フランクフルトショー 2017

【フランクフルトショー 2017】QualcommのモレンコフCEO、自動車への5Gの導入は264兆円の経済的効果があると予測

NXPの買収は完了を目指していると説明

2017年9月14日(現地時間)

Qualcommのプレゼンテーションで示された自動車の未来

 半導体メーカーのQualcommは、フランクフルトモーターショー(プレスデー:9月12日~13日、一般公開日:9月16日~24日)の一般公開日初日にあたる9月14日(現地時間)に、併催イベントとして行なわれているNew Mobility Worldの基調講演にCEOのスティーブ・モレンコフ氏が登壇し、同社の自動車向け戦略などに語った。

 この中でモレンコフ氏は「5Gの導入は自動車のエコシステムに20%の経済的なインパクトがある」と述べ、2019年からサービスが開始予定の、次世代高速携帯電話技術となる5G(第5世代移動通信システム)は自動車業界にとっても大きなビジネスチャンスであるとした。

 また、同社が昨年発表した、自動車向け半導体のトップメーカー「NXP」の買収について「完了を目指している」と述べ、引き続きQualcommがNXPの買収を終えるべく努力していると述べるに留まり、時期については具体的な説明はなかった。

5Gの経済効果は2.4兆ドル(日本円で約264兆円)、自動車産業へは20%の経済効果

講演タイトル
Qualcomm CEO スティーブ・モレンコフ氏

 モレンコフ氏は「2022年に販売される自動車の2/3がコネクテッド(インターネット常時接続)になると予想している。自動車は将来は完全に自動化され、自動車メーカーだけでなく、我々のような半導体メーカー、そしてシステムベンダなどが大きなエコシステムになる」と述べ、Qualcommは半導体メーカーでもあり、そしてシステムソリューションを提供できるシステムベンダでもあるとユニークなポジションにいると説明した。

5Gの可能性
予想される5Gの経済波及効果

 そして、話しは通信業界が導入に向けて取り組みを加速する5G(第5世代移動通信システム)に移っていった。モレンコフ氏は「自動車業界で5Gには2.4兆ドル(1ドル=110円換算で、264兆円)を越える経済的な波及効果があると我々は試算している」と述べ、5Gが導入されることの自動車産業へのインパクトは非常に大きいと強調した。モレンコフ氏は5Gのメリットについて、通信速度があがること、帯域が増えることだけでなく、低い遅延などの特徴も合わせて新しいサービスを提供できることにあると述べた。その上で「5Gは決して遠い未来の話しではない。一部製品への導入は2019年から始まる。テストは既に始まっている」と述べ、5Gの開発が順調に進んでおり、自動車業界でも早期に導入することを呼びかけた。

Cellula -V2X(C-V2X)

 また、モレンコフ氏はそうした携帯電話回線を自動車に搭載することは「自動車がクラウドにつながるだけでなく、自動車と自動車もつながるようになる。Cellular V2Xの取り組みを今年開始しており、既に実際に動作する半導体がラボで動いている」と述べ、同社がC-V2Xと呼ばれる、車車間(V2V)、車人間(V2P)、車インフラ間(V2I)の通信ができるようになるC-V2Xを推進しており、既に実際に動作するチップを用意して試験段階にあると述べた。

NXPの買収については「完了を目指している」とだけ述べて、具体的なスケジュールには言及なし

 モレンコフ氏は、同社が自動車メーカーに提供している車載情報システム(IVI)向けのSoCとなるSnapdragon 820Aを紹介し、「既に12~25のOEMメーカーがSnapdragonを採用している。これからは自動車の体験はどんどん変わっていく。Snapdragonには特別なプロセッサがあり、コンピュータビジョンやマシンラーニングを利用してロケーションベースのサービスを提供することもできる。今後はすべての車がスマートになると考えている」と述べ、同社が提供するSnapdragon 820Aの採用を自動車メーカーなどに呼びかけた。

自動車内のユーザー体験も変わりつつある

 また、モレンコフ氏は、同社が推進している無線充電機能についてもふれ、「EVは素晴らしいが、プラグインではワンステップが入ってしまう。そこでそれを無線給電にすることで、より利便性が増す」と述べ、無線充電の採用もアピールした。

自動化も進んでいく

 最後にモレンコフ氏は同社が昨年発表した、自動車向け半導体でグローバルに市場シェア1位のNXP社の買収について触れ、「NXPの買収に関しては完了を目指している。NXPと統合することで、Qualcommは携帯電話のソリューションと自動車向けのソリューションを同時に提供できる。そしてそれは自動車に留まらず、多くの産業で有効だ」と述べ、NXPの買収については「完了を目指している」(We are looking for closing deal with NXP.)とだけ述べ、具体的にいつ完了するのかを示さなかった。

NXPの買収も完了を目指しているとモレンコフCEO

 現在NXPの買収は、各国の規制当局の審査(市場シェアを持つ企業を買収する場合、日本の公正取引委員会に相当する各国の規制当局の審査が行なわれる)が行なわれている段階とされており、QualcommのNXP買収も現在そのステージにあると考えられている。このため、それが完了しない限り、Qualcommとしては何も言えないという状況であり、今回もそれに関して何もアナウンスが無かったということは、少なくとも現時点ではその審査がまだ完了していないということを意味する。

 自動車産業にとってNXPはグローバルに市場シェア1位の自動車向け半導体メーカーであるだけに、引き続き今後も買収の動向に関しては注目されていくことになるだろう。

笠原一輝