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フリースケールとapr、2014年度のSUPER GT実証実験をハイブリッドレーシングカーのPRIUS GTに拡大

2014年は活動をさらに発展させ“インテリジェントガレージ”の構築を目指す

フリースケールの実証実験に使われたaprの30号車「IWASAKI OGT Racing GT-R」
2013年12月17日開催

 米国の半導体メーカー「Freescale Semiconductor」の日本法人であるフリースケール・セミコンダクター・ジャパンは12月17日に都内のホテルで記者会見を開催。同社がレーシングチームのaprを運営するエー・ピー・アールと共同で行ってきた「OGT Racing」のレース活動のなかで同社半導体を使ったさまざまな実証実験に関する結果報告と、2014年計画の概要について発表した。

フリースケール・セミコンダクター・ジャパン 執行役員 第三事業部 事業部長 村井西伊氏

 このなかでフリースケール・セミコンダクター・ジャパン 執行役員 第三事業部 事業部長 村井西伊氏は「レーシングカーにセンサーなどを搭載し、それによって得られる情報を時間軸でつなげるとどうなるのかという実験に関しては成功を収めた。2014年はそれを発展させて、人とガレージをシームレスにつなぐ技術として“インテリジェントガレージ”という取り組みを行っていきたい」と述べ、2014年のSUPER GTにも継続参戦し、さらに実証実験を発展させていきたいと表明した。

 また、その実証実験のパートナーとなるエー・ピー・アール 代表取締役会長 小山伸彦氏は「2013年はGT-Rを利用して実験を行ってきたが、2014年には実験のメインをトヨタの“PRIUS GT”の方に移していきたい」とコメント。フリースケールと共同で行っている実証実験のメイン車両を、2013年シーズンに走らせたGT-Rからハイブリッドレーシングカーである「PRIUS GT」に変更する意向を明らかにした。

自動車もIoTのデバイスであり、それを厳しいレースの世界で実証実験することに意味がある

Freescale Semiconductor 副社長 兼 Freescale Semiconductor Korea 代表理事社長 兼 フリースケール・セミコンダクター・ジャパン 代表取締役社長 デビット・ユーゼ氏

 記者会見の冒頭で挨拶に立ったFreescale Semiconductor 副社長 兼 Freescale Semiconductor Korea 代表理事社長 兼 フリースケール・セミコンダクター・ジャパン 代表取締役社長 デビット・ユーゼ氏は「現在、IoT(Internet of Things)が大きな盛り上がりを見せているが、自動車はそのIoTの最たるデバイスと言ってよい。その自動車を走らせる環境として、最も厳しいレーシング環境で様々な実証実験をすることには大きな意義がある。我々は新しいことに挑戦しない会社はダメだと考えており、来年も新しい取り組みを続けていきたい」と述べ、フリースケール・セミコンダクター・ジャパンがSUPER GTのようなレースシーンで実証実験を行う意義を説明した。

 ここで出たIoTという言葉は、これまではインターネットにアクセスする機能を持っていなかった機器に対して何らかのインターネットアクセス機能を組み込んだ機器のことを意味しており、現在、IT業界では次の大きなトレンドになると認識されている用語だ。製品化した例で言えば、時計にインターネットへのアクセス機能を組み込んだ「スマートウォッチ」、メガネにインターネットへのアクセス機能を組み込んだGoogleの「Google Glass」、また「Fitbit」やナイキの「Fuelband」のように万歩計にインターネットへのアクセス機能を組み込んだデジタルヘルスメーターのような製品も急成長を遂げており、今後こうした製品が爆発的に普及していくことが予想されている。

 ある意味で、自動車もそうしたIoTの一種といえる製品で、今後は自動車にさまざまなセンサー(カメラや温度計など)を装着し、そこで得たデータを自動的にインターネット上にあるサーバーにアップロードすることで、自動車メーカーやディーラーが、リモート操作で自動車の状態を点検したりといったサービスなどを行うことが想定されている。

