試乗レポート

ダイハツ「ロッキー」の1.2リッターハイブリッド&ガソリン試乗 それぞれのよさはどんなところ?

パワートレーンのラインアップが3種類に拡大。シリーズハイブリッドの乗り味は?

 160万円台からというお手頃な価格で、シングル世代からファミリーまで使い勝手のよい室内と荷室、タフで精悍なスタイリングを持つコンパクトSUVとして、2019年の登場以来、大ヒットモデルとなったロッキー/ライズ。これまでは1.0リッターの3気筒ガソリンエンジン1本で2WDと4WDをラインアップしていたが、今回の一部改良と同時に、待望のハイブリッドが登場した。しかも、1.2リッターの小型エンジンを発電専用に搭載し、その電力を使用して100%モーターで走行する「e-SMARTハイブリッド」となっている。また、ガソリンモデルも新開発の1.2リッターエンジンに変更。先進の安全装備も充実させ、グレード構成はガソリンモデルに2WDとなる1.2リッターを3グレード、4WDとなる1.0リッターを3グレードで計6グレード、1.2リッター+モーターのハイブリッドが2グレードという構成となった。

 実車と対面したe-SMARTは、外観上はガソリンモデルと大きな変化がなく、エンブレムにブルーが入ったことと、言われて初めて気がついたグリル形状の違い、サイドに入った「e-SMART」のエンブレム、ホイールが専用デザインになるくらい。インテリアにはほとんど違いは見つけられなかった。内容を考えると、もう少し特別感を強調したデザインにしてもよいのかなと感じたが、「良品廉価」を掲げるダイハツとしては、無駄な加飾をして価格高騰に直結させてしまうのは避けたい、ということだろう。まさに「中身で勝負」の1台だ。

ダイハツ工業「ロッキー」。価格は166万7000円~231万8200円。ボディサイズは3995×1695×1620mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2525mm。車両重量はガソリンモデルの2WD車が970kg~980kg、4WD車が1040kg~1050kg。ハイブリッドモデルは1060kg~1070kg
シンプルな内装
ステアリングコラム右側のスイッチ類。アクセルペダルだけで加減速がコントロールできる「スマートペダル(S-PDL)」のスイッチもここ
メーター表示。左と中央はガソリンモデル、右はハイブリッドモデル
シート
トヨタ自動車「ライズ」。今回は試乗することができなかったが、ボディサイズやパワートレーンなどの基本部分はロッキーと共通
インパネ
シート
ラゲッジ。リアシートは6:4分割可倒式
ラゲッジボード下の収納部
ハイブリッドモデルではAC100V/1500Wのアクセサリーコンセントをオプション設定。停電や災害時にも安心な非常時給電機能を備える

 あらためてe-SMARTのシステムを紐解いていくと、発電専用に搭載される1.2リッター3気筒のガソリンエンジンは、最高出力82PS/5600rpm、最大トルク105Nm/3200~5200rpmを発揮する。そこで発電した電力は4.3Ahのリチウムイオンバッテリに蓄電され、そこから適宜モーターを駆動して走るという、シリーズハイブリッド方式を採用している。モーターの最高出力は106PS、最大トルクは170Nmと、同様のシリーズハイブリッドを採用するコンパクトカーを上まわる。既存のシリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムよりも、小型で軽量なシンプル構造となることが最大の特徴で、とくにモーターは2個を並列配置として機械式ギヤ数を最小限にしている。先陣を切るモデルとして、CO2削減効果が大きいロッキー/ライズが選ばれてはいるが、ゆくゆくは軽自動車にも搭載することを見越しているのは間違いなさそうだ。

 またこのシステムは低・中速走行の扱いやすさと、電気自動車のように滑らかでレスポンスのいい加速フィールが得られるため、街乗りでの使用が多いユーザーにメリットが大きく、ターゲットと合致していることも採用に踏み切った理由となっている。

ハイブリッドモデルは、新開発の直列3気筒 1.2リッターエンジンとe-SMART HYBRIDを組み合わせるシリーズ方式のシステムを採用。スペックは、1.2リッターハイブリッド用エンジンは最高出力60kW(82PS)/5600rpm、最大トルク105Nm(10.7kgfm)/3200-5200rpm、モーターは最高出力78kW(106PS)/4372-6329rpm、最大トルク170Nm(17.3kgfm)/0-4372rpmとなる

