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【東京オートサロン 2018】レーシングホイールの技術が宿る“究極のストリートホイール”「VOLK RACING G16」について聞く

メイド・イン・ジャパンにこだわる理由とは?

「VOLK RACING G16」について話をうかがった株式会社レイズ 営業本部 執行役員/クリエイティブプロデューサーの山口浩司氏。山口氏はVOLK RACING企画開発部部長とモータースポーツDiv.リーダーも兼任している

 1月12日~14日に渡って千葉県の幕張メッセで開催された「東京オートサロン 2018」。このイベントには国内外の自動車メーカーやパーツメーカー、そしてカスタマイズを行なうショップが数多く出展しているので、見どころは非常に多いのだが、本稿では東京オートサロン 2018に出展していた日本のホイールメーカーであるレイズに注目してみた。

 さて、このレイズというホイールメーカーについては、カスタマイズが好きな人なら社名やブランド名を知っているのはもちろんのこと、同社の代表的な商品の名前をいくつか言えるというほどお馴染みのところだ。

 しかし、一般のクルマ好きな人だとレイズという名前は聞いたことがあってもどのような製品を展開しているかまではよく知らないかもしれない。そこでまずは簡単にレイズについて紹介していこう。

レイズのホイール作りのこだわり

レイズのホイール作りのこだわりについて語る山口氏

 日本のアフターマーケットにおけるアルミホイールの販売数は1300万個近くという数字になっているが、マーケットの中で価格帯を競争力にしていこうとすると海外生産を選ぶケースが多い。具体的に言えば、日本で販売されているアフターマーケットのアルミホイールでは約9割が海外製というのが現状だ。しかし、そんな状況の中でレイズは企画から設計、製造、販売までをすべて自社で行なう“純日本製のホイール作り”をしていて、これが同社の大きな特徴である。

 それにしても今の時代、ホイールに限らず多くの企業が中国などに生産拠点を持ち、製造法を監督管理することで日本国内生産に劣らない品質のよい製品を作っているのに、なぜレイズは国産にこだわるのか? ここに疑問を持つ人もいるかと思うが、それこそレイズがカスタマイズの世界で高評価を受けているポイントでもあった。

 今回、話を聞かせていただいたレイズの営業本部 執行役員の山口浩司氏は、「クルマの進化や経済の方向性など、アフターマーケットのホイール販売に関わる物事はドンドン変化します。また、お客様の中には高級車を買ってゆっくり走りたい人もいるし、スポーツカーで軽快に走りたい人もいる。そしてエコカーを購入された人なら燃費を伸ばすような走りをしたい人もいらっしゃいます。では、そんなニーズに合わせていくにはどうすればいいのか? というのが大事な部分です。ただデザインを新しくした新作を出すだけではなくて、ニーズを追いかけることこそ我々のやっていきたい部分で、そこにフレキシブルに対応するためには他所ではなく日本に自社工場が必要なんです」と語る。

 確かにレイズには、いつも最先端のクルマに履かせるための新作ホイールがラインアップされる。それもただ“デザインを新しくしました”というだけでなく、製法を変えたり性能を高めたりと“もの作り的な進化”を伴った新製品が登場する。これこそ山口氏が言っている“我々のやりたいこと”なのだろう。そしてカスタマイズ、とくにモータースポーツの世界ではデザインだけでなく性能の高さが重視されるだけに、レイズのホイール作りの姿勢はユーザーの気持ちにぴったりマッチする。ゆえに、このジャンルにおいてはとくにレイズホイールの装着率が高い。このように、ホイール作りにおいて“本当の意味での新しさ”を追求しているのがレイズというホイールメーカーなのだ。

