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PCメーカー「MSI」が日本のEVインフラに進出 6kW普通充電に対応する充電器「EV Life」とは?
2025年10月24日 10:00
日本ではゲーミングノートPCをはじめ、各種PCからPCパーツまで手がけることでユーザーの信頼を集めているMSIが、EV(電気自動車)充電器を発売する。すでにグローバル展開している製品で、いよいよ日本にも上陸ということになる。
実はEVの充電環境事情は少し複雑で、なぜ今こういった充電器が必要なのかを解説しつつ、そのうえでMSIがなぜEV充電器を発売するのか、MSIが手がけるEV充電器の強みは何かを聞いてみた。
これまでの3kW普通充電から6kW普通充電の時代に突入
一般的にEVの充電は「普通充電」と「急速充電」があり、普通充電は家庭などの交流(AC)100Vや200Vのコンセントに接続して時間をかけて充電する方法。急速充電は、日本では専用の急速充電器からCHAdeMO(チャデモ)のコネクタを介して、車両のバッテリに高電圧の直流(DC)で素早く充電する方法。
それぞれ別のコネクタを使い、日本国内で売られているEVの場合、テスラ以外は普通充電と急速充電の形も大きさも違う2つを装備している。
そして、普通充電は主に家庭などで使う「基礎充電」とも呼ばれている。反対に急速充電は主に出先などで充電するため「経路充電」と呼ばれ、いわゆる「充電スポット」がこれにあたり日常利用を想定したものではない。
例外的なものとして、車両のバッテリに蓄えた電力を自宅で利用する「V2H(Vehicle to Home)システム」を使う場合は、急速ではないものの双方向給電のため急速充電コネクタを利用する。また、充電スポットの中には、ひと晩といった長時間駐車を前提としたホテルなどでは普通充電器を設置している場所もある。
今回MSIが発売する充電器は普通充電タイプで、以後、普通充電器の話になる。
日本で普通充電と言えば、主に車両に付属する充電ケーブルを家庭のコンセントに差し込むスタイルだが、近年バッテリの大型化や充電設備が進化したことで、3kWでは充電速度がやや物足りなくなってきた側面がある。
3kWの充電では60kWhのバッテリを積んだEVをゼロから充電する場合、損失などを考えずに単純計算すると、60kWh÷3kW=20hとなり、満充電まで20時間かかることになる。実際には変換などの損失があるのでもう少しかかってしまうが、これでは充電が空っぽに近い状態で夜に帰宅すると、翌朝に満充電で出発できない。
そこで最新のEVを中心に、6kW普通充電に対応するEVが増えてきた。6kWなら60kWhのバッテリを空から満充電まで上記の計算なら半分の10時間で完了する。仮にバッテリが空に近い状態で21時に帰宅しても、翌朝7時にはほぼ満充電で走り始められる。EV乗りなら6kW普通充電はぜひとも欲しい仕様だろう。
6kW普通充電をするには、6kW対応の車両と充電器が必要
では、6kW普通充電をするにはどうしたらいいのか? まず車両側の対応。3kW充電にしか対応していない車両の場合、6kW普通充電器をつないでも3kWでしか充電できない。
ちなみに現時点で、日本で最も走っている日産自動車のEV「リーフ」は、途中から6kW充電のオプションが設定されているなど、年々バッテリ容量や充電性能の進化により、6kW充電対応モデルが一般的となってきている。
なお、6kW充電に対応しているかは車両を確認するしかない。
また、充電器も6kW充電器が必要になる。ただし、6kWになると電力が大きくなるため、車両に付属している3kW充電用ケーブルは使用できず、ケーブル据え付けの6kW充電器が必要になる。しかし、6kW充電器はまだまだ選択肢が少ないため、今回参入へと踏み切ったのがMSIだ。
MSIの6kW充電器はスマホから充電制御が得意で、大幅コスト削減の可能性
MSIから個人向けに販売する充電器は「EV Life」で、6kW充電をより快適かつ低コストにするために必要な機能を取りそろえていることが特徴。
大きな特徴はスマートフォンからの充電制御ができること。6kW充電だと長時間にわたって6kWを連続消費するので、例えば東京電力管内で「60A(6kVA)契約」をしていれば、それだけですべて使い切り、ほかの家電が全く使えないことになる。そのため、さらに容量の大きい8kVAや10kVAの契約が必要となるが、ほかの家電も同時に使うためには契約容量アップはきりがなく、基本料金も高くなってしまう。
