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【特別企画】インフィニティブランドの戦略

日本へのブランド導入の可能性と、その課題を探る

インフィニティとレッドブルの思惑

 トヨタがプロデュースをする「レクサス」同様に、日産自動車の傘下にあるプレミアム・ブランドが「インフィニティ」だ。ただし、最初にアメリカの地に根を下ろしてからすでに“4半世紀”に近い時間が経過しようというタイミングにもかかわらず、日本での知名度はいまだ決して高いとは言えない。

 それもそのはず。インフィニティブランドの展開は、日本ではいまだ始まっていない。そう、「日本車なのに日本で買えない」のが、このブランドのモデルであるということだ。

 一方で、日本ではまだ“未知のブランド”でもあるインフィニティが、このところモータースポーツの世界で存在感を一気に高めていることに気付いた人もいるだろう。セバスチャン・ベッテルとマーク・ウェバーというF1界のスーパードライバーを擁し、実際にこのところ破竹の快進撃を続けているレッドブル・レーシングチームのいわゆる“冠スポンサー”となり、言うなれば「日本の自動車ブランドとしては唯一F1レースに参戦をしている」のがインフィニティでもあるからだ。

セバスチャン・ベッテルとマーク・ウェバーを擁するレッドブル・レーシングチーム
レッドブル・チームとの橋渡し役を担うグローバル・インフィニティ・ビジネスユニットのダイレクター、アンドレアス・シーゲル氏

 「F1レースが開催される地域というのは、我々が展開を狙うグローバルでのフットプリントに、極めてよく合致しているのです」と語るのは、レッドブル・チームとの橋渡し役を担うグローバル・インフィニティ・ビジネスユニットのダイレクターであるアンドレアス・シーゲル氏だ。ゴルフやテニス、さらにはオリンピックなどに至るまでの各種スポーツのスポンサードなども検討したものの、インフィニティが目指すプレミアム・カーブランドとしての訴求を考えた時、最適なのは「モータースポーツ界の中でも有力なF1チームとタッグを組むこと」という結論に至ったのだと言う。

 一方、それではレッドブルにとってのメリットはどのようなものであるのかを、チーム代表であるクリスチャン・ホーナー氏に問うてみると、こちらからも興味深い話を聞くことができた。

 「フェラーリやメルセデス、そしてマクラーレンなど、昨今の有力チームの多くは自動車メーカーがそのバックに付いています。一方で、我々のような独立チームはそうした自動車メーカーの持つ研究ラボへの立ち入りといったことになると、どうしてもハンディキャップがある。インフィニティと手を組むということは、ルノーや日産が擁するそうした拠点に容易にアクセスが可能となるといった点で、大きなメリットがあるわけです。そうした技術面のリソースを活用できることを、大変楽しみにもしています」。

 実際、エンジンの供給元であるルノーの施設はもとより、厚木にある日産の開発拠点や栃木、イギリスの生産拠点にも、すでにレッドブルの技術者が訪ねた実績があると言う。際立つ強さを見せるレッドブルのF1マシンだが、それをこの先さらに磐石なものにするという点で、自動車メーカーと組む魅力は大きいというのがチームの見方であるわけだ。

 「2014年からのF1はレギュレーションも大きく変更されるので、燃費や技術のマネージメント面でも、インフィニティから学ぶべき面は多くあると思います」と、これもホーナー氏の弁。言うなれば、これまでは見えていなかった自動車メーカーの持つ“未知のテクノロジーと出会える可能性”に期待をしている姿勢が、こうしたコメントからも読みとれる。

クリスチャン・ホーナー代表
セバスチャン・ベッテル
マーク・ウェバー

レッドブルのトップドライバーがインフィニティ車をテスト

 同時に、そんな技術的な交流は、インフィニティにとっても大いにメリットがあると語るのは、前出のシーゲル氏だ。「コマーシャル面のみならず、技術パートナーとしての部分もこれからさらに強化していくつもりです。実はSUVの『FX』をベースに昨年ベッテル・エディションという限定モデルを発売していて、これは主にコスメティックの部分をセバスチャン・ベッテルに監修してもらったもの。ですが、今年発表したQ50の開発では、栃木のプルービング・グラウンドでベッテルにテストドライブを依頼してコメントを貰うなど、より踏み込んだことをやっているんです」。

 なるほどこうなると、インフィニティとレッドブルという傍目にはちょっと意外にも思えたパートナーシップが、実はともにWin-Winの結果を狙ったものであることが明確に見えてくる。ちなみに現在のG37、すなわち日本名「スカイライン」の後継モデルである今年年頭に発表されたQ50では、そんなベッテルのアドバイスを盛り込んだ試験車をドイツ・ニュルブルクリンクへと持ち込み、そこでレッドブル・チームのリザーブ・ドライバーであるセバスチャン・ブエミが、さらなるチェック走行を重ねたという“逸話”も聞かれている。そんなパートナーシップの成果が具体的にどのようなカタチで現れているのか、その仕上がりはいよいよ楽しみだ。

