【インプレッション・リポート】
BMW「アクティブハイブリッド 7」

Text by 日下部保雄


 

 BMWの現行7シリーズが登場した時にハイブリッドモデルもデビューして、「BMWもハイブリッド」と話題となった。当時のアクティブハイブリッド 7は、その後に登場する5シリーズや3シリーズのようなフルハイブリッドではなく、モーター1つにクラッチ1枚のオーソドックスなものだったが、大パワーで走りを訴求したモデルであった。リチウムイオンバッテリーを搭載して、トランク容量を大きくできることもポイントでもあった。ただ7シリーズの中ではそれほど目立たない存在であった。

 このアクティブハイブリッド 7が、7シリーズのマイナーチェンジに伴って、BMW最新のハイブリッドシステムを搭載することになった。新しいハイブリッドシステムは3シリーズや5シリーズに搭載されているものと共通のもので、1モーター/2クラッチのより本格的なハイブリッドシステムになった。電気だけでも走行可能なフルハイブリッドだ。

 

3と5のパワートレーンをパワーアップ
 アクティブハイブリッド 7のパワーコンポーネンツは基本的に「アクティブハイブリッド 5」や「アクティブハイブリッド 3」と共通のもので、エンジンはBMW伝統の直列6気筒になった。このエンジンはツイン・スクロール・ターボと可変バルブリフトのバルブトロニック、吸排気可変バルブタイミングのダブルVANOSを組み合せた直噴で、間断のない出力特性を得た、クリーンでハイパワーを誇るBMWならではのエンジンだ。

 エンジン単体の出力は235kW(320PS)/5800rpm、トルクは450Nm(45.9kgm)/1300~4500rpm。強力なトルクを幅広い回転域で出している。同じシステムを使うアクティブハイブリッド 5やアクティブハイブリッド 3とは違って、出力がアップされている。例えばアクティブハイブリッド 3では最高出力が225kW/5800rpm、最大トルク400Nm/1200~5000rpmとしているが、アクティブハイブリッド 7では10kW、50Nm向上している。

 これはベースとなった740iのエンジンスペックが、重量に合わせて上げられていることによる。ちなみにアクティブハイブリッド 7では2080㎏ある重量が、アクティブハイブリッド 3では1740㎏と340㎏も違うのだから当然の配慮だろう。

 ハードウェアとしてのエンジンは変わっていないので、ECUやターボブーストで変更しているようだ。アクティブハイブリッド 5は1960㎏とアクティブハイブリッド 7に比べると120㎏軽いが、パワートレインはアクティブハイブリッド 3と同じものを使う。

 ハイブリッドモーターは40kW/210Nmを発生するので、かなり強力なアシストになる事が予想される。こちらのモーターは出力も含めて3や5のアクティブハイブリッド と共通だ。バッテリーは大容量電気の出し入れが容易なリチウムイオンを使い、容量の割にはコンパクトできるメリットを活かして、トランクスペースをふさがない。

トランクとリアシートの間にリチウムイオンバッテリーを搭載する

 組み合わされるトランスミッションは8速ATで、ギアレシオは変わらない。ただしバックギヤとファイナルドライブは他のグレードと異なっており、ファイナルは750iが2.813なのに対して、2.929と若干低くされている。

 ハイブリッドシステムはいまさら説明するまでもないが、日産フーガなどでも使うクラッチコントロールによる電気モーターとエンジンとの統合制御になるが、トランスミッション前のクラッチを切り離せばEV走行ができ、連結させればモーターと連動させたハイブリッドとなる。

 実際にこのシステムを走らせてみると、巧妙にコントロールされていて、1モーター/2クラッチの癖を感じることはほとんどない。

 

スムーズなハイブリッドシステム
 他のBMW車と同様に、アクティブハイブリッド 7もドライブモードの切り替えが可能で、「ECOPRO」と「COMFORT」、「SPORT」と「SPORT+」の4つのモードから走りのテイストを選択できる。

 ベースは基本的にCOMFORTだろう。市街地の走行でも早目のシフトアップをし、ダンパーの減衰力は適度な設定に落ち着かせている。

 BMWらしく走るのはSPORTだ。このモードではエンジン回転高め、ステアリング操舵力も重めの設定に変更となるが、無理に肩肘張らないところが大人の味つけだ。

 SOPRT+はSPORTに加えてDSC(横滑り防止装置)をカットするなど、スキルのあるドライバーにとって面白い設定となるが、普通のドライブでは使用するチャンスはほとんどないと思う。

