ITS Japan、「ITS世界会議ニューヨーク2008」の報告会
路車協調システムなどの具体例をデモ

報告会冒頭で挨拶するITS Japan専務理事 事務局長の寺島大三郎氏
12月19日開催



 ITS Japanは12月19日、「第15回ITS世界会議ニューヨーク2008報告会」を開催した

 ITS世界会議は、世界のITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)の状況を展示・報告する会議。毎年開催されており、15回目の今年は11月16日~20日にニューヨークのJacob K. Javits Convention Centerで開催。約1万人が参加し、約1000の論文が発表されたほか、約250の企業・団体が展示を行った。

 ITSはコンピュータ-、IT(情報通信技術)、各種センサーなどの技術で、渋滞や交通事故、環境などの交通問題の解決を図るもの。カーナビゲーションシステムなどによる交通情報の収集と提供、ETCやVICSのような路車間通信、車車間通信、標識やレーンの自動認識技術、鉄道などの交通機関との組み合わせやロードプライシング、各種技術を普及させる施策まで、多岐にわたる。米国ではITS America、欧州ではERTICO、日本ではITS JapanがITS関連の連携促進を担う。

 報告会では「次世代道路地図」「データ収集技術とITS評価」「交通情報動向」「交通マネージメント」「道路課金」「路車協調システム」「交通安全支援システム」「車車間通信システム」などの各分野ごとに、世界会議での発表や展示が報告された。

ITS世界会議ニューヨーク2008の概要
 「路車協調システム」は、道路上のセンサーが検知した情報を車に伝えて安全運転を支援するためのもので、たとえば見通しの悪い交差点で、歩行者やほかの車の位置を路上のセンサーが検知し、ドライバーに伝え、車を制御することで事故を防ぐなどの応用が構想されている。日本で運用されているVICSも、渋滞緩和のための路車間協調システムと言える。いずれにしろ、事故や渋滞による経済損失、社会的損失をなくすことが目標となっている。

 道路上のインフラと車の通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication)には、各地域で5.8~5.9GHzの周波数が割り当てられている。どの車でも通信できるようにアーキテクチャーを集約する必要がある。

欧州の路車協調プロジェクト「PREVENT」では、交差点での事故を防ぐ効果が認められた米国のプロジェクト「VII」の目標は事故と渋滞による損失を低減することロングアイランドの高速道路でVIIの路車間通信のデモが行われた
VIIの路車間通信によりさまざまな情報が車に送られる

 路上の車同士が通信して安全運転を支援するのが「車車間通信システム」で、自分の周囲の不特定の車に自車の情報を伝える「放送型」と、車列の先頭から後方へ「伝言ゲーム」式に通信をしていく「マルチホップ型」がある。具体的には前方車の死角にいる車が、前方車に自分の存在を伝えることで事故を防いだり、前方の車が急ブレーキをかけると、その旨が車列の後方すべてに伝わり、自動的にブレーキをかけたりすることで追突事故を防ぐなどの応用が考えられている。

 世界会議では、Jacob K. Javits Convention Center前の11番街の道路を封鎖し、実車を使った車車間通信のデモが行われた。また、Convention Center周辺の道路やロングアイランドの高速道路には路車協調システムの路側機が設置されており、ここをバスで走行しながら路車間通信を実際に見せるデモも行われた。

世界会議会場前の道路を封鎖して行われたVIIの車車間通信のデモ<
VIIの車車間通信によるデモ

 「次世代道路地図」は、道路情報提供や走行支援サービスの基盤となる地図データをどのように提供するかについての各国の取り組み。さまざまな制度の国が混在する欧州では、地域ごとに道路標識が違うなどの問題を解決する必要があること、米国ではGPSレシーバーと地図データを一体化したチップを車に組み込み、ナビゲーションだけでなく車の制御などにも役立てる構想があることなどが紹介された。また米国ではTomtomが、ユーザーが地図の修正情報を提供することで地図を改良していく「Mapshare」サービスを実施しており、1日に1万件もの修正情報が寄せられているほか、ユーザーの軌跡情報を元に地図を修正するサービスも行われていることが報告された。

欧州では地図データを応用した運転支援が実験されているGPSと地図を一体化して「車載部品」とする「ADAS MPE」は米国での取り組みADAS MPEはオーディオやカーナビのバスではなく、パワートレーンなどの制御系バスに置かれる

ユーザーによる地図更新システム。TomTomのMapshare地図データに道路がない場所に軌跡が多ければ、そこに道路があると推察され、地図が更新される

 交通情報や路車協調システムなどで重要になる「プローブ情報」は、日本ではVICSのほかに、自動車メーカーによるテレマティクスサービスがすでに実用化されているが、海外ではまだ試験段階であることがほとんど。事例としては、デトロイトの高速道路で監視カメラを増設したことで、事故処理時間が短縮でき、より正確な情報を提供できるようになったことなどが紹介された。

 また、米国や欧州では携帯電話をプローブとして使うことが試みられていることが紹介された。カーナビやVICSのような道路上の情報収集インフラが整備されていない地域では、携帯電話を使うことで低コストでの情報収集ができるが、低速度での位置情報の誤差が大きいことが問題になっていると言う。中国ではタクシー、欧米では商用車をプローブとする情報収集も試みられている。

デトロイトの高速道路に監視カメラを増設携帯電話をプローブとする携帯電話プローブのメリット。比較的正確なデータを安価に提供できる

 報告会で見えてきたものは、路車間通信やプローブ情報、デジタル地図については、日本では実用化されているサービスも多数あり、先進的と言えるのだが、地域ごとの違いも大きく、日本の技術をそのまま海外に持ち込むわけにはいかないという現実で、日本市場が特異すぎるために「Japan Passing」(日本無視)が始まっているのではないかという指摘があった。

 なお第16回は2009年9月にスウェーデンのストックホルムで開催される。また、2009年6月にはタイ・バンコクで「第10回アジア太平洋地域ITSフォーラム バンコク2009」が開催される。

 

URL
特定非営利活動法人ITS Japan
http://www.its-jp.org/
第15回ITS世界会議ニューヨーク2008(英文)
http://www.itsworldcongress.org/

(編集部:田中真一郎)
2008年12月22日