 「ベッテルは、自分の名前を使われることには非常にはうるさくて、先のFX開発の際にも『単にカーボン素材を化粧パネルに用いる程度ではイヤ』ということから、エンジン出力も30PSほどアップさせるなど、性能アップも図る結果となりました。F1マシン開発の際には200人以上のエンジニアが彼のために働くわけですが、Q50開発の折にも、それと同じようなやり方を求めてきたのです」。

SUVの「FX」をベースにしたベッテル・エディション

 しかしながら、F1レースの世界ではドライバーがチーム間を移籍することは日常茶飯事。となると、今はインフィニティのブランド・アンバサダーとして欠かせないベッテルにも、その心配があるのではないだろうか? そんな問いに対してシーゲル氏は続ける。

 「ベッテルは、14歳のころからレッドブルに関わっているので、このチームは彼のライフスタイルの中に、感情的にも深くコミットしていると思います。2011年からまずは2年間という契約でスタートしたレッドブルとのパートナーシップは、今年になって2016年までに延長されました。我々は、より長期での協業を視野に入れているのです」。

 なるほど、チーム名が「インフィニティ・レッドブル・レーシング」と、インフィニティの存在をより強調したものへと変わったのは今年から。昨年までのマシンよりさらに大書されるようになったINFINITIのロゴは、そんな両者の絆の深さを表してのものと言ってよいのだろう。

日本でインフィニティブランドをスタートさせるのはいつ?

 ところで、こうなるといよいよ気になるのが、このブランドは日本での事業をスタートさせるのか? その答えが“YES”であるならば、それは一体いつからか? という点だ。

 「F1のカレンダーを見た場合、その中のインフィニティの大きな“空白地帯”はオーストラリアとブラジル、インド、そして日本の4カ所でした。オーストラリアは先日ブランド・ローンチを済ませたところです。ブラジルも『2014年に進出』と先日カルロス・ゴーン社長が発表しました。こうなるとあと2つだけ残っているわけです。で、そこはいつ出すか、と、こうなるわけですが……」。そんなシーゲル氏のコメントを引き継いで、日産のグローバル・マーケティング・コミュニケーション担当執行役員であるサイモン・スプロール氏が話を続ける。

 「日産横浜本社のギャラリーに大きなスクリーンがありますが、そこで去年、日本グランプリのパブリックビューをやって、非常に高い集客を記録しました。今年もいくつかのグランプリのライブ中継を予定していますが、今、ここまでのF1アピールをやる日本企業は我々だけなんです。そして、今年の日本グランプリではプレスツアーも予定しています。確かにインフィニティのブランドは日本にまだ導入していませんが、そんなこの場でいかにプレゼンスを上げるかを、今考えているところです」。

 現時点では、「XX年から日本に参入」と、そうした具体的な日程までは聞かれなかったが、こうした日本での積極的な動きは当然、「この市場でもブランドを立ち上げるための準備」と受け取るのが自然というものだろう。

 一方で、現時点でのインフィニティ・ラインアップに目をやれば、「M」がフーガで「G」がスカイライン、「EX」はスカイライン・クロスオーバーと、いずれも国内では日産ブランドで売られるモデルの立ち位置をどうしていくか? といった問題も立ちはだかるのは事実だ。さらには、日本では未発売の大型SUVの姿が目立つなど、端的に指摘をすれば「今のラインアップのままブランドを立ち上げれば、市民権を得るのは難しい」とも言わなければならない。

新型スポーツセダン「Q50」

 しかし、関係者へのインタビューを重ねて行くと、どうやら今から3年後程度を目処に日本市場への参入を考えている、といった雰囲気が伝わってきたのも事実。そうした間にラインアップの刷新が完了するとなれば、いざお披露目という段階では日本への“適性”がグンと向上している可能性も十分考えられる。

 実はインフィニティは、2012年5月に本社機能を横浜から香港へと移設して、“アジア発のプレミアム・ブランド”という立場を明確にするとともに、急速にかつ収益を出しながら成長させるという姿勢を発表してもいる。具体的には「2012年から2016年の間に、インフィニティとしてのグローバル販売を3倍とする」というのが、その目標値であるという。

 そんな本社機能移転とほぼ時を同じくしてそのトップの座に就任をしたのが、アウディ・オブ・アメリカの社長を前職とするヨハン・デ・ナイシェン氏。しかも、そんな氏はかつてアウディ ジャパンを率いていた人物となれば、日本のプレミアムカー市場については嫌というほどに精通をしているのも自明ということになる。

 日本発のプレミアム・ブランドであることを全面に打ち出し、現在のポジションを構築させたレクサス。しかし、インフィニティが“祖国”で事業をスタートさせた暁には、またまったく異なるキャラクターをアピールする、レクサスとは一線を画すモデル・ラインアップを見せてくれることになりそうだ。

(河村康彦)