【インプレッション・リポート】
スバル「インプレッサWRX STI A-Line」

Text by 岡本幸一郎


 今回のインプレッサWRX STIのマイナーチェンジでは、ATモデルのA-Lineでも同様のコンセプトで変更が加えられた。そこで、先週に引き続き、ATモデルのインプレッサWRX STI A-Lineのレビューをお届けする。

 まずは、そもそもA-Lineがどんなクルマだったのかをちょっとおさらいすると、ラインアップに加わったのは2009年春のこと。WRX STIとして初めてATが与えられたことが最大のポイントで、合わせてエンジンもATとのマッチングを考慮し、MTモデルと同じ2リッターのEJ20ターボではなく、インプレッサの国内仕様としては初となる2.5リッターのEJ25ターボが組み合わされた。

 またAT化に伴い駆動系も、AWDシステムがDCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)方式からVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御)方式となり、リアLSDがトルセンからビスカスへと変更された。標準装備のブレーキ等を除くエクステリアパーツはMTと共通で、シャシーセッティングはMTモデルと共通だった。

 このA-Lineが追加されるや、なんとインプレッサWRX STIの販売は実に倍増した。A-Lineは、インプレッサWRX STIの2本柱の1つとなったのだ。ちなみに当初はなぜかレカロシートが選べなかったのだが、要望があまりに大きく、その声に応えてのちに設定された特別仕様車では選べるようにされたというエピソードもある。

 そして今回のマイナーチェンジでは、WRX STIのダブル主役になった一方のA-Lineにも、もちろんセダンが追加された。ひょっとしてセダンが待ち望まれたのは、むしろA-Lineのほうだったのではないかと思う。セダンとしては異様なまでに迫力のあるスタイリングは、リアウィングこそないもののフロントやワイドなフェンダーまわりなど基本的にMTモデルと同じ。ただし、これまでMTと共通だったサスペンションチューニングがA-Line専用とされ、クルマのキャラクターに相応しく差別化されている。その走りに関する変更は、もちろんハッチバックとセダンにおいて同様に行なわれた。

セダンボディーのWRX STI A-Line。前後バンパーの意匠はMTモデルと同様。撮影車にはオプションのBBSホイールが装着されていたA-LineではMTモデルにある大型リアウィングが装備されない

 インテリアでは、タンレザー仕様が新たに設定されたことがニュースだ。MTと同じく、ルーフライナーまでブラックにされているが、シートやステアリングホイール、ドアトリムは、全体ではなく黒とタン色を上手くコーディネート。タン色の部分の面積の比率の按配が重要だと思うが、たとえばシートは、背面も全部タン色にすると浮いて見えてしまいそうなところ、背面を黒とし、ステアリングホイールも手が来る部分を黒、ドアトリムも部分的にタン色とすることで、上手くコントラストが表現されている。これがなかなかのもので、単純にお上品な仕様を狙ったのではなく、あくまでSTIらしい精悍さのある中で、大人っぽい雰囲気の演出を狙ったという印象だ。ただし、相変わらずというか、レガシィではようやく用意された、オートライトおよびオートワイパーの設定が、インプレッサにはないところが惜しい。A-Lineだけでもよいから設定してほしいところではある。

タンレザーを用いたプレミアムタンインテリアはA-Lineのみに用意される。また、ステアリングにはパドルシフトが付く
リアシートもタンレザーを用いた物になるセダンボディーでも後席は6:4分割で可倒でき、トランクスルーになる

 セダンボディーについて、前回のMTモデルのレビューではあまり触れられなかったのでおさらいしておくと、基本的にはアネシスと同じ。そして装備等はハッチバックと共通。ボディー形状は違うものの、リアシートも部品としてはセダンもハッチバックも同じものだ。もともとセダンボディーを想定していなかったクルマであるため、トランクルームのフロア形状には、ハッチバックのみを想定していた名残がある点もアネシスと変わらず。それというのも、開口部の手前側は、わりと深くなっていて、ゴルフバックは4つが積めるのだが、奥側はフロアが数cmほど上がってしまっている。これは下にガソリンタンクがあり、その脇にキャニスター(=未燃焼ガス吸着装置)が設置されているせいだ。かつてのGDB型までのインプレッサでは、エンジンルーム内にキャニスターが搭載されていたのだが、いまや従来よりも大きな容量が必須となったため、フロントに収まりきらなくなり、こちらに搭載されているのだ。

