試乗記

ランドローバー「レンジローバースポーツSV EDITION TWO」 ハイパワーなプレミアムSUVをサーキットで走らせた

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO

「レンジローバー スポーツ」の頂点となる95台限定モデル

 英国ブランドとして、プレミアムSUVカテゴリーを牽引するレンジローバー。そのシリーズにおいて「レンジローバー スポーツ」は、オンロードにおける運動性能を突き詰めたモデルだ。

 ちなみにブランドを司るジャガー・ランドローバーは、2024年からCI(コーポレーションアイデンティティ)を「JLR」へと改めた。そして今後はこの「レンジローバー」シリーズと、「ディスカバリー」「ディフェンダー」、そして電動モデルに特化した「ジャガー」を、それぞれ独立したブランドとして成長させていくという。

 ということで今回筆者が試乗したのは、レンジローバー スポーツの頂点に君臨する「レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO」だ。しかも舞台は富士スピードウェイの、ショートコースだった。

富士スピードウェイのショートコースでレンジローバー スポーツ SV EDITION TWOに試乗

「EDITION TWO」と銘打たれるのは、2024年に日本で発売された「EDITION ONE」が、75台の限定モデルだったからだ。「たったの75台?」というなかれ。その価格は2474万円だから、それが完売したならこの日本でレンジローバー スポーツ SV EDITION ONEは、総額18億5550万円を売り上げたということになる。

 そしてこの好調を受けてだろう、EDITION TWOは同じ価格を保ったまま、日本市場用に95台が確保される。ちなみに「EDITION THREE」の導入は、まだ分からないとのこと。それもこのEDITION TWOの売れ行き次第ということなのだろう。

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO(2474万円~)。ボディサイズは4970×2025×1815mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm。車両重量は2835kg
フロントSVパフォーマンスシートやSVロゴのイルミネーション、ボディ&ソウルシート(BASS)などのインテリア装備はEDITION ONEから変わらず標準
カーボンファイバーボンネットを含む空力コンポーネントを標準装備。カーボン地が見える「エクスポーズドカーボンボンネット」はオプション装備
バンパー下部に装着されるフロントカーボンリップやドアを開けた際に目に入るイルミネーテッドトレッドプレートには、SVロゴとEDITION TWOの文字が刻まれる

 レンジローバー スポーツ SV EDITION TWOのハイライトといえば、なんといってもそのパワーユニットだ。巨大なカーボン製フロントボンネットの下に搭載されるのは、4.4リッターの排気量を持つV型8気筒ツインスクロールターボである。

 レンジローバーにも搭載されるV8ユニットはBMW由来の「S63B44」であり、ここにモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムとしながら、歴代最高の635PS/750Nmを発揮している。ちなみに0-100km/h加速は3.8秒、最高速は290km/hをマークしつつ、CO2排出量は先代SVR比で15%低減させている。

 そしてこの4.4リッターV8マイルドハイブリッドのポテンシャルを真正面から受け止めるために、シャシーがこれでもかというほど、入念にセットアップされている。

最高出力635PS、最大トルク750Nmを発生するV型8気筒4.4リッターツインスクロールターボチャージドガソリンエンジン(MHEV)を搭載。0-100km/h加速は3.8秒というパワフルさ

 圧巻は、その足まわりだ。まず驚かされたのはタイヤチョイスで、フロントには285/40R23、リアには305/35R23サイズを装着。ミシュラン「パイロットスポーツ 4 ALL SEASON」が装着されていることからも、レンジローバースポーツSVが路面を選ばぬ走りを目指しているのが分かる。

 さらにこのEDITION TWOからは、ホイールがカーボン製となった。カーボンホイールといえばアルピーヌ「A110 R」やシボレー「コルベット ZR1」、ベントレー「ベンテイガ」が先んじているけれど、23インチは初だという。

レンジローバー スポーツ SVシリーズが量産車初採用となる23インチのカーボンホイール

 肝心なスペックとしては、同サイズの鍛造アルミホイールに比べて1本あたり約9kgの軽量化が可能になる。ちなみにホイールを内側から見ると、ハブからスポークにかけてはリムが金属製(恐らくアルミ製だろう)となっていた。そのサプライヤーは、オーストラリアのカーボン・レボリューションだ。

 まだまだ驚きは続く。ブレンボと共同開発されたブレーキシステムは、F1で得た知見から量産車に装着可能な最大サイズとなる、440mmのカーボンセラミックローターをフロントに採用。2ピース構造がフローティング式なのかは分からなかったが、4輪トータルで34kgものバネ下重量を軽減している。

 そしてブレーキキャリパーには、8ピストンの「OCTYMA」が装着された。大小2種類の異径ピストンをクロスレイアウトすることで、巨大なブレーキパッドを均一にローターへと押し当てるのが目的だと思われるが、なんともすごい形だ。

