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ピレリの最新SUV/CUV向けタイヤ「SCORPION MS(スコーピオン エムエス)」、そのバランスのよさで日本の道路環境にベストマッチ

ピレリの最新ハイパフォーマンスタイヤ「SCORPION MS」を試す!

 ピレリが2024年7月から発売を開始した新製品「SCORPION MS(スコーピオン エムエス)」を、一般道でテストドライブした。SCORPION ファミリーは昨今急成長を遂げているSUV・クロスオーバーセグメントに向けた専用ラインアップであり、「SCORPION」を頂点にこの「SCORPION MS」、「SCORPION ALLTERRAIN PLUS」(スコーピオン オールテレイン プラス)、「SCORPION VERDE」(スコーピオン ヴェルデ)など合計で7種類、用途に合わせた多彩な展開がなされている。

 今回試乗できたSCORPION MSはSCORPIONファミリーの中でも最も新しく、序列で見ると上から2番目にあたるタイヤだ。ピレリカタログの性能チャートを見てもらえれば分かるが、ドライ性能ではSCORPIONの「4.5」に対して「4」をマークしており、同じくウェットではSCORPIONの「5」に対して「4.5」と性能は僅差。さらにスノー「3」、コンフォート「4.5」、マイレージ(経済性のことだろう)「4」という自社評価を得ている。

 ちなみにSCORPION MSは日本だとサマータイヤの扱いとなるが、「MS」(マッド&スノー)の名前が示す通り、路面や天候に対する守備範囲は広く、北米や欧州ではオールシーズン的な使い方をされる。対して日本では高速道路を快適に長距離ドライブして、目的地でキャンプをはじめとしたアクティビティを楽しむようなユーザーにふさわしいタイヤとして導入された。また、このオールマイティさが認められて、自動車メーカーへのOEM供給もされている。

 そんなSCORPION MSだけに、これを履かせるクルマもちょっとこだわってみた。試乗車は、快適性とスポーティなハンドリングを両立するレクサス「NX350 F SPORT」だ。

2024年7月から順次発売を開始した「SCORPION MS」はウェットパフォーマンス、快適なドライビング、静粛性、長寿命と低転がり抵抗に焦点を当て、主要な自動車メーカーとのパートナーシップにより開発。安全性と環境負荷の低減を両立させつつ、ウェットコンディションでもドライコンディションでも優れたグリップを発揮し、従来モデルの「SCORPION ヴェルデ オールシーズン」よりも転がり抵抗を低減させることに成功
静粛性と快適性を追求する中で、SCORPION MSはカスタマイズされたピッチ配列、特殊な間隔と傾斜のメイングルーブ、シングルプライ・カーカスによってSCORPION ヴェルデ オールシーズンに比べて大幅に騒音が低減。また、転がり抵抗はコンパウンドと最適化された新しいM+Sトレッドパターンによって抑えられ、タイヤが横方向や縦方向の力を受けても接地面の変形は一定に保たれるため、均一な摩耗を保つことに貢献しているという。また、サイドウォールのロゴを目立つデザインにして、ひと目でピレリ「SCORPION MS」であることが分かるデザインとしているのも特徴の1つ

ハイブリッド車との相性がとてもよい

 まず走り出して感じたのは、高級感のある乗り心地だ。

 つけたてホヤホヤの新品タイヤだということを差し引いても当たりが柔らかいのは、マッド&スノーのしなやかさが乗り心地にも生かされているからだろう。トレッドパターンはとてもおとなしめだが、細かく切られた排水溝やトレッド中央のサイプが、夏場のドライ路面でも上手に追従するようだ。

 またこのトレッドパターンも、不等ピッチとすることでロードノイズを実にうまく抑えている。試乗車のタイヤは235/50R20とかなりビッグサイズだったが、住宅街を走らせても粛々と転がり、ハイブリッド車との相性がとてもよかった。

