トピック

SPKのレーシングギアを試着できる「モータースポーツショールーム」と最新筐体が並ぶ「シミュレーターラボ」を初体験!

モータースポーツをもっと気軽に、より安全に楽しむための施設が登場

SPKが2024年4月に開設した「モータースポーツショールーム」「シミュレーターラボ」を訪れる機会を得た

 ダイハツ車向けのチューニングパーツブランド「D-SPORT」や、四輪レース向けのレーシングギア「アルパインスターズ」「アライヘルメット」をはじめ、高性能レーシングハーネス「TRS」といったモータースポーツ用アイテムを取り扱うモビリティビジネスのグローバル商社のSPK。

 そのSPKが、新たに「モータースポーツショールーム」「シミュレーターラボ」を今年の4月にオープンしたのは既報の通りだが、今回は実際にスポーツギアのフィッティングと、「シミュレーターラボ」を体験できるというので、大阪にあるショールームを訪れた。

SPKが今年の4月にオープンした「モータースポーツショールーム」
「モータースポーツショールーム」「シミュレーターラボ」の入口(中央のガラスの扉)
斜め向かいには2023年10月より稼働している新本社ビルがある

 ちなみにSPKは、創業1917年と100年を超える歴史を持っている老舗企業で、2023年10月に新本社が完成。今回訪れたショールームは旧本社をSPKヘリテージ・センターに改修したものだが、白い壁に覆われた室内はとても広くてクリーンな印象だ。

 中央にはグローブ類、両側を挟むように向かって左側にはシューズ、右側にはヘルメット、奥にはレーシングスーツが展示されている。SPKが取り扱う「アルパインスターズ」のほぼ全種類が網羅されているという。

 当日はSPK CUSPA営業本部の菅原達也さんが施設を案内してくれた。実は菅原さん、eスポーツの国際的な大会で輝かしい成績を持ち、さらにリアルなモータースポーツにも参戦経験のある二刀流のレーシングドライバーだ。

レーシングシューズ
レーシングスーツ
レーシンググローブ
四輪用ヘルメット

 それだけに菅原さんは、ユーザーの希望を素早く理解してお勧めを提案してくれる。さらに商品の特徴や、実際に使ったときのフィーリングについても、その違いを的確に教えてくれるありがたい存在だ。

 実際にレーシングギアを着て、動いてみたら「予想より太かった」とか「細かった」というのはよくあることだ。

 もっと言えばレーシングギアは“運転中の”安全性と操作性を高めるためのものだということも、ビギナーは理解していないことが多い。

 たとえばグローブなら「握り込んだときのフィット感」。シューズなら「つま先の操作感」が最優先で、極端に言えば手を広げたときの快適性や(そもそもグローブは立体裁断だから、握り込んだときに最適な形状になっている)、普段歩くときの快適性は必要ない。

案内してくれたSPK株式会社 CUSPA営業本部 菅原達也氏

 またこれは笑い話だが、あまりにぴったりなレーシングスーツをフルオーダーして、「翌年着られなくなった」なんて話もあるようだ。

 菅原さんいわく「プロのアスリートは(毎年スーツを作り替えることもあるが)、体重変化が少ないんです。対してアマチュアは、使い方や生活に応じて多少ルーズに採寸した方がよい場合もありますね」とのことだった。筆者も少し、耳が痛い。

広いフィッティングルームも完備。チームドライバーが複数人いても同時にフィッティング可能だ

 結果、アルパインスターズのレーシングスーツ「GP TECH V4」、レーシングシューズ「TECH-1 T V3」、レーシンググローブ「TECH-1 ZX V4」というベストフィットなレーシングギアを見つけることに成功した。

 そして、ヘルメットはARAIの「GP-J3」を選んでみた。普段は「GP6」を使っているので、ジャーナリスト活動やインストラクターワークでもコメントがしやすいオープンフェイスタイプを着けてみたのだが、とてもかぶり心地がよく、新たな購入の選択肢に上がった。

