【インプレッション・リポート】
BMW「X3」

Text by 日下部保雄


 BMWのSUV「Xシリーズ」はランドローバーなどのような本格的なクロスカントリーカーとは一線を画した、スポーツセダンに劣らないオンロード性能を持っている同社ならではのカテゴリーとして登場した。ちなみにBMWでは「SAV」(Sport Activity Vehicle)と呼称している。

 最初にデビューしたのは「X5」、次いで「X3」、最もスポーティな「X6」、最後に「X1」が登場してBMWのラインアップが完成している。X5はすでにフルモデルチェンジを受け、X3とサイズ的にもそれほど変わらないX1が登場して、X3は中途半端なポジションに置かれたが、今回のフルモデルチェンジでX1とX5の中間に位置する適正なポジションに整理された。

 最初のX3が登場したのは2004年で、すでに6年以上の月日が経過しているので、フルモデルチェンジ自体はオン・スケジュールだ。むしろ他のラインアップが充実してきたので、いつどんな形で変わるのかに注目が集まっていた。何しろX3は本格的なスポーツSUVのカテゴリーでリーダーであり、他のメーカーのベンチマークであることも珍しくない。

 満を持して新しくなったX3は従来のイメージこそ残しているものの、すべてを変更したフルモデルチェンジに相応しい内容だ。

大きくなって安定感のあるデザインに
 ホイールベースは2795㎜から2810㎜に伸ばされ、これに伴って全長も4585㎜から4650㎜に伸ばされている。全幅は1855㎜から1880㎜になったために、それぞれ+15㎜、+65㎜、+25㎜とサイズアップされ、ひと回り大きくなっている。ちなみに全高は1675㎜で従来と変わらない。

 実はサイズが大きく見えるのはトレッドの拡大が大きい。フロントは+70㎜の1595㎜、リアも+70㎜の1610㎜と大きく、四隅にタイヤを置くことで踏ん張り感のあるデザインになっている。従来型よりもかなり大きく見える。

 デザインは従来型のトレンドを踏襲しているが、弟分のX1、兄貴分のX5のエッセンスを巧みに取り入れて存在感がある。

写真はxDrive28i

 BMWの特徴であるキドニーグリルはさらに大きくなってボリューム感が増しており、この辺りはX1よりもX5に近く、サイドビュー、特にDピラーの造形はX1との近似性がある。またサイドの上下に入ったエッジの効いたプレスラインはX3のボリューム感を出し、前述の広げられたトレッドとのバランスを巧みにとっている。

 リアエンドはこれまで少し狭い印象を与えるデザインだったが、横に広がり感のあるテールンプでこちらもリア周りのホイールアーチの張り出した形状と相まってボリューム感たっぷりだ。

 前述のように全高はこれまでとは変っていなので、さらに安定感のあるバランスのよいデザインを構築できている。

ボディー拡大がスペース拡大に貢献
 さてこのボディーに包まれたインテリア、セダンより高いが、SUVほどは高くないドライバーズシートに座ると、いつもの一見ビジネスライクに見えるメーターが目に入る。しかし、メーター類が大きくされたこともあり、華やかさを増した。

 特にi-Drive用の8.8インチワイドモニターがメーターナセルの中で大きく陣取り、メーターパネルには5シリーズで使われたブラック・パネル・テクノロジーが採用されている。速度、回転、油温、燃料の各メーター以外の一見平面なブラックパネルに様々な情報が提供されて未来的だ。そういえば水温計が省かれているのは何故だろう? i-Driveから探せば水温の情報が出てくると思うのだが探しきれなかった。

 また、上級モデルのxDrive35iではスポーティなアルミパネルで加飾され、xDrive28iではウッドパネルが配置されるなど、かなりクラス感が高まった。いかにもFRらしい大きなセンターコンソールには、シフトセレクターの左にi-Driveが、右にはヒル・ディセント・コントロールなどのスイッチが配置され、コックピットの演出満点である。

 キャビンの広さも、特にリアシートのレッグルームが20㎜も拡大されて余裕ができたことに加えて、ちょっと閉塞感のあった左右空間も広げられ、同時にヒップポイントが上がったので開放感が向上している。

 ラッゲージスペースは、従来のX3ではかなり工夫しないと大量の荷物を搭載できなかったが、2列目を起こした状態で一気に70Lも拡大されて550Lとなった。相変らずゴルフバッグは横には搭載できないが、奥行きと共に幅も拡大された。