そこで、充電制御機能を使って常時6kW充電するのではなく、必要に応じて充電電力を絞ることで、それほど大きな契約をせずに済ませることが可能になる。
また、契約の問題だけでなく設備増強費用も関わってくる。オール電化の戸建てでIHクッキングヒーターをフルパワーにして調理をしながら、6kW充電を同時に使いたい場合、大電力に見合った分電盤への交換や、壁を壊して家の配線の増強、電柱からの引き込み電線の変更など大がかりな工事が必要になる可能性が出てくる。
それを、調理や大電力を使うことが想定される時間帯だけ充電電力を絞れれば、電気設備の大工事をしなくてもよい可能性が高くなる。MSIの充電器はスマホアプリからこの機能を実現し、6kW普通充電をより身近にする製品となっている。
一方、車両が3kW充電にしか対応しない場合でも、MSIのEV充電器はメリットがある。3kW充電でも一般的な消費電力で言えば3000W。真夏や真冬でエアコンをフルパワーで動かしているときや、電子レンジやトースターなどを多用する時間帯に充電するのは厳しい場合もある。従来なら車両につながるケーブルを抜き差しする必要があったが、スマホから簡単に充電量を制御できるわけだ。
なぜ今MSIがEV充電器を? MSIの充電器の強みとは
今回MSIがEV充電器を発売するにあたり、MSIでEV充電器を担当するEVSE&IPC Sales Managerの林育竹氏に「なぜ今MSIがEV充電器を出すのか?」と「製品の強み」を聞いてみた。
「MSIはPCのブランドとして展開してきましたが、EV充電器でもMSIの得意なハードウェアとソフトウェアの技術を生かせると考えて参入しました。脱炭素にも貢献できるチャンスでもあり、今がベストなタイミングなので日本への参入を決めました」と林氏。すでに2024年から展示会などに出展しているので、日本のMSIにも販売について問い合わせが数多く入っているという。
また、EVSEプロダクトマーケティング兼FAEの茂手木優樹氏は、「夏場はどうしてもエアコンを使わないといけないこともあります。そんなときはアプリから調整が可能です」と機能に自信をみせる。
この機能では、ほかの電気製品と使う時間帯が重ならないようにできるほか、時間帯によって電気料金が異なる料金プランなら、電気料金が安い時間帯に充電するといったことも可能になる。スマホアプリを使うことで、これまでの普通充電にプラスアルファの機能が付き、より便利に使えるという。
競争力のある価格で提供、サポートも充実
短時間で充電できる6kW充電器だが、あると非常に便利と分かっていても、実際に導入するとなるとコストやその後のサポートなど、考えることはたくさんある。
1つ言えることは、個人が導入する場合、製品ラインアップがきわめて少ない6kW充電器の中で、MSIの「EV Life」は競争力のある価格であり、ビックカメラなど一般的な家電量販店などで購入できるほど敷居の低いものとなっている。なお、ビックカメラでの販売価格は14万9800円(設置は別)。
そして、6kW充電器の場合は電気工事が必要になるが、電力が大きいので分電盤から太い規定のケーブルを引き回す必要がある。
場合によっては、分電盤の交換や増設、電気の引き込み点までのケーブルの更新が必要になるほか、ケーブルの長さでも費用は変化するため、電気工事店による現地調査の上での見積もりとなる。
電気工事を依頼する場合、工事費や工事の質などが気になるが、MSIでは厳選した推奨工事店を用意する。林氏は「日本で充電器を販売するためには、日本のプロに任せなければいけないと思っています。弊社が提携している設置業者もあるので、購入したユーザーにはそこで設置していただきたい。そうすれば使用するときの安全面も確保できます」とのことだ。
また、アフターサービスはサポート用のコールセンターを用意。通常2年の保証期間があり、発売キャンペーンではプラス1年の合計3年保証を提供する。何かトラブルがあったときの修理体制も整えている。
MSIはPC分野で長年にわたり日本で展開していて、その体制をうまく活用しているのも安心できるポイントの1つだろう。
すでにグローバル展開しているEV充電器
