【インプレッション・リポート】
ジープ「グランドチェロキー」

Text by 日下部保雄


 


 クライスラーの中でも日本でもっとも元気なブランドは「ジープ」だ。ジープは日本人なら誰もが知っている強力なブランドで、ヘビーデューティーSUVはすべて“ジープ”と言う総称で片付けられていた時代もあり、今でもその名残はある。それほどまでにジープは強力なのだ。ジープを擁するクライスラーが、ジープのブランド展開に注力するのは当然のことだ。

 そのジープの日本における最新作が「グランドチェロキー」だ。今年に入って、減税対象となったエントリーモデル「パトリオット」のマイナーチェンジ、中堅の「チェロキー」のマイナーチェンジと、次々とニューモデルを送り込んでいるが、グランドチェロキーはプレミアムSUVとして位置づけられ、これまで全世界で400万台が販売されたブランドの牽引車でもある。

 クライスラーは、フィアットに買収されてやっと一息ついているが、これからが正念場と言うべきで、幸いなことに主戦場である北米でもジープブランドの販売は伸びているという。

 また日本でのSUV人気は年々、着実に伸長しており、小型車では4~5%のシェアがあるという。さらにこの傾向は、三菱「RVR」や日産「ジューク」の参入で拡大傾向にあり、ジープにとっても追い風となっている。それに今年は、ジープにとって誕生70周年と言う節目の年でもあり、クライスラーの士気は高い。

新開発エンジンは“実用性重視”
 クライスラーは、今は決別したがダイムラーとの蜜月時代が長く、その間プラットフォームの共用化などを進めて合理化を図っていた。ご存知のようにクルマの開発にはかなり長い時間とコストが掛かり、会社間の関係が切れたと言っても、すぐにすべてを変えることなどできない。主要コンポーネンツは活かして使うのが普通だ。

 グランドチェロキーもそれに漏れず、ダイムラーとの共用化によってメルセデス・ベンツ「MLクラス」の主要コンポーネントをモディファイして採用している。車体はモノコックのスポットを増しており、溶接箇所は5400カ所以上になる。この溶接ポイントの増しも含めて、従来モデルよりも146%も捩れ剛性が上がっている。ちなみにジープでラダーフレームを使っているのは、「ラングラー」だけとなっている。

 サスペンションはフロントにダブルウイッシュボーン、リアにマルチリンクを採用しているが、これもダイムラー時代の恩恵の賜物で、北米でもオンロード走行を主体として考えれば、もはやジープにもラダーフレーム、リジットアクスルのスタイルは必要とされないということだ。

 さらにサスペンションにはオプションでエアスプリングを選べ、車高を5段階に変えることができる。5段階とは最低地上高215㎜の「ノーマル」、それよりも33㎜高い248㎜の「オフロード1」モード、さらにノーマルから65㎜高い280㎜の「オフロード2」モード、ノーマルから車速に応じて15㎜車高が下がる「エアロ」モード、最後に乗降性とルーフラックへの荷物の積み下ろしを容易にするためにノーマルから40㎜下がる「パーク」モードである。

エアサス仕様は5段階で車高を変えられる

 

 エンジンはV型6気筒のDOHC24バルブで排気量は3.6リッターとなっている。本国にはもっとマッチョなエンジンもあるが、日本は当面、このダウンサイジング化された新開発の「ペンタスター」エンジン1本で行く予定だ。可変バルブタイミングを採用した新エンジンの実力は最高出力210kW(286PS)/6350rpm、最大トルク347Nm(35.4kgm)/4300rpmと実用性重視のセッティングで、燃費は従来モデルのV6に比較すると、重量増にもかかわらず燃費は10%以上改善している。

 新しいグランドチェロキーの重量はエアサスペンション仕様で2200㎏。装備の充実や安全対応で従来のV8仕様と比べても50㎏増えている。

 AWDシステムは「クォドラトラックII」と呼ばれる副変速機を持った4WDで、多くのセンサーで各車輪の動きを検知して、各アクスルに対して瞬時にスリップを最小限に留めている。

 もう1つグランドチェロキーには、ランドローバーのテレイン・レスポンスのようなシステムがグレードによって採用されている。グランドチェロキーでは「セレクテレイン」と呼ばれ、路面に応じて最適なトラクションがダイヤルスイッチ1つで選択できるものだ。「オート」を基準に「スポーツ」、「サンド/マット」、「スノー」、そして「ロック」(Rock)は車高を最大まで上げ(エアサス仕様のみ可)、副変速機をLOWにするなどで微低速で高いトラクションを得られるモードが備わる。

 日本では全仕様がクォドラトラックIIとセレクテレインは標準装備になる。

 これらのスペックは覚えるだけでも大変だが、実際にグランドチェロキーに乗り込むとすぐに馴れてしまい、その恩恵を甘受できる。

セレクテレインのセレクタースイッチ。シフトレバー手前にあるセレクテレインを変更すると、その設定がメーターパネル中央のディスプレイに表示される

 

