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Qualcomm、ワイヤレス給電技術「Qualcomm Halo」をオートモーティブワールドに出展

1月18日~20日開催。BMW「i8」のデモ車などを展示

2017年1月18日~20日 開催

Qualcommが開発しているコイル

 半導体メーカーのQualcommは、東京ビックサイトで1月18日~20日の3日間に渡り開催されている「オートモーティブワールド」にブースを出展し、同社が自動車メーカーなどに技術採用を呼びかけているワイヤレス給電技術「Qualcomm Halo」の取り組みを説明した。

 Qualcomm HaloはIP(知的所有権)として自動車メーカーやティア1の部品メーカーなどに提供される技術で、同社が開発した高効率なコイルなど自動車でのワイヤレス給電を実現する技術が含まれている。

 Qualcomm Europe ビジネス開発/マーケティング担当副社長 グレアム・デイヴィスン氏は「自動車の(インターネット)常時接続と自動運転技術の普及、EV化は急速に進んでいる。そうした時代にはワイヤレス給電は必須の技術になるだろう」と述べ、ワイヤレス給電技術が自動運転やEV(電気自動車)が当たり前となる時代には、当たり前のように搭載されるだろうという見通しを明らかにした。

Qualcomm Haloはワイヤレス給電の技術。IPライセンスとして自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどの提供される

EVや自動運転などの普及につれて、ワイヤレス給電技術への注目度も上がっていく

Qualcomm Europe ビジネス開発/マーケティング担当副社長 グレアム・デイヴィスン氏

 デイヴィスン氏は「Qualcommはモバイル機器向けの半導体を販売するメーカーとして知られているが、それと同時に自動車をコネクテッド(インターネットに常時接続)にする取り組みもしている」と述べ、Qualcommが自動車向けのソリューションの拡充に取り組んでいることを説明した。

 CESでの発表(別記事1別記事2別記事3)でも分かるように、同社は急速に自動車向けのラインアップを拡充しており、2016年の末には世界最大の自動車向け半導体メーカーでもあるNXP Semiconductorsを買収することで合意したことを明らかにしており、それが完了すれば現在のQualcommのソリューションと合わせて、自動車向け半導体メーカーとしてトップシェアに踊り出ることになる(Qualcommの方針などに関しては、僚誌PC WatchのQualcomm半導体部門トップのインタビュー記事も参考にしてほしい)。

今後都市人口は増え続け、自動車も増加する。環境への悪影響を防ぐためにもEVの普及が進んでいくと考えられている
より簡単にEVを充電するソリューションとしてワイヤレス給電への興味が高まっていく

 そうしたQualcommは、以前より自動車向けのワイヤレス給電に取り組んでおり、それは以前の記事でも紹介した通りだ。デイヴィスン氏によれば、ワイヤレス給電への注目度は年々上がっており、「2050年までには世界の人口の70%が都市に集中する。その中で自動車の数も現在は11億台程度だが、2050年には25億台に増えると予想されており、環境への悪影響が心配されている。そこで、EVの普及が待ったなしという状況で、それにつれてワイヤレス給電への興味も増えている」と、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)などの普及に合わせてワイヤレス給電への期待も高まっていくだろうと指摘した。

3.7kW~22kWまでの大電力を給電することができるQualcomm Halo

 そうしたワイヤレス給電だが、Qualcomm Haloは、電磁誘導方式のコイルを利用してその間に磁界を発生させて給電する方式となる。デイヴィスン氏によれば、3.7kWから最大22kWまでの大電力を給電することが可能になっており、充電環境としては、最初は駐車場などの静的な充電をターゲットにしているが、後に都市内での路上といった低速での半動的充電、さらには通常の走行速度での路上における動的充電なども検討されているという。Qualcommでは、このコイルの技術も開発しており、従来の丸形のコイルに加えて、DD(ダブルディー)型のコイルなどを開発することで、同じ充電量でもコイルを小型化するなどの取り組みを行なっており、そうした技術を含めて自動車メーカーやティアワンの部品メーカーに対してIPライセンスとして提供していく。

Qualcomm Haloの特徴
最初のターゲットは静的な駐車状態での充電だが、将来的には低速や通常速度での動的な状態での充電も検討されている

 デイヴィスン氏は安全性についてもふれ、FODやLOPといった仕組みについても説明した。FODとは、コイルとコイルの間に金属の異物が来た時に、異常発熱により発火するということを防ぐ仕組みだ。コイルにかかる電流の動きなどから金属を検知して充電を停止し、停止したことをドライバーに通知する。LOPは生物を保護する仕組みで、例えば猫や子供などが誤ってコイルとコイルの間に入ってしまったときに、レーダーなどによりそれを検知して、やはり充電を停止する。また、充電時に利用する周波数も85KHzがグローバルに選ばれており、他の無線(例えばキーレスエントリー)などに干渉しないように注意が払われている。

FODやLOPなどの安全性確保の仕組みが用意されている
FODのデモ。このように異物が来た時には充電を停止する。紙など金属ではなく問題が無い物体の場合には充電を継続できる

 デイヴィスン氏は「次世代EVの開発では、Qualcomm Haloの知財が役立つと考えており、自動車メーカーやティアワンと協力して開発していきたい」と述べ、今後も世界中にあるQualcommの拠点でQualcomm Haloの開発を続けていくと説明した。また、同社が技術パートナーとして協力しているEVによるフォーミュラカーレースのFormula Eについても紹介し、セーフティーカーとメディカルカーとして利用されているBMW i8やi3に同社が提供しているワイヤレス給電技術が利用されているという事例を紹介した。

Qualcommが開発しているコイル

 オートモーティブワールドでは同社の展示ブースにBMW「i8」のデモ車が置かれている。このデモ車の充電装置はモックアップだが、Formula Eのセーフティカーとメディカルカーは実際にワイヤレス給電で充電されているという。

下が従来型の円形コイル。上に乗っているのがDD(ダブルD)型コイル。DD型は同じ給電容量でもより小さくすることが可能になっている

 なお、オートモーティブワールドの同社ブースではi8を利用してワイヤレス給電の様子が再現(実際にはモックアップだが)されているほか、コイルの展示、FODのデモなどが行なわれていた。

デイヴィスン氏のプレゼン資料