東京オートサロン 2018でのレイズブース。ブランドごとに区分けされていたが、今回注目したのはレイズが得意とする鍛造ホイール「VOLK RACING」について
日産自動車「GT-R」が履いているのは最新モデルの「VOLK RACING G16」。ドレスアップ向けのデザイン系ホイールに見えるほどの線のキレイさを持つが、実は紛れもないレーシングホイール。最新の製法によって製造されている
VOLK RACING G16の単体写真。このデザインからどんな印象を受けただろうか? 記事の最後にまた同じ写真を掲載するので、そのときの印象といま思い浮かんだイメージを比較してほしい
BMWに履いているのは「VOLK RACING TE037 6061」というモデル。2017年に登場したアルミ合金A7075超々ジュラルミン製の「TE037 DURA」と同デザインで、材料をアルミ合金A6061に変更した鍛造1ピースモデルだ
名作「TE37」の流れを汲む「VOLK RACING TE037 6061」(写真右)。コンケーブという形状も実はTE37が元祖で、開発時に剛性を求めた末のものだった。TE037はカッコいいだけでなくミリタリーっぽさを感じるデザインだが、実はスポーク部の肉抜きなどを行なっており、これはアサルトライフルなどの銃身やグリップなどからヒントを得たという

 さて、レイズが持つ自社工場だが、これは鋳造工場と鍛造工場に分かれている。ご存じのことかとは思うが、鋳造はホイールの材料になるアルミを融かしてから鋳型に入れて成型するもので、鍛造は鋳造とは異なるアルミの材料を使い、固形のまま機械でプレスしていくことで形状を作っていくというものだ。では、鋳造と鍛造のどちらがいいかという点だが、これは「それぞれに利点がある」という表現になる。鋳造は融かして型に入れることからデザイン性の高いホイールを作りやすく、さらに価格も安くできるという面を持つ。実際、レイズのブランドで鋳造製法を採用するホイールにはデザインを気に入って購入したというファンが多いと聞く。

 では鍛造はどうかというと、この製法は「アルミホイールとしての基本性能が高い」というのが何よりの特徴。そして、レイズではその基本性能をもっと引き上げるために「A6061」という航空機にも使われる高機能のアルミ素材を使用している。

 ただし、いい素材を使って鍛造製法にすればいいかというと、そういうわけでもない。レイズが鍛造ホイールを作るときにもっとも大事にしているのが「鍛流線」と呼ばれるもので、これは鍛造したときに起こる金属組織の流れによってできる模様のことを指す。この鍛流線がキレイに残っている鍛造アルミは伸びや粘り、衝撃に強いという特性があるので、スポーツモデル用のアルミホイールを作るには欠かせないものでもある。

 ところが、アルミホイールのディスク面のように形状が複雑な部分の鍛造に際して、鍛流線を寸断することなく(物理的に可能な限り)形成しながらホイールを作りあげていくには特殊な技術と機材が必要になるのだが、冒頭にあったように「我々がやりたいこと」の実現を目指したレイズにはそのための設備があるのだ。

VOLK RACINGの最新作であるG16とTE037 6061もA6061材を使用。レイズ独自の鍛造技術でキレイな鍛流線を作りつつ、鍛造ホイールとは思えないほどの細かい造形を実現している

レイズの最新作へつながる軽量と剛性の話

 次にスポーツホイールに必要な性能について山口氏に聞いてみた。山口氏曰く「我々はトヨタの耐久レース車であるTS050やGT500/GT300、スーパー耐久、カップカーなど色々なクルマ用のアルミホイールを自社で作っていますので、スポーツホイール作りのノウハウは非常に多く持っています。そしてその立場でひと言申し上げると、ホイールだけではクルマは速くならないんですね。ホイールの外側にはタイヤがあって、ホイールはサスペンションにもつながっていて、そしてその上にはボディがいます。ちょっと変な言い方をすると『ホイールは辛い中間管理職』みたいなものなのですが、それらがマッチすれば走行性能はよくなるのです」と語る。

 続けて「アルミホイールにおいては、何よりも軽いということがメリットになります。人間にしても重たい革のブーツと軽量のスポーツシューズでは、その人の運動性能が変わるはずです。クルマも同じで、重いホイールと軽いホイールとではクルマの動き出しからまったく変わります。エンジン性能が上がったのかと思うくらい変わります」という。