 フリースケールが行っている「OGT! Racing(同社によるプロジェクトの呼称)」の取り組みは、そうした自動車の未来を左右するようなソリューションの実験をレーシングカーで行うというもの。一般道よりも過酷な状況となるサーキットでさまざまな実験を続けてノウハウを蓄積し、それを同社の顧客やパートナーなどにソリューションとして提案していくという形で実際のビジネスにつなげていく。つまり、同社の半導体を採用する自動車メーカーなどの顧客を獲得していくというのが同社の青写真なのだ。

2014年はさらに進化させて“インテリジェントガレージ”を実現する

2013年のOGT!Racingに利用されたIWASAKI OGT Racing GT-R。SUPER GTのGT300クラスに参戦した

 そうしたOGT! Racingの取り組みだが、フリースケール・セミコンダクター・ジャパン 執行役員 第三事業部 事業部長 村井西伊氏によれば「2013年の目標は、車両に搭載したセンサーから得られる情報をクラウドサーバーにアップロードし、それらを時間軸でつないでいくことでどのように利用できるかということだったが、それに関してはきっちりと結果を出すことができた」と述べ、実際に得たデータから起こした動画などを公開した。

 2013年シーズンに同社がOGT! Racingの実証実験を行ったのは、レーシングチームのaprがSUPER GTのGT300クラスで走らせている30号車「IWASAKI OGT Racing GT-R」で、フリースケール・セミコンダクター・ジャパンもファイナンシャルスポンサーとしてスポンサードしているマシンとなる。このマシンに各種センサーやカメラなどを実装し、それを同社の半導体とソフトウェアを利用して記録。走行後にデータを取り出してクラウドサーバーにアップロードし、あとでさまざまな処理を行うという実験が今年度の大まかな内容となる。なお、IWASAKI OGT Racing GT-Rは今シーズンの第4戦以降にレース参戦を始めており、第4戦から第8戦までの5戦と、特別戦2戦の合計7戦でデータの収集を行ったという。

 村井氏が公開した動画は、そうしたセンサーやカメラなどで得た車両周辺のデータを時間軸によって1つのデータとして統合したもので、「サラウンドビュー(自車の周囲の状況を確認できる動画データ)」「バードビュー(自車の周りを俯瞰視点からチェックする動画データ)」などを分かりやすく紹介するデータとなっていた。村井氏は「これらのデータを活用できることは分かったので、今後はこれをどのようにビジネスにつなげていくかが重要になる」と語り、今シーズンのレースで得たノウハウを元に2014年以降の活動につなげていきたいとした。

2013年のOGT! Racingの取り組みの概要。センサーなどで得た情報をクラウドサーバー上で時間軸に沿って統合していく実証実験を行った
カメラの映像やセンサーからの情報を1つのデータにまとめると、このような再現ビデオを作ることも可能になる
バードビューを作り出している様子。レーシングカーの四方にカメラが取り付けられており、撮影したデータは車両内のストレージに保存。レース後にデータを回収してこうした映像作成に利用する
車両のリアに取り付けられたカメラ
フロントのラジエターグリル下側に設置されたカメラ
コックピットの助手席側に取り付けられたデータを記録するための装置。ここにFreescaleの半導体が利用されている
左ハンドルとなるFIA GT3仕様のニッサン GT-R ニスモ GT3のコックピット

 2014年以降の活動については「14年以降は“インテリジェントガレージ”とでもいうような取り組みを行っていきたい。来年はLTE回線を利用してすべてのデータから選ばれた情報をリアルタイムにサーバーにアップロードし、ピットイン時、ないしはガレージに帰ってきたときにすべてのデータをアップロードする仕組みを導入する。それをホスピタリティブースで顧客に対して見えるようにしたりという用途が考えられる」という。ただし、リアルタイムのデータをレーシングチームが活用する部分に関しては、SUPER GTのレギュレーション(SUPER GTはテレメトリーの使用に制限を課している)との関係があるので「SUPER GTを運営するGTAの規定に準ずる」とのことだ。

 村井氏は「今後はこうしたOGT! Racingで得たノウハウを、自動車だけでなく、医療、保険、警備、スタンド、天気情報、地図、渋滞情報などにも広げていきたい」と述べ、そのノウハウを同社のIoTソリューションに応用して、新しい顧客の獲得につなげたいとした。

