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純正アクセサリーを装着した新型「シビック」、国内最高峰レースで戦う大津弘樹選手はどう評価した?

新型「シビック」純正アクセサリー装着車を、スーパーフォーミュラやSUPER GTといった国内最高峰レースで戦う大津弘樹選手(左)がドライブ。その評価をモータージャーナリストの山田弘樹氏(右)がインタビューした

「二人のための上質なクーペ」をコンセプトに開発されたシビック純正アクセサリー

 純正アクセサリーを装着した新型「シビック」を、レーシングドライバーである大津弘樹選手と走らせた。スーパーフォーミュラとSUPER GTという、国内最高峰レースで戦うトップドライバーに運転してもらいながらそのインプレッションを聞く、なんとも贅沢な試乗だ。

 集合場所は、ホンダアクセスの本社前。待ち構えていたシビックは、プレミアムクリスタルレッド・メタリックのボディカラーが朝日に美しく映えていた。そんなシビックをホンダアクセスは、フロントロアースカートとテールゲートスポイラーでドレスアップ。ホンダのエンブレムやドアミラーカバーと共に、ブラックの差し色でその印象を引き締めていた。ちなみにフロントロアースカートはクリスタルブラック・パール仕様のほかにすることも可能だ。

 走りの性能に関しては、至ってシンプル。前述したフロントロアースカート&テールゲートスポイラー以外は、その足下に「MS-038」ホイール(18×8J インセット50mm)を履くだけで、そのダンパー&スプリングもノーマルである。しかしそれは、筋が通っている。なぜならシビックはノーマルですでにその足まわりがスポーティに仕上げられており、敢えてこれを換える必要はないからだ。むしろ肝心なのは、オーナーの所有する歓びをさらに高めることができるエクステリアのカスタマイズなのだ。

8月に発表、9月に発売された新型シビック。それにあわせて、ホンダアクセスは純正アクセサリーを発売。新型シビック用純正アクセサリーは「二人のための上質なクーペ」をコンセプトとし、ドライビングそのものの楽しみ、所有する喜びを高めるためのアイテムをラインアップした
エクステリアではドライビングを楽しむアイテムとして、シビックが持つ走りのイメージを高めるフロントロアースカート(4万9500円)、テールゲートスポイラー(4万4000円)、18インチアルミホイール(18×8J PCD114.3mm インセット50mm。4万6200円/本)などをラインアップ。テールゲートスポイラーはベース部分にブラックをあしらったデザインとし、ウイング部のフローティングデザインを強調している。ボディ色ではなくブラックのフロントロアースカートとドアミラーカバー(ベルリナブラック)、ブラックエンブレムを組み合わせたスポーティなコーディネートを楽しめる
インテリアでは所有する喜びを高めるアイテムとして、センターコンソールボックス&ドリンクホルダーイルミネーション(2万2000円)やサイドステップガーニッシュ(フロント部LEDイルミネーション。3万800円)、ドア開閉時に足下を車名ロゴで優しく照らすパターンプロジェクター(3万3000円)など、シビックの持つ上質感をさらに向上させるアクセサリーを揃える

 さらに言うと「MS-038」ホイールは先代シビック用に開発されたモデルだが、そのデザインはむしろ本家の現行ホイールが“寄せてきた”感があるほど完成されている。2×5本スポークをシルバー塗装して浮かび上がらせ、その間にガンパウダーブラックの5本スポークを配置する。一見シンプルながらも見れば見るほど面白いそのデザインは未だに現役であり、なおかつ純正アクセサリーとしてそのまま現行モデルに採用したのだから、その乗り味もきちんとマッチしているはずだ。

 というわけでさっそく大津選手とシビックに乗り込み、高速道路を経由して都内のヨットハーバーまで走らせた。新型シビックは端的に言うと乗り味がソリッド。純正でグッドイヤー「Eagle F1 Asymmetric 2」を履きこなす足まわりはきちんと剛性が上げられており、ダンパーは特性で言うと伸び側減衰力が高め。だからしっかりした操舵感と同時に、わだちや路面のアンジュレーションに対しては、これを拾うタイプという印象だった。

大津選手とシビックの性能をチェック

 しかし試乗車は距離がこなれていたせいもあったのか、助手席からだとこれがかなり和らいでいる印象を持った。また、バネ下でタイヤがバタつかないのは、純正サイズをキープするホイールのメリットだろう。

