【インプレッション・リポート】
ベントレー「コンチネンタル GT スピード」

Text by 島下泰久


 

 最高速330km/hというベントレーの市販車史上、最高のパフォーマンスを引っ提げてパリ オートサロンにてワールドプレミアを飾ったベントレー「コンチネンタル GT スピード」。このモデルはもはやニッチではなく、先代ではコンチネンタル GTとのセールスの割合は、ほぼ1:1か、あるいは年次によってはそれ以上に達していたという。つまりベントレーにとっては、追加モデルの1つなどというものではなく、これまた非常に大事なモデルなのである。

 そんな新型GTスピードのプレス向け国際試乗会は、ドイツ ミュンヘン空港を起点に、オーストリア国境付近のリゾートであるベルヒテスガーデンまでの往復というルートで開催された。ここでは、そこで得た印象について報告したい。

 

ルックスの変更は最小限でも、大幅パワーアップ
 垂涎のパフォーマンスを可能にしたパワーユニットは、お馴染みの6リッターW型12気筒ツインターボである。コンチネンタル GTでは最高出力423kW(575PS)/6000rpm、最大トルク700Nm/1700rpmのスペックは、マネージメントシステムの変更により、最高出力460kW(625PS)/6000rpm、最大トルク800Nm/1700rpmにまで、まさに大幅に向上している。

 また、トランスミッションには新たにZF製の8速ATが組み合わされた。なお、この8速ATは同時にコンチネンタル GT/GTCにも採用されることとなったから、つまりV型8気筒を含むシリーズ全車が8速AT化されたことになる。

 単にコンピュータープログラムを変更すればパワーが出る、というものではない。GTスピードは外気温40度の過酷な環境下でも330km/hを達成できるよう、冷却システムの効率化も図られている。

 こうして最高速は、従来のコンチネンタル スーパースポーツの329km/hを更新する330km/hを実現し、0-100km/h加速も4.2秒をマークする一方で、目を見張るのはCO2排出量を12%低減していることだ。これには8速AT、そして減速エネルギー回生システムの搭載も貢献しているのだろう。燃費は14.5L/100km(約6.9km/L)である。

 これだけの動力性能を獲得していながら、見た目の変化は最小限でしかない。外装で分かるのはダークティントで塗装されたラジエーターグリルとバンパーグリル、外形は同様ながら、内部がスパイラル加工されたエギゾーストパイプ、コンチネンタルGTでもオプションで用意されるテールランプのクロームベゼルに、大幅な剛性アップと軽量化を実現した新デザインの21インチホイールといった程度。フロントフェンダーの“W12”バッヂは、コンチネンタルGT/GTCにも装着される。

 外装が控えめなのは、このGTスピードが世間にひけらかすためではなく、オーナーが自らの深い充足感のために乗るクルマだということを示していると言えるだろう。実際、ドアを開ければ「speed」の文字が刻まれたスカッフプレート、そしてベントレーのファンならお馴染みの、ダイヤモンドキルト仕上げとしたパンチングレザーをシートやドアトリム等々にふんだんに使った特別仕立てのインテリアが手厚く迎えてくれるという具合である。

 そんな内装を彩るベニアには、やはりお馴染みのエンジンスピン模様のダークティントアルミやカーボンといった新たな選択肢も加わった。いずれも選択したならば、インテリアをさらにスポーティに演出できるはずだ。

快適性もドライバビリティも犠牲にせず
 最高速330km/hを実現するために、シャシーには細部まで改良が施されている。車高は10mm下げられ、エアスプリング、アンチロールバー、ブッシュ類もよりハードに。アライメントも前輪のキャンバー角が15%プラスされている。21インチのタイヤは、専用設計のピレリP-ZEROで、これはテストでは350km/hまで耐えられることが確認されているという。

 外側から見た限りでは変化は最小限だが、実は床下に於いても、フロントバンパー直後から燃料タンクに至るまでフラット化するなど整流を見直すことで、ドラッグを先代GTスピードより7.5%減らす一方、コンチネンタルGTに較べるとダウンフォースを8%高めている。

