インプレッション
三菱自動車「eKスペース」(2015年一部改良)
Text by Photo:安田 剛(2015/6/9 00:00)
三菱自動車工業の「eKスペース」と「eKスペース カスタム」が一部改良を行った。2014年2月に発売された両モデルは、同年12月に「衝突被害軽減ブレーキ」と「誤発進抑制機能」を組み合わせた「e-Assist」を追加している。ここでの衝突被害軽減ブレーキは「FCM-City」と呼ばれる赤外線レーザーセンサーを単独で使用したADASで、30km/h以下での作動と衝突被害軽減を目的としたものだ。
2014年度からスタートした予防安全性能アセスメントだが、eKスペースの結果は8.8ポイントだった。予防安全性能アセスメントは満点が40点(2015年度からは46点)であることから一見すると低いように思えるが、日本での使用が許可された赤外線レーザーセンサーは照射範囲に規定があることから、2015年5月末現在における赤外線レーザーセンサー単独の最高得点は9.0点に留まっている。
eKスペースの試験結果の詳細を調べてみると、障害物に向かって前進し自律自動ブレーキのみで衝突回避可能な速度を探るAEB試験と、障害物をセンサーが検知した時点から規定の時間とブレーキ力で衝突回避可能な速度を探るFCW試験では、いずれも25km/hまではクリア(各1.00ポイント獲得)するものの、その上の30km/hとなると回避率がグンと下がり、0.37/0.43ポイントとなる。
しかしながらこの結果は設計通りで、これは赤外線レーザーセンサーの照射範囲(6~7m前後)とTTC(衝突予測時間)からくる物理的な限界点とも合致する。筆者もこのe-Assistが装着されたeKスペースに試乗し、テストコースでFCM-Cityを体験してみたが、30km/h以下で路面が乾いた状態であればテスト中の作動率は100%だった。さらに、ドライバーに危険を知らせる警報音が鳴った瞬間にドライバーがフルブレーキを踏んだ場合には、前走車や障害物に対して余裕をもって停止できることも分かった。課題は前回のリポート(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20140318_639777.html)に詳しいが、警報音の音量や音色がもっとドライバーの耳に届きやすければFCM-Cityの効果はさらに高まるだろう。
ターボ車にもアイドリングストップ機能を搭載
今回の一部改良では、自然吸気エンジンの燃費数値をカタログ値であるJC08モードで0.2km/L向上させ、26.2km/Lとしたことで全グレードがエコカー減税対象車となった。これは、従来から装備していたアイドリングストップ機能のコーストストップ領域(エンジン停止する速度)を9km/hから13km/hへと4km/h(約44%)拡大したことで得られた性能だ。
さらに、eKスペース カスタムの販売比率で約50%を占めるターボエンジンでも待望のアイドリングストップ機能が採用された。これにより、JC08モードでは22.2km/Lから24.0km/Lへと1.6km/h(約8%)向上している。ただし、ターボモデルはコーストストップ領域をもたず、0km/hになってから1秒以内にアイドリングストップ機能が働く設定だ。アイドリングストップ機能追加に伴うエンジン本体の変更はないが、スターターの使用頻度向上に伴い耐久性をアップさせる対策が施されている。
気になるのは自然吸気とターボにおけるコーストストップ領域の有無だろう。開発陣によると「ターボチャージャーのタービン保護の理由が大きい」とのことでコーストストップ機能を持たせなかったというが、現状であってもカタログ燃費値で約8%の向上が見込めるし、混雑した市街地では外気温やエンジン諸条件によるものの、頻繁にエンジン停止が期待できるため、ターボへのアイドリングストップ機能の追加は大いに評価したい。
また、今回のアイドリングストップ機能により、自然吸気とターボのカタログ燃費値における差が縮まっている。従来が3.8km/Lだったのに対し、アイドリングストップ機能が追加された現行モデルでは2.2km/Lと、約42%もその差が縮まっている。
おすすめのグレードは?
今回の一部改良はエクステリアにも及ぶ。ルーフとドアミラーをボディーのメインカラーと塗り分ける「2トーンスタイル」が、eKスペースとeKスペース カスタムの両モデルに新設定となったのだ。標準モデルはサクラピンクメタリック(5万4000円)とショコラブラウンパール(7万5600円)をメインカラーとして選択した場合、ルーフ/ドアミラーがホワイトパールとなり、eKスペース カスタムではレッドメタリック(7万200円)とホワイトパール(9万1800円)をメインカラーとして選択した場合、ルーフ/ドアミラーがブラックマイカに塗装される。
筆者のおすすめは、標準モデルではショコラブラウンパール、カスタムではレッドメタリック。くっきりとしたコントラストはもちろんのこと、トールボディーが持つ腰高感がずいぶんと和らぐからだ。2トーンスタイルには結構な有料色代がかかるものの、仕上がり具合からすれば十分に納得のいくもの。本田技研工業のNシリーズも2トーンカラーを用意するが、例えば「N-BOX スラッシュ」では、塗り分け部分にアクセントラインとなるパーツを埋め込むことで立体感を強調したデザインを採用するなど、各社で個性の打ち出し方に違いが見られる。
2トーンスタイルの塗り分けはメインカラーを塗布した後に乾燥させ、もう一度、製造ラインに戻してからルーフの塗布を行うという手の込んだもの。その際のマスキングには相当な手間を必要とするという。質感という意味では、テールゲートを開けた際の塗り分けもしっかりと行われ、ルーフラインの縁取りにはルーフ色がちゃんと塗布されておりキリッと引き締まった印象が強い。2トーンスタイルは購入後も高い満足度が得られるだろうから、ぜひとも選択してほしいアイテムの1つだ。
一方で、走行関連には手を入れていないことから乗り味はこれまで通り。自然吸気/ターボともに、成人男性3人+20kg程度の撮影機材などを搭載した状態で試乗したが、筆者は速さよりもゆとりある走りを好むため、eKスペース カスタムのターボエンジンを一押しとしたい。
しかしインテリアとなると話は別だ。現状はブラック内装のみとなるのが惜しい。開発陣曰く「ターボ≒スポーティ≒ブラック色というイメージがあるから」と語るが、eKスペースのブラック&アイボリー内装は広々とした印象となるため、ターボでも選べるとうれしい。個人的には、明るい内装色は死角が少なく感じられるなどの副次的効果もあると考えている。もっとも、こうして“ないものねだり”をしたくなるのは、eKスペースとeKスペース カスタムの熟成度合いが上手に進んでいる証拠といえよう。
課題はやはりFCM-Cityの性能向上だ。2015年4月以降、ダイハツ工業は「ムーヴ」から単眼式カメラ方式と赤外線レーザーセンサーの複合センサー型である「スマートアシストII」を、スズキは「スペーシア」から2眼式光学カメラ方式の「デュアルカメラブレーキサポート」の搭載をそれぞれ始め、作動可能速度域を大幅に拡げてきた。
燃費競争の激化が2020年燃費規制で一段落したと思った矢先、今度はADASにおける開発合戦と落ち着く暇のない軽自動車だが、今や日本の自動車販売台数の過半数となるだけに、安全性の向上は将来に渡る課題の1つ。これまで同様、前向きな開発競争の継続とともに、衝突被害軽減ブレーキはドライバーに危険を一刻も早く知らせる技術であり、自律自動ブレーキは最終手段であることの周知徹底も同時に行っていただきたいと切に願う。