 リアシートはこれまでどおり40:20:40に分割でき、すべてを前に倒すと完全にはフラットにはならないが1600Lのラッゲージルームが現れるので、通常のワゴン以上の容積が確保できる。また3分割できるバックレストのおかげで、スキーやボードなどの長いものを積みながら、かつ4人で乗ることができる。X3の走破性も含めると、かなり強力なオールウェザーカーとなる。

2種類のパワートレーン
 エンジンは2種類ある。3リッターの自然吸気とターボだが、ベースは異なる。xDrive28iは2996ccの直列6気筒で、xDrive35iは2979ccの直列6気筒ターボだ。ボア×ストロークも異なっており、BMWが要求されるアウトプットに対してエンジンを変えているのが判る。

 xDrive28iは10.7:1という高圧縮比で190kW(258PS)/6600rpm、310Nm(31.6kgm)/2600-3000rpmを出している。この数字からも低中速回転でのトルクを重視したセッティングであることが分かる。可変バルブタイミング機構「ダブルVANOS」に加えて可変バルブリフト機構「バルブトロニック」と凝った設計をしている。こちらは直噴ではない。

 一方のターボはこれに加えて直噴とツインスクロールターボによってより幅の広いトルクを出している。こちらは225kW(306PS)/5800rpm、400Nm(40.8kgm)/1200-5000rpmの出力で大きなトルクを幅広い回転数で出しており、実用性を重視しつつ、高回転での出力もモノにしている。

xDrive28ixDrive35i

 組み合わされるトランスミッションは8速AT。従来の6速からさらに多段化され、ワイドレンジのギアレシオを設定することで、燃費の改善を図っている。

 AWDシステムも本格派。オンロードドライビングに重点を置きつつ、オフロードや低μ路でも効果的なトラクションをかけ、またハンドリングにも貢献するBMW特有のインテリジェントAWDシステムを継承する。

 ヨーコントロールを併用して、4輪のトラクションとブレーキを独立制御して、ハンドリングでもライントレース性を重視したセッティングで大柄なSAVをスポーツモデルのように走らせることができる。本格的なオフロード走行でも高い最低地上高と本格的なクロカンほどではないが、優れたアプローチとデパチャーターアングルで走破性は高く、使いやすいヒル・ディセント・コントロールでオフロードの急な下り坂もイージーに降りることができる。

クルマ好きの期待を裏切らない
 これらの装備を踏まえてX3のドライビングを堪能する。xDrive28iの車輌重量は1850㎏と決して軽くはない。搭載する装備を考えると当然の重量増だが、軽量化にはかなり努力しており、例えば部分によってはより軽量なマグネシウムを使用している。

 3リッターのNAエンジンはアクセルコントロールに素直に反応する。アクセルの踏み始めでタイムラグがあるクルマや過敏に反応するクルマがあるが、xDrive28iは自然に発進する。スポーツモードにすると、アクセルレスポンスが向上するのでメリハリの効いた発進となる。

 i-Driveではダンパーや電動パワーステアリングのシャシー設定を変えられるモードとエンジンのレスポンスを変えられるモード、そしてその両方を変更できるモード設定ができる。

 スポーツモードでも日常のドライバビリティには大きな障害はないが、ややレスポンスがシャープなのでノンビリ走りたい時はちょっと忙しい。逆にノーマルモードだとシャープな力強い加速をするなら強めにアクセルを踏み込んだほうがベターだ。もっとパワフルな加速を期待するなら100万円ほど高くなるが、xDrive35iをチョイスした方がよいだろう。こちらは間違いなくロケットスタートを期待できる。

 8速ATはワイドレシオに設定でき、しかも決め細かい変速ができるので、緩加速でも低い回転を保ったままで次々と上のギアに繋がる。燃費にもかなり貢献していることが分かる。またこのエンジンは、減速時に発生したエネルギーを電気に変えてバッテリーに溜め込むことでオルタネーターで発電する量を制限し、パワーロスを防ぐ。

 これらの働きはメーター内のエネルギーメーターで確認することができるので、意識すると積極的に燃費運転をすることになる。このシステムはxDrive35iでも共通だ。xDrive35iはアイドルストップ機構も持っているので、さらに燃費が改善されている。ちなみにJC08モードでの燃費だが、xDrive28iは10km/L、xDrive35iは11km/Lとターボをフルに効かさなければxDrive35iに燃費では分がある。

