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ダイハツ、「DNGAを鍛える」ために小型SUV「ロッキー」でTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジに挑む!
2023年3月30日 08:00
- 2023年3月26日 開催
ダイハツ工業はユーザーに寄り添い、暮らしを豊かにすることを目指して「モノづくり」と「コトづくり」の両輪でさまざまな取り組みを行なうなか、その一環として2022年からモータースポーツ活動を再開。そして2023年度はSPK(D-SPORT)が運営するD-SPORT Racing Teamと共同で、TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ(ラリチャレ)への全戦参戦を予定している。
本稿では3月26日に開催された「TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge 2023 in三好」に参戦したD-SPORT ダイハツ ロッキー チームの活動をお伝えする。
「ロッキー」のTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ仕様車
今回、競技車として選ばれたのはダイハツ「ロッキー」。新世代のプラットフォーム「DNGA(Daihatsu New Global Architecture)」を採用し、レジャーから日常使いまで活躍できる「良品廉価」なクルマである。
ロッキーには1.2リッターガソリンエンジン+e-SMART HYBRIDのハイブリッドモデルと、1.2リッター自然吸気エンジン、そして1.0リッターターボエンジンを搭載するガソリンモデルの計3種類のパワートレーンをラインアップしている。
そのなかでラリー車のベースとなったのは、1.0リッターターボエンジンを搭載し、トランスミッションにCVTを組み合わせる4WDの「X」グレードだ。
ラリチャレは国内Bライセンスがあれば参加できるビギナー向けのラリー競技。そのためクルマの改造範囲は限定されているが、今回はモータースポーツという使用環境での車両の評価をすることも参戦の大きな目的なので、ラリチャレに出場するロッキーは基本的にノーマル。変更されたところはラリチャレに出場するために必須のロールケージ、6点式シートベルト、バケットシートとなる。なお、フロア下のパーツを保護するためのアンダーガード類を装着し、さらにロードクリアランス確保の意味でスプリングをD-SPORT X-SPECスプリングへ交換している。
本番を前にサーキットでシェイクダウン走行を実施
ロッキーによるラリチャレへの参戦は開発部門を中心としたダイハツ社内チームによる活動で、代表を務めるのはダイハツ工業 コーポレート統括本部 DGR主査 兼 D-SPORT Racingチーム 監督 殿村裕一氏だ。
殿村氏はこの取り組みについて「ダイハツとしてのモータースポーツへの参加はコペンでのラリー参戦から始まりました。そして2023年2月にはミラ イースでK4GPへの参戦も開始しています。これらの取り組みはダイハツ車のベーシックな部分を鍛えることを目的としていました。そして、今回のロッキーには現在のダイハツ車の基本となるDNGAプラットフォームが使われています。ラリチャレへの参戦はモータースポーツを通じて、DNGAをさらに鍛え上げるというのが主な理由です。車両の開発時には各種の耐久試験は当然しっかりと行ないますが、ラリーのようなスポーツ走行領域はテストコースで走るのとはまるで違うものです。例えばタイヤショルダーのゴムが溶けるような、強い横荷重をかけ続けるという項目は(開発テストには)ありません。それだけにラリチャレへの参戦を通じていろいろな現象をとにかくいっぱい出して、それらを持ち帰り分析することで、いまのクルマ、これからのクルマをもっといいものにできるよう、あらゆるモノ、コトの改善をしていきます。そういった目的もあるので用意したロッキーはラリーの規定に合う装備だけ付けた、市販車に近い仕様としています」と説明した。
中山サーキットは岡山県にあるミニサーキットで、日本のサーキットとしては4番目に長い歴史を持つという。コースは山あいに設けられているので地形を生かした高低差があり、それでいてタイトなコーナーも多いというもの。ラリーのSS(スペシャルステージ)で使用する峠道のようなところである。
