インプレッション

トヨタ「クラウン ハイブリッド」

 滑らかなフィーリングと静粛性、さらにハイパワーを見込めるマルチシリンダーエンジンは、高性能車や高級車にとっては必須アイテム。最低限でも6気筒以上はないと、高性能車とも高級車とも認められないというのがこれまでの流れだった。だが,時代は移り変わり、排出ガスの低減や燃費向上などを考えるとマルチシリンダーは排除される傾向にある。気筒数を減らしてフリクションロスをはじめとする無駄を省き、いざという時の加速には過給器やハイブリッドシステムで補う、これが現代のクルマの流れだ。

 その潮流がいよいよ14代目の新型クラウンのハイブリッドモデルにも押し寄せた。なんと搭載されるエンジンは直列4気筒エンジンだというのだ。「ついにオマエもか……」と、なんだか寂しい気分になったのが正直なところである。だってそうだろう、“いつかはクラウン”という代名詞が付くほどのニッポンにとって象徴的な高級車が、実用車と肩を並べる行為に走ってしまったのだから。ピンク色で気を引いている場合か? ReBORNすることがそんなに大切なのか? 古い考えを引きずる人間にとって、新型クラウン・ハイブリッドの4気筒化は、疑問符ばかりが先行してしまったのである。

 だが、こうしたネガティブな考えは、どうやら世間には少なかったようだ。新型クラウンは、今回もV型6気筒DOHC 2.5リッターとV型6気筒DOHC 3.5リッターのガソリンモデルを併売しているが、フタを開けてみれば売れ筋は直列4気筒DOHC 2.5リッターエンジンをベースとするハイブリッドモデル。それも全体の約半数を占めているというのだから驚きだ。保守的なユーザーが多いと見られていたクラウンだが、実際にはクラウンが生まれ変わったことで、そうした人々を次のステージへと導くことに成功したのである。

ハイブリッド ロイヤルサルーン。直列4気筒 DOHC 2.5リッターエンジンにモーターを組み合わせ、システム出力は162kW(220PS)。ボディーサイズは4895×1800×1460mm(全長×全幅×全高)で、車重は1650kg

ハイブリッドモデルが挑んだ4気筒化へのシナリオ

エンジンは先代の6気筒から4気筒へ、さらにハイブリッドシステムの小型化やボディーの軽量化も相まって車重は約200kgも軽くなった。結果として燃費は23.2km/L(JC08モード)をマーク

 では、何故そんな偉業が達成できたのか? クラウンのハイブリッドモデルが挑んだ4気筒化へのシナリオを振り返ってみる。

 実は先代クラウンのハイブリッドモデルは、V型6気筒3.5リッターエンジンにハイパワーモーターを組み合わせたものだった。エンジンとモーターが生み出すシステム総出力は254kW(345PS)にも達することから、アクセルを踏み込めば非常にパワフル。クラウンのイメージからすれば相応しく感じたものだったが、ハイブリッドカーとして見ればこちらはこちらで疑問符が湧いてきたことも事実である。結果として、ハイブリッドとしては外すことのできない燃費も14.0km/L(JC08モード)というまずまずの結果に終わってしまった。

 その反省を踏まえたのが今回の新型だ。パワーユニットはカムリのハイブリッドモデルで採用されている直列4気筒2.5リッターエンジンをベースに、圧縮比のアップや燃料デリバリーシステムにポート噴射と直噴を併用するD4-Sを採用。さらにEGR(排出ガス再循環)の高効率化や、インテーク側だけでなくエキゾースト側にも可変バルブタイミング&リフト機構のVVT-iを備えるなどの対策を行っている。

 ハイブリッドシステムはトランスミッション&モーターが小型・軽量化されたことがトピック。これは従来採用されていた2段リダクションギアを廃止し、ジェネレーターや動力分割機構を最適化することで達成している。サイズは従来よりも46mmも短くなり、30kgも軽量に仕上がったと言う。

