トピック

第46回東京モーターショーはNOKブースで普段は見えない技術に注目!!

見えない部品に秘められたこだわりと技術を知るとクルマ作りの奥深さが見えてくる

2019年10月25日~11月4日 一般公開

1台のクルマにおよそ200品目以上の部品を供給するNOKに、東京モーターショーの見どころを聞いた

 10月25日より一般公開される「第46回東京モーターショー2019」は、クルマ好きな人にとって楽しみなイベントだろう。会場はいつもの東京ビッグサイトだが、今年は「西展示棟」と新しい「南展示棟」、そして1.5kmほど離れた場所に作られた「青海展示棟」と会場を分割した状態での開催となる。

 西、南展示棟と青海展示棟の間は距離が離れていて、移動用にシャトルバスが出るものの、今回の東京モーターショーでは、目的のブースがどこにあるのかを確認しておいて、事前に見学ルートを考えておくことをオススメしたい。

クルマ好きなら見逃せないNOKブース

取材に対応していただいたのはNOK株式会社 営業本部 営業管理部 企画課長の村上司氏

 東京モーターショーといえば自動車メーカーのブースが華ではあるが、見応えという面では実は部品メーカーのブースも負けていない。こうしたブースでは、完成車となってしまうと見ることのできない部品が展示されていて、まさにここでしか見られない展示と言える。それだけに部品メーカーのブースがあるフロアは毎回、クルマへの造詣が深い来場者で賑わっている。

 今回の東京モーターショーで、そうした部品メーカー系のブースは西展示棟4Fと南展示棟4Fに配置されているが、その中でもぜひ立ち寄っていただきたいのが南展示棟4Fの「NOK」のブース(S3101)だ。

 クルマに詳しい方であっても、NOKが何を作っている会社か知らないこともあると思うので、まずはそこから紹介していこう。

 NOKはオイルシール、Oリング、樹脂部品、そしてフレキシブルプリント基板など数多くの品目を手がけている総合部品メーカーで、1台のクルマに対しておよそ200品目以上ものNOK製品が使われているという。

 そのうち代表的なものは「オイルシール」という部品。これはエンジンやトランスミッションなどオイルが機械摩擦の潤滑をしているところには「必ず」使われている部品で、ここに関してはNOKが年間17億個も生産しており、まさに世界のトップランナーだ。

クルマ用に限らず厳しい条件下でシール性が求められる部品にはNOKの製品が使用されていることが多い。身近なところではカメラや携帯ゲーム機などだ
オイルシールやOリングだけでなくガスケットも作っている。ほかにもシャシーのブッシュ類やドライブシャフトブーツなど、クルマには200品目以上のNOK製品が使われている

 クルマのエンジンにおけるオイルシールの主な役目は、クランクなどの回転軸とクランクケースとの隙間をシールしてオイルが漏れないようにすることだが、同時に軸の回転のジャマにならないよう抵抗が少ないことも求められている。しかし、オイルの密封性を高めることと回転時の摩擦低減は真逆のことなので、この両立がシールを製造するメーカーのウデの見せどころだ。そこでNOKではオイルシールの密封性能に欠かせないシール摺動面の「油膜の形成」を徹底的に追求した。

 ここで用いたのが実機作動時のシールの状態を可視化する技術だ。この技術が導入される前はエンジンが動作しているときのシール部の油の流れなどはすべて「予測」によるものだった。

 もちろん、予測のレベルでも高性能なシール部品を作ることはできるのだが、独自の可視化技術による実験的検証によって、技術に裏打ちされた製品の提案ができ、ユーザーの信頼を勝ち得ている。