 そしてその乗り味は、高速道路に入るとよりフラットさを増していった。料金所からの加速ではパーシャルスロットルでも十分なトルクが発揮され、CVTの追従性が良好なことは助手席からでもそのエンジンサウンドで分かる。走行車線で素早く流れに追従し、クルージング。ときおり車線変更で追い越しを掛けるときも、どっしりとした安定感の中に身のこなしのよさが見て取れる。大津選手のステアリング操作は至ってゆっくりとしているのだが、クルマは狙い通りにラインをトレースしているからだ。少ない舵角ゆえにロールも穏やかになり、乗り味に頼もしさが出てくる。

 さてここからは、大津選手のインプレッションを聞いてみることにしよう。

動きがつかみやすいから、狙った通りに走らせられる

5歳の時にレーシングカートに乗ったのがレース活動のスタートだったという大津選手。2018年からSUPER GT(GT300クラス)に参戦し、2020年からGT500クラスへステップアップして64号車(Modulo NSX-GT)をドライブする。現在27歳

――ところでスーパーフォーミュラ第6戦ツインリンクもてぎ、おめでとうございます!

大津選手:ありがとうございます!

――あの雨のQ2をスリックのまま走って、それがQ3につながりましたね。

大津選手:はい。スリックでコースに留まるのは正直怖かったですけれど、もしQ2でレインに変更していたら、Q3をスリックでいくなんて考えは起きなかったと思います。これも、自分を勝たせようとしてくれたエンジニアのおかげです。勝てるときって、こういう感じなんだぁ……って思いました。

――さて今回は、純正アクセサリーを装着した新型シビックを運転して、その印象を語っていただくわけですが、まずシビックの走りはどうですか?

大津選手:TYPE Rではなくて普通のシビックなのに、すごくガッシリしていますよね。ステアリングを通して動きがつかみやすいから、狙った通りに走らせられる印象です。シートもいい感じで、スポーツカーのようです。アクセルも踏み出しのレスポンスがよくて、気持ちよく運転できます。1.5リッターターボはすごく運転しやすいですよね!

「ステアリングを通して動きがつかみやすいから、狙った通りに走らせられる」と新型シビック純正アクセサリー装着車を評価する大津選手

――今回純正アクセサリーで言うと、走りに関係するパーツはテールゲートスポイラーとフロントロア―スカートくらいですが、新型シビックはシャシーがしっかりしているから十分にスポーティですよね。

大津選手:はい。本気で走らせたらすごく楽しそう。出発する前にテールゲートスポイラーの形も確認したのですが、空力的にも考えて作られている印象を持ちました。ウイングのステーと翼端板が、GTマシーンっぽく分かれているところが面白いですね。派手すぎず、しかし存在感があってまとまっていると思います。

――ホンダアクセスいわく、このリアウイングはシビック用パーツの中でもとても人気だそうです。ステー部分がブラックになっていて、遠くから見るとウイングが浮き上がっているように見えるのがチャームポイント、とのことでした。

大津選手:整流もよさそうだし、なかなかダウンフォースが出そうな形です。

――ダウンフォースがあるというのは、具体的にはどういうことなんですか? タイヤのグリップが上がるという感じですか?

大津選手:まず直進性が上がると思います。こうやって高速道路を走っているときも、車線変更などのときも安定感が出ます。そしてRが大きいカーブを曲がるときなども、分かりやすいと思いますよ。速く走らせるだけでなく、普段の運転でもリアの安定性はとても大事です。

テールゲートスポイラーについて「空力的にも考えて作られている印象」と大津選手は語る

――サーキットへ移動するとき、こういうクルマはどうですか?

大津選手:サーキットへの移動は音楽を聞きながらゆったり走って行きたいので、シビックだと飛ばし過ぎちゃいそうです(笑)。速いクルマに乗ると、つい速く走らせたくなってしまうんですよね。ボクはいま前のモデルのヴェゼル Modulo Xに乗っているんです。ホンダ車には色々乗せていただいたのですが、ヴェゼル Modulo Xが好きで。

――現場までは気持ちをリラックスさせて行きたいわけですね(笑)。普段はホンダセンシングでACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使ったりしないんですか?

