トピック

橋本洋平のD-SPORT「コペン スポーツECU」を街乗りとサーキットで体感してみた

CVT車とMT車それぞれでノーマルECU、スポーツECUを比較

モータージャーナリストの橋本洋平氏が街乗りに加えてサーキットで、D-SPORTの「コペン スポーツECU」の効果をチェックした

「世界の人々に愛されるスモールカーづくり」を使命としているダイハツ工業(以下ダイハツ)は、ふだんの暮らしに密着した便利なクルマだけでなく、ドライブを楽しんだり、レジャーと組み合わせて趣味の世界を広げてくれるクルマも数多く販売している。そんなダイハツ車の魅力をさらに引き出すためのアイテムを販売しているのが、ダイハツ車用のトータルチューニングブランド「D-SPORT」だ。

「別記事」で紹介しているように、D-SPORTは「LA400K コペン(以下コペン)」を使ったサーキットタイムアタック企画を2020年12月より再開。舞台はチューニングカータイムアタックのメッカである茨城県の筑波サーキット・コース2000。車両はコペンXPLAYをベースにD-SPORTパーツを組み込んだデモカーだ。この取り組みは、既存のD-SPORT製パーツのポテンシャルの高さを証明することに加えて、新たなパーツの開発およびテストの場に捉えているという。

 こうした流れの中で開発が進められ、2020年11月20日に発売されたのがLA400K/A用の「コペン スポーツECU」というチューニングコンピュータである。

タイムアタックカーは保安基準適合のチューニング内容で、極端な軽量化などはしない“誰でもマネのできる範囲”での挑戦。先日のシェイクダウンは好調で1分11秒台でコンスタントに周回した

コペンが本来持っている走りの性能を引き出すアイテム

「コペン スポーツECU」は、コペンに搭載されているKF-VETエンジンが持つポテンシャルを引き出すことを狙いに開発され、主な変更点はスロットルマップ、燃料マップ、点火マップ、ブーストマップの変更に加え、スピードリミッター設定値の引き上げ、そしてVSC制御をサーキット走行用に適正化するという内容になっている。

 なお、ブーストマップを変更してブースト値の上限を引き上げているので、それに伴い燃料はハイオクガソリン限定となり、エンジンの燃焼状態を適正化するための交換用スパークプラグも付属する。

タイムアタックで結果を出すためのキーになるのが「コペン スポーツECU」だ。カプラーオンで装着でき最高出力は約80PS、最大トルクは約11kgfm(ともに参考値)を達成。パワーアップだけでなくVSCの介入レベルを下げることで、マシンを自然な挙動に持ち込みよりスポーツ走行がしやすくなる。価格は高熱価プラグ3本付きで12万8000円(税別)

 一般的なECUチューニングメニューの場合、装着しているECUのデータを書き換えるケースが多いが、「コペン スポーツECU」は書き換え済の新しいECUを購入して交換するので、元から付いていたECUはそのまま手元に残すことができる。そのため、もし整備などでノーマルECUが必要になった際もすぐに対応できる。

 チューニングデータのみの販売ではなく、ECUを新たに1つ購入するので価格はそのぶん高くなるが、コペンのような新しいクルマは電子的な整備を必要とする機会もあるだろうからノーマルECUを手元に残せるメリットは大きい。ただし、ECUを交換するためイモビライザー機能がなくなるので、そこは注意が必要だ。

 それともう1つ、コペンのKF-VETエンジンは2017年4月頃の製造車からエンジンルームにブースト制御に関わる“エアタンク”が追加されていて、D-SPORTによると「エアタンクはブースト制御と関連がある」とのことで、このエアタンクの有無でECUの仕様が異なるという。そのため「コペン スポーツECU」を購入する際は、車検証に記載されている初年度登録日を確認しつつ、実際にエンジンルームを見てエアタンクの有無を確認しておくことを勧める。

2017年4月頃の登録車からターボの制御用にエアタンクが追加された。装着場所はエンジンルームを手前からみて、左にあるエアクリーナーの吸い込み口付近にある。詳細はD-SPORTの商品ページにて確認できる

コペン スポーツECUの効果はいかに?

 さて、今回は「コペン スポーツECU」を装着したD-SPORTのデモカーを使い、ノーマルECUとの比較試乗をさせてもらえることになったので、Car Watchではおなじみのモータージャーナリスト橋本洋平氏に試乗してもらった。なお、しかっりと違いを体感できるようにと、試乗車はCVT車とMT車で、それぞれノーマルECU、スポーツECUと計4台が用意され、さまざまなシチュエーションで比較を行なってみた。

試乗はモータージャーナリストの橋本洋平氏が行なった

 最初に乗ったのはCVT車。試乗場所は茨城県の筑波サーキットではあったが、CVT車は一般道での走行を想定し、サーキット敷地内にある道路で加速時のフィーリングの違いなどをチェック。そしてMT車は筑波サーキット・コース2000で試乗し、加速性能の他にも、コーナリング時に介入することが多いVSC制御に関してもチェックしてもらった。

