トピック

NGKが提唱するプラグとコイルの「予防整備・予防交換」とは?

2019年3月13日 開催

「第17回 国際オートアフターマーケットEXPO 2019」のNGKブースで実施されたセミナー「今日から使える 予防整備・予防交換」

 3月13日~15日に東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催された「第17回 国際オートアフターマーケットEXPO 2019」は、クルマのメンテナンスに関わる企業のブースが出展するビジネス向け展示会である。

 近年はクルマに搭載される技術が急速に進む一方、国産車、輸入車を含めて長く乗られることも多いので、メンテナンスの現場に要求されるものも変化している。ゆえにこういった展示会は、クルマ整備のプロにとって仕事の質を高めるために必要な情報が得られる重要度の高いイベントとして認知されている。

3月13日~15日に東京ビッグサイトで開催された「第17回 国際オートアフターマーケットEXPO 2019」。2019年は3日間の開期で約3万4000人の来場者を記録したとのこと

 さて、第17回 国際オートアフターマーケットEXPO 2019では、多くのブースで来場者に向けて自社製品の特徴や技術について解説するセミナーを開催していたが、その中でも毎回満席だったのが、NGK(日本特殊陶業)が開催していた「今日から使える 予防整備・予防交換」というタイトルのセミナーだった。

 このセミナーはスパークプラグとイグニッションコイルの交換時期についてNGKの技術者が解説するもので、対象は部品商や整備士といった整備業界人向けだが、われわれユーザーも点検や車検の時にプラグやコイルの交換を勧められることはある。そんな時に、なぜ変えるのか? どのタイミングで変えるのがよいのか? ということを知っておくと有意義な整備ができると思うので、今回はこちらのセミナーの内容を紹介していこうと思う。

プレミアムRXプラグの模型が目を引くNGKブース。製品のPRよりプラグやコイルを交換する必要性を訴える作りだった
NGKのイメージキャラクターはレーシングドライバーの佐藤琢磨選手
ブースに華を添える「プラグチェッカーズ」。左は浅見碧さん、右が平野絢子さん
展示されていた製品のPOPには、製品ごとの特徴や働き、故障時の症状が記載されていて製品を理解しやすいものだった
資料展示とセミナーのほかに、全国をまわるサービスバンを展示。プラグの劣化を波形でチェックできる装置やプラグの締め付けトルクを体験するコーナー、それにVRを使ったプラグ交換体験コーナーを設けていた
セミナーに関しては、最初の回の開始15分ぐらい前からブース内に用意された座席に座る人が現れた。その後も次々と来場者が集まり、開始時間にはほぼ満席。時間によっては立ち見も出た

自動車メーカーとプラグメーカーでは交換推奨距離の考えが異なる

 4サイクルガソリンエンジンは、吸い込んだ空気に燃料を混ぜた混合気に着火して爆発(燃焼)させ、そのときに生じるエネルギーを動力に変換する機械だが、この仕事のうち、混合気に火を付けるという大事な役目をしているのがプラグだ。

 プラグはエンジンヘッドに取り付けられて、燃焼室内で混合気に火を付ける役目をしているが、走行中の燃焼室内は吸気、圧縮、爆発、排気の行程が高速で繰り返されている、言わば「熱の嵐」が吹き荒れているところだ。

 そんな場所で毎行程、確実に着火をさせることがプラグの仕事なので、性能が安定して発揮できることは非常に重要。そのため、自動車メーカーでは白金やイリジウムを電極に採用してプラグを長寿命化しているのだが、使用していれば性能は徐々に低下していくものである。それだけに、自動車メーカーが設定するプラグの耐用距離が20万kmだったとしても、最後まで当初の性能を維持しているわけではない。まあ、性能が低下してもエンジンは動くのだが、クルマが好きな人から見れば、それだけでよしとは言えないものだろう。

 そこでNGKが提唱する「予防整備 予防交換」だ。この提案では製品寿命を交換時期とするのではなく、性能が一定レベルまで低下したところに独自の交換推奨距離を設定しているのがポイント。つまり、不調になってから変えるのではなく、不調になる直前に変えておこうというもの。クルマに乗っていて最も不快なのは調子がわるいことだと思うので、この考えは多くのクルマ好きに受け入れられるものだろう。

プラグ交換の目安になる一覧表を掲載。ここでの注目点はプラグのタイプによる交換推奨距離の違いだ
白金プラグやイリジウムプラグには、中心電極のみに白金・イリジウムを使用した「片貴金属タイプ」と、中心電極に白金またはイリジウムを使い、外側電極に白金チップを追加した「両貴金属タイプ」がある。大枠では両方とも白金・イリジウムプラグだが、片貴金属タイプは交換推奨距離が両貴金属プラグの5分の1(RXスパークプラグの場合は6分の1)の距離となる
軽自動車は普通車の半分の距離が交換推奨距離となっている。この理由は軽自動車は排気量が少ない分、通常走行でも普通車よりエンジン回転が高いことと、エンジンの圧縮が高いことが挙げられる

 では、そのプラグ性能低下の見極め方だが、これは中心電極が消耗して外側電極とのギャップが広がっているだけでなく、中心電極から出た火花が周辺にリークしている状態の「奥飛火(おくひか)」という症状が出ているかが判断の基準となる。

 この状態では混合気に着火する力が弱くなって火炎伝播の広がりにも影響するので、エンジンではトルクの低下や燃費の悪化が起きる。また、さらに悪化すると失火が起きることもある。このようなことから、NGKでは「奥飛火が始まる前のプラグ交換」を推奨しているのだ。

