【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第39回:予選失敗での下位スタートや盗難被害!?も起きたスリリングなシーズン最終戦

2017年のシーズン最終戦は「TGRF」の併催で富士スピードウェイが舞台

 泣いても笑っても今年最後となるGAZOO Racing 86/BRZ Race。今回の第10戦富士ラウンドは、「TGRF(トヨタ・ガズー・レーシング・フェスティバル)」の中で開催されることになっており、例年とは異なるスケジュールとなった。TGRFはある意味お祭りなわけで、これまでは特別戦として扱われ、プロクラスとクラブマンクラスが混走で走ったり、はたまたプロとアマがタッグを組んでレースが行なわれるなど、さまざまな取り組みが行なわれてきた。だが、今回はシリーズ戦の1つとして開催されることになったのだ。つまり、シリーズポイントにも関係してくる大切な1戦なわけだ。これまでのシリーズポイントは4位。チャンピオンは前回の鈴鹿戦がキャンセルとなった時点で決定してしまったが、少しでも上を目指したいものである。

2017年最後のレースなのに、TGRFのリハーサル日ということで家族などの関係者しか招待できない寂しさ

 クラブマンクラスはレースウイークの土曜日に予選決勝が行なわれるスケジュールとなる。日曜日が本番となるTGRFのリハーサルの合間にレースが行なわれるという異例のものだった。結果として観客はゼロ。関係者のみを招待できるという寂しさである。素人レースだからお客さんの前で走らせるわけにはいかないということか? ハッキリ言って若干やさぐれ気味である(笑)。

 まあ、決まってしまったスケジュールにケチをつけても始まらない。土曜日のレースを目指して準備を始めるしかない。そこでいつもよりも1日早く、木曜日に富士入りして練習走行を開始した。実はこの日、いつも同行してくれる我がチーム・レボリューション&プロクラスの佐々木雅弘選手は、筑波サーキットで自動車雑誌のタイムアタック大会があり、富士に入ることはできないスケジュールだったのだ。そこで久々に我が愛車にジャッキをはじめとする工具を満載して、1人レーシングを実行。積載車も使わず、自走でサーキットに訪れるのも久々だ。その上でメカニックからドライバーまでこなさなければならない。ブッたるんだ身体にカツを入れ、走行しては空気圧を測って車高やプリロードを変更してと、自分なりのメニューを進めるが、かなり疲れたのは言うまでもない。

 そこでちょっとした事件があった。サーキットを走っている間、荷物や工具はサーキットの駐車枠に置き去りとなるのだが、そこで盗難事件が発生! 近くにたまたま86レーサーがいて、犯行に気づき犯人を追い詰めたらしいが「ヤツはすぐに天高く舞い上がりまして……」。そう、犯人はなんとカラス! 朝コンビニで買った封を開けていないタバコを1箱くわえていったのだそうだ……。カラスがタバコを吸っている姿を想像するとなんだか笑えるから許すが、いずれにしても被害額420円で済んだのは不幸中の幸い。サーキットではこんな盗難事件が発生することもある。やはり1人レーシングはいろいろと厄介だ。同じようなことをされている皆さま、貴重品の管理には気を付けて!

盗難事件が発生した犯行現場。被害額は420円とはいえ、やはり1人レーシングはいろいろと厄介だ

 そんな事件でガックリしながら作業していたせいもあるのだろう。最後の走行が終わり、次の日に試したいセットを施して初日は終了となったが、翌日レボリューションのメカニックにセットをチェックしてもらうと、「橋本さん! セットが左右で違うんですけど~」とあきれ顔。やはりドタバタ&落胆ぎみの素人メカじゃどうにもなりませんわね。反省である。

 そんなこんなで、金曜日にはきちんとしたセットで走り出してアタックを繰り返すが、どうもタイムが伸びない。走り出したときの外気温は3℃で、本来ならスタッドレスタイヤを装着して走ったほうがいいような季節。しかも相棒のブリヂストン「POTENZA RE-71R」は真夏にタレが少ない、暑い時期に威力を発揮するタイヤなのだからそれも仕方なしか。けれども、そのなかで最善を尽くそうとセッティングしたり、車載動画を見直したりしていた。

 レース本番の土曜日。予選はなんと早朝7時45分から開始となる。しかも、いつもより予選時間は短く、たった10分しか走らせてもらえない。きっと主催者はTGRFのリハーサルを行なうのが優先なのだろう。とにかく、クラブマンクラスのスケジュールはかなりタイトだ。86はそもそもリアタイヤの暖まりが遅く、RE-71Rの組み合わせの場合はベストラップを出すにかなりの周回数が必要。練習時にも4~5ラップ目にベストが出ることが多かった。だが、10分の予選となると周回数は制限されてしまい、どんなに速く走ったところで4ラップするのがやっとという状況。よって、いつもより走り出しのエア圧を上げ気味にしてアタックを行なうことにした。外気温は2℃。大丈夫だろうか?