MSIのEVシリーズはグローバルで展開しているモデル。すでに台湾などで販売開始して稼働しており、実績も十分。国内で販売するために必要な認証ももちろん取得している。これもPCを国内販売してきたMSIのノウハウを十分に生かしたものとなる。
林氏によれば、台湾のほかにもUL認証、CEマーク、タイ、オーストラリア、中国、韓国の認証もすでに取得済みとのこと。電源電圧や車両側の普通充電コネクタが異なる国では多少仕様の違いがあるが、グローバルでも認められた充電器だ。
製品の特徴としては、スマホからの充電制御などといった機能面のほか、ブラックのスタイリッシュな外見で、どんな家にもベストマッチ。設置も壁面への設置のほか、オプションでコンクリート床板に設置するための専用スタンドを2サイズ用意する。
また、耐久性に関わるものとして、本体はIP55の防塵防水性能、充電ガン部分はIP67の防塵防水性能を持つため、屋外に設置して悪天候に見舞われても問題なし。充電ガン部分は濡れた駐車場で地面に触れてしまうこともあるが、IP67の防塵防水性能ならまず問題ないだろう。
設置場所の条件も動作温度は-30℃~50℃までと、日本の猛暑でも安心。標高は空気の薄い標高3000mまでの設置に対応と、MSIのEVSE営業部マーケティング課の廖詩涵氏は、「動作環境が-30℃~50℃まで対応可能なので、(クルマで行ける範囲の)富士山でも大丈夫だと思います!」と環境対応の広さを強調する。これなら設置場所を選ぶことなく安心して設置できそうだ。
施設や充電スポット向けの普通充電器も順次展開
今回、先行発売されるのは個人宅向けの「EV Life」だが、同じシリーズではほかに共用利用や施設向けの「EV Life Plus」や「EV Premium」があり、これらも順次発売する。
個人向けとの違いは、認証や課金などの制御機能があること。例えばマンションや施設などで共用する充電器の場合、電気代をはじめ経費の問題があるので、使用する権利のある人だけが充電器を使えるようにし、誰がどのくらい使ったかなどを管理する必要がある。
EV向け公衆充電サービス、つまり充電スポットを提供する会社の場合は、液晶ディスプレイに決済用バーコードの表示や、課金情報の表示などができる「EV Premium」を使えばOK。「EV Life Plus」や「EV Premium」ともに、有線LANやWi-Fi、さらにオプションでLTE接続も可能なため、遠隔制御ができ、専用の管理ソフトも提供する。
なお、現在は日本の公共用充電スタンドの補助金対象となるべく認証を申請中のとのこと。マンションや施設、公衆向け充電スポット用の普通充電器として、最初から導入しやすいものとして販売を開始するという。
EV充電器のラインアップ拡充を予定
さらに今後の新製品として、据え置き型ではEcoシリーズの充電器も展開していく。EV Lifeと同じ普通充電器で、ボディの外装などが少し違ったラインアップとなり、こちらも個人宅向けの「Eco Life」と、施設向けの「Eco Premium」を用意する。
加えて、ポータブルタイプ充電器「EZgo」も予定。今は基本的に車両に付属しているが、今後は充電ケーブルを付属しない車種が増えてくる可能性もあるほか、付属の充電ケーブルは自宅に常備して、もう1本はクルマに積みっぱなしにしたいという場合や、もう少し高機能な充電ケーブルが欲しいとなった場合にも有効で、EZgoはBluetoothの通信機能を持っている高機能タイプの充電ケーブルとなっている。
販売店も「ビックカメラ」といった現在のMSI取扱店などにも広げ、MSIのEV充電器を目にする機会が増えるよう、購入できる店舗を増やすことや、自動車販売店などとコラボした展示、イベントでの展示なども進めていく。MSIのEV充電器を目にする機会も今後増えていくのではないだろうか。
メーカー保証1年延長キャンペーンを実施中
今回MSIは、EV充電器「EV Life」の発売を記念して、通常2年間のメーカー保証が+1年延長されるキャンペーンを実施中。キャンペーン期間となる2025年7月31日~2026年7月31日に「EV Life」を購入し、MSIメンバーセンターで製品登録して、特設Webページから申請すると、もれなく保証期間が1年延長される。
対象購入期間:2025年7月31日~2026年7月31日
応募受付期間:2025年7月31日~2026年8月14日
Photo:安田 剛


























