなわなかった。事前に試乗した印象から、筆者はRWDモデル推しだっただけにとても残念だ。18インチタイヤはそのしなやかな足まわりに対して軽さや剛性もマッチしていたし、電費もさらに期待できたことだろう。
BYDはその性能や乗り味に対するコストパフォーマンスが大きく評価されている。確かにこのスペックでAWDモデルが572万円、RWDモデルでは495万円というプライスは、国や各自治体の補助金を見越せば脅威だ。
しかしことAWDモデルに関しては細部の煮詰めがまだ必要だと感じた。大筋はよくできている。だからその細かい部分を、いかに素早く改善するのかに筆者は注目したい。アップデートに対するスピーディさはBYD自身が、自らの得意分野として一番自覚しているはずだから。