 走り始めてまず気づくことは、MTと同じくステアリングフィールが従来とだいぶ変わっていることだ。中立付近にあいまいな印象はなく、切り始めからリニアに応答し、従来よりも大幅にダイレクト感が増している。ただ、AT限定免許でも運転できるA-Lineとなれば、女性が運転することも考えなければならないだろうし、実際、操舵力やキックバックはやや増しているわけではあるが、まあ許容範囲ではないかと思う。

 足まわりは、MTほど締め上げられておらず、いくぶん乗り心地に配慮した味付けとなっているようだ。それでいて、MTでも感じられた俊敏な応答性はあまり損なわれておらず、同じコンセプトの延長上でセットアップされたことがうかがえる。

 乗り心地と走行性能のさじ加減がよい按配で、走りが楽しめつつ、十分にファミリーユースにも使えるクルマでもある。これでも乗り心地が悪いと感じる人には、残念ながらほかの選択肢をオススメしたい。これ以上、乗り心地に振ったがために、このクルマの命であるドライビングプレジャーの部分が薄れてしまっては、それこそA-Lineの存在価値がなくなってしまうというものだ。

MTモデルと比較すると多少マイルドに仕上げられた足まわり。しかし味付けの方向性は同じで走りの楽しさを味合わせてくれる

 エンジン、トランスミッションについての変更はない。A-Lineに搭載される2.5リッターエンジンは、日本でも最初に先代アウトバックの限定車に搭載されて、とても好評だった2.5リッターターボをベースに、さらにスペックを向上させたものだ。

 実はインプレッサWRX STIというと、世界的には欧米とも221kW(300PS)、350Nm(35.7kgm)の2.5リッターターボエンジンがメインで、それに6速MTが組み合わされている。日本のMT仕様のみに用意された2リッターターボのほうが、227kW(308PS)、422Nm(43.0kgm)と、スペックではとくにピークトルクで大きく上回る。機構的にも2リッターがツインスクロールターボチャージャーであるのに対し、こちらはシングルスクロールとなるわけだが、こちらのほうが実用域での低速トルクに優れる。

 ドライブするとそのことを痛感する。ATとのマッチングがよく、単に流しているときでも運転しやすい。低回転域でもピックアップがよく、SIドライブをSやS#に合わせていれば、軽やかにかつ力強く吹け上がる。2500回転からが本領を発揮するという印象で、レッドゾーンは6700回転からだ。ATセレクターをマニュアルモードにしたり、あるいはシフトパドルを駆使してシフトダウンを試みると、レスポンスよくブリッピング(=空吹かし)し、軽いショックをともないながら、若干のタイムラグののちにダウンシフトをこなす。ターボエンジンでは難しいであろう空吹かしを、的確にこなしていることにも感心させられる。

 AT自体については、最新のものに比べると、シフトチェンジのタイムラグはやや大きい気もするところだが、これは制御の問題というよりも、AT側のハードウェアの限界だろう。むしろ、イージードライブの中で、これだけの性能を味わうことができるところにこそ、A-Lineの醍醐味はあると思う。

北米仕様などと同様の2.5リッターエンジンが搭載される。これはATとの相性を考慮した上での選択マニュアルモード付きの5速ATが組み合わせられる。また、VTD-AWDのためDCCDのコントロールスイッチは付かないブレーキも、A-Lineではブレンボではなく、標準的なフローティングタイプとなる

 ただし、すでにデュアルクラッチの2ペタルMT開発にも着手しているとウワサされるスバルゆえに、その登場時期が気になるところだ。宿命のライバルであるランエボXや、GT-Rもすでにそうだし、あるいは欧州のスポーツモデル各車もどんどん2ペダルMT化されている現実がある。インプレッサWRX STIについても、2ペダルMTに期待している人も少なくないはず。本命の2ペダルMTが出たときに、A-Lineのユーザーは恨めしく思うかもしれないところだが、それはそのときに改めて考えることにしよう。筆者も気になるので、開発陣に聞いてみたのだが、残念ながらおいしい情報を得ることはできなかった……。

 こうした走り系のクルマが好きでありながら、AT限定免許でも乗れるクルマから愛車を選ばなければならない人にとって、A-Lineは貴重な存在に違いない。また、そのA-Lineでセダンが選べるようになったことをあらためて歓迎したい。さらに今回、MTのWRX STIと同様にハンドリングがよりスポーティに味付けされ、よりドライビングを積極的に楽しめるクルマになったことを、喜ばしく思う次第である。

2010年 8月 30日