フィアット500一族が大増殖?

コンセプト500クーペ・ザガート

 “かの”ルパン三世の愛車としても知られたフィアットの歴史的傑作「ヌォーヴァ500」の誕生からちょうど半世紀後となる2007年7月4日。イタリア全土を巻き込んでのセンセーショナルなデビューを果たした現行型「500」が、今や飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている「フィアット帝国」の躍進を支える大ヒット作となったのは、ご存じのとおり。

 2008年に欧州カー・オブ・ザ・イヤーを順当に獲得した500は、2009年にはオープントップ版の「500C」と「アバルト500」を追加したのち、2010年にはパワーユニットの決定版となった「ツインエア」エンジン搭載モデルも設定。さらに今年3月のジュネーヴ・ショーでは、ハイトワゴン型MPVの「500L」もショーデビューするなど、順調にファミリーを育んできている。

 しかしその傍らで、2011年のジュネーヴ・ショーのフィアット・ブースに参考出品され、世界のファンを魅了した「コンセプト500クーペ・ザガート」の生産化については、その後なんの情報もリリースさせていなかった。ところが、つい先日フィアット・グループ・オートモビルズ本社が株主向けに公表した今後のデビュー予定車リストに、500クーペ・ザガートが2013年から正式な生産モデルとして発売されるという旨が記載されていることが、一部のスクープ系メディアによって明らかにされたのだ。

 フィアットおよびアバルトと縁の深い名門カロッツェリア「ザガート」と、フィアット・チェントロスティーレの協力で制作されたこのコンセプト「500ザガート・クーペ」は、1950年代にヌォーヴァ500シャシーをベースとして、ザガートが製作した同名モデルをヒントに開発されたものとされる。

 ただ、当時の500ザガートがベースとは一切関わりの無い独自のスタイルを与えられていたのに対して、新しい500クーペ・ザガートは、元来クーペ的な500のシルエットを巧みに生かしたことが特徴となっている。

 最大のアイキャッチたるルーフは、ザガート伝統の「ダブルバルブ」。そして、長らくザガートのチーフデザイナーを務めてきた原田則彦氏が得意とする独特のウインドー形状が与えられている。また、コンパクトな500のサイズはそのまま、全高のみ2cmほど低めたこと、そして流麗なスタイルゆえに、シートレイアウトは2+2となっている。

 パワーユニットは、2気筒ターボ0.87リッター「ツインエア」を搭載。そしてフィアット・ブランド車としては初めて105PSスペックが与えられる目算が高い。したがって、排気量1リッター当たりの出力も124PSと世界のトップレベルを達成。トルクも155Nmを誇り、ライトウェイトスポーツカーとしても充分なパフォーマンスが期待できよう。

 消息筋の情報によると、フィアット・グループ側はつい最近、大規模なレイ・オフを行ったとされるカロッツェリア・ザガートでの少数生産委託を断念。500系モデルの大部分が生産されるポーランドのFSM工場か、あるいはフィアット/アバルト500北米仕様を生産しているメキシコ工場にて、比較的大規模な自社内量産を計画しているとのこと。

 量産モデルとなれば、ごく少数のフォーリ・セリエ(イタリア伝統のスペシャルバージョン)よりも安価な価格設定も期待できるところで、その点でも興味深いのである。

500L

 一方、もう一つ話題を振りまいているフィアット500一族が、「500X」。昨今の自動車業界で大流行の兆しを見せているコンパクト・クロスオーバーSUVで、ヨーロッパでも大きな人気を博している日産ジュークを仮想ライバルとするモデルである。

 フロアパンなどの基幹コンポーネンツは「500L」と共用?と推測される一方、英国の自動車専門誌/WEBマガジンの「Autoexpress」などでは、フィアット500シリーズ共通のイメージを与えられた、スタイリッシュなクーペ風のスタイルが組み合わされるとのスクープ情報を展開している。また、この基本レイアウトは、「JEEP」ブランドから発売されるセグメントBクロスオーバーSUVにも流用される目算が高いとのことである。

 パワーユニットはフィアット自慢の「ツインエア」をメインに、EU市場では4気筒マルチジェット・ターボディーゼルも用意される可能性が高いと見られている。

 現時点の500の大成功に甘んずることなく、さらなる攻勢を仕掛けようとしているフィアット帝国。そのアグレッシブな姿勢には、現代自動車業界における「勝ち組」となっている理由が垣間見られるようである。

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http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/wr/


(武田公実 )
2012年 6月 27日