インタビュー
勝利にこだわるブリヂストン、GT500クラス完全制覇を狙うために開発をさらに加速する
スーパーGT参戦タイヤメーカーインタビュー2026「ブリヂストン」編
2026年8月21日 07:00
スーパーGTは、1994年の全日本GT選手権として本格的にシリーズが開始されて以来、屋根付きのレーシングカーが2つのクラス(GT500とGT300)に分かれて同じレースを戦う、異種格闘技のようなユニークさが受けて日本で最も人気があるレースシリーズとなっている。そのユニークさの1つとして、どちらのクラスにも複数のタイヤメーカーが参戦していて、タイヤメーカー同士の競争が行なわれていることがある。
現在スーパーGTに参戦しているマニファクチャラーの中で、トップクラスになるGT500の絶対王者として君臨しているのがブリヂストンだ。GT500では2016年以降10年連続でブリヂストンタイヤ装着車両がシリーズチャンピオンを獲得し続け、今シーズンも開幕戦から第3戦まで優勝し、どのレースでも9位までを独占するなど圧倒的優位にシリーズを進めている。
今回はブリヂストンのスーパーGTの活動についてブリヂストン 執行役 CPO 兼 グローバルモータースポーツ管掌 今井弘氏、ブリヂストン モータースポーツ推進部門長 内田達也氏に話を聞いてみた。
F1や国内トップフォーミュラなどにタイヤを供給してきた60年以上のモータースポーツの歴史
ブリヂストンは1931年に福岡県の久留米市で創業したタイヤメーカーで、連結子会社を含めると従業員数が11万5千人を超える大企業。グローバルでは仏ミシュラン、米グッドイヤーとトップ3を争う日本最大のタイヤメーカーだ。そのトップ3の中でもミシュランとブリヂストンはシェアでほぼ均衡しており、ブリヂストンがトップだったり、その逆にミシュランがトップになったりと、年によってトップを入れ替えるような熾烈な競争をグローバルで展開している。
またブリヂストンは、モータースポーツ活動に熱心な企業としても知られ、1963年の第1回日本グランプリにタイヤを供給して以来、60年を超えるモータースポーツ参戦の歴史を持っている。
古くは全日本F2、F3000、フォーミュラニッポンのような国内のトップフォーミュラ、さらには1997年からはF1世界選手権に参戦し、2007年からのワンメイク供給時代を経て、2010年に供給を終了するまで14年にわたって供給を行ない、2000年~2006年までの永遠のライバルともいえるミシュランとの激しいタイヤ戦争時代は今でもモータースポーツファンの間では語り草となっている。
スーパーGTにも長年にわたってタイヤを供給し続けていて、スーパーGTの前身となる全日本GT選手権の時代からトップカテゴリーとなるGT500、また近年はGT300にもタイヤを供給していて、GT500では2016年から10年連続で、GT300に関しては昨年(2025年)、2023年、2019年、2018年にチャンピオンを獲得するなど、絶対王者として君臨している。
もう1つの側面としては、GT500車両のうち、14台中12台がブリヂストンタイヤを履いている。つまり、GT500車両のうち約86%の車両がブリヂストンのタイヤを履いている計算になり、文字通りGT500の足下を支えているのがブリヂストンといっても過言ではない。
ブリヂストンがサポートしているGT500マシン
| カーナンバー | マシン | ドライバー |
|---|---|---|
| 8 | ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GT | 太田格之進/大津弘樹 |
| 12 | TRS IMPUL with SDG Z | 平峰一貴/ベルトラン・バゲット |
| 14 | ENEOS X PRIME GR Supra | 福住仁嶺/大嶋和也 |
| 16 | ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GT | 野尻智紀/佐藤蓮 |
