【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン「ゴルフ カブリオレ」




 「ゴルフといえばGTI」と答えるほど、日本での売れ線はゴルフ GTIのようだが、東京ミッドタウンでのお披露目後、近年にないハイペースでカタログが消費され、発売前(10月1日)に100台以上の受注で活況したのが、この「ゴルフ カブリオレ」だ。

 震災復興と円高のダブルパンチでこのような悦楽モデルが売れるのか? という疑問視もあったが、どうやらそれは杞憂に過ぎなかったようだ。逆にこんな時こそ元気になれるパッションフルーツのような刺激が欲しい。脳内活性ホルモンをたくさん分泌させてこそやる気が起きるというもの。個人的にはとても楽しみに試乗会場に向かったのだ。

 その試乗会場は、湘南の海が眼下に望める絶好のロケーション。おまけに爽やかな秋の雲1つない晴天。これはオープンモデルのために用意された絶好のステージだ。試乗会場は結婚式場にも利用されるお洒落なイベントスペース。高台にあるため、その眼下には湘南の海と西湘バイパスが一望できる。

 高鳴る気持ちを抑え、まずは車両概要説明のプレゼンテーションを聞いてみた。そこで改めて思い出したのはここ11年もの間、ゴルフからカブリオレが消えてしまっていたということだ。日本に入ってこないだけで、どうせ欧州モデルには設定があるのだろうと高を括っていたのだが、ゴルフIVを最後にカブリオレはラインアップから消えてしまっていたのだ。

 ゴルフ カブリオレは1979年の初代に始まり、2代目は1993年にゴルフIIIをベースとして登場、その後1998年に3代目が登場している。1998年は前年にフルモデルチェンジしたゴルフIVの時代だが、3代目ゴルフカブリオレはゴルフIIIのマイナーチェンジモデルで外観をゴルフIVにアレンジしたものだった。これは、カブリオレの開発をオープンモデルのコーチビルダーであるカルマン(現子会社)に委託していたためと言われている。この3代目ゴルフカブリオレの生産終了が2002年だったため、今回のデビューは約10年ぶりということになるのだ。


 さて、ニューモデルに話題を移そう。ディメンジョンはベースのゴルフに対して50mm長い4260mm、10mm狭い1780mm、55mm低い1430mmとなる。デザインの進化は歳月の流れゆえ当たり前のことだが、3代目であったセンターピラー付近から伸びるロールバーがなくなり、オープンにすればAピラーより後方は完全なフラット。とてもスッキリとしたデザインだ。後席の後ろに横転を感知した瞬間(0.25秒)にロールオーバープロテクションバーが飛び出す構造になっているから実現したデザインなのだ。

 最近のオープンモデルはハードトップが主流になりつつあるが、ゴルフ カブリオレは耐久性や防犯上という面ではやや劣るソフトトップを継続採用している。劣ると言っても、このソフトトップの醸し出す、ややノスタルジックな印象がゴルフ カブリオレの歴史を想起させるわけで、言わばデザインアイコンとなっている。このソフトトップにはルーフキャンバスに3層の遮音材が直接縫い付けられていて、主に5000Hz以上の高周波域の風切り音をかなりのレベルで押さえこんでいる。

 また、ルーフフレームもしっかりとしていて、かなりの高速域でも振動を感じずにハードトップに近い室内静粛性を実現している。ソフトトップにしたことのメリットは、ソフトトップの先端部分がそのまま収納カバーを兼用しているので新たにカバーをかける必要がなく、またシンプルな機構ゆえ収納へのトラベルがとても早いこと。電子制御された油圧によって開閉するルーフは、オープン時に9.5秒、クローズド時に11秒と、とにかく迅速。さらに30km/h以下なら走っていても双方の作業が行える。実際に、信号待ちの停止する瞬間などを利用して、慌てずに開閉作業を終えることができた。


 そのほかのデザイン上の特徴としては、テールレンズにダークレンズを使用するとともにLED球を採用したこと。より角度のついた(寝ている)Aピラーにコラボしたショルダーラインのエンドを、キリッと引き締めている。Aピラーはベース車両に比べてかなり角度を付け寝ている。これによって風の巻き込みを押さえているのとデザイン上のメリットがあり、全高が低く仕上がっているのだ。

 搭載されるエンジンはゴルフ・ハイラインTSIと同様のツインチャージャーシステムを採用した直噴の直列4気筒1.4リッターエンジン。最高出力は160PS/5800rpmで、最大トルク240Nmは1500-4500rpmの幅広いフラットな特性だ。組み合わされるトランスミッションは乾式のデュアルクラッチ「7速DSG」。いわゆる燃費を重視した環境型エンジンで、10.15モード燃費は15.4km/Lと効率が高くエコカー減税50%にも適合している。つまり、現在世に出回っているオープンモデルの中で唯一のエコカーとなったわけだ。

 シートとステアリングホイールには赤外線を透過させる特殊な顔料が使われていて、炎天下でもシートなどの表面温度の上昇を抑えている。通常のレザーと比較して最大23度の温度差があるというからこれは大きい。

 オープンモデルとしたことでルーフがなくなり、その分のボディー補強が必要となるわけだが、補強された個所はAピラー、フロントウィンドーフレーム、サイドパネル、サイドシル、リアバルクヘッド、アンダーボディー(対角ストラット)と多岐にわたる。こうした補強を行ったのは、前述のとおり初代からカブリオモデルの開発に携わるカルマンである。カルマンの仕事として感心するのはトランクルームがきちんと設けられていて、ルーフの収納のいかんにかかわらず、一定のラゲッジ容量(250L)が確保されていることだ。またトランクスルー構造も採用されている。

 晴天の中、風を感じながら走る試乗はとても心地よいものだった。風の巻き込み量はフルオープンの状態で適度なもので、サイドウィンドーを立てることでかなり少なくすることができる。解放感と快適性のコントロールができ、さらに巻き込み風を減らしたいのなら後席と前席の間にリフレクターを立てることによって、かなりのレベルで巻き込み風を防止できる。

 また、ダークパールメタリックのカブリオレ専用色を含め、車体色は全部で5色。インテリアカラーは4色だ。つまり合計18種類のカラーコーディネートが可能となっている。車両本体の価格は399万9000円で、来年3月末までの登録ならエコカー減税の恩恵もある。これだけの装備を考えるならとても魅力的な価格設定といえるが、パワートレーンをシングルチャージャーとし、ファブリックシートなどを採用した廉価版モデルの設定があると、なお楽しいと個人的に思った次第だ。

 オープンモデルのベストシーズンは秋と春だが、筆者は寒く乾いた冬の中をオープンで走るのも好きだ。冬の夜の都心を重装備でオープンにして走ると、外の景色がスクリーンの映像のように見え、感覚は映画館に居るかのような不思議なイメージが湧いてくる。そんなことを感じられるモデルがまた1台増えたことに、炎天下の中嬉しくなってしまった。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 11月 18日