中山サーキットに持ち込まれたロッキーは、直前にロールケージなどラリー用の装備が付いたばかりで、走行するのは初めてという状態。そのため今回はタイム計測をするのではなく、車両の状況確認が主な目的となった。
なお、ロッキーのクルーはダイハツ工業 コーポレート統括本部 DGR(TGR出向)兼 D-SPORT Racingチームの相原泰祐氏がドライバーで、コ・ドライバーは同じくダイハツ工業の萩野司氏が担当。2022年FIA世界ラリー選手権(WRC)第13戦となった「ラリージャパン」にコペンGRスポーツで参戦し、JRCar3クラス優勝という成績を収めた名コンビである。
チーム代表の殿村氏に続き、走行を終えた相原氏にもこの取り組みについてのコメントを聞いた。相原氏は「ダイハツとしてはミラ イース、コペンでモータースポーツに参加していますが、それらに加えて新たに始めるのがロッキーでのTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ参戦です。この活動は会社からのトップダウン指示ではなく、開発現場からの声を反映したものとなります。ロッキーを選んだ理由はユーザーの皆さまに愛されているクルマであることです。そしてSUVは世界的にスポーツカーとしての存在感も増していますので、そうした情勢にわれわれも参画するということも考えに入っています。今回のクルマはほぼノーマルで、サスペンションまわりも乗り心地重視の作りです。車高も全高も高いSUVなのでサーキット走行では苦戦すると思っていましたが、走った手応えは予想以上にいいものだったと感じました。とはいえやはりロールは大きく、サスペンションとボディをつなぐブッシュ類の柔らかさは気になるところでした。でも、そうした部分の洗い出しを含めての挑戦なので得るものは多かったと思います」と語った。
TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 三好へ参戦
3月26日に徳島県三好市を舞台に開催されたTOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 三好。四国での開催は7年ぶりとなり、舞台となる三好市での開催はこれが初である。
メイン会場は三好市を流れる吉野川沿いの三野健康防災公園で、セレモニアルスタートや観戦ができるSSが用意される。また、イベントステージ、フードコーナー、協賛各社のテントブースが並ぶTOYOTA GAZOO Racing PAPK(TGRP)も設けられた。
ラリー全体図としては三好市三野体育館にラリーヘッドクォーターやエントラントのサービスパークが設けられ、SSとして三好市の山間部が使用される。なお、各会場間の移動には三好市内の一般道が使用されていて、沿道に集まったギャラリーは通過するラリーカーに向けて声援を送っていた。
2023年の開幕戦となったTOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 三好には47台のエントリーがあり、D-SPORT ダイハツ ロッキー チームのロッキーは「OPEN-C/E:GR YARIS限定(GXPA16)/全自動車メーカー車両(気筒容積区分無し)」というクラスでの出走となる。
チームは前日から会場入りして参加受付、サービステントの設営を済ませる。その後は「レッキ」と呼ばれるSSの試走を行なう。ここではコ・ドライバーが道路の状況やカーブの特徴などを細かく記録し、本番走行中にその記録を読みあげることで、ドライバーは先が見えないカーブに対しても全力で攻められるようになる。ゆえにレッキはとても大切な作業である。なお、レッキは競技ではないのでヘルメットなどは不要だが、速度制限など道路交通法は遵守して行なっている。
TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 三好でのSSは山間部(ターマック)を走るものが2ルート。グラベル区間は防災公園に用意された1ルートという3パターンのステージが用意される。そしてこれらのコースを午前と午後の両方で走るので、三好では計6回のSS走行をこなす必要がある。