 そして「アルミホイールを作る上で、軽量性という特徴がない製品は意味がないものと思っています。重くしてしまうと本来の性能がドンドン損なわれていきます。例えばサスペンションはゆっくり動きたい部分なのに、ホイールが重いと動きは早まってしまう。それにタイヤは回転しながら常に路面を“叩いている”ので、重いホイールだと勢いが余計についてバタ付きも大きくなってくる。新設された道で舗装もキレイなのに、ゴツゴツする乗り心地になる原因の1つはこれです」と付け加える。

アルミホイールを作る上で大事なのは軽量性。ただし、軽くすると失われていくのが剛性で、ホイールにおいての軽量化と剛性のバランスはより高次元なものが求められるとのこと

 次に取り上げたのが「強度と剛性」について。この2つは似たようなイメージを持つがこれらは別物で、まず「強度」とは壊れない力のこと。そして強度にはいくつかの種類があり、それらはアルミホイールの規格であるJWLにおいて各種の強度を測る試験方法が用意されているのだが、「剛性」に関してはJWLでは何も示されていないのだ。だからといって剛性は軽く見ていいものではない。剛性とは外力が加わったときに「変形しない」という力なので、非常に大事なものである。

 では、剛性をどうやって維持するのかというと、これがスポーツホイールでは悩ましいところで、実は軽量化を進めると剛性は低下する方向なのだ。ちなみに剛性が低下するとどうなるかというと、例えばコーナリング時だとタイヤのグリップによる荷重が増大して剛性が不足するとリム部に歪みが発生する。ここで力の伝達にタイムラグが生まれ、それがステアリングレスポンスに影響、つまりステアリングが「ダル」になる傾向となる。そしてそこからステアリングの蛇角が増えていくと歪みも連続して起こるので、より深く切り込まないとフロントが回りこまないという感じになる。

 さらにFR車では、後輪は横Gがある状態で前へ進ませようとする力がホイールに加わるので、ここでも歪みが起きる。その歪みによってタイヤの接地面積が変化したり、グリップが急に抜けることが起きたりする。

 ちなみに以上のことはホイールの話として分かりやすくするため、サスペンションやブッシュ、タイヤなどの動きは省き、ホイールに起きていることだけに絞ったものなのでそこはご了承いただきたい。

 このようにホイール剛性が不足するとクルマのコントロール性に影響が出るのだが、ホイールは材質や取り付け方法などの都合上、まったく歪まないようにはならない。そこでその歪みを「ドライバーがイメージするクルマの動きに近いようにしていく」のが、レイズのスポーツホイールにおいての剛性感作りだという。

 そんな感じで、軽さと剛性感のバランスを追求していくことが今のスポーツホイールに求められているのだが、その苦労を尻目に最近のクルマは衝突安全構造や各種デバイスの搭載により大きく重くなってきていて、GT-Rのようなスーパースポーツカーになると1.7tを超えているという状況。

 また、車重が重くなるとブレーキも大型化されていくわけだが、バネ下でこのような質量増が起きるとクルマの運動性は当然悪化するので、ホイールにおいての軽量化と剛性のバランスはより高次元なものが求められている時代でもあるのだ。

ハブ面に近いリムは支えている点から近いので歪みは出にくいが、ホイール内側のリム後端は支えの面から離れているのでコーナリング時など強い外力が加わると瞬間的に歪みが出るという。レイズのホイールではそれも織り込んで設計されているのだ

レイズの最新が詰まったVOLK RACING G16

 いよいよ主役のVOLK RACING G16に関してだが、まずデザインについて紹介したい。

 記事の冒頭でも触れたが、ホイールのデザインを凝ったものにしたければデザインの自由度が高い鋳造が向いている。それに対して鍛造は金型で抜く以上、どうしても造形に関しての制限が出るのでデザインを追求するには本来向いていないものと言える。

 ではG16だが、写真を見て分かるように鋳造ホイールかと思うほどの細くてキレイな曲線を持つスポークのデザインを実現しているが、これはどうやって作っているのだろう?