会場に置かれた車両を使い、実際にリアルタイムでデータ確認できることを示すデモも行われた
データはクラウドサーバーにリアルタイムでアップロード可能なので、タブレット端末やスマートフォンの画面上でも確認できる
右側に表示されているのが車両からリアルタイムに上がってくるデータ、実際にはもっと多いとのことだが、今回は分かりやすいようフィルターがかけられている。画面左側は、そのデータを人間にも認識しやすいよう整理してメーターなどに置き換えた表示
2014年のテーマは“インテリジェントガレージ”の確立。リアルタイム性やより進んだデータの整理などを可能にすることが目標だ
車両のデータをLTE回線によってリアルタイムにアップロード。ただし、回線の帯域幅には制限があるので選択されたデータだけになる。車両がガレージにいるときはWi-Fiなどで自動データ同期を行う
こうした実証実験の結果を元に、医療、保険、警備、スタンド、天気情報、地図、渋滞情報などに応用して、新しい顧客の獲得を目指すというのがフリースケールの狙い

aprが走らせるエース車両「PRIUS GT」が2014年の実証実験車両に

エー・ピー・アール 代表取締役会長 小山伸彦氏

 フリースケール・セミコンダクター・ジャパンと協力してOGT! Racingの取り組みを行ってきたエー・ピー・アール 代表取締役会長 小山伸彦氏は「今年はフリースケールとの協力の下にGT-Rで実証実験を行ってきたが、2014年に関しては、aprが走らせているもう1台の車両であるトヨタ PRIUS GTというハイブリッドレーシングカーをメインにしていきたい」と述べ、2014年はこれまでGT-Rを利用して行ってきたOGT! Racingの取り組みを、同社が走らせるもう1台のGT300車両であり、かつ同社のエース車両とも言ってよいPRIUS GTをメインに進めていくという意向を表明した。

 2013年にaprはOGT! Racingの取り組みとしてIWASAKI OGT Racing GT-Rを走らせたが、同じSUPER GTのGT300クラスにもう1台、トヨタ自動車のベストセラーハイブリッドカーであるプリウスを元に開発されたハイブリッドレーシングカーである31号車「Panasonic apr PRIUS GT」を走らせていた。aprにとってはこちらの方がエース車両的な扱いで、実際に富士スピードウェイで行われた第2戦 FUJI GT 500km Raceでは、PRIUS GTがハイブリッドレーシングカーとしてSUPER GT史上初めての優勝を遂げたことも記憶に新しい。2014年はこちらの車両でフリースケールの実証実験が行われることになるのだ。

来年はこのPRIUS GTでOGT! Racingの実証実験が行われる予定。なお、参戦体制などに関しては2014年2月以降に正式発表される予定

 小山氏は「PRIUS GTはトヨタ自動車の開発部で開発が行われており、トヨタ自動車の開発者とフリースケールの開発者が同じプラットフォームを共有することになる。そのことを触媒にして新しい交流が進むことを期待している」と語り、トヨタが開発しているPRIUS GTを利用してフリースケールの実証実験が行われることに大きな意味があると述べた。
 ただし、小山氏によれば今回のパートナーシップはあくまでaprとトヨタ、aprとフリースケールという形であり、フリースケールとトヨタが直接パートナーシップを結ぶ形ではないとのこと。「それでも同じプラットフォームを共有することになるので、技術陣同士のつながりは出てくるのではないだろうか」とも述べて、両社にとってよい形になることを期待しているとした。

 また、フリースケール・セミコンダクター・ジャパンはaprの30号車 IWASAKI OGT Racing GT-Rで技術パートナーシップだけでなく、ファイナンシャルスポンサーも努めていた。これが2014年のSUPER GTでPRIUS GTにも拡張されるのかと質問をしたところ、ユーゼ社長は「可能ならGT-RとPRIUS GTの両方をスポンサードしたいが、現時点では正式には何も決まっておらず、(2014年の)2月ごろに行われる正式な体制発表時に報告したい」と回答。aprが走らせる2台のマシン両方に対して、フリースケール・セミコンダクター・ジャパンがスポンサードする計画を前向きに検討しているとした。

(笠原一輝)