ニュース
フリースケール、SUPER GTでレーシングカーを活用したADAS実装実験
第4戦SUGOから実施
(2013/7/12 22:34)
半導体メーカーFreescale Semiconductorの子会社フリースケール・セミコンダクター・ジャパン(以下、フリースケール)は7月12日、同社オフィスにおいて記者説明会を開催。同社が昨年来取り組んでいるレーシングカーを活用したADAS(エイダス、次世代ドライバ・アシスト・システム)実装実験に関する説明を行った。
昨年、同社はADAS実装実験をポルシェカップを走る車で行っていたが、今年は日本で最も人気のあるレースシリーズ「SUPER GT」のGT300参戦車両に装着して、より厳しい環境でテストを行う。
同社と協力してADAS実装実験を行うaprチームの体制も発表され、7月27日~28日にスポーツランドSUGOで行われるSUPER GT 第4戦 SUGO GT 300km Raceより、FIA-GT3規定のニッサン GT-R ニスモ GT3を導入。そこにフリースケールが開発したADASシステムが搭載され、サーキットの実戦に挑む。
GTAと協力してADASのシステムをSUPER GTへ投入
冒頭で挨拶に立った米国Freescale Semiconductor副社長兼Freescale Semiconductor Korea代表取締役社長兼フリースケール・セミコンダクター・ジャパン代表取締役社長のデビット.M.ユーゼ氏は、「これまでもトラクションコントロール、アクティブサスペンションなどさまざまな新しい技術がレースに導入されてきたが、我々はADASがそれらと同じように未来の標準的な技術になると考えている。今回の取り組みには弊社だけでなく、パートナー企業や東京大学などにも参加してもらっており、今後他社や他大学などの参加も歓迎したい。弊社としては、モータースポーツを通じた研究開発を行っていくことで、ユニークなソリューションを提供する企業なのだということをアピールしていきたい」と述べた。
レースという厳しい環境でADASのような新しい技術を開発していくことで、レースと近い関係にある自動車関連企業やレースファンなどに同社の認知度を上げることが目的の1つであると説明した。
フリースケールがこうした取り組みを行うのは今年が初めてではない。昨年はポルシェを利用したワンメイクレース「ポルシェカップ」で行ってきた。ポルシェカップももちろんレースであることにかわりはないが、レースの厳しさから言えば、複数のメーカー、複数の車種、複数のタイヤメーカーなどがかかわるSUPER GTとは比較にならない。
ユーゼ氏は「昨年の我々の取り組みは米国の本社でも評価されており、それが今年の発展につながった」と述べ、SUPER GTへと戦いの場を移すことにしたと説明した。ユーゼ氏によれば「我々は今年SUPER GTのオフィシャルスポンサーにもなっており、GTA様とは密にお話しをさせていただいている。その中で、GTA様から今回の実験のチャンスをいただいた」と述べた。
実際、今回の実装実験では前方、後方、左右と4つのカメラを搭載している。SUPER GTのレギュレーションではこれまでは許可されていなかったことが、今回の実験にあわせて特別に許可されたのだという。なお、GTA 執行役員 セールス・プロモーション事業部ジェネラルマネージャの岡田秀樹氏からは「半導体企業のこうした取り組みにGTAが協力するのは初めてだが、車を安全に走らせ、運転を楽しくする取り組みを日本から発信していきたい。これまでとは異なる視点で車やレースの楽しみを紹介することで、新たなレースファンが生まれることを期待している」というコメントが寄せられた。
車両やドライバーの情報をリアルタイムでクラウドサーバーへアップロードし解析
フリースケール・セミコンダクター・ジャパン 第三事業部 事業部長 村井西伊氏は、今回のADAS実装実験の具体的な内容を説明した。村井氏は「ADAS実装実験では、車両情報、車両周辺情報、ドライバーの生体情報、データ解析という4つの方向性がある。2012年ではこれらの情報を単に取得するだけだったが、今年の実験ではそれらのデータを時間軸で同期させ、それを元にさまざまな解析を加えていきたい」と述べ、昨年の実験結果をもとにさらに機能を向上させたと説明した。