大津選手:しますよ! 積極的に使っています。車間もきちんと保ってくれるし、高速道路ではとても役に立っています。

――趣味でクルマを走らせたり、コレクションしたりはしないのですか?

大津選手:それがあんまり……ないんですよね。塚越(広大選手)さんとか、いろいろ趣味のクルマで楽しんでいますけど、自分はあんまりクルマ好きじゃないのかなぁ?

――そんなことはないでしょう。だって今は、国内最高峰のレーシングカーに乗ることができているんだから、それで十分刺激的だと思います。ではこれまで乗ったなかで、一番好きなレーシングカーって何ですか?

大津選手:スーパーフォーミュラはとても刺激的ですね。初めて乗ったときはあまりに速すぎて、富士の1コーナーからAコーナーまで、アクセルを全開にできませんでした(笑)。富士の100Rなんて、アクセル全開で走るんですよ!? 250km/hは出ています。横Gは3Gを超えて4Gに入るときもあるから、最初は本当に首が耐えられなくて。

――4Gってスゴイですね……。ではSUPER GT GT500クラスのNSX-GTはどんなマシンなのですか?

大津選手:これもものすごいクルマです! ダウンフォースはスーパーフォーミュラより強いんですよ。でもフォーミュラカーと比べてしまうとクルマは重たいから、運転がとても難しいんです。路面にフロアを刷りながら走って行く感じです。……あっ、その感覚でいうと最近、カートレースによく出ています。カートはクルマと自分の距離が近いので、今クルマに何が起きているのか? を感じ取る訓練になります。それをレースにフィードバックするのが面白くて。ブレーキの踏み方とか、フレームやドライブシャフトのねじれをピンポイントでうまく使って走らせたりとか……。

――ドライブシャフトのねじれも感じ取れるんですか!?

大津選手:感じ取れますよ! 今回のシビックではそこまで走り込んでいないから分からないですが、「フィット Modulo X」のホイールなんて、その“たわみ”を上手に使って乗り心地や操縦性を出しているんです。剛性パーツってただ剛性が高いだけじゃくて、穏やかに変形して穏やかに戻るのが理想だと自分は思うんです。それがModulo Xシリーズではきちんとできていますよね。

――なるほど! そうしたらこのシビックも、今度はサーキットできちんと走らせてみたいですね。

大津選手:はい、すごく楽しいと思います!

ホイールも注目のアクセサリー

――それでは最後に、今年のレース活動に対する総評と、これからの目標について教えてください。

大津選手:スーパーフォーミュラでいうと、やっぱりルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得できたこと。そして第6戦でポール・トゥ・ウインできたこと。自分はこれまでのキャリアをトントン拍子ではこれなかったんですけど、今年フル参戦ができて、こうした結果を残せたことは自信になりました。一方で今シーズンのSUPER GTは最後まで結果を残すことができず、厳しいレースが続いてしまいました。自分のミスも多くあり反省点ばかりです。

 今後の目標としては、プロを長く続けるためにもSUPER GTではチャンピオン争いを常にできる力を身につけたい。そして、スーパーフォーミュラでは“チャンピオン”というものを次の目標として頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました!


 シビックの純正アクセサリーはいわばドレスアップ仕様だが、テールゲートスポイラーやロアースカートを装着してもシビック本来の運動性能をスポイルしていない。筆者はそのベースのポテンシャルの高さから、いたずらにこれをチューニングする必要はないと思う。クローズドコースでテストした印象から言っても、新型シビックの走りは“プチTYPE R”と呼べるほど高いスタビリティと運動性能を得ている。むしろよほどコンセプト立てて考えなければ純正サスペンションの性能やスポーティなキャラクターを超えることは難しく(筆者などはこのまま車高でレイクバランスだけ変えられたら最高だと思うが、それはマニアック過ぎて商品にならないだろう)、この乗り心地をソフトにして「普通のシビック」にしてしまうのが関の山ではないか。またいたずらな車高ダウンは、ホンダセンシングの作動にも影響する。

 つまり現状シビックは、ドレスアップを楽しむことが最善なのである。そこまでクルマがきちんと仕上がっている。そしてさらに、もしこのシビックに「実効空力」を効かせた走りが味わえたら……などと想像してしまうのである。

Photo:和田清志