“ラゴンダの復活”が復活する?

ラゴンダ・コンセプト

 つい先日、現在の大成功の端緒となった「ヴァンキッシュ」の名代の復活を発表した英国の名門、アストンマーティン・ラゴンダ。新型ヴァンキッシュは、今年5月のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステで発表された「コンセプトAM310」がとして結実したものだ。

 しかし、その3年前に発表された、ヴァンキッシュ以上に伝統のあるネーミングを持つSUVデザインスタディ「ラゴンダ・コンセプト」については、現在に至っても何らの進展も報告されていないのが現状である。

 1906年に創業した英国自動車界屈指の老舗にして、1935年にはあのW.O.ベントレーの設計による傑作「M45ラピード」で、ル・マン24時間レースの優勝も果たした名門でもあるラゴンダは、第2次大戦後には高性能4ドアサルーンの「ラピード」や「アストンマーティン・ラゴンダ」を製作したが、1990年を最後に、この老舗ブランドは途絶えたかたちとなっていた。

 しかし2009年3月のジュネーヴ・ショーにて、実に十数年ぶりに「ラゴンダ」の名を冠するデザイン習作が登場することになった。それが「ラゴンダ・コンセプト」である。

 このコンセプトカーは、名門の伝統と格式を重視しつつも、迫力満点のフロントグリルなどにSUV的なデザイン言語を取り入れ、かつての歴代ラゴンダ製モデルたちとはかなり様相の異なるクルマとなっていた。シャシーなどの基本コンポーネンツは、メルセデス・ベンツのフルサイズSUV「GLクラス」がベースであると公表。搭載エンジンはバイオ燃料にも対応可能なV型12気筒(アストン製かメルセデスないしはAMG製かは未発表)を想定し、ディーゼル版やハイブリッド版の計画も進行していたとされている。

M45ラピードアストンマーティン・ラゴンダ
ラゴンダ・コンセプト

 さらに半年後の2009年9月になると、アストンマーティンのCEOであるウルリッヒ・ベッツ博士は、「ラゴンダ」ブランドを冠するモデルを復活させる意向を自ら表明したのだが、この前年のリーマンショックに端を発する金融不況が悪化したことに加えて、独ダイムラーとの間で、次期マイバッハの開発・生産委託も含めて進められていたという提携交渉が不調に終わったこと。さらには肝心の「ラゴンダ・コンセプト」のジュネーヴ・ショーにおける評価が今いち芳しくなかったことから、この意欲的なプロジェクトは、いったん頓挫してしまったと言われているのだ。

 ところが今年6月あたりから、英国の自動車専門誌AUTOCARをはじめとする欧州のメディアにて、ラゴンダ・ブランドおよびSUVコンセプトを復活させるべく調査を再開したという未確認情報が飛び交っているのだ。

 ここへ来て急速に再浮上してきた、ラゴンダSUVに関する噂。その背景には、今年のジュネーヴ・ショーにて発表されたベントレーのSUVコンセプト「ファルコン」こと「EXP9F」の存在が大きな影響を与えていると言われている。また、直後の北京ショーではランボルギーニもSUVを想定したコンセプト「ウルス」を発表。ポルシェ「カイエン」が開拓したとされる、スーパーカー並みの性能を持つ超高級SUVのマーケットは、特に中国やロシアなどの新興国を中心に、まさに波乱含みの様相を呈し始めている。そして、そのムーブメントを見逃すわけにはいかないと判断したアストンマーティン・ラゴンダは、再び「ラゴンダ・コンセプト」の可能性に注目した、と見るのが極めて自然な観測なのである。

ベントレー「EXP9F」ランボルギーニ「ウルス」

 アストンマーティン・ラゴンダは、例えば「シグネット」ではトヨタとの提携も行うなど、現代の自動車業界相関図にこだわらないフレキシブルな企業スタンスで実績を挙げている。今後の生産化プロジェクトが再開されたというSUVコンセプトについても、当初の予定どおりダイムラーとの提携を継続させるという観測が主流を占めている一方で、かつては同じフォード傘下で共同歩調を取っていたランドローバーと個別に提携関係を結び、同社から間もなく登場する次期「レンジローバー」をベース車両とする? などという、今や少々突飛にも受けとられかねない噂も存在しているようだ。

 またその一方で、ラゴンダ復活第1弾はアストンマーティンの4ドアスーパークーペ「ラピード」をベースとした超高級サルーンになるのでは? という新情報も飛び出し、この名門ブランドの未来予測を、さらに困難なものとしているのだ。

 イギリス人が今なお愛してやまないラゴンダのブランドネームは、1993年のジュネーヴ・ショーにて発表された超高級サルーンのコンセプトスタディ「ラゴンダ・ヴィニャーレ」で、1度は復活の気配もあったのだが、結局はお蔵入りの憂き目を見ることになった。今回、開発が再スタートしたとされるラゴンダSUVあるいは4ドアサルーンが、19年前のラゴンダ・ヴィニャーレと同じ轍を踏むのか? あるいは往年のごとき栄光を今度こそつかむのか? 今後の行く末を見守っていきたい。

アストンマーチン「ラピード」アストンマーチン「ラゴンダ・ヴィニャーレ」

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(武田公実 )
2012年 7月 11日