アメリカンSUVのイメージを裏切る乗り心地
 デザインは近代的なジープらしくクリーンで分かりやすい面構成、そしてインテリアもスッキリしており使いやすい。しかし質実剛健だったジープのルーツを思い出させるように、ゴージャスと言うよりもモダンなイメージだ。

 リアハッチはガラス部分だけが開閉できるタイプで、小物を放り込むのには便利だ。さらにラッゲージルームは782Lから1554Lまで容積を自在に変えられるので、アメリカンSUVの面目躍如だ。フロア下にも収納スペースが用意されており、このへんは日本車からインスパイアされた部分もあるようだ。

 高い着座ポイントに這い上がるように登って、しばらく景色のよさを味わっていると、この全幅1935㎜、全長4825㎜のサイズを必要以上に大きく感じないことに気づく。サイズ感を掴みやすいのだ。さすがに最小回転半径は5.7mあるので(予想より小さく回るものの)、狭い路地にどこでも入っていけるようなサイズではないが、意外と取り回しはよい。ちなみに全高は1770㎜とミドルサイズのミニバン並みにある。

ウインドー部分だけ開けることもできるリアハッチ

 セレクテレインをAUTOにして走り始める。第一印象はアメリカンSUVのイメージを裏切って、欧州車のようにカッチリした乗り心地であることだ。ハーシュネスはほどほど感じるが、返って安心感があり快適だ。大きな凹凸に遭遇してもそれなりのショックを伝えるが不快感はなく、低速から高速まで一定したリズムで走ることができる。もっとも最新のアメリカンSUVにウルトラソフトでユッタリした乗心地を求めても裏切られる。トレンドはアジリティなのだ。

 ちなみに高速道路はグランドチェロキーが最も得意とするシュチュエーションで、飛ばせば飛ばすほど、ユッタリとしていながらボディーがフラットに保たれる乗心地で、快適そのものだ。後述するエンジン特性も高速道路をユッタリと流すのにマッチしているし、静粛性もなかなかのものだ。大きなボディーは安定感があってリラックスして走れる。

 ステアリングセンターは比較的締まっており、かつ路面からのハンドルへの影響をそれほど受けないという点が好ましく、何も言われなければどこの国のSUVだか分からないくらいだ。これにはサスペンションやステアリングのチューニングはもとより、剛性の高いボディーが大きく貢献している。

 ハンドリングはハンドルを切った時の手応えがしっかりしており、かつクルマの姿勢もそれに応じて素直に変化する。ロールはそれほど大きくないので、初めてSUVのハンドルを握るドライバーでもあまり不安感はないだろう。

 

やっぱりタフなアメリカン
 エンジンはマッチョなアメリカンエンジンをイメージすると、これもハンドリングや乗心地同様、裏切られる。爆発的な加速力はもちあわせていない。本気で加速しようとするならばアクセルを床まで踏まなければならないのだ。

 その代わり日常で頻繁に使用する低中速回転でのトルクの立ち上がりは速く、粘り強い走りができるので、パワー不足を感じることは殆どない。この出力特性は高速道路のクルージングにも、悪路の走行でも十分に実用的で現実的だ。

 この新開発のV6エンジンはアルミブロックで、可変バルブタイミングを採用する現代的なエンジンだ。燃料タンクはなんと93Lも入るので空でガソリンスタンドに行くとタマゲルに違いないが、レギュラーガソリンが使えるのは良心的だ。

 組み合わされるトランスミッションは5速のトルコンAT。ギアレシオのステップ比は1速がローだが、比較的オーソドックスで、各ギアのつながりはよい。最新トレンドに習うともう1速欲しいところだが、2.2tを3.6リッターエンジンで引っ張ってJC08モードで7.7km/Lならわるくない数字だ。最新のアメ車の燃費は意外といいのだ。

ヘッドライトの中にジープのフロントマスクを刻む遊び心も

 キャビンの静粛性は高く、遮音にしっかりと注意を配っているのが分かる。さすがにタイヤのロードノイズまでは遮断できないが、街中から高速までまず文句はない。

 AWDシステムは凝っていて、大きな波状路も難なく走破できる。もともとアプローチアングルもデパーチャーアングルも大きく悪路でもアゴを打ちにくいが、エアサス仕様を最大まで車高を上げると鬼に金棒で、副変速機の駆動力の高さも合って軽がると難路を乗り越えられる。なかなかタフなアメリカンなのだ。

 グランドチェロキーはベースグレードの「ラレード」が398万円と、なかなかのバーゲンプライスだ。カーナビや本革シート、パワーリフトゲートなどを標準装備する「リミテッド」は498万円、さらにリミテッドにはエアサスが25万円でオーダーできる。欧州車に比べるとかなり割安感のある設定になっている。

 


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2011年 3月 25日