 また、性能には直接関係はないが、速度が高まるにつれて二次曲線的に増えていく騒音、振動に対処するべく、ドアやウインドーまわりのシーリング、ホイールハウス内の遮音なども再度見直されており、これによって最高速で走行している状況下でも、室内は平穏に保たれるとベントレーは説明している。

 快適性もそうだが、動力性能を大幅に向上させている一方で、ドライバビリティにはまったく犠牲とされている部分は無い。ゆっくり流すような速度域でも、低回転域から豊かな、なんて言葉では足りないぐらい分厚いトルクが涌き出すエンジン特性を8速ATが巧みに引き出し、エンジン回転数をせいぜい1500rpm辺りまでしか使うことなく、スルスルと速度を高めていく。

 強いて言えば、望みよりほんのわずかに加速が先行する感が無くはないが、いかにも過給圧が高いエンジンらしいフィーリングには、早くアクセルを床まで踏み込んでみたいという欲求に駆られるが、決して鬱陶しく感じるようなことはない。

 乗り心地は、ほんのわずかに硬めという印象だ。もちろん、がさつなところなどは一切無く、むしろスポーティさを求める人にとっては、このぐらいがちょうどよいと感じるのではないだろうか。筆者も、もちろんソッチの口である。

高速安定性と軽快な身のこなしを両立
 アウトバーンに入り、前が開けたところでいよいよ右足に力を込めると、巡航時にはおとなしかった排気音が俄然野太いものへと変わり、同時に爆発的なまでのパワーとトルクが炸裂。窓の外の景色が急激に後方へと追いやられていく。100km/hまでの加速と、そこから200km/hまでの勢いがほとんど変わらなく感じられるのには圧倒されるばかり。いや、それどころか250km/hを超えてもグイグイと速度が高まっていくのだ。結局、270km/hあたりまでしか試すことはできなかったが、その時もGTスピードは相当な勢いでの加速の真っ最中だった。

 こうした超高速域を、時に速度計に目をやりつつ余裕で堪能できるのも、高いシャシー性能のおかげである。特に220km/hを超えたあたりからの、路面への吸い付きが一段増したかのような安定感は絶品。時折、雨もちらついたアウトバーンだったが、不安を感じる場面など、ついぞ無かったほどだ。

 しかも、この優れた高速安定性を、軽快な身のこなしと両立させているのだから嬉しくなる。適度な重さを伝えるステアリングフィールはダイレクト感に富み、しかもフットワークはコンチネンタルGTより明確にニュートラルステア方向に躾けられているから、ワインディングロードでも最高に気持ちのよいハンドリングを楽しめた。

 8速ATは、ここでも爽快な走りに貢献している。そもそも広いエンジンのトルクバンドをますます有効に使えるほか、Sレンジもしくはシーケンシャルゲート/ステアリングシフトパドルを使ったマニュアルシフトモードでは、スロットルレスポンスがよりシャープになり、変速も更に素早く行なわれる。また、エギゾーストサウンドまで変化して、気分を昂揚させてくれるのだ。

 そうそう、標準のスチール製で前405mm/後335mm、オプションのカーボンセラミック製では前420mm、後356mmにも達する巨大なローターを用いたブレーキも、とにかく制動力が高く、しかもコントロール性抜群。これだけのパフォーマンスを思い切り味わえたのも、その安心感あってこそである。

 一般道、ワインディングロード、そしてアウトバーンとさまざまなシチュエーションを500km近く走破して、その圧倒的なまでの速さと上質感、そして期待以上の操り甲斐に、すっかり心酔させられてしまった。イギリスのブランドが、わざわざドイツで試乗会を開いたのは、つまりその持てる性能を深く濃く味わってほしいということだったのだと思えば、至極納得というところだ。

 残念ながら日本では、そのパフォーマンスのそれこそ3分の1も引き出すことはできないのかもしれないが、ではコンチネンタルGTスピード、選ぶ価値が無いのかと言えば、答は否である。走りのより深い歓び、クルマとの濃密な対話を求めるドライバーなら、絶対にこちらを選ぶべきだと断言しよう。


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2012年 11月 30日