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D-SPORTの新製品ダイハツ「コペン」用「S-SPEC サスペンションキット」の実力とは? 一般道とサーキットで試してみた
2023年6月28日 00:00
ダイハツ車向けのカスタマイズパーツブランドとして、「コペン」ユーザーからも厚い信頼を得ているD-SPORTが、5月に「S-SPEC サスペンションキット」をリリース。今回その製品を装着した新旧デモカーを、一般道と筑波サーキット・コース2000で試乗する機会を得た。
まず「SーSPEC サスペンションキット」の概要をお伝えすると、これはモノチューブ式ダンパーをベースとした車高調だ。フロントはピロアッパーマウントを採用することでキャンバー角度調整が可能になっており、かつスプリングのプリロードと全長を個別に調整できるフルタップ式となっている。
対してリアもダンパー自体はフルタップ形状となっているが、コペンはスプリングが別体式となることから、車高調整は専用のネジ式アジャスターで行なう。
ダンパーシステムは伸縮同時調整の1WAYタイプで、減衰力は前後ともに24段の調整幅。組み合わされるスプリングは現行モデルであるLA400K/A用がフロント58.8N/mm、リア34.3N/mm。初代モデルのL880K用がフロント49.0N/mm、リア19.6N/mmとなっている。現行モデルのレートが若干高め設定されているのは、フルモデルチェンジで増えた車重と向上したボディ剛性への対応で、どちらもノーマルよりスポーティに仕立てられている。また、高精度のスフェリカルベアリングの採用やオイルシールなど、部品と組立精度にもこだわった国内アッセンブリー製品で耐久性も優れているという。価格はいずれも20万3500円。
まずは一般道で乗り味を確認してみた
さっそくサーキット試乗といきたいところだが、その前に筆者はまずこのサスキットを、一般道で確認してみた。なぜなら今回の目的はタイムアタックではなく、このサスキットが持つポテンシャルを、トータルにインプレッションしてほしいとリクエストを得ていたからだ。
試乗車は現行モデル(LA400K/A)。まずその第一印象だが、SーSPEC サスペンションキットの乗り味は、ノーマルよりも断然しっかり感が高い。
しっかり感が高くても、乗り味が硬いと表現しないのは、ダンパーがいい仕事をしているからだ。筑波サーキットの周辺道路はうねりが多く、路面も割と荒れている。しかしこうした状況でもダンパーは路面からの入力を素早く減衰し、レートを高めたスプリングの反発を抑えてくれる。試乗車は車高が適度に下げられており、足下にはダンロップの「ディレッツァZIII」という高剛性なスポーツラジアルタイヤを履かせていた。なおかつハンドリング特性を向上させるためにストラットタワーバーも装着していたから、もちろん車内には微振動が伝わってくるし、段差の影響もやや受けやすい。
しかしこのダンパーは、単筒式特有のガス圧による反発もうまく抑えられていて、むしろメーカー製のビルシュタインダンパー装着車よりも乗り心地がよいと感じた。
またハードトップを開けるとそのハンドリングが微妙に変わり、少しキビキビ感が高まった。ルーフが格納されて下がった重心や、ボディ剛性バランスの変化がそう感じさせるのだろう。風を切りながら走らせれば多少のラフさも味となり、スポーティな運転が楽しめた。
ちなみに一般道での減衰力は前後12段戻しが基本とのことだったが、当日セットアッパーを務めたプロドライバーの加藤彰彬選手がリアの減衰力をさらに4段戻してくれたことで、その乗り心地はさらによくなった。
サーキット走行における適応はどうか?