 なお、コペンに搭載されているCVTは7速スーパーアクティブシフト付きCVTで、通常のDポジションに加えてギヤ駆動のミッション的なステップ感が得られるSモードを装備。さらにレバーやパドルの操作によってマニュアルシフトのようなギヤチェンジが可能な仕様となっている。

CVT車はD-SPORTの「GTシフター」を装着。これはSモード時のシフト操作を手前に引くとシフトアップ、押すとシフトダウンと、ノーマルとは逆パターンに変換できるアイテム。価格は7500円(税別)
フットレストバー。MT車とCVT車用があるが、それぞれで専用設計としているので自然なカタチで左足を置ける。平面のフットレストより足首の角度等、自由度が高いので長距離ドライブの味方。価格は1万2500円(税別)
デモカーに装着されていたプレミアムシートカバー。抜群のフィット感でカバーとは思えない仕上がりになる。LA400K用の価格は運転席と助手席用セットで5万2000円(税別)

 橋本氏はまずノーマルECUのコペンを試乗。静止状態からアクセルペダルをいっぱいに踏むと約4000rpmまで一気にエンジン回転数が上がって加速し、約5500rpmくらいで1速から2速へシフトアップ、そして2速から3速は約6500rpmまで引っ張るような制御をしていた。

 試乗車にはブースト計が装着されていたので、そこに表示された数値をチェックしてもらったところ、オーバーシュートで0.7kg/cm2まで上がり、0.6kg/cm2に落ち着くという。ノーマルECUであっても加速感などに不足は感じないが、高回転域はブーストが抑えられているような印象で“あっさりとした加速感”とのことだ。また、アクセルの踏み込み時やギヤが替わる際にCVT独特のエンジン回転数の上昇に対して速度の上昇があわない「ラバーバンドフィーリング」は感じたという。

アクセルを踏み込んだ際の加速フィーリングなども体感するため、一般道と同じような路面環境の筑波サーキット内の道路で試乗を実施
静止状態からの加速フィーリングはわるくはないが高回転まで回したときの加速感は弱い。「CVTにSモードがあるだけにちょっともったいない気がする」と橋本氏

 続けて「コペン スポーツECU」を装着した車両を試乗。まずはDレンジで街中を走るような感覚でアクセルを軽く踏みこむ。「発進して直ぐ、明らかにトルク感があるだけでなく、ノーマルECUのコペンにあったラバーバンドフィーリングが消えてしまったかのよう。さらにアクセルの踏み込みに対してクルマがダイレクトに反応する」と橋本氏。CVTの制御に変更はないので、この変化はブーストマップ変更などによってトルクが増えていることが関わっていると思われる。

 次はシフトをSレンジに入れて静止状態からフル加速をしてみると、高回転までブーストがしっかり掛かるため(ブースト最大値は0.9~1kg/cm2)、約7000rpmまで回しても加速が続くフィーリングで、ノーマルECUのコペンとは特性の違いが明確に出ているとのことだった。

「コペン スポーツECU」を装着したCVT車は明らかにトルク感が増していて、橋本氏は「まるで排気量を上げたような感じ」と表現。また、CVT特有のラバーバンドフィーリングも感じにくくなっていた
ECU交換仕様車にはブースト計が付いていなかったので値は不明だが、高回転まで回してもブーストの落ち込みが少なく、高回転まできっちりと加速が続く。「低中速域のトルク感も明らかに違うので、乗れば違いがすぐ分かる」と橋本氏

 サーキット内の道路を出て実際の一般道へ。橋本氏によると「最初に感じるのは2000~3000rpmのトルクが増えていることによる走りやすさ。一時停止や信号からの発進時ではスルスルと進んでくれるのが好印象だし、まわりの状況に合わせてアクセルを踏み足すようなシーンでもスムーズに加速してくれる」とのこと。

 続けて「トルクが太いため、交通の流れの中で頻繁にアクセル操作しなくていいのは、結果的に省燃費を狙った走行もできそうなので、スポーツ走行を楽しみたい人だけのものではなくて、コペンを上質に走らせたいと思っている人にもマッチするものではないか」と語ってくれた。

回転を上げない市街地走行でも実のある加速をするようになる「コペン スポーツECU」。アクセルワークに余裕が生まれるので走りに上質さが出るという

高回転まで加速が続く気持ちのいいエンジン特性になる

 今度は筑波サーキット・コース2000にてMT車の試乗。橋本氏にはCVT車と同様に、まずはノーマルECUの車両に乗り、直後に「コペン スポーツECU」に換えた車両に乗ってもらった。

 試乗を終えた橋本氏に印象を聞いてみると「CVT車のときに感じたのと同じく低中速域のトルク感があるのでノーマルECU車と比べるとクラッチを繋いで走り出したときから違いが分かり、ピットロードからの加速もよく、第1コーナーに到達したときのスピードも高い」という。

 ピットロード内は制限速度があるのでフル加速はピットロード出口からだが、そこから第1コーナーまでの距離はあまりない。そのわずかな距離でも速さの違いを感じられるのだから凄い。