3月26日の日曜日、天気はあいにくの雨となったが、エントラントはサービスパークを出て山間部のSS1(ふれあい公園I)へとクルマをスタートさせていく。SS1は曲がりくねった山道を駆け上がる約2kmのコース。SS1の走行後は山道を下り、一般道を移動し、セレモニアルスタートとSS2がある防災公園へ向かう。セレモニアルスタートはエントラントにとって大きな見せ場。大勢のギャラリーに向けてエントラントの紹介が行なわれたあと、ゆっくりとスタートゲートをくぐってSS2(防災公園I)のスタート地点へ移動。そしてグラベルを全力で走り、SS3(明神I)へ向かうという行程となる。
ロッキーの出走順は全47台中の44番手なので最後の方。ほとんどのクルマが出発して閑散としたサービスパークを赤いカラーのロッキーが進み、スタート地点となる「タイムコントロール」へ向かう。タイムコントロールでは出走時間まで少し待機。時間が来たらタイムカードにスタート時間を記録してもらい、コ・ドライバーがそれを受け取ってスタート。SS1のスタート地点まではリエゾンと呼ばれる一般道走行なので、ロッキーはゆっくりと山道を上がっていった。
SS1はきついカーブが連続する峠道を駆け上がるコースだ。そうなるとロール量が多いノーマル車では厳しい面もあるというのが大方の予想だったが、結果はなんとSS1クラストップ、総合32位のタイムで通過。これは驚きであった。
続けて、防災公園に設けられたセレモニアルスタートの場に現れたロッキー。スタート前の車両紹介ではそれまでゲートを通過したラリーカーとは違う車種ゆえ、MCのコメントも盛り上がり、ギャラリーの注目度も高いように感じられた。
セレモニアルスタート後はすぐにSS2のスタートだ。防災公園のコースは短いながら全区間グラベルで4WDのロッキーは強みが見せられるところだ。その期待どおりSS2もクラストップのタイムをマーク。総合でも1つ順位を上げていった。
TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 三好を走り終えて、ロッキーの現在地は?
ロッキーというクルマにとって初めてのモータースポーツ参加となったTOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 三好。賞典外ながらクラストップの成績を残した。
しかし、目的はいい順位を得ることではなく、モータースポーツへの参戦を通じてDNGA、そしてロッキーというクルマを鍛え上げることである。そこで走行を終えた相原氏に感想や課題などを伺ってみた。
相原氏は「ラリーをノーマル車で走るということも初めてのことでした。そしてロッキー自体もモータースポーツで使うようには作っていません。その状態のクルマをラリーのフィールドで限界走行させるとどうなるのか? そんなことを確認するための走行でしたが、理由は殿村も言っていたように“DNGAを鍛える”ためのものです。つまりラリチャレへの参戦は耐久性促進試験だとも言えます。お客さまに10万km乗っていただいたときに出るかもしれない不具合が、ラリーというハードな環境下ではもっと短い時間、例えば1戦の走行で同じような不具合を出すことも可能です。本来だったらクルマの開発が終わって何年も経ってから見えるはずの不具合が早く見られることは、技術者にとってとても有意義です。早い段階で問題点が分かれば改善の速度を大幅に速めて“もっといいクルマ作り”ができることにつながります」と語った。
この日の走行に関しては「シェイクダウンはドライ路面でしたが、今回は路面グリップが低く、スピードも上がらないウエットコンディションです。そのためクルマへの入力(負荷)は少なかったと思いますので、課題として見えた部分もあれば、見えきっていないところもありました。でも、ラリチャレへの参加を続けていけば色んな部分が見えてくるでしょう。今回の参戦で得られたことで最も大きいものを挙げるとすると、モータースポーツの舞台にノーマル車で参戦し、トラブルなく走り切れたこと、そしてDNGAのよさが改めて確認できたことですね。これは大きな収穫であり、とてもうれしく思っています。次回の第2戦の舞台は長野県の山の中になります。こちらでは長い距離のグラベルSSが設定されるので今回より条件はハードです。そのためロッキーにどんなことが起こるか分かりません。でも、それもまたDNGAを進化させることにつながるので楽しみでもあります」と答えてくれた。
ダイハツによるモータースポーツ活動は他のメーカーとは視点が違うところがあるが、そこが最大の魅力。TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジへの参戦をはじめ、今後のダイハツの取り組みに注目したい。