フリースケール、モータスポーツでカーエレ技術を開発
6月9~10日に富士スピードウェイでデータのライブストリーミングなど

ユーゼ社長(左)と坂村教授

2012年5月31日開催
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン本社



 フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、報道関係者向けに5月31日に開催した「組み込み市場向け戦略説明会」において、モータースポーツ活動における技術開発と、車載分野での取り組みについて説明した。

 なお同社は、6月9~10日に富士スピードウェイで開催される「フリースケール ザ・ワンメイクレース祭り 2012富士」の冠スポンサーを努め、同時に同社の技術を展示・解説する「フリースケール・ワンメイク・フェスティバル」を開催する。ワンメイク・フェスティバルへの参加は無料だが、事前登録制となっている。

OGT!レーシングのカレラカップ参戦車両。さまざまなセンサーを搭載する

レーシングカーとドライバーのテレメトリーデータをライブストリーミング
 同社は2012年、ポルシェ911によるワンメイクレースシリーズ「ポルシェ カレラカップ ジャパン」のシリーズスポンサーとなり、また同シリーズに参加している「OGT!レーシング」をサポートしている。

 このOGT!レーシングの車両に360度モニタ・デジタル画像処理カメラ、タイヤ・スリップ角検出、重力加速度、ステアリングアングル、ホイール・スピード、エンジン回転数、タイヤ空気圧/温度、コーナーで重量配分のセンサーを取り付けるほか、ドライバーのイゴール・スシュコ選手には体温、心拍数、心電図、肺活量、血圧、脳波、身体各部骨格筋動作モニタのバイオメトリックスセンサーを付ける。また車両のコンソールにはグラフィックス・クラスタを装着、センサーからの情報を表示する。

 これらは3月のカレラカップ第1戦においてテストされ、3Gによるビデオ・ストリーミングにも成功した。ワンメイク・フェスティバルでも第3戦が開催されるが、ここでは3G/4G(LTE)によってテレメトリーデータをWebとピットにライブストリーミングするのに挑戦する。

 また、10月に鈴鹿サーキットで開催されるF1グランプリでは、カレラカップ第6戦が併催されるが、ここまででに77GHzのレーダーを使ったアクティブ・セーフティー・ソリューションを搭載する予定。

車両からのデータは3G/LTEでライブストリーミングレーダー・アクティブ・セーフティなどにも挑戦する車両から送られてきたテレメトリーデータをピットでモニターする

 

フリースケールはマクラーレンとともにモータースポーツに関与してきた

ゼロ・フェイタリティを目指して
 同社とモータースポーツの縁は深く、2000年からマクラーレン・エレクトロニック・システムズのF1用共通ECU(エンジン・コントロール・ユニット)にPowerアーキテクチャのプロセッサを供給している。このECUは2012年から、NASCARとインディカー・シリーズでも採用されている。

 また、マクラーレンF1用のKERS(エネルギー回生システム)にも関与しているほか、ポルシェの「PDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール)」の開発もモータースポーツを通して行ったと言う。

 フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのディビッド・ユーゼ社長は「振動やノイズなどの外乱が多いレーシングカーの中で次世代のソリューションを開発していく」と、モータースポーツ活動の狙いを語る。「(テレメトリーシステムによるデータ収集は)もし事故があったとき、その原因を追求しやすい。飛行機と同じような“ブラックボックス”のアプリケーションも生まれてくるだろう。セロ・フェイタリティ(無事故)の世の中に近づくには、ブラックボックスのような技術が必要」と、開発する技術は一般道を走行する車両にも有効と語った。

高速ネットワークを応用したドライバーアシストを説明する坂村教授

ネットワークが高速になれば市場が広がる
 日本の組み込み市場へのコミットを深めるにあたっての、同社の姿勢を説明するイベントだったが、この中で車載機器については、インフォテインメント分野に注力することを明らかにした。

 ユーゼ社長は「インフォテインメント分野は長年、日本の企業が世界でリーダーシップをとり幅広いシェアをとっている。しかし、次世代のインフォテインメントはこれまでと違う。ユーザーエクスペリエンスがリビングルームに近づく。また、いつでもどこでも通話でき、マシン トゥ マシンの通信もできる、コネクテッドカーの時代に入っていく」と、同社にもチャンスがあることを強調。

 ここでの同社の強みは「センサー、マイコン、ミックスドシグナルアナログ、SoC(アプリケーションプロセッサ)などをラインアップしており、これらを組み合わせて新技術を生み出せること」としている。

 また、同社は日本市場へのコミットメントの1つとして、日本市場でのシェアが大きな組み込みOS「TRON」のフォーラムのエグゼクティブメンバーに就任。フォーラムの代表である東京大学大学院 情報学環の坂村健 教授が説明会に出席し、オープンアーキテクチャであるTRONをアピールした。

高速ネットワークにより民生用テレメトリー市場が作られる

 この中で坂村教授は、WAN(広域ネットワーク)が4G化されることで、より接続が快適になり「地球上のどこでも、会社の中で使っている無線LANにつなげるのとほぼ同じ」体験ができるようになると語った。より大きなデータを高速にやりとりできることで「端末(組込みシステム)側で処理する必要がなくなり、パターン認識などの複雑で重たい処理はすべてクラウドに回すシステムができる」と、より高度な情報処理が可能になるとした。

 その例として挙げたのが「民生用リアルタイムテレメトリー」。ドライバーの心拍数を始めとするバイオメトリクスデータをクラウドに送るシステムだ。これにより、ドライバーの体調に異変を検知すれば「ドライバーが倒れることを予測し、その前に救急車を手配するなど、必要な処理をすることができる」。

 「今のカーエレクトロニクスは、単なるエンジンをコントロールやカーナビ程度だが、ネットワークが高速化すれば、乗っている人のヘルスモニターをする乗用車などができる。今も最高のコンピューターを使えばできることだが、民生用の機器で実現できれば、マーケットはものすごく大きい」と、4G化が新たな市場を開拓することを訴えた。

(編集部:田中真一郎)
2012年 5月 31日