村井氏によれば、データは可能であればリアルタイムにクラウドサーバーへとアップロードし、リアルタイムに解析を加えるほか、SUPER GTの現場を訪れる同社の顧客などに対して楽しめるよう、データ分析して見せられるようにする予定だという。村井氏が公開したイメージ画像では、車両情報(速度やGセンサー、エンジン情報)がリアルタイムに更新されているほか、ドライバーの心拍数などがグラフィックスで確認できる。
実際の車両は、ECUなどからリアルタイムでデータを受信したり、各種センサーからの情報を読み出したり、前後左右の4カ所搭載されたカメラからの映像をMotion JPEGに圧縮して、システム上の記憶媒体に記録していく仕組みになっているという。村井氏によれば、これらを処理するアプリケーションプロセッサやカメラなどの半導体にフリースケールの製品が利用されているという。
なお、クラウドへのデータのアップロードは、現在のシステムでは公衆回線であるLTEを利用して行われているとのことで、実際にレースの現場で十分な帯域幅が確保できるかどうかは確実ではない。動画に関しては帯域幅の状態によってアップロードできない可能性もあるとのことだった。将来的には別の手段を利用して専用回線を確保するなども検討していくとのこと。また、ドライバーの生体情報のチェックのために、レーシングスーツの下に各種のバイオ・センサーを取り付けて走ることになるという。
そうしたデータはクラウドのサーバーにアップロードされ、それを元にさまざまな解析が行え、チームのタブレット端末などを利用してデータをリアルタイムに見ることができるようになるという。村井氏は「こうした仕組みを利用することで、自動車を運転するときのアシストになるのはもちろんだが、例えば持病があるユーザーをモニタリングするようなシステムに応用すれば、病状が急激に悪化して自分で連絡できない状態になっても、自動で救急連絡がなされるシステムなどに応用ができると思う」と述べ、今回の実験は単に自動車に乗せることだけが目的ではなく、医療関連や高齢化社会への応用も視野に入れている。
aprからIWASAKI OGT Racing GT-Rとして参戦
今回のADAS実装実験は、SUPER GTのGT300に参戦する名門チームであるaprmpレーシングカーに搭載されて行われる。そのaprの運営母体であるエー・ピー・アール 代表取締役 小山伸彦氏がゲストスピーカーとして登場。今回の取り組みについてレーシングチームの視点から説明した。
これまでaprは30号車アウディ R8 LMS Ultraを走らせてきたが、第4戦SUGOからニッサン GT-R ニスモ GT3に変更し、ADASのシステムを搭載する。
小山氏は「よく知られているようにaprはトヨタ系のレーシングチームである。そのaprが、ニッサンのGT-Rをトヨタのプリウスと一緒に走らせるというのは歴史的なことだ。実際には車重が増えたり、ドライバーにはストレスとなるが、協力させてもらうことになったのは、安全の向上という目的のためである」と述べた。
フリースケールの村井氏によればシステム全体で8kgあり、それが重量増になっており、同じGT-R ニスモ GT3を利用する他チームに比べるとやや不利なのだという。それでも、フリースケールの目的に賛同したため、協力することにしたと説明した。
なお、小山氏は「aprはもう1台プリウスを走らせているが、チームとしてはこちらも実験車両としたい意向がある。ただし、それにはいくつかのハードルがあるので、関係各位と協力しながらやっていきたい」と述べ、将来的にはaprチームがGT300クラスで走らせているPanasonic apr PRIUS GTに関してもADAS実装実験に組み込んでいきたいという意向を表明した。
記者説明会終了後には、新しい車両のカラーリングが発表され、実際に取り付けられているカメラやシステムなどの搭載状況などが説明された。なお、30号車はIWASAKI OGT Racing GT-Rという車両名になり、従来に比べてフリースケールのロゴが大きくなるなどカラーリングも変更されている。この新しい車両とカラーリングは、7月27日~28日にスポーツランドSUGOで行われるSUPER GT 第4戦 SUGO GT 300km Raceで登場する予定だ。