インプレッション
スバル「レヴォーグ 量産仕様」
Text by 岡本幸一郎(2014/6/10 12:27)
キャラクターの異なる1.6リッターDITと2.0リッターDITエンジン
長らくこの日を待っていた。半年足らず前にプロトタイプに触れる機会はあったが、2013年の東京モーターショーで初めてその姿を目にしてから、ずっと気になっていた「レヴォーグ」の量産モデルを、ようやく公道でドライブする機会が訪れた。
新しい車名の与えられたニューモデルだが、会場では実質的な前身である歴代レガシィツーリングワゴンとともに展示されていた。こうして並べると、やはり5代目のBR型レガシィだけちょっと異質に見える。そしてレヴォーグの変化に富んだ躍動感のあるデザインも、これまでのスバル車とは一味違った感じがして新鮮味がある。
インテリアの質感は高く、最近の一連のスバル車と同様にインパネは整然とレイアウトされており、どこに何があるか分かりやすく使いやすい。心地よいホールド感を備えたシートに収まると、運転席からの視界は後方も含め全方位にわたって優れており、死角が小さいことを感じる。運転環境は非常に良好だ。
試乗したのは、「1.6GT EyeSight(アイサイト)」「1.6GT-S EyeSight」「2.0GT-S EyeSight」の3モデル。いずれも先進安全運転支援装置「EyeSight」を装着したモデルとなる。実際に試乗を行うと、それぞれ印象が予想以上に違ったことを、あらかじめお伝えしておこう。
多くの人にとってもっとも気になっているのは、新たに用意されたFB16型1.6リッターのDIT(Direct Injection Turbo)のフィーリングだろう。直噴ターボエンジンとしては軽自動車を除いて世界初のレギュラーガソリン仕様となり、最高出力125kW(170PS)/4800-5600rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1800-4800rpmを発生する同エンジンだが、第一印象は概ねわるくない。実用域のトルクが十分に出ており、絶対的な性能面での不足はあまり感じない。ただし、極低回転域のトルクが薄く、緩やかに加速したいときに、やや飛び出し感を伴い、速度のコントロールがしにくいきらいがある。
おそらく11.0という高圧縮比のレギュラーガソリン仕様となると、異常燃焼などの難しい問題があり、それを抑えるために、アクセルを踏んだ瞬間に燃焼の安定する回転域まで一気に上げるような設定になっているのだろう。
実は似たような症状は当初の2.0リッターのDITにも見受けられ、現行レガシィやフォレスターなども少なからずその傾向はある。ところが、今回レヴォーグの2.0リッターのDITに乗ったところ、その症状がかなり緩和されていることが分かった。もちろんこのエンジン、プレミアムガソリンで最高出力221kW(300PS)/5600rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2000-4800rpmを発生するパワー&トルク感は相変わらず強力そのもの。やや頭打ちな印象もあったトップエンドでの伸びも、心なしかよくなったように感じられた。
ところで、筆者はてっきりレヴォーグにはMTの設定があると思っていたのだが、1.6リッターも2.0リッターもリニアトロニックCVT(1.6リッターは中容量トルクに対応する新世代アクティブトルクスプリットAWDタイプ、2.0リッターはセンターデフを装備する高容量トルク対応VTD-AWD[不等&可変トルク配分電子制御AWD]タイプ)のみだ。そういえば現行型レガシィも当初は設定のあった6速MTが後年はカタログ落ちしている。
おそらくレヴォーグにMTがあってもレガシィと同様に売れないと判断したものと思われるが、レガシィでMTが売れなかったのは、クルマのキャラクターに要因があるのであって、レヴォーグならMTも売れそうな気もするのだが……。
同じ足まわりでも1.6リッターと2.0リッターで印象がまったく違ったGT-S
フットワークについては、GT-S仕様では18インチタイヤやビルシュタイン製ダンパーが与えられるのが大きな違い。1.6GT-S EyeSightも、2.0GT-S EyeSightもベースとなるGT EyeSightからの主な変更点は共通だ。
プロトタイプに試乗したときは、どれも当たりが硬く、跳ねが気になるなど、正直あまり印象はよろしくなかった。そのときからはすべて見直したという。
