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ホンダ渾身のコンプリートカー「フィット e:HEV Modulo X」に込められた“ホンダ・スピリッツ”を感じた

足まわりの適度な硬さこそフィット e:HEV Modulo Xの真骨頂だろう

フィット e:HEV Modulo Xを選ぶポイントになるのがこの乗り心地

 ホンダから発売される最新のコンプリートカーである「フィット e:HEV Modulo X」を、開発を手がけたホンダアクセスから借りだして、丸1日たっぷりとロングドライブしてみた。

 筆者はホンダアクセス主催の試乗会でもこれをロングツーリングさせ、果ては“群サイ”こと群馬サイクルスポーツセンターでも思い切り走らせたのだが、編集部としてはこのフィット e:HEV Modulo Xの魅力を、さらに「深掘り」してほしいというわけだ。

約1か月半ぶりに再会したフィット e:HEV Modulo Xを深堀りしてきた
フィット e:HEV Modulo X(286万6600円)のベースはe:HEV LUXE(リュクス)で、ボディサイズは全長のみ5mm長くなり、4000×1695×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2530mm。前後は専用のエアロバンパーを装着する。ボディカラーは4色設定されていて、試乗したプラチナホワイト・パール&ブラック(別途8万2500円)の2トーンほかに、プラチナホワイト・パ―ル、ミッドナイトブルービーム・メタリック、クリスタルブラック・パールの単色がある

「フィット」が「Modulo X」という“スパイス”で辛口の走りに!? 群サイでその実力を確かめた

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1341419.html

 タウンスピードでも感じられる、ビシッと筋が通ったステアフィール。操舵レスポンスにはフワフワしたところがまるでなく、スーッとレールの上を走るように、確かなトレース感覚で曲がって行く。そして高速道路に入ると、その手応えはより確かなものになっていく。

「うんうん、これがフィット e:HEV Modulo Xのテイストだよな!」と、約1か月半前の記憶が鮮明に蘇った。

濡れた路面では実効空力がもたらす高い接地感の恩恵をより受けていることが分かる

 適度な硬さのある乗り心地も相変わらずだ。オドメーターを見るとその距離は3000kmに届かんとする勢いだったから、一応の慣らしは終わったと考えていいだろう。つまりブッシュやダンパー&スプリングがある程度なじんでも、フィット e:HEV Modulo Xはその本質的な乗り心地に、一定の硬さを持っているということになる。

 そしてこの乗り心地こそが、フィット e:HEV Modulo Xを選ぶ際の、1つのカギであり別れ目になると筆者は感じた。

高級感も漂わせるModulo Xエンブレム付の専用フロントグリル
前後のHマークと車名エンブレム、専用リアエンブレムはダーククロームメッキ仕様となる
16インチの専用アルミホイールには、横浜ゴムのBluEarth-A(サイズ185/55R16)が組み合わせられている
フロントの専用コンビシートのメイン表皮には滑りにくいラックススェード(R)を採用し、サイドサポートには高級感のある本革を使用。上質さとスポーティーさを両立しているのも嬉しい。Modulo Xのロゴ入りなところも専用ならではの特徴。インテリアは試乗車のブラックのほかに、赤い挿し色の入るブラック×ボルドーレッドもある
本革巻きのステアリングホイールやセレクトレバー、フロアカーペットマットに加え、インテリアパネルやパワースイッチも専用品がおごられ、所有する喜びを高めている

走りを楽しむという“ホンダ・スピリッツ”が込められたような乗り味

 はっきり言ってしまうとこのフィット e:HEV Modulo Xは、乗り心地を強く求めるユーザーには向いていない。ステップワゴンやフリードなどミニバンをベースとしたModulo Xたちと比べると、上質感よりもスポーティなキャラクターの方を際立たせてきた、と筆者は感じた。

 硬さの理由をまず理論的に説明すると、それはダンパーの伸び側減衰力が高められているからだ。縮み側減衰力がそれほど高められていない分、実は路面のバンプを越えても“ガツン!”という突き上げはさほど感じない。代わりに段差を越えてもサスペンションの伸びるスピードが遅くなるため“ドッ”と着地する。その際ショックは素早く収束するのだが、入力自体はドライバーの体にも多少伝わる。だから乗り味そのものはカドが取れているのだが、乗り心地としては硬く感じるのである。

ちょっとした段差をや継ぎ目を乗り越えたときに若干の入力がドライバーにも伝わってくるが揺れは素早く収まるので、不快な感じはしない

 ではなぜ今回ホンダアクセスは、そんな乗り味のセッティングをしたのか?

