インタビュー

エンジン搭載位置が異なるスーパーGT/GT300車両17台をサポートする横浜ゴムのタイヤ供給ノウハウを聞く

スーパーGT参戦タイヤメーカーインタビュー「横浜ゴム」編

横浜ゴムのスーパーGTの活動に関して、横浜ゴム タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長である斉藤英司氏に話を聞いてみた

 スーパーGTは、1994年の全日本GT選手権として本格的にシリーズが開始されて以来、屋根付きのレーシングカーが2つのクラス(GT500とGT300)に分かれて同じレースを戦う、異種格闘技のようなユニークさが受けて日本で最も人気があるレースシリーズとなっている。そのユニークさの1つとして、どちらのクラスにも複数のタイヤメーカーの参戦が許されており、タイヤメーカー同士の激しい競争が行なわれている。

 横浜ゴムもスーパーGTに熱心に参加しているタイヤマニファクチャラーで、GT500の1チームと、GT300では17台と全29台のうち約6割の車両にタイヤを供給して、文字通りスーパーGTの足下を支えている存在だ。

 今回は横浜ゴムのスーパーGTの活動に関して、横浜ゴム タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長である斉藤英司氏に話を聞いてみた。

横浜ゴム株式会社 タイヤ製品開発本部 MST開発部 部長 斉藤英司氏

GT300では全29台中17台に供給

 横浜ゴムは1917年に横浜電線製造(現在の古河電工)と米BFグッドリッチの合弁会社として設立され、1920年に神奈川県横浜市平沼町でタイヤ生産を開始し、すでに100年以上の歴史を持つタイヤメーカーだ。2025年には売上収益が1兆2350億円(連結分を含む)に達しており、連結子会社を含む従業員数も3万4471名に拡大。今や日本だけでなくインドや中国、メキシコなどにも新工場が建設され、グローバルで成長しているタイヤメーカーとなっている。

 モータースポーツ活動も熱心なタイヤメーカーとしても知られ、それを象徴するのが同社のプレミアム市場向けのスポーツタイヤブランド「ADVAN(アドバン)」だろう。1980年代~1990年代に、JSPC(全日本スポーツプロトタイプカー選手権)や全日本F2選手権、全日本F3000選手権など国内の自動車レースが盛り上がっていたころ、黒と赤の横浜ゴムのコーポレートカラーとADVANのロゴをまとったマシンが参戦し、JSPCでは「ADVAN PORSCHE(アドバンポルシェ)」の通称で知られるポルシェ956/962が何度もチャンピオン獲り、多くのモータースポーツファンに強い印象を与えた。その結果ADVAN=高性能というブランドイメージが確立し、市販やOEM向けのプレミアムブランドとして君臨している。

ADVAN Alpha Nova(ポルシェ962)

 また、トップカテゴリーへの参戦だけでなく、グラスルーツ(草レース)と呼ばれるダートトライアルのようなシリーズにも熱心にサポートを取り組んでいる。かつてはWTCC(世界ツーリングカー選手権)や、F3の規定で行なわれていたマカオGPへのワンメイク供給も行なっていたが、近年はトップフォーミュラの1つである「全日本スーパーフォーミュラ選手権」のワンメイクタイヤサプライヤーを2016年から現在まで務めているし、その契約は2030年までの延長も決まっている。

 さらに近年は、再生・リサイクル可能原料を利用したサステナブルなタイヤの供給に踏み切るなど、単なるサプライヤーとしてだけでなく、持続可能なレースを実現すべく、さまざまな取り組みを行なっている。

 スーパーGTでは、GT500クラスは19号車 WedsSport BANDOH GR Supra(国本雄資/阪口晴南組、YH)の1台のみだが、GT300に関しては年間エントリーの29台中17台。GT500と合わせて18台へのタイヤ供給は、スーパーGTにタイヤを供給する4社の中で最大供給数となる。

