レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】横浜ゴム「アイスガード SUV G075」

 横浜ゴムでは、これまでの「T☆MARY」の約4倍と圧倒的に広く、旭川市街地からのアクセス性もよい、北海道タイヤテストセンター「TTCH(TIRE TEST CENTER HOKKAIDO)」を新たに開設したばかり。これによって直線の評価には手狭だった問題が解消したほか、より高速での評価が可能となったことで、ますますよいものをつくれるようになったと意気込んでいるところだ。

 そんな横浜ゴムから登場したスタッドレスタイヤの新商品は「アイスガード SUV G075」。

 これまでSUV向けスタッドレスタイヤについては、「ジオランダー」ブランドにおいて商品をラインアップしていたが、昨今はクロスオーバーや都市型SUVの人気が高く、それらのユーザーは乗用車と同じ感覚でクルマを使い、タイヤを選んでいる傾向がある。それを受けて横浜ゴムでは、SUV向けスタッドレスタイヤについても、乗用車向けに展開していた「アイスガード」ブランドから商品を出す方針にしたという。

 アイスガード SUV G075のコンセプトは、従来のジオランダーを圧倒する「氷上性能」と「効き長持ち」。横浜ゴムが行なったユーザー調査によると、スタッドレスタイヤに求められている性能は「氷上ブレーキ」がダントツで高く、ついで「雪上ブレーキ」「コーナリング」「氷上発進」「効き長持ち」「摩耗ライフ」という順番だった。

 そこで、雪上性能と摩耗ライフを高いレベルで保ちつつ、氷上ブレーキ性能を飛躍的に高めるとともに、効き長持ちと燃費性能も向上させたスタッドレスタイヤの開発が必要と考え、具現化したのがこの新商品である。

従来品の「ジオランダー I/T-S」と比較して氷上制動性能を23%向上させた「アイスガード SUV G075」
専用トレッドパターンによって高い接地性とエッジ効果を発揮するという

 見た目についても、従来品の「ジオランダー I/T-S」がサイドウォールの製品ロゴを凸モールディングにして力強さなどを表現していたのに対し、アイスガード SUV G075ではほかのアイスガード製品や乗用車系タイヤと同じく凹モールディングを採用。スマートなルックスで、より格が上がったように見えるのもよい。

従来品となるジオランダー I/T-S

氷盤試験路で制動力の違いを新旧比較

試乗車はトヨタ自動車の「RAV4」。左がジオランダー I/T-S装着車、右がアイスガード SUV G075装着車

 まずは氷上試験路で制動性能を試す。従来品のジオランダー I/T-Sとアイスガード SUV G075を比較するため、トヨタ自動車の「RAV4」にそれぞれのタイヤを装着した2台の試乗車が用意された。

 30km/hでの走行中にギヤをニュートラルにして、滑走させてフル制動をする。目印のパイロンは、ブレーキングポイントから20mのところから5m間隔で設置されている。この日は気温が高めで路面が安定しておらず、何度か走った結果にバラツキがあったのだが、傾向としては、やはりアイスガードのほうが短い距離で停止した。

 フィーリングもけっこう違って、むろんABSの介入の仕方も違えば、アイスガードのほうがブレーキの踏み始めから止まるまでの減速Gがわずかながら大きく、完全停止する際にもギュッと路面を掴む感覚がある。新たに採用したという「スーパー吸水ゴム」や「新マイクロ吸水バルーン」など、いかにも路面とタイヤの間にできた水膜を除去するための最新技術が効いている印象だ。

制動性能を試した氷盤試験路
ジオランダー I/T-S装着車
取材日は気温が高めで路面の状況が安定しなかった
アイスガード SUV G075装着車

ショートコースで4種類のモデルを乗り比べ

サイズや重量の違いがあるモデルで乗り比べ

 さらにショートコースでは、サイズや重量の違う4種類の試乗車を乗り比べて、各車両とのマッチングなど総合的な評価を行なった。100mあまりの短いコースではあるが、途中にかなりきついコーナーや滑りやすい箇所もあるという状況。そんななか、乗用車ベースのクロスオーバー系車種はおおむねイメージどおりに素直に走ってくれて、トラクションコントロールや横滑り防止装置のON/OFFなどを試してみても、走りやすさに変わりはなかった。

ジープ「チェロキー」

 試乗したなかではダントツの巨漢であり、重心も高い「ランドクルーザー」では、さすがにABSの介入が早く、なかなかリリースされないという状況があったものの、よたよたと重さに負ける印象はなく、操縦性はしっかり確保されていた。

重量級の「ランドクルーザー」の対応サイズもラインアップ

 アイスガード SUV G075は荷重の移動が大きい車両に合わせて剛性を持たせているので、ある程度の車両重量があって車高も高いクルマのほうがマッチングがよいはずと開発関係者は語る。

 それゆえ重量級のランクルでも問題なく走れたのだろうが、このタイヤがターゲットとするクロスオーバー系にもさまざまなモデルがあり、車両重量や重心高の違いによってマッチングが適切かどうか微妙なケースもある。

 例えば本田技研工業の「ヴェゼル」のように車高がそれほど高くない車種では、普通の乗用車用の「アイスガード 5 プラス」等のほうがマッチングがよいことも考えられるとのことで、そこはケースバイケースとご理解いただきたい。

圧雪ハンドリング試験路で新旧スタッドレスタイヤを乗り比べ

最後にマツダ「CX-5」の試乗車を使い、圧雪ハンドリング試験路でアイスガード SUV G075とジオランダー I/T-Sを乗り比べ

 最後に圧雪ハンドリング試験路でマツダ「CX-5」に試乗した。とてもきれいに整備されたコースだが、路面は圧雪とはいえ磨かれて滑りやすくなっていたのでなおのこと、アイスガード SUV G075とジオランダー I/T-Sの違いは明らかだったようだ。

圧雪ハンドリング試験路

 発進性からして少なからず差がある上に、コーナリングでステアリングを切ったときの応答性もかなり違えば、そこからアウトに滑り続けてしまうジオランダー I/T-Sに対し、アイスガード SUV G075は小さなスリップアングルを維持しながら狙ったラインをトレースしていきやすい。

 アクセルのON/OFFでの反応も違って、荷重移動により曲がり具合をコントロールしやすい。要するにグリップ感がまったく違うからだ。これにはエッジ効果を高めたり、接地面積の拡大を意図した新しい各種技術が効いていることに違いない。

 このところ、他ブランドも含めて新しいスタッドレスタイヤを試すたび、その進化に驚かされてばかりだが、横浜ゴムが送り出した最新モデルもその例からもれることはなく、基本性能の高さを実感させられた。さらにはブランド変更に相応しいドライ路面での静粛性など快適性や燃費の向上も図られているという。

 そんなアイスガード SUV G075は、これまでにも増してより多くのユーザーに恩恵をもたらすことだろう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