レンジローバー スポーツ SV専用に開発されたブレンボ製8ピストンOctymaフロントキャリパーを装着。ブレーキ効率を最大限高めるために、独自のクロスシェイプピストン配列を採用している

2t超えの巨体とは想像を逸する走り

 そんなレンジローバースポーツSVをサーキットで走らせるとなれば、誰もがきっとスリルに満ちたドライビングを想像することだろう。

 しかしその実態は、極めて紳士的なスポーツSUVである。

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO

 制御が一番ハードな「SV」モードを選ぶと、標準モデルより10mm低い車高は6Dダイナミクスサスペンションシステムの調整によって、さらに15mm低くなる。同時にダンパー減衰力も締め上げられるはずだが、その乗り心地はとてもしなやかだ。

 もちろんそこにはフラットなサーキットの路面も大きく影響しているから、オープンロードでこの乗り心地が、そっくりそのまま得られるわけではないかもしれない。

 しかし縁石を乗り越えてもバネ下のホイールが突き上げることもなく、S字で切り返せばその巨体をスムーズに切り返す。フローティングと思われるローターからも、チャタリングを感じることはなかった

 このいかにもブリティッシュ然とした身のこなしは先代から受け継がれる伝統だが、全体的にはダンピングが少しだけ引き締まり、無駄な動きが減ったように感じた。スタビライザーを使わず、しかし2WAYダンパーとエアサスの協調制御で姿勢を安定させる6Dサスペンションシステムはオールシーズンタイヤを履いた状態で1.1Gの横Gを実現するというが、今回の試乗では制動Gで1.1G、横Gで1.14G、加速Gで0.66Gをマークした。もしこれがスポーツタイヤであれば、さらに高い領域へと踏み込めただろう。

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO

 こうしたGの推移を見ても分かるが、筆者が一番感心したのはブレーキのキャパシティだ。まず2560kgのボディをフル加速させても、きっちりとそのスピードを抑えきる。そしてこれを繰り返しても、フェードしない。ショートサーキットは速度レンジこそ低いが、カーブのRはキツく、ブレーキングポイントもたくさんあってクルマへの負担は大きい。にもかかわらず、ペダルタッチが変わらなかったのは、オーナーにとって一番歓迎すべき性能だ。

 さらに言えば、コントロール性もいい。パッドがローターをつかむ感触は、足まわりと同じく穏やか。いわゆる“カックンブレーキ”ではないから、強く踏み込んでもむやみにABSが作動しない。そしてリリースしやすいから、ターンインで姿勢が作りやすいのだ。

 エンジンは正直、好みが分かれると思う。先代SVRが搭載したフォード由来の5.0リッターV8スーパーチャージャー、あの自然吸気然とした迫力のV8サウンドは、大きな魅力だった。

 かたやBMW製V8ユニットは、パワフルだけれど洗練され過ぎている。Vバンク内に2つのタービンを収めて排気管の距離を短く取ったツインスクロールターボはレスポンスが非常によく、スーパーチャージャーにも負けない応答性を備えている。しかし英国車ならではの野蛮さは、もうそこにはない。

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO

 同じくシャシーの制御も、徹底して安全に管理されている。

 リアが滑りながらもバランススロットルで姿勢を安定させ続ければ制御は働かないが、少しでもカウンター領域に入るとSVモードが解除されて、挙動を安定させてしまう。

 恐らくもう少しその閾値を上げられるくらい、シャシーの懐は深いはずだ。

 とはいえそのレベルは極めて高く、これだけの速さを安全にデリバリーする上で、そのコンサバティブな制御は正しい判断だといえるだろう。蛮勇振り絞ってアクセルを踏みきる時代は終わりを告げたけれど、だからこそため息が出るほどのシャシー性能を開発チームは、このレンジローバースポーツ SVに与えたというわけである。

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO
レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO
当日は「オートバイオグラフィー D300」で、レンジローバースポーツのオフロード性能も確認した。「オフロード2」モードで車高を上げ、8速ATはローギアに固定。カメラを駆使して左右輪の状況を見ながらラインを修正し、アクセルを一定にしながらゆっくり進むと、オートバイオグラフィー D300は、その巨体を揺らしながら危なげなく大きなモーグルを乗り越えた。感心したのはトラクション性能の緻密さで、タイヤが着地した後でもゆっくりパワーをかけてくれる。その際、中央モニターに映し出されるアニメーションが4輪のストロークやトラクション状況を写し出し、リアルとバーチャルをみごとに融合させながら車両の状態を教えてくれる。センターデフをロックさせていてもステア時にはフリーになって曲がりやすく、狭い場所ではタイヤの軌跡をモニターに映し出すことも可能。23インチタイヤを履いたオンロードタイプのレンジローバースポーツでも、電子制御を駆使して悪路を走破できてしまうのであった。
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:安田 剛