 アクティブハイブリッド 7のパワートレインはパワフルで、特に動力性能に不満を持つような設定ではない。むしろ同じエンジンを持つ740iのパフォーマンスに加えて、210Nmの電気モーターのトルクが加わった走りと考えればよい。本来的に力強い加速なのが740iの特徴だが、さらに低速トルクを盛り上げた感じで力強さと滑らかさが増している。

 2クラッチのハイブリッドが時折見せる振動も、もともと基本的なエンジン性能にトルクの余裕があり、かつ制御が細やかで変速時のショックを感じることはほとんどない。アクセル開度が少ない時にアクセルを踏んだり離したりという意地悪なことをやっても、制禦が混乱することはなく、スムーズな加減速ができた。

 またEV走行は、充電状況が許せば60㎞/hまではモーターだけでの加速も可能で、約4㎞まで電気だけで走行が可能だ。もちろんフル加速するような状況ではただちにエンジンをかける。また80km/hからのアクセルオフで「コースティング」するが、これはエンジンを停止し、駆動系から切り離すことで燃費の改善を図るものだ。

 このシステムはコンベンショナルモデルの場合は50km/hから作動するが、ハイブリッドでは頻繁にエンジンを止めていることもあり、80km/hからとしているという。実際にドライブしても、気が付くと頻繁にエンジンを止めており、コースティング状態に入ると空走が長く続くのが実感できる。メカニカルな転がり抵抗の減少にもかなり気を配っているように感じる。

 エネルギー回生も頻繁に行っており、長い登坂などで吐き出したハイブリッドの電気は、リチウムバッテリーにすぐに充電される。日常的にはバッテリーが空になる事はほとんどないだろう。JC08モードでは、プレミアム・ラグジュアリー・セダンではナンバー1の燃費で14.2㎞/Lを公表している。

パワートレーンの動作を示すエネルギーフロー表示
ハイブリッドモードの使用履歴も表示できる

 

ハンドルを握っているのが楽しい
 ロードノイズに関しては、驚くほど低いものではなかった。装着タイヤはピレリのフロント:245/45 R19、リア:275/40 R19と大きなサイズで、むしろ大きなブロックパターンが生み出すエネルギーを感じさせるようだった。

 エンジン透過音はレクサスのように完全シャットアウトではなく、キャビンにも入ってくるが、煩わしい音ではなく、パワートレインの鼓動を感じられてこれはこれで好ましい。もちろん一世代前よりもかなり静かで、かつ8段トランスミッションのために常にエンジンを回転数の低いところで使い、ハイブリッドのモーター走行の場面も多いので、フル加速しなければエンジンを意識することはあまりないだろう。

 その動力性能は結構高い。2tもある重量のアクティブハイブリッド 7はさすがにアクティブハイブリッド 3ほど軽快ではないが、重いなりにも厚いトルクによって中間加速は中々鋭く、高速域での追い越しも楽にできる。

 ハンドリング面では電動パワーステアリングの操舵フィールもこなれており、重量級セダンらしいしっとりとしたものだ。狭いワインディングロードは7シリーズにはあまり似合わないが、それでもクイックに曲がっていくところがBMWの真骨頂だ。

 ノーズはハンドル操作に対して素直に入っていくし、リアの追従性もよく、狭いコースもそれほど苦にならない。さすがに5mを超える全長(5080㎜)に1900㎜の全幅を持つ巨体を振り回す気には毛頭なれないが、ハンドルを握っているのが楽しいのはさすがである。

 なお7シリーズには装着されている前後輪統合制御システム(インテグレテッド・アクティブ・ステアリング)、つまり4WSはアクティブハイブリッド 7には装備されない。

 SPORTモードではロールが少なくなり、さらに応答性が上がる。もっともBMWのハンドリングはCOMFORTでも大きな破たんは来さないので、劇的な変化をするわけではないが、操舵力やロール変化などは明らかに差があり、アクセルのレスポンスや、ギアをキープする回転域が高くなるので、こちらを日常的に使っても不自然さはない。

 さて、新しいアクティブハイブリッド 7のパフォーマンスは、従来のアクティブハイブリッド 7のV型8気筒4.4リッター+電気モーターのアシストとは大きく方向転換をして、より燃費に振ったモデルになった。しかしBMWらしいパフォーマンスは少しも失われていなかった。

 さらに述べると9月の7シリーズのマイナーチェンジで内外装に手を入れており、フロントのエアインテークの形状やテールランプなど意匠変更されており、LEDヘッドランプなどでよりスポーティになっている。またこのクラスではそれぞれのメーカーが競って開発している安全デバイス、アクティブハイブリッド 7には衝突回避・被害軽減ブレーキや停車も含む全車速自動追従システムなども標準装備となる。

 魅力を増したアクティブハイブリッド 7には1198万円、ロングボディーには1338万円の定価がつけられる。


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2012年 11月 21日