もっとも印象がよかったのは、2.0GT-S EyeSightだ。よく引き締まった足まわりは振動の収束が素早く、応答遅れもなくシャープに動く操縦性を持ち、狙ったラインを正確にトレースしていける。2.0リッター車のみに与えられる、後輪により大きな駆動力を配分するVTD-AWDが、アクティブトルクスプリットAWDの1.6リッター車よりニュートラルなハンドリングを提供してくれる。最上級モデルへの期待に応える乗り味だ。
ちょうど2.0GT-Sをドライブしているときに一時的な雨に見舞われたのだが、ドライとなんら変わらない感覚で運転することができた。このあたりはさすがというほかない。
それなら、執筆時点で受注の過半数を占めるという売れ筋の1.6GT-S EyeSightも似たような感じかと思うところだが、意外やそうでもなかった。2.0GT-S EyeSightとの重量差も小さく、同じビルシュタイン製ダンパーが与えられていながらも、全体的にやや減衰不足が感じられ、ピッチングが気になった。どうやら車両重量や前後重量配分の微妙な違いが影響したようだ。
一方、17インチタイヤを履き、カヤバ製ダンパーを備えるスタンダード仕様の1.6GT EyeSightは、これはこれでまとまりがよかった。乗り心地に硬さ感はなく、動きが素直で、ステアリングも軽く感じられ、操縦性にも軽快な印象がある。まとまりのよさではもっとも上かもしれないと思ったほどだ。
3グレードで概ね共通して感じたのは、ステアリングフィールとロール感の味付けの巧みさだ。これまでのスバル車のステアリングは、軽快というか、やや軽薄な動きに感じてしまう例が少なくなかった。ところがレヴォーグは、中立付近が穏やかで、少し切り込んだところからゲインがグッと立ち上がるので、直進時の据わりがよくて修正舵も少なくて済み、それでいて俊敏性も味わえるのだ。
また、ロールを過度に抑えておらず、自然な動きをするので、クルマの挙動が掴みやすい。このあたりのチューニングはなかなか上手いバランスだと思う。
現状のラインアップにおいては、走りを求めるなら、やはり2.0GT-S EyeSightが大本命。レヴォーグのパッケージに魅力を感じていて、コストパフォーマンスで選ぶのなら、1.6GT EyeSightがベストとお伝えしておこう。
ver.3へと大幅に進化したアイサイトを公道で体感
先進安全運転支援装置であるアイサイトがver.3になったのもレヴォーグの特筆点だ。いろいろ進化したことは他記事でもお伝えしたとおり。“はみ出さない技術”として加わった新機能の「アクティブレーンキープ」は、自動車専用道路を約65km/h以上で走行している場合、車線逸脱を抑制する安全面での恩恵に加えて、修正舵を減らして運転の負荷を軽減してくれるという大きなメリットもある。
さらにカタログや資料等に記載されていない細かな進化をしていることも、実際に試乗を行って感じ取ることができた。代表的なところを挙げると、ステアリング舵角による制御が進化した。これにより追従走行時に大きく回り込むコーナーにおいて前走車がターゲットから外れた際に急加速するといった状況がなくなった。また、アイサイトのカメラがモノクロではなくカラーで状況判断するようになったので赤信号を認識でき、前方の交差点が赤信号の際の設定速度復帰加速を抑制するなどの処理が加わっている。
とにかく、これまでに比べてヒヤッとする場面が圧倒的に減っていることは、今回いくつかのシチュエーションで試して実感した。全体としては、基本性能が大幅に向上したほか、加減速の仕方がさらにスムーズになり、より人間の感性に近いものになったことには違いない。そのほかにも、追従走行時の車間距離について、3段階設定のもっとも長い側をより大きくしてほかとの違いを分かりやすくしたり、直接西日がアイサイトカメラに入るような極端な逆光を受けると簡単にフェイルしていたような状況に対して強くなったりと、多くの部分が改善されている。
アイサイトや直噴ターボエンジンといった数々の先進的な技術をベースに、スバルならではの4WDシステムである「シンメトリカルAWDレイアウト」を掛け合わせたものを、かつて大いに支持されたツーリングワゴンというパッケージに詰め込んだのがレヴォーグである。
レガシィがワゴンの人気に火をつけてから25年、日本の自動車市場は大きく変わり、ミニバンやSUVがもてはやされるようになった。その市場において、再び原点に帰ってきたレヴォーグがどのような動向を見せるのか非常に興味深く、レヴォーグのようなクルマを待っていた人も少なくないはず。本来あるべき姿に回帰したレヴォーグは、きっとかつてのように好意的に受け入れられることと思う。