 6気筒から4気筒へ、さらにはハイブリッドシステムの小型化により、システム全体はかなり軽く仕上がった。先代比で12%近く軽くなったボディーと相まって、実に200kg近くの軽量化を達成したのだ。結果として燃費は23.2km/L(JC08モード)と飛躍的に向上。システム出力としては162kW(220PS)と大人しくなったように見えるが、この軽量化があるのなら走りも期待できそうだ。

ハイブリッド アスリート。ボディーサイズは4895×1800×1450mm(全長×全幅×全高)で、車重は1640kg

エンジン回転だけが上昇しない、感覚とマッチする加速感

 そんな新型クラウンのハイブリッドモデルは、外観上はV6ガソリンモデルとの差別化は最小限に留めてある印象。王冠エンブレムやトヨタマークのベースがブルーになっていること、フロントフェンダーに「HYBRID」のエンブレムが備わること、そしてテールに「HYBRID SYNERGY DRIVE」のエンブレムが付くこと以外に違いはない。先代前期型のように、クリアテールレンズで武装していないところが逆に好印象だ。ハイブリッドであることはもはや特別なことではないのかもしれない。

 まずは保守的なロイヤルのハイブリッドに乗ってみる。すると当然だがエンジンもかからず静かにスルスルと動き出す。4気筒の振動や音を気にしていた人間からすれば、肩すかしを食らったような気分だ。エンジンがかからなければ静粛性は100点なのだ。その後、加速体制に入ればやはりエンジンは始動するのだが、バランサーやマウントを煮詰めに煮詰めたためか、音や振動にそれほど嫌味は感じない。

 また、加速時におけるアクセルのレスポンスも実にリニアであり、パワーが少ないとヤキモキすることもないから感心。さらに段付きなく滑らかに息の長い加速を続けるところもいい。エンジン回転だけが上昇することもなく、感覚とマッチする加速感、これが見どころだ。これなら4気筒でもクラウンとして相応しいかもと思えてくるから不思議だ。

 ただ、強力な加速をしようとするとV6のようにシルキーな回転フィールとはならない。やや唸るような音質が聞こえるのは若干寂しい部分だったりする。吸気音のギミックを与えて心地よいサウンドを作り込むなどの対策があればもっといいかもしれない。こうしたフィーリングや音のような“味”を気にする人にはV6モデルのほうがオススメだ。

 運動性能については、バッテリーを搭載する関係でややリア側の重量増が気になるところだったが、それもドッシリとした印象が強まる程度のもので、乗り心地や走りが犠牲になった感覚はない。これもまた軽量化による恩恵なのだろう。

 後にアスリートのハイブリッドモデルにも乗ってみたが、基本的には変わらずという印象。引き締められた足回りによって、重量増によるネガがより少なくなっているように感じる。これなら走りを気にするスポーティなユーザーでも受け入れられるだろう。

 そう思わせてくれるのが、アスリートのみに用意されたスポーツモードだ。瞬間的に加速Gが立ち上がるようにセッティングされたそれは、グッと前に出る感覚に溢れており、スポーティさをより強調した制御となっているようだ。タイトなワインディングでの立ち上がりなどでは、コレがいい仕事をしてくれる。運転を楽しみたい人に対しても抜かりない対策を施している、これが新生ハイブリッドの魅力だ。

新生クラウンのハイブリッドがトヨタの歴史的なクルマになる

 こうしてすべてを知り、実際に乗ってみると、当初描いていたマルチシリンダーへの思いがまるで幻想だったのではないかとさえ思えてくる。もちろん、V6にはV6の魅力があることも事実ではあるのだが、直4+ハイブリッドの世界もわるくない。というよりむしろよさばかりが見えてくるから面白い。

 環境にやさしく、燃費がよく、経済性にも優れるハイブリッドモデル。おまけにアスリートのハイブリッドモデルは、V6 3.5リッターガソリンモデルよりも安いという価格設定を達成できたということもまた、4気筒化によるところが大きいのだろう。

 本来は保守的なユーザーばかりだったはずのクラウン市場において、すべてをひっくり返し、賛同を得ることに成功した新生クラウンのハイブリッドモデル。これぞまさに“ReBORN”を貫いた一台と言えるだろう。現在の、そして未来のトヨタをさまざまな意味で支える歴史的なクルマになりそうな予感がする。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。