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シンプルな機構を高度な制御でコントロールする「アウトランダーPHEV」
(2013/1/30 00:00)
三菱自動車工業の「アウトランダーPHEV」の駆動システムは非常にユニークだ。4輪駆動のハイブリッドカーだが、前輪はエンジンとモーターのハイブリッド、後輪はモーターで駆動する。後輪は、同社の電気自動車(EV)「i-MiEV」同様のシステム。つまりアウトランダーPHEVは、三菱の従来からのEV技術に、新しくフロント部のハイブリッド技術をプラスしたものなのだ。
そこで気になるのはフロントのハイブリッド・システムがどんなもの? ということだ。三菱の公式なリリースや資料には、駆動用モーター(60kW×2)と発電用ジェネレーターがあることと明記されている。しかし、それ以上の詳しい内容は明かされていない。
そこで、今回、アウトランダーPHEVのハイブリッド開発を担当した大久保博生氏に、その詳しい内容を解説していただいた。
エンジンとモーターの間にクラッチ
一番のポイントとなるのが、2リッターエンジンとモーターのパワーをミックスさせる、フロントトランスアクスルの構造だ。その内容は図1のようになっている。
エンジンと発電用のジェネレーターは直結。駆動用モーターとタイヤにつながるデファレンシャルも直結されている。そして、エンジン&ジェネレーターとモーター&デフの間にクラッチが設けられている。図1を見ると分かるが、ここに変速機能は存在しない。非常にシンプルな構造だ。
このシステムがどのように働くのかを、走行シーンごとに説明しよう。
まず、発進から100km/hまでの「EV走行」モードでは、エンジン側とデフの間のクラッチは切り離されている。もちろんエンジンは停止。モーターのみで駆動する。
次に、モーターで駆動しつつ、エンジンで発電をする「シリーズ走行」モード。ここでも、クラッチは切り離されたまま。エンジン&ジェネレーターは始動するが、ほぼ一定回転で回って充電を行う。
厳密に言えば、速度によってエンジンの回転数は変化する。それは電力要求が理由ではなく、エンジンの振動&音が運転手に違和感を与えないようにという配慮のため。速度が遅ければ、発電のためのエンジン回転数は抑えられ、速度が高まると、エンジン回転も高まる。速度が遅いのに、エンジンが高回転で回ると、うるさく感じてしまう。それを防ぐための制御なのだ。
エンジンで駆動するモードも
最後に、モーター駆動とエンジンの駆動をミックスする「パラレル走行」モード。このモードに入るのは、急激な加速を求められたときや、高速走行を行うときだ。ここで初めてクラッチがつながり、エンジンのパワーを駆動輪に伝える。このときエンジン&ジェネレーターからデフには4~5速相当の減速比でパワーが伝わる。つまり、高速クルージング用のギア比に設定されているのだ。
また、このときモーター&ジェネレーターだけでなく、デフ&モーターのすべてが直結状態になる。そのため、ジェネレーターやモーターは、エンジンの力で引きずられることになる。
このシステムの内容を見ると、クラッチをミートしたときに振動が発生しそうなものだ。ところが、アウトランダーPHEVを試乗すると、パラレル走行モードに突入するときの振動がほとんどない。すでに駆動のために回っているモーター&デフに対し、エンジンを始動させて、回転を合わせてクラッチをミートするという作業を行っているのに、振動が発生しないのだ。ここにEVで培ってきた三菱のモーター制御のノウハウがあるという。
アウトランダーPHEVには、エンジン始動用のセルモーターがない。ジェネレーターが、その役割を果たす。ガソリン・エンジンの回転数をモーターと合わせるのは至難の業だが、モーターと同じ電気制御のジェネレーターならば、合わせることができる。つまり、ジェネレーターの力でエンジン回転数を強制的にモーターと合わせることで、クラッチを振動なくミートさせることができたのだ。
「ハードはシンプルにして、高度な電気の制御で滑らかで効率のよい走りを実現しています」と大久保氏は言う。
内容を知ればコロンブスの卵のような話である。EVのノウハウを蓄積してきた三菱自動車だからこそできたハイブリッド・システムと言っていいだろう。