| 17 | Astemo HRC PRELUDE-GT | 塚越広大/野村勇斗 |
| 23 | MOTUL Niterra Z | 千代勝正/高星明誠 |
| 24 | リアライズコーポレーション Z | 名取鉄平/三宅淳詞 |
| 36 | au TOM'S GR Supra | 坪井翔/山下健太 |
| 37 | Deloitte TOM'S GR Supra | 笹原右京/ジュリアーノ・アレジ |
| 38 | KeePer CERUMO GR Supra | 大湯都史樹/小林利徠斗 |
| 39 | DENSO KOBELCO SARD GR Supra | 関口雄飛/サッシャ・フェネストラズ |
| 100 | STANLEY HRC PRELUDE-GT | 山本尚貴/牧野任祐 |
ブリヂストンがサポートしているGT300マシン
| カーナンバー | マシン | ドライバー |
|---|---|---|
| 2 | HYPER WATER INGING GR86 GT | 堤優威/卜部和久 |
| 31 | apr LC500h GT | 小高一斗/小山美姫/チャーリー・ブルツ |
| 32 | ENEOS X PRIME AMG GT3 | 石浦宏明/鈴木斗輝哉/小林可夢偉 |
| 52 | Green Brave GR Supra GT | 吉田広樹/野中誠太 |
| 65 | LEON PYRAMID AMG | 蒲生尚弥/菅波冬悟 |
| 96 | K-tunes RC F GT3 | 新田守男/高木真一 |
また、日本ではもう1つの柱として「スーパー耐久」へのタイヤ供給がある。2023年に当時のタイヤサプライヤーの工場で火災が起きたことで供給が困難となり、急きょブリヂストンが供給を決め、スーパー耐久のシリーズ存続が危ぶまれる状況を救った。今やスーパー耐久は自動車メーカーの走る実験室として使われるなど、日本の自動車産業にとって重要なシリーズで、そこにもブリヂストンはワンメイク供給を行なっている。
グローバルには、ファイアストンブランドで、インディカーシリーズにタイヤをワンメイク供給。また、今年の末に開幕する予定のBEV(バッテリ電気自動車)の世界最高峰レース「フォーミュラE」の26/27シーズンでは、ブリヂストンがワンメイク供給することがすでに発表されている。新シーズンではGen4と呼ばれる新型車両が投入され、車速などが他のフォーミュラカー並みに引き上げられる計画で、ファンの注目度も高まっている。
「勝って兜の緒を締めよ」を地でいくブリヂストン、狙うはGT500の完全制覇
──今シーズンのスーパーGTでのレースを振り返ってどうか? GT500とGT300それぞれの振り返りを
今井氏:GT500はまあまあの滑り出しだったと考えています。開幕戦の岡山は通常であればもう少し暖かい気温のレースでしたが、今年は予選に向けてどんどん気温が下がっていきました。しかし、オフシーズンの間にさまざまな異なる気候条件に合わせる開発をしてきたことが、予選でも決勝でも上位をある程度独占できた結果につながったと考えています。
第2戦富士に関してはGRスープラ勢が激しいトップ争いをしてくれて、非常にいいレースをお見せすることができ、タイヤの面でも少しは貢献できたかなと思っています。
第2戦では(それまでトップを走っていた14号車 ENEOS X PRIME GR Supraが)ピットストップした後(優勝した36号車 au TOM'S GR Supraが)オーバーカットに成功して、サクセスウェイトを積んでいるとは思えないほど強力な性能を発揮しました。これはチームやドライバーが、しっかりタイヤを使ってくれたことも大きいと感じています。
──こんなに上位を独占して「まあまあ」だなんていわれたら競合メーカーさん涙目になりそうですが……
今井氏:まだまだ足りないと思っています。例えば第2戦富士ではダンロップさまの64号車が予選で5位に入りました。われわれとしては上位を全部埋めたいと考えており、それを実現できるように、今シーズンの残りも全力で開発を続けていきます。
──GT300の方はどうか?
