試乗記

ルノー「グランカングー」に試乗 3列シートのロングホイールベースがもたらす「自由なドライブ」を体感

ルノー「グランカングー」

 初代が日本にやってきてから、もう20年以上も輸入ミニバンの代表格として愛されてきた、ルノー「カングー」。フレンドリーなデザイン、カラフルなボディカラー、観音開きのバックドア。これらの特徴に、もともとは本国フランスでの郵便配達車をはじめとする商用車として活躍するヘビーデューティーな素養が合わさり、ほかにない魅力を持つミニバンとなっている。

 そんなカングーに2026年、長らく待ちわびた人も多い3列シート7人乗りとなる「グランカングー」が登場した。一見してカングーとわかる個性やおおらかな雰囲気は受け継いでいるが、グランカングーの「+2席」のゆとりは走りや使い勝手にどんな変化をもたらしているのか。海を目指してドライブに出かけてきた。

グランカングー クルール(ベージュ サハラ)。ボディサイズは4910×1860×1860mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3100mm。車両重量は1700kg
新デザインのロザンジュ(ひし形エンブレム)を採用するなど、基本的なデザインは「カングー」を踏襲
専用の16インチスチールホイール+ホイールカバー(フルキャップ)には、ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」(205/60R16)を装着
インテリアも基本はカングーと同じ
フロントオーバーヘッドコンソールも採用
ステアリング
シフトまわり
メーター
滑りやすい路面でのドライブをサポートするエクステンデッドグリップ機能を搭載
前後スライドに加え、2列目と3列目シートは折り畳み、跳ね上げ、取り外しが可能。ラゲッジ容量は7人乗車時で500Lを確保し、2列目、3列目シートを取り外すと1340~3050Lに拡大できる
カングーと比較して、スライドドア開口部は180mm拡大した830mmとなり、乗り降りがしやすくなった
2列目と3列目シートは、全席よりも座面が高いシアターポジションを採用。3列目でも前方が見やすく広さが感じられる

 運転席に乗り込むと、そこからの眺めは5人乗りのカングーとまったく変わっていない。グランカングーはボディサイズがカングーより420mm長い全長4910mm、全幅と全高はどちらも同等で1860mm。正面から見るとほとんど違いがわからないのだが、サイドにまわるとその長さは一目瞭然で、ホイールベースも385mm長い3100mmになっている。フロントドアまではカングーと同じだが、スライドドアから後方は新たに専用設計されたというからすごい。ルームミラーを見ると、確かにバックドアまでがとっても遠く感じる。そのすぐ上に、くるりと回すと後席の様子が確認できるチャイルドミラーが備わるのは、カングーから受け継ぐ美点。これは子供を乗せていなくても、荷物や愛犬の様子などを確認するのにも便利だ。

 気になっていたのは、車両重量がカングーのガソリンモデルより130kgほど増えていること。パワートレーンは同じ1.3リッター直噴ターボ+7速EDCなので、もしかしたら非力に感じるかもしれないと心配していたが、出足は軽やかで驚いた。流れにのるまでの加速はやや穏やかかなという程度で、上り坂でもとくにパワー不足を感じることはなく、しっかりとした接地感とともに走っていける安心感が心地いい。

最高出力96kW(131PS)/5000rpm、最大トルク240Nm(24.5kgfm)/1600rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.3リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションには電子制御7速AT(7EDC)を組み合わせる。WLTCモード燃費は14.7km/L

 そして、カングーは現行の3代目になってから走りの質感がかなりアップしたことが印象に残っているが、グランカングーもそれに近い質感は保ちながら、やはり空間が広くなっているからなのか、静粛性やボディのカタマリ感といった面では少しカジュアルな雰囲気を残しており、以前のカングーのような愛されキャラをより強く感じさせる。なんというか、自然と肩のチカラを抜いてのんびり走りたくなる癒し効果というべきか。気がつけば大きなガラスエリアからは左右に海が広がっている。リラックスしてドライブする時間を、もっと楽しみたくなってくる。

グランカングーは商用車がベースといえども、走りの質感はかなり高い

 途中で運転を交代し、2列目シートに座ってみた。新しくなったスライドドアは、開口部がカングーより180mm拡大しており、身体をまったく傾けずに乗り込めるほど。これならチャイルドシートに子供を乗せるときも、大きな荷物を抱えて乗り込むときも、すごくスムーズだろうと感じる。ちなみにISO-FIXは2列目の左右席、3列目の左右席、助手席に対応しているので、5人兄弟の大家族でも子供全員がチャイルドシート装着OKだ。2列目と3列目のシートは5座すべてが独立して前後スライド、ダブルフォールディングが可能なので、シートアレンジは幅広い。3人家族なら、中央席を前にスライドして子供との距離を近づけたり、ゲストを乗せるときは最後端にしてゆったりとしたスペースでもてなしたり。2列目、3列目ともセンターアームレストがないのは惜しいところだが、カングーオーナーはDIYで好きなようにアレンジして楽しめるのも魅力だと重々承知しているので、グランカングーでも自作のクッションや収納などが室内を彩っていくことだろう。