さて次は、いよいよサーキット走行。最初に走らせたのは、引き続き現行モデルだ。
一般道ではそのガッチリとした剛性感が印象だったSーSPEC サスペンションキットは、サーキットだと実に素直なストローク特性を見せた。ディレッツァZIIIが高ミュー路面にグリップし、はるかに大きな荷重がサスペンションに伝わるようになったからだ。
そしてその操作性には、安心感がある。1コーナーや第1・第2ヘアピンのようにフルブレーキングでアプローチするような場面でも足まわりが穏やかに踏ん張り、切り込めば同じくジワーッと旋回姿勢に入ってくれる。
ターンインでリア荷重が減っても、リアタイヤの接地性が失われないのも運転しやすい。ここにはダンパーの減衰特性だけでなく、前後の車重バランスのよさも加味されているわけだが、これこそが車高調のよさだといえる。だからドライバーとしては、安心してブレーキングに入れる。
いわゆるオン・ザ・レールのハンドリングでもまったく退屈しないのは、コペンが小さくて軽いからだろう。ブレーキングを終えてクリッピングポイントに向かうまでのコーナリング速度が高いから、ドライビングが楽しいのである。
全体的にはマイルドな乗り味が特徴的で、確かにストリートとサーキット走行の両方を、うまくバランスしたサスキットだと思う。そしてストリートだけを考えるなら、もう少しグリップが低く、しなやかなタイヤを履かせるのもアリだと思えた。
そんな軽さを生かした走りに磨きをかけたのが、初代“ハチハチ(L880K)”コペンだ。そのエンジンはECUや排気系のチューニングによってノーマル比で40PS以上もパワーアップしており、なおかつインタークーラーの装着や、その効率を高めるシュラウド、放熱性を高めるボンネットの採用で、そのパワーが持続するようにチューンされている。
実際に走らせても、ハチハチ・コペンは速かった。
最終コーナーや1コーナーなど、シャシー剛性が生きる場面だと現行型のコーナリングスピードが勝ることもあったが、基本的にはコーナーの脱出からシフトアップをする度に、“スッ”“スッ”とハチハチが前に出ていく。そして長く走れば走るほど、その差は開いていく。
もちろんそこにはCVTと5MTの差もあるが、軽さとパワーの差がダメ押しで効いていた。たった10PSと、あなどるなかれ。エンジンパワーが限られる軽自動車では、その10PSが効く。
加速性能だけでなく、もちろんシャシーパフォーマンスも高い。
軽さを生かして飛び込んだコーナーの進入は、6POT対向キャリパーをインストールしたブレーキが、その車速を確実に落としてくれる。
パワーと車重、タイヤのグリップを考えれば純正の片押しキャリパーでも、十分だと思う。しかしこのブレーキキットはタッチは一枚上手で、フルブレーキング時でも直感的に正確なペダル操作ができる。そして気温35度を超えた筑波で周回を重ねても、(路面温度はさらに上だろう!)タッチに変化がない。
肝心なSーSPECサスペンションキットは、これがまた素晴らしいマッチングを見せてくれた。ターンインからの姿勢変化は素早く滑らかで、挙動が落ちついているから、そのスピード感覚に慣れてくるとどんどんブレーキングポイントが奥になり、クリップが手前になって、アクセルの踏みだしが早くなる。
「ダンロップコーナーはアプローチの手前からアウト側の縁石ギリギリを通って、可能な限り広いラインを。そして少しだけアクセルを緩めてターンインで姿勢を作ってすぐに全開。そのまま全開でもいけるけれど、その方が結局タイヤが滑らず、トータルで速く走れます」と、加藤選手の本格的なアドバイスが高速コーナーで安心して試せるだけの、懐深さがこのサスキットにはある。
1つ注文を付けるとしたら、このハチハチ・コペンに限ってはダンパーの減衰力設定をもっと上に振ってもよいと思った。というのもあまりに走りが楽しくセットを詰めていったら、フロント側の減衰設定を使い切ってしまった。ストリートに比べて高荷重なサーキットだと1ノッチの変化量が少なく、せっかくの24段調整がもったいない。
そしてこうしたリクエストに応えることができるのも、調整式ダンパーのメリットだ。少しずつセッティングを覚えながら走りを楽しんで、時期が来たらオーバーホールする。コペンと長く走り続ける上で「S-SPEC サスペンションキット」は、心強いアイテムになってくれることだろう。