肩幅やウエストまわりなどアパレルを購入するのと同じように採寸を行なうことで、自分にピッタリなレーシングスーツを見つけられる
レーシングシューズも実際に紐をきっちり締めてみないと完璧なフィッティングは分からないもの

 ちなみにこのモータースポーツショールームでは、今日のように選んでもらった商品を購入することはできない。しかし筆者は、逆にそれがいいと思った。なぜなら試着しても、「何か買わなければならない」というプレッシャーを感じる必要がないからだ。

 そして菅原さんも、「予算より上の製品でも、どんどんリクエストして試してください」という。そうすることで上級グレードがなぜ高いのかも分かるし、「自分の使用範囲だったらこれくらいでいい」というバランスも、肌で感じることができるからだ。

レーシンググローブはステアリングを握った状態でフィットするように生地を裁断して作られているのだ
ヘルメットを選ぶ際は頭の縦幅と横幅を測定することでベストなサイズを見つけられる

 ちなみに筆者もアルパインスターズのスーツは初めてだったのだが、その「軽さ」と「通気性のよさ=涼しさ」が際立っていると感じた。暑い時期の耐久レースなどでは、特に有効だろう。

 さてこうしてフィッティングした商品の方番号やサイズは、最終的にはシートに記入して渡してもらえる。だからユーザーはこれを見ながらネットで購入することも可能だし、自宅から近い店舗にシートを渡せば、在庫があればすぐにそろえてくれる。

フィッティングした製品や品番をメモした用紙をもらえるので、これを購入する店舗やネットでオーダーすればOKだ

 ただ今回のように丁寧な説明と快適なフィッティングを体験すると、その場ですぐに欲しくなってしまうせっかちなユーザーも必ずいるだろう。そんなときこのショールームから、より近い店舗や希望の店舗にデータを送信して、購入できるようなシステムがこれからできあがれば、さらにシステマチックで便利だと思えた。

 現状このフィッティングサービスおよび店舗見学は、事前予約制となっている。だがそれは、まだショールームの運用が始まったばかりだからだ。予約はメール(labo@spk.co.jp)での問い合わせが必要だけれど、菅原さんも「レーシンググローブのサイズ確認だけでも、気軽に連絡してください」とのこと。

 友達と一緒に、「ちょっとのぞきに訪れるだけ」でも全然構わない。サーキットを走ってみたいけれど、レーシングギアをそろえるのはちょっと敷居が高い。そうと思っているあなたにこそ、一番行ってみて欲しい場所がSPKの「モータースポーツショールーム」なのである。

モータースポーツショールームには、実際にレーシングドライバーが着用したスーツやシューズなども展示してあった
SPKはレーシングギアだけではなく、高性能レーシングハーネス「TRS」なども取り扱う
ダイハツ車のチューニングブランド「D-SPORT」のパーツ開発から販売も自社で行なっている

モーションシステムズ製の最新レーシングシミュレーターを4基設置

 続いて「シミュレーターラボ」体験についてお話しよう。

 ショールームの奥、かつて倉庫として使われた敷地には、合計4台のシミュレーターがずらりと並んでいる。コンクリートを打ちっぱなしにしたレトロな空間に、最先端のデジタルスクリーンが置かれた風景は、ある意味サイバーパンキッシュで現代的にも見える。

モータースポーツショールームの奥にある「シミュレーターラボ」は倉庫を改築したエリアだという

 普通なら1台か2台でこと足りるシミュレーターが4台も置かれている理由は、ここでeスポーツの大会を行なうためじゃない。モビリティビジネスのグローバル商社であるSPKが、大手メーカーからのニーズを受けて、新たに電動アクチュエーター「QUBIC SERIES(キュービック・シリーズ)」の日本代理店となったからだ。