横浜ゴムがサポートするGT500マシン

カーナンバーマシンドライバー
19WedsSport BANDOH GR Supra国本雄資/阪口晴南

横浜ゴムがサポートするGT300マシン

カーナンバーマシンドライバー
4グッドスマイル 初音ミク AMG谷口信輝/片岡龍也
5マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号塩津佑介/荒尾創大
6UNI-ROBO BLUEGRASS FERRARI片山義章/ニクラス・クルッテン/
7CARGUY Ferrari 296 GT3 EVOザック・オサリバン/梅垣清/伊東黎明
18UPGARAGE AMG GT3小林崇志/新原光太郎
22アールキューズ AMG GT3和田久/加納政樹/城内政樹
25HOPPY Schatz GR Supra GT松井孝允/洞地遼大
26ANEST IWATA GAINER Z安田裕信/リ・ジョンウ
30apr GR86 GT永井宏明/平良響/織戸学
45PONOS FERRARI 296 EVO篠原拓朗/川端伸太朗
48健康ケーズフロンティアWMニルズGT-R井田太陽/ジェームス・プル/藤原大暉
56リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ/木村偉織
62HELM MOTORSPORTS GT-R平木湧也/平木玲次
87OPEN HOUSE Lamborghini GT3元嶋佑弥/松浦孝亮/川合孝汰
88VENTENY Lamborghini GT3小暮卓史/ダニール・クビアト/坂口夏月
360RUNUP × SOL GT-R荒川麟/金丸ユウ/田中篤
666seven x seven PORSCHE GT3R EVOスヴェン・ミューラー/藤波清斗/渡会太一

エンジンの搭載位置さえも違うバラエティに富んだ計18台をサポートする横浜ゴム

──開幕戦岡山、第2戦富士と2戦が終わっての自己評価を教えてほしい

斉藤氏:結果(19号車は開幕戦が12位、第2戦が10位)だけ見ると、まだまだだと感じられるかもしれないが、例年シーズンの頭は苦戦しているイメージがあったと思うので、それに比べると、そこまではわるくないと感じている。昨年、一昨年から取り組んできた改良が実を結んでいてタイヤとしては進化していると思う。

一昨年から着実に進化はしていると説明する斉藤氏

 天候その他の要因が、開幕戦や第2戦ではちょっと外れたため、今の結果になったと考えている。ただ、われわれ自身が課題だと感じていたことは確実に克服していて、好機が積み重なることで昨年の第6戦スポーツランドSUGOの時のように勝てるレベルにはきていると考えている(筆者注:昨年の第6戦で24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zが優勝した)。

 この3か月(筆者注:第3戦セパンが延期されたため、第2戦富士から第4戦富士まで結果的に3か月近いインターバルがあった)、しっかりと準備でき、ライバルに追い付け追い越せの開発を続けてきた。その成果を今回の第4戦で確認できたらと考えている。

 GT300に関してはちょっと想像以上に苦戦している感がある。(第2戦富士で56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rが優勝したがと問われて)、あの結果はチームが一丸となって取り組んだ結果だと考えていて、タイヤがどうといえるような状況ではないと自分たちでは評価している。もちろん、タイヤもしっかり仕事をしたからの結果ではあるが、コンディションに合っていたかと考えると、少し噛み合っていない部分があったと考えている。

第2戦富士で優勝した56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R(写真:奥川浩彦)

──今シーズンは長年横浜ゴムのGT500のパートナーとしてやってきたKONDO RACINGの24号車が他メーカーに移った。GT300の56号車は依然として横浜ゴムユーザーではあるが、その影響は?

