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BMW、自動運転導入を巡る国際的動向についての記者説明会

インフラを含めた動向などをマイク・ボレス博士が説明

2016年10月20日 実施

BMW Corporate and Govermental Affairs, Steering Governmental and External Affairs, Sustainability Communications マイク・ボレス博士

 ビー・エム・ダブリューは10月20日、同社が東京江東区青海に開設しているショールーム「BMW GROUP Tokyo Bay」において記者説明会を開催した。そのテーマは「自動運転導入を巡る国際的動向」で、自動運転について単なるハードウェアの進化だけでなく、インフラを含めた動向などに関して説明が行なわれた。

 プレゼンテーションを行なったのはBMWのマイク・ボレス博士で、BMW本社で自動運転に関して、行政、メディアや関連機関などとの様々な折衝を行なっている現場の担当者となる。後半は、三菱総合研究所 次世代インフラ事業本部 スマートインフラグループ グループリーダー 杉浦孝明氏が加わって2人による質疑応答形式で進められた。

BMW、Intel、MobilEyeのパートナーシップで2021年までに自動運転の技術を開発

すべての事故のうち94%が人間のエラー、自動運転の普及で事故による死者を減らすことができる

 ボレス博士は「自動車事故の94%は、飲酒運転や渋滞時のイライラなどが原因の人間のミスにより引き起こされている。道路を走るクルマの90%が自動運転になれば、大幅に事故死者を減らすことができる。また、現在の自動車はドイツで言えば年間100万円の所有コストがかかっている。それを自動運転のカーシェアリングなどにすることで、より安価な交通手段として利用できるようになる。また、例えば渋滞の酷い北京で1年間にクルマで移動する時間に費やされている時間は264時間で、労働時間に換算すると33日となる。自動運転になれば、その間に本を読んだり、仕事をしたりが可能になる」と述べ、自動運転が実現されると、自動車事故による事故死者を減らすことが可能になり、自動車を利用するというコストが減り、さらにはクルマで移動する時間をより有意義に利用することができると説明した。

自動運転の各レベル

 続いて自動運転のレベルを紹介し、0~5までのレベルに分類できることを紹介した。レベル0では支援システムなし、つまり自動運転に類する機能は一切なしで、レベル1ではいわゆるクルーズコントロールのようなアクセルやブレーキへの介入を行なう「フットフリー」システム、レベル2に関してはハンドルへの介入を含めた「ハンドルフリー」システム、レベル3では完全制御で、「アイズフリー」システムになり、自動車がドライバーに変わって運転操作をできるようになるシステムだが、渋滞などによりシステムによる運転が継続できないと判断した場合にはすぐにドライバーに運転の制御を返す仕組みだ。レベル4は、ドライバーの操作は必要のない自動運転、そしてレベル5はドライバーレスの自動運転と定義していると説明した。

 ボレス博士は同社の新しい「7シリーズ」ではレベル2だがかなりレベル3に近いようなクルーズ機能を利用できる自動運転システムが搭載されていると述べた。

 そうした自動運転時代に求められる要素としては、リーズナブルな価格のハードウェア、ネットワークへの常時接続、さらにAI(人工知能)の機能を実現するために強力なコンピューティング能力が必要で、自動運転車にはそうした要素を実装していく必要があると述べた。

自動運転に求められる要素

 自動運転を実現する技術としては「環境モデルとAIが鍵になる」と述べ、詳細についての説明を行なった。自動運転ではレーダーやカメラなどのセンサーで、自車の周囲360度を常に把握し、かつプラスマイナス数cm単位で自車位置を把握し、それを高精度マップとマッチングしていく必要がある。そして、カメラやレーダー/ライダーなどのセンサーを利用して、進行方向などにある障害物や空きスペースを常に把握していく必要がある。それらを元に軌道計画や走行計画を立て、ステアリングやアクセル、ブレーキなどを制御して進んでいくとした。その時に重要になるのはAIで、常にAIが自車の周囲で何が起きているかを認識して、分析を瞬時に行ないながら操作を決めていくとした。

自動運転のキーテクノロジー

 そうした中で重要になってくる高精度マップに関しては、BMWがノキアからHEREと呼ばれる地図ベンダを(ダイムラー、アウディと共同で)購入したことを紹介し、現在高精度マップの生成に取り組んでいることなどが説明された。

BMW、Intel、MobilEyeが自動運転の技術を共同開発

 そして、すでに発表済みの、半導体メーカーのIntel、CV(コンピュータビジョン)のカメラを提供するMobilEyeとのパートナーシップが紹介され、2021年に量産のための自動運転技術を3社協同で開発をしていくという計画が示された。その後、BMWが思い描く自動運転車の未来を紹介するビデオが上演された。