内田氏:GT300もシーズン前のテストからしっかり準備してきました。残念ながらどちらのレースでも表彰台の真ん中には立てていませんが、昨年に比べてわれわれがサポートするチームが2台増えた(32号車 ENEOS X PRIME AMG GT3と96号車 K-tunes RC F GT3が新たにユーザーチームとして加わった)こともあり、どのチームもしっかりとポイントを積み重ねて、年間シリーズではいいポジションにきていると考えています。
第3戦のセパンが延期になり、その影響がどうなるかは今見ているところですが(このインタビュー後に最終戦のモビリティリゾートもてぎで代替戦が行なわれることになった)、少なくとも開幕からの2戦を見ていくと、われわれのユーザーチームはわるくないところにいると思っています。
──ブリヂストンが圧倒的な結果を残していることで、ブリヂストンが負けるとニュースになるような状況ではあるが、スーパーGTにブリヂストンが参戦している意義を教えてほしい。
今井氏:社会的な意義でいえば、スーパーGTは日本のモータースポーツ文化を支えている大きな柱の1つです。弊社としてもモータースポーツ文化を支える、ひいては日本の自動車産業を支えると考えており、レースを観戦した観客が、面白そうな活動をやっているねと認知していただくことが、将来につながるものと考えています。特に若い方、お子さんなどこれからの日本を背負っていただく、あるいはこれからの世界を作っていく皆さんに1人でも多く見ていただけると嬉しいと思って活動しています。
もちろん弊社社内でも人材育成、技術開発などのメリットがあると考えていて、鍛える場としても活用している側面はあります。来年からはワンメイクになりますが、これまでのマルチメイクに参戦するメリットは大きかったと考えています。
自分が入社する以前の話ですが、1980年代の前半に星野一義さんとブリヂストンが欧州のF2に参戦している映像があり、それを見て挑戦する姿が格好いいと感じて、ブリヂストンへの入社を決めました(筆者注:今井氏はブリヂストンに入社後F1開発に関わり、その後マクラーレンF1に移籍して2024年まで同チームのタイヤのみならずサーキットにおけるチーフエンジニアなどを務め、2025年からブリヂストンに戻ってモータースポーツの責任者となっている)。われわれの活動が、40年前の私のような未来を背負って立つような若者に届くと嬉しいと思っています。
──今シーズンのタイヤが昨シーズンに比べて変わったところを教えてほしい。
今井氏:相変わらず“黒くて丸い”というところは何も変わっていないですね(笑)。ですが、中身は去年のシーズン、そして今シーズンを通じて大きく進化しています。構造(コンストラクション)と呼んでいる中身の部材の組み合わせ、例えば材料などが進化しています。
また、ゴム(コンパウンド)に関しても進化しています。それは予選の性能を上げるのはもちろんですが、300kmや3時間といった長いレースでの安定した性能が重要になってくるので、そこに注力した開発を続けています。
もう1つ重要なことは、レースではさまざまな気候条件、そして路面温度などに対応する必要があることです。例えば路面温度が変わった時に、性能が大きく変わってしまうと非常に使いにくいタイヤになってしまいます。そのあたりをどんな条件でも使いやすいようにしていく、そうした方向での開発を続けています。第2戦の富士でも、想定していた温度レンジの上の方の温度でしたが、きちっとそれにも対応できるタイヤを作れたので対応できていました。
内田氏:GT300に関しては、昨年までの性能を見るとウエットに関して課題があると考えていたので、今年のオフシーズンにウエットタイヤを一新して、性能を底上げしたウエットタイヤで臨んでいます。ただ、幸か不幸か、まだ使用機会がないので、今週末は雨予報もあるので、そこで機会があれば確認していきたいです。
また、GT300は車両にバリエーションがあり、GTA-GT300もあればFIA-GT3もあります。このためタイヤにかかる入力も異なっており、多数のバリエーションにきちんと対応していく必要があります。ただ、そこはGT500と同じように、使いやすいコンパウンドを用意して、長く性能を維持できるタイヤ造りを心がけています。
──スーパーGTはここ数年、距離を伸ばしながら持ち込めるタイヤのセット数を減らすことで、レースの面白さと持続可能なレースのバランスを取ってきたがその影響は?
今井氏:もちろん影響がないわけではないですが、われわれの開発哲学はピーク性能をきちんと出して、それを長い距離でずっと出せるようにするもので、それはスーパーGTが目指している方向性と合致しています。そうしたタイヤをきちんと開発することが、結果につながると考えています。
距離を伸ばしても、持ち込みのセット数はむしろ減らす方向なので、1つのタイヤで走る距離を、いかに性能を落とさず実現するかという技術を磨いています。週末に持ち込むセット数が減るということは、生産タイヤ数が減るということなので、その意味でエコな方向に向かっています。それは重要なことです。技術的に難しくなり、持続可能なレースを実現するという意味で、この方向性は重要だとわれわれは評価しています。
──今年はマルチメイク最終年となるが、ブリヂストンにとって最も印象的なレース、あるいはシーズンはどれか?