 その点について山口氏に伺うと、「ベースはビレットと呼ばれるアルミ素材をプレスして、パンケーキのようなカタチにします。そこから大まかな形状を作ったあと、スポーク部の肉(余計なアルミ)を専用の機械で金型に合うよう、強力な力でギューッと押して形成していくのです。こうすることでアルミの組織がキレイに流れて鍛流線がつながったまま、ハンドドローイングで描いたようなキレイなラインと細い部分で幅6.5mmまで追い込んだ細かな造形が可能になっているのです」とのこと。

 さらに「レイズはモータースポーツ用ホイールも数多く製造していますが、このスポーク形状もそのノウハウが生きているものでもあります。モータースポーツ用のホイールは軽くて強くて剛性があるというものですが、G16のスポークは極限まで細くし、それでいて断面は盛って、さらに剛性を持たせるために必要とされるリブはしっかりとつなげるというように、こちらも軽くて強くて剛性のある作りです。さらにデザイン重視に見えるスポーク面のやわらかな曲線は、すべて外力が入ったときにしなやかに受け流すための形状なんです。つまりレーシングホイールを作る技術を使い、無駄なことを一切しないというやり方でストリート用ホイールを作るとどうなるか? を実現したものなのです」とのことだった。そしてレイズではこの作りを「ストレスレス」と呼んでいる。

この製法を実現するため、レイズでは成型用の機械を自社で開発したという。つまりこの製法はレイズでなければ実現できないものということだ

 最後にG16の塗装にも触れておきたい。レイズでは塗装に関しても設計の一部と考えていて、「ただ塗ればいい」というのではなく、そのホイールの形状が引き立つような塗装をホイールの開発と同時に検討しているという。

 G16のカラーバリエーションには「ブライトニングメタルダーク」と「REFAB(アールイーファブ)/サイドダークガンメタ」の2パターンがある。どちらも高級感のある色だが、これはG16を装着するであろうと想定されたクルマが持つ雰囲気に合わせたものという。このうち、RFFAB/サイドダークガンメタはとくに高級感を出すためスポークの光沢のある部分を機械加工で作り上げているが、これはいわゆるダイヤカットではないしバフ掛けでもない。

 簡単に説明すると、エンジンチューンにおいてシリンダーヘッドを研磨することがあるが、それと同じような感じで非常に細かく丁寧に磨き上げられたものとなっている。だからきめ細かい輝きになっているだけでなく、残している僅かな凹凸のおかげで金属らしい質感も感じられる仕上がりになっている。しかし、それだけに加工の手間が非常に掛かっていて、作業には通常の光沢加工と比べて約3倍の時間がかかるという。

 そしてこの処理に合わせているサイドダークガンメタの塗料もホイール形状やFEFABの光沢がより引き立つように開発した色である。さらに保護のために塗るクリアだが、これはただの無色透明であればいいと言うものでなく、塗ったあとにせっかく磨いた光沢を損なわないような特殊性が必要。そこで塗料メーカーと共同で理想的なクリアを開発したという。さらに塗装やクリアの塗りに使う塗装機械も薄くキレイに塗ることを目指してレイズが自社で開発したものである。

きめ細かい光沢はエンジンのシリンダーヘッドを仕上げるようなクオリティで磨いた結果。その輝きに合うダークなカラーも開発。さらに輝きと塗装の表情をキレイに出せるクリアまで作っている。塗装もすべて自社で行なう

 さて、以上でレイズとG16についての紹介を終えるが、ここで記事の冒頭でも書いたように同じ写真を掲載するので、もう1度G16をご覧いただきたい。恐らく最初は「キレイなホイールだが今はこんな感じのホイールも多いよね」というような印象だったかもしれないが、レイズというホイールメーカーとG16の作り方などを知ったあとでは、キレイさに加えて何とも言えぬ「強さ」や「迫力」も感じられたのではないだろうか。

 なお、レイズは2月10日~12日にインテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)で開催される「大阪オートメッセ2018」に出展する。関西圏在住でG16に興味のある方は、ぜひ会場に訪れてそのクオリティの高さを確認してみてほしい。