ボレス博士が公開したビデオ
ボレス博士のビデオ
ボレス博士のプレゼン資料

自動運転が実現すれば、自動車はスマートフォンのようなデバイスになる

 後半には三菱総合研究所 次世代インフラ事業本部 スマートインフラグループ グループリーダー 杉浦孝明氏とボレス博士の対談という形で進められた。

株式会社三菱総合研究所 次世代インフラ事業本部 スマートインフラグループ グループリーダー 杉浦孝明氏

杉浦氏:ボレス博士のお話をうかがって感じたことを述べたい。自動運転に関しては、すでに近い技術は実車に実装されており今後どんどん進化していく。今後は単にクルマの機能として高度化していくのではなくて、社会、モビリティのあり方を変えていくのではないか。特に日本もそうだが、先進国では高齢化という波は避けられず、高齢者の移動をどうするのかが課題になっている。

 また、都市への人口集積が進んでくる。今後数十年で、都市部での移動の容易性の問題と、地方の人々の生活が疎になっていくので、そういう人達の移動をどのように確保していくのか。そうであっても事故とか渋滞がなく、移動できるモビリティサービスを確保していかないといけない。

 BMWはクルマのモノ作りは高い評価を受けているが、これからは自動車を提供するだけでなく、サービスも視野に入れてビジネスを展開されていくのだろう。まさにモノからコトを提供する企業へと転換しようとしている。そうしたBMWがどうして自動運転の技術をアグレッシブに搭載していこうとしているのか?

ボレス博士:いくつかのポイントがある。現在は多くの人が都市に集まっている。そうした大都市で問題となっているのは、渋滞と駐車場。免許を取得しない若い人が増えているが、その1つの要因として駐車スペースの確保とコストの問題があると思う。このため、より多彩なモビリティが必要になっており、新しいコンセプトが必要になる。2020年のオリンピックに、常に通りで簡単に利用できるようなクルマが停まっている状況が実現されれば、若い世代がクルマに戻ってきてくれるのではないだろうか。

 例えば、インターネットへの常時接続を実現すると、渋滞をある程度解決できる。クルマから渋滞情報をアップロードして、渋滞情報をシェアできれば、他のクルマはその情報によりそこを回避して運転できる。また、パーキングに関しても同様で、実は都市の渋滞の30%は駐車場を探すクルマが要因とされている。それをクルマとクルマが空きスペースの情報をシェアできるようになれば、そうしたことも解消できる。

杉浦氏:日本は道路や駐車場というモノを作るインフラへの投資を行なってきたが、これからはモビリティサービス自体がインフラとして構築されていく可能性がある。どの国もインフラへの投資が難しくなっており、道路のインフラのメンテナンスコストが膨大なりつつある。モビリティサービスは1つの最適な解になり得る。自動運転とカーシェアリング、ラストマイルモビリティは親和性が高い。それらは、自動運転に対してどのような利点をもたらすと考えているのか?

ボレス博士:自動運転の素晴らしいところは、デジタル化とEV化が一緒に実現されるということだ。人口の少ない地域などで、カーシェアリングやEVは多大な貢献をすると思う。

杉浦氏:自動運転に通信が入ると、どのように変わっていくのか?

ボレス博士:インターネット常時接続は自動運転を大きく変える。新しい情報を常に得ることができるので、渋滞を避けたり、先にある障害物を把握してそれを避けたりすることができる。また、EVでは、どこにパブリックのチャージングスペースがあって、自分の契約している業者のチャージングスポットはどこなのかを、自動で分かったりする。

杉浦氏:スマートフォンが普及して、社会は大きく変わった。多くのユーザーがSNSを楽しむようになったりして、常に人と人がつながっているようになった。自動運転が普及する頃には、今の若い世代が社会の中心になるが、スマートフォンがそうだったように、自動運転車もそうした人々の生活を豊かにするのだろうか?

ボレス博士:そうだと思う。今の若い世代は、常に仲間とつながっている。朝起きたらまずスマートフォンを見て、予定を確認したりSNSを見たりする。それと同じようなことがクルマでも起こる。自動運転が実現さればクルマの中で予定を確認したり、ビデオストリーミングで動画を見たり、目的地についたらクルマが自動で駐車しに行く。また、シェアリングエコノミーが発展すれば、クルマの利用率は今より高くなると思う。

杉浦氏:確かに今電車に乗っている時間はスマートフォンをいじる時間になっていて、他者とコミュニケーションを取る時間になっている。それと同じようなことがクルマでも起きるのかもしれない。

 最後に技術的な問題も。自動運転で気になる部分、レベル1からレベル2はすでに現実のクルマにも導入されている。レベル2とレベル3は技術の進化だけでは済まないと考えている。ある一定の時間を、運転の責任をシステムが追う。

ボレス博士:おっしゃる通り、レベル2とレベル3の差は大きい。レベルではクルマがすべての運転を支配する時間がある。そこに行くにはいくつかの課題がある。1つには法律の問題。従来はドライバーがすべてを制御しなければならないとなっていた。しかし、今年のウィーン会議で、マシンがドライバーに変わりになることが可能になったが、ドライバーは運転席に座っていて、何か問題があればすぐに代われるようになっていないと行けないとなっている。こういうことは本当にステップバイステップでやっていかないといけない。

杉浦氏:自動運転がレベル4に近くなってくると、自動車メーカーのビジネスの位置づけは変わってくる。ある人をどこからどこまで送るのかということが目的になり、製造業である事業から、交通公共モビリティと同じようになるではないだろうか。