【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第6回:“レースを楽しむ”ことに立ち返ることができた第3戦富士

 今年で40歳。数え年では41歳を迎えるワタクシ。聞けば今年の節分以降は前厄に突入しているのだとか。

 たしかに今シーズンの立ち上がりは最悪だった。ウエットコンディションで行われた開幕戦ツインリンクもてぎのレースでは、電子制御の介入にまたもや悩まされ失速。第2戦を迎える前にはその対策を行って菅生へと向かった。だが、今度は凡ミスをして決勝レースを見送るという大失態を展開。悪循環は止まらない。前厄だっていうのも頷ける。

 ……いや、すべてを前厄のせいにしている場合じゃない。そう気持ちを切り替え、クルマのお祓いまで出かけてしまったことは前回お伝えした通り。まだまだレースを諦めちゃいない。

およそ5年ぶりに富士スピードウェイのサーキットライセンスを取得。その後はコソ練を行ってみた

 こんな状態で迎えることになった第3戦・富士スピードウェイ。今シーズンの「GAZOO Racing 86/BRZ Race」は、ここ富士を舞台に4戦ものレースが行われるスケジュールが決定している。そこで、事前にサーキットライセンスを取得することにした。このライセンスがあれば、富士が設定した走行枠で練習走行が可能。もちろんそれは有料となるが、気軽に練習できるようになる。いまだサーキット走行リハビリ中が続くオッサンドライバーにとって、サーキットライセンスはお守りみたいなもんだ。

 だが、そのライセンス取得にはやや手間取った。かつて持っていたことがあるから、お金さえ払えば更新できると思っていたのだが、そうは問屋が卸さない。「2時間の講習を受けていただきます」と受付のオネーサマにいわれてしまった。講習はサーキットでのルールやマナーといった基本的なものを延々と行うメニュー。正直言えば、講習受講日は寝不足であり、案の定、講習中にウトウトしてしまって先生から喝を入れられてしまった……。40歳手前にして教室で叱られるなんて、お恥ずかしいったらありゃしない!

 そんなひと波乱(?)ありながらも、ライセンス取得後はいよいよ富士スピードウェイ本コースを走り出す。シェイクダウンも行えずぶっつけ本番で走った2013年7月のレース以来だ。あの時はレース前日にクルマが仕上がって、セッティングもままならず走ったっけ。それでもシングルフィニッシュ。あのころの勢いを取り戻したいよなぁ……などと考えながらラップを繰り返す。

 すると、昨年のタイムをあっさりと更新。やはりブリヂストンの新製品「ポテンザ RE-11A 3.0」の進化は確かなようだ。まわりにライバルがいなかったため、どの程度の位置にいるかは定かではないが、この時点でのわるい感触はない。減衰力などの軽いセッティング変更を行う程度で、準備万端と判断し、帰路についたのだった。

第3戦富士の前に行ったフリー走行の様子
余談ですが、こちらは前回紹介できなかった第2戦菅生を前に行ったフリー走行時の様子

不幸中の幸いだった予選

 だが、レースウイークが始まってみると、その判断は安易だったことに気づく。ライバルたちはかなり進化を進めており、こちらの進化はさほど振るわず。ともに走ってみれば、苦戦を強いられていることは明白だった。開幕戦、そして菅生での第2戦の流れを見てみてもある程度は想像がついたのだが、ここ富士ではそれ以上に厳しい感覚がある。おまけに富士を地元とするスペシャリストや、どこかで見たことのあるプロドライバーが数多くエントリー。これは手こずりそうだ。

 予選はいつも通り2組に分けられる。ゼッケンを並べて上から順々に1組2組を交互に振り分けられるのだが、今回は1組がシビアなメンツで、2組は和やかムードという下馬評。2組になったオッサンの運命やいかに!?

 予選は気負うことなくいつも通りを心掛け、まずまずの滑り出し。セクター1もセクター2も無難にこなし、あとは最後の登りセクションであるセクター3をまとめればOK。だがしかし、けれども、である。最終コーナー手前でスローダウンしていたクルマが行く手を阻むような位置にいたのだ。避けているようで避けていない微妙な位置にいたそのクルマよ、お願いだからどいて! と懇願しつつ、ややきつめのラインで最終コーナーを立ち上がり、ラップを確認してみると……。なんと練習時に記録したタイムとほぼ同等。現状での力を出し切ったともいえるが、ニュータイヤを入れていたのだから、もう少し伸びてもよかったはず。これで2組の12番手、総合24位という結果に。だが、もしも1組になっていたら、もっと下に位置していたのは間違いない。不幸中の幸いってヤツだ。やはりお祓いが効いているのか!?