 アイドルストップは積極的に行われ、エアコンをあまり使わないような気候であれば停止のたびにアイドルを止める。信号や右折待ちの際も直ちにエンジンを止めてしまうので、オーディオしか聞こえない車内空間に最初は違和感さえ覚えたほどだ。ブレーキペダルから足を離せばエンジンの再始動は確実に行われ、少なくとも試乗中は右折待ちの再始動で慌てることはなかった。

 その代わりと言ってはナンだが、xDrive35iのエキゾーストノートは結構勇ましく、音だけ聞いていると音源はスポーツカーだと思うだろう。

 そしていずれも今や希少となってしまった直列6気筒エンジンの滑らかで硬質なエンジン回転の気持ちよさを持っており、クルマ好きの期待を裏切らない。

X1のフットワークとX5の重量感
 X3は、フロント245/45 R19、リア275/40 R19と言うビッグサイズのピレリP-ZEROを履いていた。xDrive35iには標準だが、xDrive28iの試乗車もオプションで同じタイヤだった。本来は245/50 R18と言うサイズである。xDrive35iは外径もリアタイヤが大きいので、後輪にトルクが多く分配されるような形になる。

 この大きなランフラットタイヤのおかげで、X3の乗心地はちょっと突上げが強めだ。正確に路面形状を伝えるし、段差やギャップも明確に感じ取れる。不快な突き上げでないが、xDrive35iは多少のゴツゴツ感は覚悟していた方がいいだろう。一方xDrive28iはサスペンション設定の違いか、それほど強い突き上げ感はない。興味深い設定の使い分けだ。xDrive28iの標準タイヤではもっとマイルドなはずで、乗心地ではもっといなされるものになるはずだ。

 X3にはバリアブル・スポーツ・ステアリングをxDrive35iに標準、xDrive28iにオプションとしているが(試乗車には装着されていた)が、これはパーキングスピードレベルではわずかな操舵量で大きな切れ角、高速では少ない切れ角に変化するものだ。既にBMWではお馴染みのシステムだが、モデルの進化ごとに不自然さが払拭されてきている。

 X3では大きなタイヤの性質もあり、市街地のレーンチェンジなどではちょっと違和感が残っている。タイヤが直進状態に戻ろうとする力が弱くなってしまったような感じになるので、轍ではちょっとハンドルを強めに握っていた方がよい。半面、高速では快適に操舵でき、かつタイヤ自体の高いグリップも合わせてコーナリングを堪能できる。高速のS字カーブなどは他の追随を許さず、面白いようにコーナーをクリアできる。

 これをノーマルとスポーツでトライしてみたが、スポーツでは反応がシャープになり、俊敏な応答性を得られるが、低速では操舵力の重さとバリアブルレシオのバランスがわるくなって、ユッタリとハンドルを握るというよりもわずかな緊張感を伴ってドライブするという感じになる。

 ノーマルでは微小舵での動きは鈍くなり、リラックスできる。ただ速度レンジによって小舵角以上ゆっくりをハンドルを切る場面ではひっかるようなフィーリングがある。しかし、これらもBMWを乗り続けてみた経験からすれば、慣れてしまうどころか、心地よさまで感じるほどだ。

 凝ったシステムのAWDは積極的にコーナリングの際の前後左右のトルク配分を行うので、安定性、そして曲がろうとするある意味相反する要求を満たしており、駆け抜ける歓びをタグラインとするBMWらしいハンドリングだ。ただグリップ限界はなかなか見極めがたく、過信するとフロントが滑り出し慌てることになるだろう。オン・ザ・レール感覚でハンドルを握り、節度を持ってX3ドライビングを楽しむのが正しいBMW乗りだろう。

 サスペンションもBMWの定番でフロント:Wジョイントのストラット、リア:5リンクのレイアウトを採っており、接地力は素晴らしいものがある。前述のように上下動に関してはタイヤの硬さもあってハーシュネスはあるものの、基本的に姿勢変化に対してタイヤの接地面はつねに最大に取ろうとする動きが分かる。

 そしてそのサスペンションが取り付けられているボディー剛性の高さはこれまでよりもさらに上がっており、X3のオンロードでの高度なハンドリングに繋がっている。X3はX1のようなフットワークとX5の重量感を持ったSAVだ。これでBMWもX1、X3、X5、X6のキャラクター分けが明快になったことになる。


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2011年 6月 8日