インプレッション

ダイハツ「ウェイク」

軽自動車最大の室内空間を実現

 ダイハツ工業が2013年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「DEKA DEKA(デカデカ)」が、市販車「WAKE(ウェイク)」として登場した。

 「大人4人が遠出でレジャーに出かけられるクルマが作りたかった」とは開発責任者である中島雅之氏の弁だが、「ミニバンのようなコンセプトはよさそうね」と好感を抱きつつも、ここはミニバン大国ニッポン。皆さんの広さの感度がやや鈍っているかもしれず、それほどこの言葉に驚きはないかもしれない。だが、これが軽自動車で作られたとなると話は別ではないか。

 最大の特徴は軽自動車最大の室内空間を実現した「ウルトラスペース」。ボディーサイズの3395×1475×1835mm(全長×全幅×全高)は「タント」と比べ全高が85mm高く、室内寸法の2215×1345×1455mm(室内長×室内幅×室内高)はタント比で+15mm×±0mm×+90mm。室内長や室内高、さらに前後乗員間距離(1120㎜)や後席ドア開口高さ(1286mm)は現在のところクラストップの長さや高さとなるのだとか。長さや高さを可能な限り延ばし、さらに2WDなら最大320×640×380mmのトランク床下のスペースも用意され、広さと高さ、そしてシートアレンジを活かしたパッケージアレンジがこのモデルの最大の特徴といえる。

 そしてその使い方についても、日常からレジャーまでこのクルマの企画段階から45の使用シーンを想定し、その中でもキャンプや釣りなどレジャー人口の多い6つのジャンルのプロフェッショナルと、開発段階から使い勝手を練ってきたというから頼もしい。特にラゲッジに採用された上下2段調整式デッキボードは、“昭和のちゃぶ台”のような仕立てがユニーク。例えば2ダースのペットボトルを床下に積んでも、その上にはまだまだタップリと荷物を収めることができたりする。こういう収納の可能性が見つかり、あんなことやこんなことがひらめくと、ますます想像力も働きワクワク感が増してくるではないか。

撮影車のグレードは直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンを搭載するG“SA”(174万9600円/2WD)。ボディーサイズは3395×1475×1835mm(全長×全幅×全高)で、「タント」と比べ全高が85mm高く、軽自動車最大の室内空間を実現。ボディーカラーはパールホワイトIII×トニコオレンジメタリックの2トーンカラー
室内長や室内高、後席ドア開口高さはクラストップを誇り、乗降性にも優れる。足下はG“SA”のみ15インチアルミホイールを標準装備
ブラックを基調にしたインテリア。インパネでは助手席前に約6.6Lの大型トレイを用意し、一眼レフカメラなどの収納を可能にした。さらに多数の収納スペースを設け、使い勝手を高めている。室内サイズは2215×1345×1455mm(室内長×室内幅×室内高)とし、タントと比べ15mm長く、90mm高いサイズ
ステアリングは革巻(メッキオーナメント/シルバー加飾付)
タコメーター付きの自発光式大型3眼センターメーターを採用する
ハニカムパターンのファブリックシートは撥水加工が施される。助手席は背もたれを前方に倒すことでテーブルとしても利用できる
左右別々にスライド(最大240mm)できる後席はリクライニングも可能。ラゲッジ側のレバーでスライドを行うこともできる
「ミラクルラゲージ」と呼ばれる大容量の荷室もウェイクの特徴の1つ。最大1140×950×420mmの荷室空間に加え、2Lのペットボトルを24本積載可能な最大320×640×380mmサイズのアンダートランクも用意される

気になる走行バランスは?