サーキット試乗に用意されたのはD-SPORTパーツを装着したコペンGR SPORT
バンパー下部にはフロントロアスカートを装着。価格は未塗装品が4万8000円(税別)。塗装品が7万円~8万5000円(税別)
コペンGRSPORT用のノーズガーニッシュ。材質はFRPで未塗装品が2万5000円(税別)。FRPの塗装品が3万7000円(税別)。フルカーボン製が4万9000円(税別)
両窓上のルーフ部とAピラーには窓を開けたときに雨が流れ混むのを防ぐレインドリップモールが付く。価格は6000円(税別)。また、新製品として雨天時のトランク開口時、雨水のトランク流入を防ぐRGスポイラーも装着。価格は未塗装品が2万8000円(税別)。塗装品が4万5000円(税別)。フルカーボン製が8万2000円(税別)

 橋本氏は「CVT車は途中でシフトアップしてしまうので判断しにくかったが、MT車はギヤを固定した状態でのパワーやトルクの伸びを改めてチェックしてみた」という。その結果を聞いてみると「CVTでは7000rpmくらいから上は回転も加速も鈍った感じがしたが、MT車は7000rpmを超えても加速が続き、レッドゾーンの7500rpm付近でも、まだまだ余力がある感じで、高回転域まで回すことが有効と思えるエンジン特性になっていた」という。

 そしてD-SPORTの参考値である約80PSがもたらす加速は、660ccのイメージをはるかに上まわり、筑波サーキットのようなミドル級のサーキットでも十分「攻めること」を楽しめるレベルになっていると言うことだった。

 以上のようなことから「コペン スポーツECU」に交換したコペンのエンジンのパフォーマンスに関して橋本氏は「CVT車でもいい印象でしたが、サーキットで乗ったMT車は高回転域が使える部分に圧倒的な魅力があって、その領域にエンジン性能的なよさがキチンと出ているというのが、このECUのいいところですね」と評価した。

筑波サーキット・コース2000を走る。約80PSのパワーが出ているので車速のノリはノーマルECU仕様とは明らかに違う
VSCをオフにすると素直な挙動になるのでコントロールしながら走らせることができるという
VSCをオフにすると駆動輪イン側タイヤが空転しやすくなるので、そうならないライン取りが速く走るコツとなる
ブーストは立ち上がりから1.0kg/cm2で高回転まで安定するとのこと。低中速域重視の小型タービンでブースト圧を維持できるのは、最適なブーストマップが組まれている証拠といえる

 続いて「コペン スポーツECU」のVSC制御に関しての印象を聞いてみると「試乗車に装着されていたタイヤはブリヂストンRE004の165/50R16というグリップ力もあるタイヤだが、ECU交換によってパワー、トルクともが増えた状態でVSCをオフ(介入しにくい状態)にするとタイトコーナーでのアクセル踏み込み時にはイン側タイヤが空転するようになった」と橋本氏。

 そこで橋本氏はアクセルやステアリングをコントロールしながら空転を抑えつつパワーを掛けてコーナーを立ち上がると、VSCの介入があった状態では味わえなかった「コーナリングの面白さ」が体験できるようになったという。

 サーキットやジムカーナでは、クルマの向きを変えることを目的に一時的にクルマの状態を不安定にする(タイヤを滑らせるなど)場合もあり、ときには前出のようにドライバーの操作に対してクルマが素直に反応することが求められるので、ドライビングテクニックを向上させたいと思っているコペンオーナーにとって、VSCの介入レベルを下げてくれる「コペン スポーツECU」はかなり有効だろう。

 さまざまな条件で好結果となった「コペン スポーツECU」は、スポーツドライビングを楽しみたい人や、もっと余裕ある上質な走りにしたいと想っているオーナーに、ぜひお勧めしたいアイテムだ。

安全のためには必要なVSCだが、サーキットでのスポーツ走行では、少々VSCの介入がない状態で、自らがクルマを操っていると感じられるほうがより楽しいと橋本氏
試乗車にはMCB(モーションコントロールビーム)も装着されていた。ボディ剛性を高めつつ、走行時に発生する微振動や歪みはダンパー部が吸収するのでボディへの負担が少ない。ブラケット部は軽量と高剛性を両立したアルミ製。価格はフロント用が4万3000円(税別)、リア用が3万7000円(税別)
筑波サーキットの場合、ノーマルキャリパーでの連続周回は厳しいので、D-SPORTではキャリパーキットを開発中(2021年4月頃発売予定)。「フェードもなく安心して走れた」と橋本氏も絶賛
ブレーキのマスターシリンダーのブレを押さえることで、常に最高のブレーキ性能を発揮させられるマスターシリンダーストッパー。複雑な形状に見えるが、穴開けなども加工は不要。価格は1万6000円(税別)
ダイハツ車のトータルチューニングブランドであるD-SPORTは、LA400K コペンのスポーツ走行におけるポテシャルを高さを証明するためにデモカーを使った筑波サーキットタイムアタックを行なっている