 キュービック・シリーズは、ポーランドの「Motion Systems(モーション システムズ)」が開発した電動アクチュエーターシステム。これまでも油圧シリンダーによってシートやコクピット筐体を動かすシミュレーターは多く存在しているが、これが電動となることでその動きはより細かく、シームレスになるのだという。

 ということで筆者も、4つの機体全てを試させてもらった。そしてそのそれぞれに、きちんと特性があるのを確認することができた。

設置してあるシミュレーターはどれも本格的なプロ仕様。冷房も効いていたが、レーシングスーツを着た状態で1時間もプレイしたら、実車と同じように汗だくになった。電動アクチュエーターのリアリティはすごい

4本の足が上下に動く「QS-CH1」

 まず最初に体験した「QS-CH1」は、4体あるなかで最もリーズナブルな4軸式アクチュエーターシステムだ。とはいえその価格は上物(コクピットや画面、シミュレーションソフトやそれを動かすコンピュータ)を別に200万円以上掛かるから、決してゲーム感覚で購入できるシステムではない。もちろん個人で購入することも可能だが、ターゲットユーザーはレーシングチームやショップであり、つまりは事業者向けのプロユース商品だ。

4台の中でもっともリーズナブルな「QS-CH1」
構造はいたってシンプルで、4本の足がそれぞれ上下に稼働する

 さて実際の運転感覚だが、これがかなり良かった。

 4軸式アクチュエーターの動きは、もちろん実車よりもクルマの動きに対する情報量が少ない。前後左右に掛かるGは小さいが、ドライバーが起こした操作に対して車体の動きがきちんと再現されてるから、脳内で実際のGとキャリブレーションがしやすいのだ。

 つまり一度走ったコースだったりするとGの判断がしやすく、マシンの動かし方も分かってくる。車両のセッティングを行なうときなども、これならかなりシミュレーションしやすいのではないだろうか。

 そして何より、アクチュエーターの作動音が静かだ。油圧式のようにガチャガチャ動いたり揺り返さないから、筐体が不必要に揺れない。ものによってはアクチュエーターの振り返しで操作そのものが乱れてしまうこともあるのだが、電動だと運転に集中できる。

湾曲大画面モニターと組み合わせた「QS-CH1」&「QS-CH2」

 次に試したのは、巨大なスクリーンを使った、かなりアトラクティブな仕様。アクチュエーターシステムは前述した4軸式アクチュエータ「QS-CH1」と、水平起動する「QS-CH2」を組み合わせた仕様になっていて、実際の動きも4軸の動きに加えて、より大きな前後Gと横G、さらにスライドの表現までもができるようになっている。

湾曲した大画面モニターと左右に設置した大型スピーカーにより、大迫力のドライビングを体験できる
筐体は「QS-CH1」「QS-CH2」の組み合わせ

 実際の運転感覚は、笑ってしまうほどの大迫力。特に今回はマツダ787Bをドライブしたせいもあるが、大画面から見える景色やロータリーサウンド、そしてブレーキングからターンインにかけての車体の動きが、ダイナミックに筐体を揺らしてくる。

 さらにリアタイヤのグリップが失われたとき、トラクションを掛けると本当にドリフトしているかのような感覚が得られたのは新鮮だった。実際には、タイヤが滑っているわけではない。しかしステアリングのフィードバックやアクチュエータの動き、そして特に「QS-CH2」の水平方向の動きが、映像とリンクして横滑りを感じさせるのだ。

【SPK】シミュレーターラボ/モーションシステムズ「QS-CH1&QS-CH2」(1分1秒)

 ただその動きは、ちょっと派手過ぎるとも感じた。

 もちろん動きの幅は、調整可能だろう。それを伝えるとセットアッパーである菅原さんは、実際にこの筐体がイベントで使われていたことを教えてくれた。ちなみにイベントは大盛況で、丸一日動かしてもアクチュエータのトラブルはなかったという。

 当然ながらこのシステムでも、筆者がこれまでに体験したシミュレーターの中では群を抜いていた。しかしこれが少し子供っぽく感じられてしまったのは、次に試した「スパイダー」の動きが、驚くほどに素晴らしかったからだ。