 それは彼らが現行フィットに、ホンダファンを納得させる“ホンダ・スピリッツ”を込めたかったからではないかと筆者は思う。

 ご存じの通り現行フィットには、スポーティグレードが存在しない。そんなフィットにお嘆きのホンダファンに対するホンダアクセスからの回答なのだ。「RS」のなき今、ホンダファンに納得してもらえる走りを叶えるために、スポーティーなキャラクターを際立たせのだろう……。

このスポーティな乗り味は先代「RS」を超えたといっても過言ではない

 これはあくまで筆者の推論だが、となると今回のセッティングにも納得がいく。

 もはやフィットにロードセーリング(RS)を望む市場の声が少なくなってきているのだとしたら、中途半端なセッティングを施してどっちつかずになるよりも、「走らせれば抜群に楽しいフィット」を作り上げた方がいいじゃないか!

 そんな無言の気合いが、このフィット e:HEV Modulo Xには込められている気がしたのである。

 今回の目的地である赤城の峠道を、フィット e:HEV Modulo Xは確かな手応えと共に駆け上って行く。

 タイヤはノーマルと同じ横浜ゴム「ブルーアース エース」(サイズは185/55R16)だから、スポーツタイヤのような剛性レベルではない。しかしその低燃費タイヤが実効空力によって路面に押さえつけられると、低燃費タイヤとは思えないグリップ力を発揮する。

峠道の上りコーナーもキビキビとクリアしていくフィット e:HEV Modulo X

 バンピーな路面でも車体は跳ねず、底付もしない。切れば切っただけ気持ちよく曲がり、モーターパワーで瞬時にターンアウトして行く。峠道のような過酷なステージを走り抜けたときの乗り心地はそれこそ快適であり、ここに照準が合わせられているのだと実感する。

 走りが熱を帯びても、リアが浮き上がらず挙動が安定しているのは、これこそがダンパー制御のおかげだ。総じてフィット e:HEV Modulo Xは、非常に高度な技術力によって、奥深い操縦性を手に入れている。そんな難しい言葉を使わずとも、走らせればシンプルに楽しい。

 だからこそ、フィットに純粋なガソリンエンジンと、6速MTの組み合わせがなかったことは、残念でならない。e:HEVのリニアな加速も魅力だが、こうしたコンパクトカーには速さよりもクルマとの対話感が大切だと思うからだ。

エコタイヤでも実効空力の効果でしっかりとグリップする

 乗り心地が硬い、とは言ったが、決して普段使いで不快になるようなガチガチの硬さではない。どちらかと言えば欧州車のような硬さなのだ。ドライバーにドライビングプレジャーを感じさせながらも、同乗者には不快に感じさせない。とくにツーリングで遠出をする際に真価を発揮するタイプの乗り味なのだ。まさに今回のロングドライブと赤城の峠ではその魅力が存分に感じられた。

 こんな走りを見せつけられると、もし6速MTモデルがあったなら……と夢想してしまう。そうまでして、理想の走りをさらに追い求めてみたくなるくらい、フィット e:HEV Modulo Xのエアロパーツには価値がある。

フロントマスクに当たる空気を鋭い形状にしたフード先端によって上下に整流
フロントバンパーコーナーの形状を最適化することで直進安定性を向上
フロントバンパー左右にはエアロフィンを設け、空気の流れをコントロールすることで操舵フィールを向上させている
フロントバンパーの下側中央にあるエアロスロープが速い空気の流れを作り直進性を向上させているという
さらにフロントバンパー下側左右に小さなエアロボトムフィンを設けたことでホイールハウス内の乱流を抑制
専用開発で純正アクセサリーとは長さも角度も異なるテールゲートスポイラーは、後方へしっかりと空気を受け流し、前後のリフトバランス改善にも効果を発揮している

 繰り返しになるがこのフィット e:HEV Modulo Xは、これまでのステップワゴンやフリードといったミニバンをベースとしたModulo Xとはちょっと違う。その目的は、ずばり“小さなホンダで元気な走りを楽しむ”こと。

 それをアナタが求めるならば、ぜひ一度試乗してほしい。ディーラーから出て1つ角を曲がっただけで、その気持ちよさが分かるはずだから!

試乗して筆者が感じた“ホンダ・スピリッツ”を、ぜひ体感してみてほしい

Photo:和田清志