 走り出すと、シアターレイアウトになっているおかげで2列目シートはヒップポイントが高く、前席よりさらに見晴らしがいい。さすがの超ロングホイールベースと、16インチタイヤのおかげもあるのか、路面のギャップを超えた振動もスッと吸収してくれるような穏やかな乗り心地。それなりにロードノイズや風切り音は入ってくるので、高速道路で運転席と会話する際には前席に頭を近付けていたが、そんなシーンでは子供のころ、家族でドライブしたときに妹たちと争って身を乗り出すかのようにして両親と会話していた思い出がよみがえって懐かしくなった。

同乗者全員がドライブを楽しめる

 そして今度は3列目シートにも座ってみる。これは1つひとつのシートが重く、安全性最優先のしっかりとしたつくりだという証でもあるが、3列目シートに乗り込む際に、2列目シートのダブルフォールディング操作は国産ミニバンのようにスプリングが入ったワンアクションではないので、一度背もたれを畳んでから、座面を引き上げる2アクション。この操作をすれば、大きなスペースができて開口部から一歩で3列目シートにアクセスできるが、最初は面倒に感じるかもしれない。

 座ってみると、3列目はシアターレイアウトでさらに一段高くなっているので、遠くが見通せて閉塞感はほとんどない。高身長の人はやや膝を抱えるような姿勢になりそうだが、頭上の余裕があり窓も大きめなので圧迫感がなく、シートの大きさそのものは2列目よりもゆったりしているくらいだ。大人にも十分なスペースがある、本格的な3列目シートを備える貴重なミニバンだということがわかった。

グランカングーは“ゆったり”がキーワードかもしれない

 梅雨時期ということもあり、人が少なく静かな海辺にグランカングーを停めてしばし休息。こんなときは、やっぱりダブルバックドアを全開にしたくなる。一般的な上に開くバックドアも便利だが、この観音開きのドアを見るだけで毎回ワクワクするのは私だけではないはず。年に一度、山中湖で開催されているカングージャンボリーに行くと、このダブルバックドアを全開にしてハンドメイドの雑貨や手作りスイーツなどを飾り付け、おしゃれなお店屋さんに変身しているカングーがたくさんいる。クッションやテーブルを置き、庭先の小上がりみたいな感覚でお茶しながらおしゃべりしているファミリーも楽しげだった。そんな印象があるからだろうか、今日はコーヒーもクッションも何もないけど、ただただ座って景色を眺めているだけで日常が非日常になる。

日本専用となるダブルバックドアを採用。全開にして外の空気をめいっぱい感じるのもいい

 ただダブルバックドアを開けたときに、当たり前だが3列目シートの分だけ奥行きはちょっと狭いかなと思った。7人乗車時でも500Lの容量が確保されているので、荷物の積載性としては申し分ないはずだが、“もっとフラットで広いスペースが欲しい”というときにサッとシートを倒せば手に入るというわけにいかないところは、覚悟しておくべきポイント。2列目と3列目の5座はすべて取り外し可能で、3列目を取り外すと1340L、2列目も取り外すと最大で3050Lの超大容量となる。シートの重さは1脚あたり23kg程度あるのでなかなかの重労働であり、日本の住環境では「取り外したシートはどこに置く?」という問題もあるので、活用できる人は限られてくるかもしれない。でも、いざとなればそういう使い方ができるという、いろんな可能性を秘めているところがグランカングーのワクワクの素のように思えた。

 帰り際に、2列目シートのフロアマットがズレていたので直そうとすると、その下にまるで隠し戸棚のような収納スペースを発見。カングーのころからお約束となっている、前席頭上のオーバーヘッドコンソールも継承しており、室内の小物収納力は抜群。何を入れようかと、再びワクワクしながら帰路についた。ちなみにルノー・ジャポンの公式YouTubeを見ると、取り外したシートをリビングで使えるようにする木製ラックが登場していた。DIYで作ってもいいし、ルノー・ジャポンとしても制作を検討中とのこと。「不便なところがあったら、アイデアで楽しくすればいい」というその発想。これがたっぷり詰まっているからこそ、グランカングーは自由のスケールが別格なのだとあらためて感じた1日だった。

グランカングーは自由を楽しむクルマなのかもしれない
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。

Photo:安田 剛