プラグの劣化と奥飛火の解説。中心電極が消耗してくると外側電極とのギャップが広がる。すると火花が外側電極以外に飛ぶようになるので着火性能が低下する
交換推奨距離よりも前から奥飛火が起きることもあるので、プラグを外して絶縁体周辺に奥飛火の痕跡がないかチェック
奥飛火が起きたプラグの絶縁体付近アップ

 次はコイルの交換について紹介しよう。このコイルとはプラグがスパークするために必要な電圧を作り出す装置。これが故障するとプラグは火花を飛ばせなくなるのでエンジンは明らかに不調となる。そこでコイルに異常が見つかった場合は交換が必要なのだが、ポイントは壊れたコイルだけを交換するのではなく「全気筒交換」をすることだ。

 とはいえ、壊れていないコイルを交換することに抵抗を感じる人もいるだろう。しかし、すべてのコイルには熱や振動が同じように伝わっているので、劣化は同時かつ同レベルで起きている。だから、どれか1つでも壊れるとそれ以外も続けて壊れる確率が高いのだ。ちなみにNGKのデータによると、コイル修理で入庫したクルマで故障箇所だけを交換した場合、3台に1台が他気筒のコイル故障で再入庫しているという。

 セミナーでも「コイルは全気筒分が同時に劣化していて、いずれかのコイルが壊れたのなら残りも順番に壊れる確率が高いものです。そうなると、ユーザーには再入庫という手間を掛けさせてしまうし、同じ箇所の修理で再入庫となれば整備工場の信頼にも影響が出てしまいます。そこでコイルの全気筒同時交換の必要性をユーザーさまに説明してください」と訴えていた。

コイルは気筒ごとに分かれているので個別のパーツに思えるが、同時に劣化していくので、どれか1つが壊れたら順次壊れていくと考えるのが正解
同じ箇所の修理で再入庫となれば整備工場の信頼が失われる。確かにユーザーの立場から見ればそう思うところだ。だから最初の入庫時の説明が重要となる
コイルはエンジンが動いているときは常に高温と振動に晒されている。しかも材質はゴムや樹脂が多い。付いている場所の状況を知れば交換が必要になることは理解できるだろう
スパークプラグの奥飛火発生と交換時期、そしてコイルの全気筒同時交換という点を軸に約20分ほどの時間で解説したセミナーだが、途中で席を立つ人もなく、整備関係者が聞いても興味深い話であることが会場の雰囲気からも感じられた

プラグはエンジンと同時に開発されている

セミナーの解説を担当した日本特殊陶業株式会社 自動車営業本部 市販技術サービス部の所慎司氏にプラグの話をうかがうことができた

 プラグを購入したことのある人は交換用プラグの種類が非常に多いことに気が付いただろう。交換が前提のパーツなら多くのエンジンで使えるよう共通性を持たせて作るほうがいろいろと合理的だと思うがそうではない。では、なぜそうなっているかだが、その答えはプラグはエンジンと一緒に開発されているからである。

 プラグは出力や燃費に大きく関わる「燃焼」を行なうためのパーツなので、自動車メーカーがエンジンを新開発する際は、製作するエンジンの燃焼室形状などに合わせてプラグの仕様を決めている。だから種類が多くなるというわけだ。

 でも、それだけエンジンに合わせ込んでいるので、交換の際は純正指定のプラグを使うのが大前提。以前は季節や乗り方で熱価(プラグ温度の指数)を変えるようなこともあったが、今のエンジンでそれは不要。さらに言うと同じ番手でもメーカーごとに特徴の違いはあるので、交換時は新車購入時に装着していたものと同じメーカーのプラグを選ぶことを勧める。

 とはいえ、せっかくプラグを変えるのだから上級グレード品を付けてみたいと思う人もいるだろう。そんなときに選びたいのが「プレミアムRXプラグ」というモデルだ。

同じくセミナーの解説を担当した日本特殊陶業株式会社 自動車営業本部 市販技術サービス部の浅野智宏氏

“NGK史上最強”と謳うプレミアムRXプラグでは、火炎伝播の広がりを阻害せず、燃え広がりが速くなるように外側電極の付き出しを減らしつつオーバル形状としているのが特徴。火花も飛びやすい形状だ。これによってイリジウムプラグよりも燃焼効率が上がるので着火性が高くなり、走行時やアイドリング時の燃費向上や加速力の向上(すべてNGK公表データによる)が計測されている。

 また、消耗に強い新素材であるルテニウムを配合した中心電極を世界初採用しているので、奥飛火までのプラグの寿命も12万km(軽自動車は6万km)と長くなる。

こちらは日本特殊陶業株式会社 自動車営業本部 東京営業部 東京市販課 主任の佐伯建太氏。NGK製品をより正しく使う方法を提案するため、全国に400社ほどある特約店だけでなく、整備の現場である整備工場まで足を運んで「予防整備・予防交換」をきめ細かく説明しているとのこと
日本特殊陶業株式会社 自動車営業本部 国内市販部 広告宣伝課の尾成義和氏は、「プラグは長寿命化していますが無交換でいいパーツではありません。でも、長寿命であるほど交換の意識を持ちにくいものです。そこで『予防整備・予防交換』のテーマを揚げることで、市場に対してプラグやコイルは早めの交換が必要というメッセージをお伝えしていきたいと思っています」と語った

 さて、以上がNGKが提案するプラグとコイルの「予防整備・予防交換」の内容だが、これら点火系パーツの劣化はエンジンの調子にダイレクトに響くものでもあるし、外出先でプラグやコイルが壊れるとその場で走行不能になることもある。それだけに、車検や法定12か月点検のタイミングはもちろんのこと、普段からプラグやコイルの状態をチェックする目的で整備工場を訪れてみてはどうだろうか。