スーパーフォーミュラとの併催だった第3戦富士。予選総合24位からどれだけ挽回できたのか、乞うご期待!

レースを楽しむという原点に立ち返った決勝

 かなり後ろからのスタートとなった決勝レース。だが、周囲の面子もツワモノばかり。どこまで上がれるか? それともどこまで下がるのか? 10周のレースが幕を開けた。すると、周囲は大混乱。左側の列は1組の予選順、右側の列は2組の予選順となるグリッド配置が、大混乱を招く要因だったのかもしれない。よりよいタイムを記録している1組の連中が後からグイグイと突いてくるのだ。

 おかげでジャンプアップしたクルマが目の前で他車と絡むクラッシュがオープニングラップで起きた。行く手を阻まれ、仕方なくランオフエリアへと避けた13コーナーアウト側。車載カメラを後でチェックしてみると、そこで38位まで後退していた。順位ダウンは残念だが、グシャグシャになった車両を見ればこれもまた不幸中の幸い。心を入れ替えふたたび戦線に復帰する。

 すると今度はスイスイとオーバーテイクをしていけるから面白い。落ち着いて走ってレースを楽しめるのだから、これもまたよし。途中、まわりにはパドックでよく話をする選手がチラホラ。互いにラインを残しながら、クリーンなレースができたことも楽しめた要因だ。残念ながらレース終盤、38号車の神谷裕幸選手のクルマに後ろから軽く接触してしまったが、お互いに大事に至らずに済んだ。あちらはリアバンパー下がやや変形。こちらは神谷選手の牽引フックがバンパーに突き刺さり、バンパーに穴が開いてしまった。神谷選手、本当に申し訳ありませんでした!

 レース後に謝罪して、お互いに車載カメラをチェックしつつの反省会ができた。互いにアレコレいいながら和気あいあいとできる雰囲気もまた、レースの魅力の1つである。上位選手たちはヒートアップし、接触していい合いになったシーンがあったと漏れ聞いている。あらゆる看板を背負ってプレッシャーを受け、本気でプロ達が挑んでいるレースなのだから、そんなことがあるのも仕方ないのかもしれない。

 僕だってレース結果はもちろん大切。だが、それよりもまずはレースを楽しむことを優先したい。今回もまた苦戦を強いられ、結果は26位に沈んでしまったが、これからもアマチュアレーサーとしてレースを楽しみながら、少しでも上を目指して行きたい。

車載カメラをチェックしつつの反省会には、38号車の神谷裕幸選手(後ろ中央)とともに557号車の大西隆生選手(後ろ左)、81号車の井上尚志選手(後右)も参加。こうして和気あいあいとできる雰囲気もレースの魅力の1つ
レース翌日は箱根で86の取材。レース後にレースカーで直接出向くことができるところもナンバー付きレースのよいところか!?

ラジオ番組で人生初トーーーーク!

 ちなみにワタクシ橋本洋平、ナント人生初となるラジオ番組出演しちゃいました。ラジオパーソナリティであり、インディライツへの参戦経験もあるベテランレーシングドライバー・レーサー鹿島さんの番組「ドライバーズミーティング」(FMヨコハマ/K-MIX/FM山口/クロスFM[福岡]で毎週日曜日18時~18時30分。クロスFMのみ19時~19時30分放送中)で86/BRZレースについてトーク。今回からこのレースに出場するレーサー鹿島さんとともに、レース談義に花を咲かせたのでありました。

 レース後、レーサー鹿島さんに感想を伺うと「レースウイーク金曜日からクルマに乗り始めたのですが、慣れるまでに時間がかかりましたね。まだまだだと思います。86/BRZレースの話を聞いてはいましたが、レベルがかなり高いですね」とのこと。

 レーサー鹿島さんは、元中日ドラゴンズの山崎武司さんが86/BRZレースを始めるためのお手伝いをするため、今回シェイクダウンにきたという。今後も何戦かは出場するらしいが、そう簡単には上位に食い込めないというのが感想だったようだ。シーズン終わりに、ラジオでふたたび反省会をやろうと約束。今後の展開もお楽しみに。

不肖・橋本洋平、人生初のラジオ番組に出演の図
「ドライバーズミーティング」のラジオパーソナリティを務めるレーサー鹿島さん。86/BRZレースについて「レベルがかなり高いですね」と語っていた

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。