 遠出のレジャーとなると移動=走行性能も妥協はしたくない。ドライビング好きの方なら「軽自動車のサイズで背を高くしちゃって走行バランスは保たれているの?」と、気になる人もいるだろう。ウェイクの走りのコンセプトは「ファン&リラックスドライビング」。タントにも使用するFFレイアウトシャシーをベースに、フロントアブソーバーロッドやリアアブソーバーのサイズアップなどで高剛性化し、ウレタンバンプスプリングやスタビライザーの標準装備によりロールが抑えられている。

 さらに重心よりも上にくる部品を軽量化し、重心高は10mmアップに留められているのだ。畳一畳分ほどもあろうかというルーフの端々をラウンドさせて振動抑制や面剛性強化を図り、外板パネルにスチールよりも軽い樹脂を多用。通常のフロアよりも低い位置=アンダートランクに荷物を収納すれば重量バランスに貢献もでき、低重心化が見込める。重量増を抑えボディー剛性を高く保つ意味も含め、タントではBピラーをスライドドア内に収めているところ、ウェイクではピラーを残すボディー設計を取っている。

 駐車場から乗り出した際に印象的だったのは視界のよさと扱いやすさ、そして低速での乗り心地のよさと滑らかな走りだった。ボディーの見切りがよく、街中での運転に慣れた私でも、縁石に寄せて停めるなんていう動作のしやすさや路上駐車を交わす際にはボディーサイズのみならず、この機能的なスタイルの意義を改めて実感できるというもの。安定感も十分に高く、結果、注目の背の高さはすっかり忘れていた。「より情報量を多く取り入れることのできる高い目線は安全運転に繋がる」と、前出の開発責任者である中島氏。運転席からの視界にもこだわり、着座位置がタントより30mm高くなっている点は頷けた。

 だが、天井前端に配置されたルームミラーの位置は必然的に高くなり、目線の上下移動量がやや大きめに感じられたのだ。これはシートポジションとミラー位置の関係によっても変わるが、身長161cmの筆者の場合、シートは前方に位置し、ミラーがより頭上に近くなってしまう。するとルームミラーを見るときに見上げる動作になってしまう。ミラーをフロントウインドーにつけては見晴らしのよさが低減してしまったのだ。

運転席ではボディーの見切りのよさを体感
全高1835mmがもたらす広々とした室内は、ウェイクならではの美点だ

 一方、試乗した直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジン(64PS/92Nm)+CVTの走りに不満はない。モリモリと走る頼もしさがウェイクにピッタリだった。5000rpmを過ぎたあたりから加速がつらくなるものの、遮音性もよい上にドライバーが求めるスピードやトルクを得るのに時間はかからず、基本的に2000-3000rpmあたりを維持して走行すれば静粛性は十分に高い。

 ちなみに自然吸気エンジンもラインアップされているが、人や荷物を載せて遠出をするとなると開発陣もターボエンジン搭載車をお勧めするといっている。信号待ちでは人知れずアイドリングストップをする「エコアイドル」のスマートさもよく、エンジン再始動時にごくわずかな振動があるだけ。ターボ搭載車のJC08モード燃費は23.8km/Lと低燃費競争には参加していない。ウェイクは動力性能を重視した“割り切り”が遠出でもストレスを感じさせない走りを生んでいるのだ。

最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク92Nm(9.4kgm)/3200rpmを発生するターボエンジン
自然吸気モデルは最高出力38kW(52PS)/6800rpm、最大トルク60Nm(6.1kgm)/5200rpm

 ボディーのしっかり感にも不満はない。少し重めのハンドルの操作感はより正確なハンドリングのしやすさをサポートしてくれるだけでなく、乗り味の重厚さを感じさせてくれるのもよい。背高なモデルのコーナリングやブレーキングはロールや荷重移動量も多いと想像しやすいが、ウェイクは物理的なネガな部分を感じずに走らせることができた。とはいえ、万が一のロールオーバーを防ぐべく、さすがにVSC(横滑り防止装置)の介入はタントより早めのプログラムが組まれているのだとか。ブレーキについては、踏み始めから停止までの減速のスムーズさと姿勢変化の少なさにむしろ好感を抱いたほど。予防安全についてはVSC+TRC(トラクションコントロール)、そしてスマートアシストも全車標準採用している。

 本格的かつ実用的なスペース作りによって新たな付加価値を得たウェイク。日常のパートナーとしての存在が大きい軽自動車に休日のワクワク感がプレスされた1台は、新しさと頼もしさが軽自動車の基本概念からさらに“上行く(ウェイク)”ユニークさが魅力なのだ。

飯田裕子

Photo:安田 剛