今井氏:私はF1にいっていて、ブリヂストンを離れていた時期があったので、多くのスタッフに聞き取りを行なってみましたが、多くのスタッフが2022年の最終戦 モビリティリゾートもてぎでのレースで、12号車 カルソニック IMPUL Z(当時)がチャンピオンを獲得したレースですね。この年は日産が新型Z GT500をデビューさせた年で、他社のタイヤを履いたZとわれわれのタイヤを履いたZが最終戦まで激しいチャンピオン争いを繰り広げており、最終戦に2.5ポイント差と非常に激しい争いをしていました。
その年は、他社のタイヤを履いたZと比較して予選が劣勢で推移していましたが、モビリティリゾートもてぎはなかなか抜けないコースなので、予選にかなり振ったタイヤを作っていき、予選で前(筆者注:12号車が予選3位、タイトルを争っていた3号車が4位)となり、レースでもそのまま前(筆者注:2位)でゴールしてチャンピオンを獲れました。非常に劇的なチャンピオン獲得で、弊社にとって非常に印象に残るレース、シーズンだったと思っています。ブリヂストンにとっては、それまで日産のチャンピオンを獲ってきたのが他社のタイヤを履いた車両で、1台だけインパルの車両だけが弊社のタイヤで、そうした長い関係性があってのチャンピオン獲得だったので、当時のスタッフなどは非常に喜んだと聞いています。
内田氏:GT300はまだ記憶に新しいですが、昨年の最終戦モビリティリゾートもてぎで、65号車 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/菅波冬悟組)がチャンピオンを獲った時ですね。あの時は競合タイヤを履いた56号車がチャンピオンになると誰もが思っていました。しかしレースの展開に恵まれて65号車が終盤に順位を上げてわずか1点差という、劇的な展開でチャンピオンを獲れました。弊社のスタッフも嬉しくて泣いてしまうぐらいで……とても劇的な展開だったので、昨年最終戦が一番記憶に残っているレースです。
──マルチメイク時代においてブリヂストンにとって技術のブレイクスルーが大きかった時期はいつか?
今井氏:それはハッキリしていて2016年です。2011年~2015年までの間、2013年を除き競合メーカーにチャンピオンを獲られていた時期があります。この時期は日産のGT-Rが非常に強い時期で、競合メーカーのタイヤを装着した車両がチャンピオンを獲っていました。弊社としては勝ちたいと強く思っているので、この時期にもさまざまな取り組みを行なっていました。例えば予選用だけでなく、レース重視に振ったスペックなどさまざまなタイヤを用意していましたが、試行錯誤がうまくハマらない時期でした。
そこで、2016年に向けてレースをちゃんと安定して走るタイヤを開発するという形に方針を定めて開発を進めた結果、それを達成してチャンピオンを獲得できました。そこから10年連続でチャンピオンを獲得してきたので、2016年はその後にも大きな影響を与えるブレイクスルーの年だったと考えています。
──今シーズンの目標を教えてほしい
今井氏:GT500に関しては、全レースのポールポジション、全レースの優勝、さらに全レースで上位を独占する、それが目標です(笑)。
内田氏:GT300に関しては非常に競争が激しいカテゴリーなので、シリーズを通じてコンスタントに性能を発揮し、ユーザーチームをしっかりとサポートして、シリーズポイントの上位に多くの車両を送り込むことが目標となります。
第4戦富士ではGT500、GT300どちらでも優勝し、ランキング上位を占めた
このインタビュー後に行なわれた、第4戦富士では、ブリヂストンタイヤを装着した100号車 STANLEY HRC PRELUDE-GT(山本尚貴/牧野任祐組、BS)がGT500で優勝しただけでなく、52号車 Green Brave GR Supra GT(吉田広樹/野中誠太組、BS)がGT300で優勝し、GT500、GT300両クラスでブリヂストン装着車が優勝している。
シリーズポイントは、GT500は36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/山下健太組、BS)がリードし、ブリヂストン装着車がランキング上位12位までを独占している状況。GT300は第4戦で優勝した52号車 Green Brave GR Supra GTがトップで、2位も2号車 HYPER WATER INGING GR86 GT(堤優威/卜部和久組、BS)が同ポイントで続くなど、目下絶好調という様相だ。
また、このインタビュー終了後に行なわれたスーパーGTのプロモーターGTAによる記者会見で、2027年以降のGT500のコントロールタイヤのサプライヤーとしてブリヂストンが選ばれたことが明らかにされている。
これに関してブリヂストンは「スーパーGTは、国内最高峰の4輪レースであり、GT500はその中でもトップカテゴリーであるため、タイヤサプライヤーに選ばれたことを大変光栄に思います。今後も1人でも多くのファンに喜んでいただけるレースをGTAと共に作っていくことに情熱をかけていきます」とコメントを発表しており、2027年以降もスーパーGTのレースシーンでブリヂストンのロゴを見られる。