斉藤氏:もちろん長年ユーザーチームとして一緒にやってきたので、現場としては今年も続けたかった気持ちはある。ただ、GT300に関しては今シーズンもしっかりやっているし、すでに第2戦でわれわれの今シーズン初優勝をマークしている。

 なお、長年われわれのパートナーとしてGT500もGT300もパートナーとしてやってきたこともあり、これまでは並んでいる24号車と56号車のピットガレージを何の支障もなく移動していたが、今は「あれ? 隣は別のタイヤだった」と、慌てて戻るという新しい状況に慣れる必要もあった(笑)。

 GT500が2台から1台に減った影響としては、やはりトータルのデータが減ってしまうことだが、これまでトヨタ、日産それぞれに合わせこむ必要があったが、それが1台になるということは集中して開発できるので、メリットとも捉えている。

GT500に参戦する19号車 WedsSport BANDOH GR Supra(国本雄資/阪口晴南)

──今シーズンのタイヤの進化点を教えてほしい。

斉藤氏:GT500に関しては車両側の変更点として空力開発が可能になっているチームもあるが(筆者注:例えばホンダはシビックからプレリュードに変更しているため、空力関係がアップデートした)、弊社のユーザーチームのGRスープラは大きな変更がなかった。例えば2024年シーズンでは車高が変わる変更があり大きな影響があったが、今シーズンはそこまでの変更がなかった。そのため今シーズンは、昨シーズンの延長線上にあるが、構造面には大きく手を入れていて、壊れないように性能を発揮する方向に進化させている。ゴムの素材(コンパウンド)に関しても、より広い温度レンジをサポートできるようなものを選んでいる。

今シーズンのタイヤは、昨シーズン仕様の延長線上にあるが、構造面には大きく手を入れていて、壊れないように性能を発揮する方向に進化させたという

 GT300に関しては、第2戦富士で56号車が優勝したが、すでに述べたとおりあれはチームの底力。今回の第4戦富士、第5戦鈴鹿向けには高温で高負荷なレースが続くので、そこを目指した構造のチューニングをしたタイヤを供給している。

──横浜ゴムのGT300供給マシンは17台もあり、FIA-GT3あり、GTA-GT300あり、マザーシャシーありとバラエティに富んだ車両をサポートしないといけない。エンジン搭載位置や駆動輪もFRやMRなどさまざまな種類があるが、そこの課題は?

斉藤氏:われわれのユーザーチームの車両はFR(メルセデス、GT-Rなど)、MR(ランボルギーニ、フェラーリなど)、さらにはRR(ポルシェ)もあるなど、エンジンの搭載位置を考えただけでもこれだけのバラエティがある。エンジンの搭載位置はわれわれも注目しており、そこに着目して合わせ込みなどを行なっている。というのも、フロントタイヤ、リアタイヤそれぞれに期待される入力がエンジン位置によって違ってくるからだ。そのため、それを意識した合わせ込みが重要。

 この合わせ込みは今期からという訳ではなく、ここ数年取り組んできた。そうしないと次のレベルにいけないと判断したため、そうした取り組みを行なってきたからこそ、2024年にMRの88号車 VENTENY Lamborghini GT3(小暮卓史/元嶋佑弥組、YH)のチャンピオン獲得につながったと考えている。

GT300に参戦している7号車 CARGUY Ferrari 296 GT3 EVO(ザック・オサリバン/梅垣清/伊東黎明)

──そうして開発した知見というのは市販タイヤにフィードバックされるのか?

斉藤氏:例えば量産車用のタイヤを作るのに、マシンからくるタイヤへの課題をどう落とし込んでいくかという観点で見れば、レーシング用も量産用も考え方は同じだ。そのため量産車の開発者がレーシングの現場に携わっても、課題を迅速、タイムリーに解決することは大きな意味がある。それは人材開発の観点でも大きな価値がある活動だと社内にも常にアピールしている。

──今年はマルチメイク最終年になる。横浜ゴムとして一番印象に残っているレースや年などを教えてほしい

斉藤氏:横浜ゴムとしてはスーパーGTの活動を30年近くやっていて、その間に多くの関係者が関わっており、それぞれに異なる思い出があると思う。あくまで私個人の印象に残っているレースを上げさせてもらうと、やはり昨年の第6戦スポーツランドSUGOのレースだ。24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zが終盤にものすごい追い上げをして、最終周にトップを抜いてそのまま優勝というすごい展開だった。個人的にも自分が責任者になってから初めての優勝だったということで、その意味でも感慨深いレースだった。