 また、シールの可視化では油膜の流れだけでなく、X線を使うことで溝に装着されたパッキンの挙動も可視化している。

シール部品を製造するメーカーはほかにもあるが、装着状態での可視化技術を持っているのはNOKだけ
シール部品には水やホコリの侵入を防ぐ役目もあるが、NOK製品はここも高性能。よく日本製の4WD車は丈夫だから砂漠のあるような国でも重宝されるという話も聞くが、あれも水や砂、ホコリが入ってはいけない部分のシール性があってのこと。そしてそのシール部品はNOK製であることがほとんどだ

 オイルシールに使用するゴム材料は、NOK独自のレシピで配合したものとなる。製品に使うゴム材料の開発時には、熟練した技術者が研究と実験を重ねて使用環境に最適な特性になるよう配合を決めているので、NOKのオイルシールに使われるゴムは「エンジンや足まわりなどの使用箇所に完全に合わせたもの」となっているのだ。

 ちなみにゴムのどの部分がエンジン向きかというと、ここはいろいろあるが温度の話を例に取って分かりやすく説明しよう。

 エンジンは止まっている時には外気温と同じ温度、つまり真冬の寒冷地であれば-20℃~-30℃といった極低温にもなるし、エンジンが動いているときには、油温が100℃を超えるような時もある。そんなとても幅の広い温度域があるが、オイルシールを含むエンジンまわりのゴム製シール材は、熱いからといって溶けたりフニャフニャになったりすることもないし、極寒の状態でもカチカチにならない。この全域の温度で適切な密閉性をキープしているのだ……。これはすごいことだろう。

 こうした面だけでもオイルシールの特殊さが分かるのでNOKブースに立ち寄る意味はあると思うが、それだけではない。ここにはさらに最新の技術も展示してあるのだ。

ゴムにはたくさんの種類の添加剤が使用されており、こと細かく最適な物性や特性を出すような配合を行なっている。これまでに100種類近くのゴム材料を世の中へ送り出してきた
オイルシール内に組み込まれるスプリングもNOKが独自に作っているもので、これもシールのリップ部が「軸を抱く」ことに対して締め付け力が最適になるよう設計している

最新の技術が詰まったシールブランド「Le-μ's(レミューズ)」

 今回のNOKブースには「Le-μ's(レミューズ)」というシールブランドが展示されるが、このレミューズこそ、これからのエンジンが求める高効率化や低燃費化を実現するために作りあげた最新鋭の低フリクションブランドだ。

 レミューズに投入される技術は主に4つに分けられる。まずはゴム剛性の見直しにより回転軸への締め付け力を従来品より約30%~45%も低減する低緊迫力設計を用いる方法。2つ目は新素材を使うことでの低摩擦化を実現する方法。これは従来品に比べて20%のトルク低減効果になるという。3つ目は軸と接触する部分に塗布するグリスにNOKグループの技術を集結して作りあげた低トルクグリスを塗布する方法。これは従来のグリスよりも30%のトルク低減効果がある。4つ目は摺動面にPTFE粒子という素材を使った低摩擦コーティングも施す方法だ。

 このように徹底した低摩擦技術によって、レミューズは世界的に見ても類のないほど低フリクション化されたシールになっているのだ。NOKのブースに立ち寄ったときは展示品や解説ボードをぜひ見ていただきたい。

オイルシールはオイルの漏れを防ぐため、回転している時に大気側からわずかに空気を吸い込んでいることをご存じだろうか。それを増幅しているのが写真手前のオイルシールの内側にある葉っぱの形にも見える凹凸で、これは回転したときに負圧を発生させる形状になっていて、これにより外に漏れようとするオイルを引き戻す効果があるという。この形を採用しているのはNOK製品のみだ

薄く・軽く・柔らかい「フレキシブルプリント基板(FPC)」

 製品についてはもう1つ紹介させていただこう。NOKには電子部品事業を手がける「日本メクトロン」というグループ会社があり、こちらでは「フレキシブルプリント基板(FPC)」が代表的な製品となっている。