 そんなe-SMARTで街中を中心に試乗してみると、スタート時の静かさは電気自動車感覚。そこからアクセルをそっと踏み込むと、ちょっと鋭すぎるくらい俊敏な加速で飛び出した。ただ少し速度がのってくると加減速のコントロールはしやすく、なにより全域で余裕たっぷりの加速フィールは驚くばかり。しかも、ガソリンモデルより90kgほど重量が増えていると聞いて、挙動がもたつくのではないかという予想は見事に裏切られ、重量増がしっとりとした乗り味の上質感を生み出している。ステアフィールにも適度な落ち着きがあり、カーブを曲がる際にも荷重移動がじわりと効いて、車格までアップしたような「いいクルマ」感がしっかりと感じられた。このあと、ガソリンモデルに乗り換えてから分かったことだが、たとえ発電のためにエンジンが稼働したとしても、体に伝わってくるエンジンの振動が明らかに小さく、静粛性も高い。短距離だが高速道路を走ってみると、路面の継ぎ目を乗り越える際の足さばきにも上質感があり、長距離ドライブに出かけたくなったほどだった。

 そして、とても好感触だったのがアクセルペダルの踏み加減によって、加速・減速のコントロールができる「スマートペダル(S-PDL)」。既存のものは低速になると減速力が強まり、クリープが効かないので車庫入れの際の速度調整や、狙った位置で停止をするのにはそれなりの慣れが必要になるのだが、ロッキー/ライズのスマートペダルはクリープを残しているので、完全停止まではできない代わりに、10km/hくらいまででゆっくりと進みたい場合などのアクセル操作に違和感がなく、初心者でも扱いやすいと感じた。それでいて、カーブが連続する場面などではブレーキペダルに踏み換えなくてもいいので、かなりラクに思い通りのラインが描けるのもうれしい。出足の力強さが特徴の「ノーマルモード」にすると、街中ではパワフルすぎるほどで、燃費にやさしい「エコモード」を選択してちょうどいいかなといった塩梅だった。どちらにしても、新しい技術を取り入れつつ、ターゲットユーザーにも合わせて使いやすくアレンジしているところは、さすがだと感心した。

特徴がはっきりしている1.2リッターガソリンエンジン搭載モデルの走り

 さて、もう1つのトピックである、ガソリンエンジンの2WDモデルにも試乗した。新たに搭載された新開発1.2リッターの3気筒エンジンは、圧倒的な高速燃焼を実現して耐ノッキング性能を高め、燃焼エネルギーを効率よく動力に変換する高タンブルストレートポートを採用している。より細かい微粒子で燃料を噴霧することで、燃焼ガスのクリーン化を実現し、エンジン内に2系統冷却システムを搭載して暖気機能も向上。これにより高い低速トルクがもたらす、力強く滑らかでリニアな加速感を手に入れつつ、高い燃焼効率によって従来より10%向上した、コンパクトSUVトップの低燃費20.7km/L(WLTCモード)を達成している。

新開発の1.2リッター自然吸気エンジンは最高出力64kW(87PS)/6000rpm、最大トルク113Nm(11.5kgfm)/4500rpmを発生

 こちらは走り出してすぐから、元気がよすぎるほどのパワフルな加速。従来の1.0リッターターボよりも軽快感がアップしたように感じ、一般道でも車線変更や交差点のたびに、キビキビとした挙動が際立って感じられる。ステアフィールもやや軽めでラフな印象で、大きく切ったあとの戻りなどの操作感がちょっとガサツなところがあるようにも感じる。ノイズもアイドリング中の振動も大きく、全体的に上質という方向性よりはカジュアルにガンガン使う方が似合う印象だ。街中での低速シーンでは、やはりアクセルの踏み込みに対するレスポンスが俊敏すぎるように感じたので、ガソリンモデルにも「エコモード」があるとちょうどいいかもしれない。ただ、ロッキー/ライズはファミリーやアウトドア好きな人たちからの需要も多いため、5人フル乗車だったり、荷物満載だったりした場合には、これくらいのパワフルさが欲しいと感じるのではないだろうか。

 そして、子育て世代やアウトドア好きな人たちにうれしい装備も新たに加わった。以前から使い勝手のよさには定評のあったロッキー/ライズだが、今回はキーを身につけて施錠状態の車両に近づくと、ルームランプが点灯するウェルカムランプがガソリンモデルを含む全車に装備され、夜間や暗い場所での安心感と利便性を向上。ハイブリッドモデルでは、降車後の足下を照らすヘッドライト点灯延長機能、電動パーキングブレーキを全車に標準装備している。また、災害時の備えにもなる非常時給電システム付きのアクセサリーコンセント(AC100V/1500W)がオプション設定されたことも、カーライフを大きく変え、万が一の際の備えにもなる素晴らしい進化だ。

 予防安全装備も、進化したスマートアシストがガソリン、ハイブリッドの全車で標準装備となった。トップグレードのZには、停止保持機能がプラスされた全車速追従機能付きACCも標準装備されており、渋滞やロングドライブがかなりラクに安心に。こうして見てくると、免許取り立ての若い世代にもファミリーにも、子離れ世代にも、賢くアクティブに人生を楽しみたい人たちに、すべての点で推せるコンパクトSUVになったと実感したのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。

Photo:深田昌之