 GT300に関しては、やはり2024年シーズンに88号車 VENTENY Lamborghini GT3がチャンピオンを獲ったシーズンが一番感慨深い。あの年の88号車は8戦して4勝、第7戦と最終戦で連勝と絶対的な強さを発揮してチャンピオンを獲得した。

2024年シリーズチャンピオンを獲得したVENTENY Lamborghini GT3

──SUPER GTのタイヤ供給の歴史でブレークスルーになった時期があるか?

斉藤氏:GT500の車両が現在の規定になったのが2014年だったと思うが、そのころにダウンフォースが従来の車両よりも大きくなって、タイヤにトラブルが発生した時期もあった(筆者注:その時期には夏場のレースなどで多くのタイヤメーカーでタイヤバーストなどのアクシデントが発生していた)。その時期にタイヤ開発の方向性を変えて、とにかく壊れにくいタイヤ開発を目指すようになったと聞いている。

(夏場に起きていたという印象だと問うと)通常そうした課題はプレシーズン中のテストで洗い出すが、あの年は車両が新しくなったばかりで、各チームもシーズンオフのテストではそこまで発覚しなかったのではと理解している。タイヤにかかる負荷が、自分たちが考えているよりも大きいと分かったということ。ひと言でタイヤ開発といっても、車両との合わせ込みは非常に難しく簡単ではない。われわれのGT500車両もGRスープラは2024年に車高が変わる変更があったが、その時も合わせこむのは大変だった。

2024年シーズンのテスト走行に参加していたWeds SportsのTOYOTA GR Supra GT500(写真:高橋 学)

──今シーズンの目標を教えてほしい

斉藤氏:GT500に関しては、1台しかないので、その1台をとにかく勝たせる、それだけだ。(19号車が最近優勝したのは2023年の第3戦鈴鹿、その前は2016年の第7戦タイで、暖かいところが得意なのではないかと問われ)これからの2戦は高温のレースになっているので力を入れていきたいと思っている。

 GT300に関しては、どのチームも勝てるポテンシャルやチャンスがあると考えている。シリーズチャンピオンに関しては、そうしてランキング上位にきたユーザーチームがしっかりと獲ってほしいと思っている。

2026年シーズンの目標を語る斉藤氏

横浜ゴムのモータースポーツ活動は全日本スーパーフォーミュラ選手権やニュルブルクリンク24時間レースなどに……

 このインタビュー終了後に、GTAは2027年からのスーパーGTコントロールタイヤのサプライヤーをGT500はブリヂストン、GT300はダンロップと発表したため、来年以降横浜ゴムがスーパーGTにタイヤを供給する可能性はなくなった。これまでGT300への大多数への供給、そして継続してGT500への供給を行なってきた横浜ゴムの姿がスーパーGTから消えてしまうのは非常に残念だ。

 しかし、横浜ゴムがモータースポーツ活動を辞めてしまう訳ではない。例えば、日本のトップフォーミュラカテゴリーである全日本スーパーフォーミュラ選手権にワンメイク供給を行なっており、「YOKOHAMA」のロゴはスーパーフォーミュラの車両やサーキットで見かけることが可能だろう。

 海外ではニュルブルクリンク24時間レースや、それを中心としたNLSのレースで「YOKOHAMA」や「ADVAN」のロゴを確認できる。来年以降もこうした活動は継続される可能性があるので、ファンとしても期待したいところだ。

横浜ゴムはスーパーGTは卒業するが国内最高峰のフォーミュラレース、全日本スーパーフォーミュラ選手権ではワンメイクとなり、サステナブルタイヤなどの開発も続けていく