 そんなしなやかさがあるにもかかわらず、トレッドが不用意にムービングしないことにも感心した。剛性面で不利になるサイプを搭載しながらも、その配置を工夫することで、トレッドの変形を均一化できているのだ。またその柔らかさはゴムだけでなく、構造も含めて剛性バランスが整っているから、しなやかでも腰砕けしないのだと思う。

 そしてこの感じからして、ウェット性能が高いというのもうなずけた。ちなみにその排水グルーブは、ショルダー部分では水溝幅を徐々に拡大して水の流れを速めたり、場所によって深さを変えたりなど、実に細かい工夫がなされている。

 街中での印象のよさは、高速巡航でも変わらなかった。パターンノイズはもちろん、20インチの幅広なトレッドが路面を打ち付けるノイズや、タイヤの内部からの共鳴音も目立たなかった。

 直進安定性は快適に保たれており、レーンチェンジもスムーズ。そしてブレーキングGの立ち上がり方も自然だ。なおかつ空走時の転がり感がよい。ライトなオフロードも想定したSCORPION MSが高速道路でもこうした快適性と走安性を合わせ持つのは、EV(電気自動車)への装着をも想定しているからだろう。重たく、静かで、高トルク。かつシビアな電費性能を求められるEVに対応できるキャパシティがあるから、レクサス NX350でも余裕をもった高速巡航が可能となる。

 ちなみに一部のサイズのサイドウォールには、EVやPHEV(プラグインハイブリッド)向けに開発された技術を示す「ELECT」の文字が刻印されている。

 重箱の隅をつつくなら、そうした構造とM&Sのゴム量からか、路面の突起や段差でバネ下の動きを感じる。とはいえその入力は素早く減衰されているし、これで得られる乗り心地のよさを考えると、相殺できる要素だと筆者は感じた。これなら長距離移動も楽にこなせそうだ。

ワインディングを走らせてもバランスのよさが光る

 ということで最後はそのハンドリングを見るべく、ワインディングまで足を伸ばしてみた。

 サマー/ウインターに偏らないレンジの広いコンパウンドを採用していることを考慮してもグリップには安心感がある。それはSCORPION MSの構造やブロック配置によるもので、ワインディングを走らせてもバランスがとてもいい。

 たとえばそのサイドウォールは従来品に比べてよりスクエアなプロファイルを採っていて、剛性がほどよく高められている。だからブレーキングではジワッと路面をつかみ、横Gを掛けても腰砕け感なくスムーズにコーナリングへと移行できる。

 ちなみにそのプロファイルによって接地面の圧力分布も均等になり、グリップ力だけでなく耐摩耗性も向上したとのことだ。

 カーブではこのしなやかなサイドウォールと、左右非対称パターンによって高められたアウト側ショルダーブロックが、包容力をもって横Gを受け止めてくれる。ちなみにショルダーブロックの溝は深さが変化する独自の形状が採用されていて、排水性を確保しながらも荷重が掛かった際の倒れ込みを防いでくれている。

 クルマの動きも分かりやすく、結果的に運転が楽しくなる。

 総じてSCORPION MSは、とてもバランス感覚に優れた快適なSUV用タイヤだ。そして欧州に比べて平均速度が低い日本の道路環境においては、その実このグリップレベルがかなりベストマッチすると思う。

 また今回は確認できなかったが、そのコンパウンド性能から0℃付近での追従性も大きく高められているという。雪上は走行せずとも冷え込んだ朝晩にきっちりとグリップ感が得られることは、とても重要だ。

 ピレリのリサーチによれば18インチ以上の大径タイヤマーケットにおいて、SUV用タイヤは実に47%を占めているという。その激戦区にピレリが自信をもって送り込んだSCORPION MS、その名前をぜひ覚えておいてほしい。ちなみにそのサイズ展開は17インチから22インチまで28サイズとなる。

SCORPION MS サイズ一覧

Photo:安田 剛