大型アクチュエータの「QS-V20」、さらにモニターも一緒に稼働する「QS-S25」

 コクピットを支える、太くて長い4本(4軸式)のアクチュエーターを持つ「QS-V20」は、最大で0.88Gまで再現が可能なアクチュエータシステムだ。コンパクトなサイズと静粛性の高さが特徴だという。

「QS-S25」はアクチュエータを大型化し、そのストローク量も最大10cmまで拡大。これを6本搭載(つまり6軸式)することで、車体の動きをより一層滑かなものにしている。その姿から“スパイダー”と呼ばれるほか、飛行機のフライトシミュレーターとしても使える精度を誇る。

コンパクトサイズと静粛性が高い「QS-V20」。モニターなど周辺機器は予算に合わせて変更可能
横から見ると、宙に浮いたシートに乗っているように見える「QS-V20」

 さて、レーシングカーに10cmものストロークが必要なのか? と思った読者は、鋭い。このシステムはラリーカーや市販車の開発をも、その視野に入れているのだ。

 見た目の仰々しさとは裏腹に、その動きは恐ろしく緻密。当日は菅原さんのお勧めで「フェラーリ 312T」と「ポルシェ962C」を走らせたが(ソフトは「アセットコルサ」)、マニュアルトランスミッションでもなんとかニュルブルクリンクを無事に生還できたのは、その動きがよりつかみやすかったからだ。

 いやフェラーリ312T2にいたっては一度ミッションをブローさせ、962Cでは一度だけ派手にクラッシュしたのを白状しておくけれど、とにもかくにもデジタルだとはいえこうした本物のレーシングカーを、全開で走らせることができたのはうれしかった。

【SPK】シミュレーターラボ/モーションシステムズ「QS-V20」(1分17秒)

 まとめると一番質感が高かったのは、6軸式のスパイダー「QS-S25」だ。レーシングカーと同様その完成度が高いほど、シミュレーターも運転しやすくなる。

 しかしコストパフォーマンスという目で見ると、コンパクトな4軸式「QS-CH1」のフィードバックが印象的だった。1台分そろえてもミドル級スポーツカーが買えてしまうくらいのコストであることは事実だが、たとえばFIA-GT3/GT4規格のレースに参戦を夢見るジェントルマンドライバーであれば、リスクヘッジとしてシミュレーターをフル活用するのはありだ。

モニター一体型なのでイベントなどで使用する際、移動させるのには便利なタイプの「QS-S25」
フライトシミュレーターにも利用されるほど精度が高く微細な動きを再現できる

 それ以上にeスポーツのドライバーでありシミュレーターのセットアップをこなせる人材を抱えたSPKが、これだけのシミュレーターを一般に有料開放しないのは残念だ。だがSPKにしてみればその目的は自動車メーカーや開発ラボ、そしてレーシングチームにモーションシステムズを販売・サポートすることだから、いたしかたない。

【SPK】シミュレーターラボ/モーションシステムズ「QS-S25」(1分31秒)

 とはいえ機会が合えばイベントも開催してみたいとのことだったので、気長に待つこととしよう。

 ということで各メーカーの開発陣や研究機関の方々、そしてレーシングチームの方々にはぜひ、SPKの「シミュレーターラボ」でその超精密な電動アクチュエータの稼働精度を確かめていただきたい。

モータースポーツショールーム&シミュレーターラボ概要(完全予約制)

所在地:〒553-0003 大阪府大阪市福島区福島5丁目5-4
アクセス:
JR大阪環状線「福島駅」徒歩1分
JR東西線「新福島駅」徒歩5分
阪神電気鉄道「福島駅」徒歩5分
営業時間:10時~16時(最終入場15時30分)
定休日:土曜・日曜・祝祭日、夏季、年末年始
予約に関する問い合わせ:labo@spk.co.jp

Photo:清水良太郎