 FPCとは極めて柔軟性の高い薄型の基板で、クルマではインフォテイメントやセンサー類に採用されているとのこと。

 会場ではノーベル賞受賞で今話題の、リチウムイオンバッテリーの電圧監視用FPCを展示している。これはリチウムイオンバッテリーの安全性や機能を管理するBMS(バッテリー・マネジメント・システム)と各セルをつなぎ、電圧を監視する仕組みだ。体積は従来のワイヤーハーネスの10分の1。機器の軽量化を図り、低電費に寄与しているFPCにも注目である。

これがフレキシブルプリント基板(FPC)。インフォテイメントや前方監視カメラなどに使用されている。自動運転技術やEV化が進むとより活躍の場が増えそうだ
このように基板の配置の自由度が高いことが最大の特徴。従来の配線より軽量でもある

未来のクルマへ、そして未来のホビーへの貢献も視野に入れる新技術

 さて、部品の話題はこれくらいして、ここからはブースの構成を紹介していこう。今回のNOKブースはモーターショーというイベントに合わせて未来のクルマのことを取り上げたステージやクイズラリー、それに電動車向けの最新技術展示も行なわれる予定になっている。

 その中から現段階で公表できるものをいくつか紹介すると、まずは「生体信号ゴム電極 Sotto」というものがある。これは人の体を流れる微弱な電気(脳波など)を検知することで、ドライバーの状態を正確にモニタリングすることに使用できる。従来の電極と違って、ゴムなので肌に触れたときの違和感もなく、デザインの自由度も高い上に低ノイズであるなどメリットが多いのだ。

 次に「ポアセンサモジュール」というもので、これは空気中に混じっている花粉やウイルスを瞬時に識別できるAIに使用されているモジュールだという。例えばこれを車内の空調装置に組み込めば、花粉を検知したら自動で内気循環に切り替えるとか、空気清浄機能を動かすといった使い方もできる。

 最後にブースを訪れたらぜひ体験してもらいたい面白い展示を紹介しよう。それが「3原触モジュール」という技術だ。これは離れたところ(デモ機は有線で接続)で感じた触感を、触感提示装置を仕込んだグローブを通じてあたかも自分の手で触れているように再現してくれるというもの。感じられるのは「振動」「温度」「電気刺激」で、これらを駆使するとタッチディスプレイやバーチャルキーボードのようなスイッチを押す触感も作り出すことができる。それにVRゲームの技術を組み合わせるとよりリアルなゲーム世界の体験も可能になるのだ。

 会場では実際に体験することもできるというので、訪れた際にはぜひこの最新技術を体験してみてはいかがだろうか?

これが生体信号ゴム電極 Sotto。人体を流れる微弱な電気を検知できるもので、脳波などからドライバーの状態をモニタリングすることができる
こちらは空気中のウイルスや花粉を識別できるポアセンサモジュール
3原触モジュールの効果も体感できる。筆者も体験したが、これは驚くし、いろいろな用途が思い浮かぶだけにぜひ体験してほしい

 ということで、NOKのシール部品はニーズに合わせて進化を遂げており、NOKが作る部品はクルマを生産するうえでなくてはならないものであることが分かっていただけたと思う。もしもNOKの製品の出荷が止まってしまったら、自動車の生産は大きく滞るだろうし、仮に代替品が用意できたとしても、現在のクルマの耐久性や燃費性能を維持するのは難しくなるだろう。

 でも、それほど存在感のある会社なのに、われわれ一般のクルマユーザーにはあまり存在が知られていないという不思議な面もある。でも、今回の東京モーターショーでNOKブースへ行けば、クルマ産業界の「中の人」とも言えるNOKのことがハッキリと分かるので、クルマの造りに興味があるという方なら、ぜひ、NOKブースで自動車業界を支える技術を見てくることをオススメする。

NOKブースは東京ビッグサイトの南展示棟(西展示棟の裏に新設されている)の4階、部品メーカーエリアにある。ブースナンバーはS3101。東京モーターショーに行くならぜひ立ち寄っていただきたい