 10分の予選では最後の最後でアタックを開始。どのコーナーも無難にまとめて走っていたが、ヘアピンに差し掛かったとき、目の前を行くクルマがスピン! 見事なまでにレコードライン上を塞いでしまいTHE END。ウォームアップ中とほとんど変わらぬタイムを記録するのがやっとという消化不良で予選を終えることになってしまった。結果として今季ワーストグリッドの総合33番という位置に沈んでしまった。

 実はTGRF本番の日曜日には、僕のクルマをブリヂストンブースに飾るという約束をしていた。BS関係者からは「展示で使いたいから無傷で終えてくださいね」と釘を刺されていたにも関わらず、混戦が予想される中団以降のグリッドである。胃が痛くなることこの上なしだ。けれども、そんな位置で最終戦を終えたくはない。前半で可能なかぎり順位を上げるために、エア圧はスタートから万全でいけるように高めで勝負! 後半は熱ダレが予想されるが、そんなことは後で考えようというわけだ。

クラッシュ多発の修羅場をくぐり抜け20台をパス

 レースがスタートすれば、案の定周囲は大混乱。タイヤのウォームアップが万全じゃない車両が多いせいか、テールが流れて修正しきれず、周囲をクラッシュに巻き込んでいる車両が多数……。1~2周目は修羅場である。ボコボコに凹んでいるクルマあり、コース外の砂利がまき散らされていたり、そこをどうくぐり抜けるかで必死だった。だが、ラッキーなことに誰とも絡まずに次々に前走車を抜き、1周目には22位、2周目には21位、3周目には19位と順調に順位を上げ、チェッカーを受けたときは14位になっていた。結果として上位でペナルティ車両が出たために13位を獲得した。周回数が10周というスプリントレースで20台も抜けたのだから……。満足しちゃイカン順位ではあるが、今年最後の締めくくりとしてはレースを楽しめたことがなにより。クルマは無傷だったと言いたいところだが、残念ながら前から飛んできた飛び石か飛びパーツ(?)のせいでフロントウィンドウにヒビが入っていたことを確認。予選で沈んだ罰といったところだろうか。おかげで翌日の展示には迷惑をかけることなく、ブリヂストンブースでの任務も無事に完了することができたのだった。

序盤は1コーナーの目の前で「スリーワイド」が繰り広げられるような修羅場だったが、どうにか必死にくぐり抜けて14位でチェッカーを受けた

 というわけで、最終戦はポイントを獲得することもなく終わったわけだが、ラッキーにもシリーズポイントに変化はなく、シリーズ4位でシーズンを終えることができた。今季は開幕戦のポールポジションから始まったが、その後は戦績が沈むばかりで、接触やクルマが壊れてリタイアなど苦しいことも多かった。だが、たった1回だけタナボタ気味ではあったが優勝できたことは何よりうれしかった。厳しいことだらけだったが、10戦中1回の幸運に救われたような気がする。新車にスイッチし、参戦体制も改めて家計が苦しくなるほど大金を注ぎ込んだ割には振るわずの結果だったが、振り返るといろいろあったけれど頑張って参戦していてよかったと思えることも多い。何だかんだあるけど、やっぱりレース好きはやめられそうにない。5シーズン目を終了してもなお、GAZOO Racing 86/BRZ Raceは色褪せることなく、むしろ難しさを増すことで挑戦しがいのあるレースなのだと感じている。まだ、来期のことは何も決まってはいないが、またこの場に戻って来られるように努力したいと思う。

2017年はシーズン4位で終了
表彰式後の記念撮影。来期のことは何も決まってはいないが、またこの場に戻って来られるように努力したい
TGRFのブリヂストンブースでも車両展示の任務を無事終了

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学